普通
そもそも私が魔物退治について行ったのは、クライヴの役に立つ手段をなんとかして確保できないかという課題を解決するためだった。
しかし現実はどうだろう。
彼は同じく着いて行ったアカツキ様の力も必要なく、一人で倒してしまった。
しかもそういえば回復魔法も使えるし、そうなると魔法だって使える。
「私が出来ること、なんにもないのでは……?」
「いや、そんなことはないよ」
私の独り言を聞いていたのか、クライヴが振り向いた。
「え?」
「ハイネがいてくれるだけで、僕の気が楽になる」
クライヴは、まっすぐに私の目を見て言った。
「でも、私に出来ることって……」
「そうだね。剣の実力はまずアカツキ様にすら敵わないだろうし、その細腕で剣を持てるかどうかも疑問だ」
クライヴはそこで一度言葉を切り、少し考えるような仕草をした。
「でも、ハイネは違う価値を持っているんだよ」
「違う価値?」
「ええ。例えば、今日の僕の剣を見て、どう思った?」
「え、えっと……凄いなって」
「そうだったよね。でも、ただ凄いだけじゃない。どこか怖いとも思わなかった?」
クライヴの言葉に、私は黙ってしまった。
確かに、あの一瞬の出来事は凄まじかった。紙一重で、恐ろしくもあった。
「僕たちは、戦いに慣れすぎているんだよ」
クライヴは静かに続けた。
「時には、自分たちの力が異常なものだということを忘れてしまう。でも、ハイネの反応を見ていると、思い出すんだよね」
「思い出す?」
「うん。僕たちの力は、本来どれだけ恐ろしいものなのか。そして、その力は何のためにあるのか」
ここまでなんだかんだと言いながら着いてきたアカツキ様も、黙って聞いている。
「ハイネは、僕たちに『普通』を教えてくれる大切な存在なんだよ」
クライヴは、珍しく真剣な表情で言った。
「だから、自分には価値がないなんて、そんなことは思わないでよ」
「クライヴ……」
「それに」
クライヴは、急に明るい声を出した。
「スイーツの食べ方とか、僕はまだまだ勉強中だし。ハイネに教えてもらわないと」
「あ、はは……」
思わず笑みがこぼれる。そういえば、前に食事に出されたケーキについている紙もそのまま食べようとしたんだっけ。
勉強中なんて言い方は言い過ぎは気もするけど、今は私のことを励まそうとして過剰に言ってくれているのだろう。クライヴの優しさだ、きっと。
「ありがとうございます、クライヴ」
私は素直にお礼を言うと、クライヴは満足そうに笑った。
「どういたしまして」
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