魔物退治

「……どうしてただの魔物退治に、アカツキ様がついてきているのかな?」

「それは我が姫、ハイネを守るために決まっているだろう」

「我が姫……?」

 瞬間鳴ったビキビキという音は、一体何の音なのだろう。もしかして血管が切れる音……?

 いやまさか。あれは漫画的表現だろうし、実際に切れたとしてもビキビキとは言わないだろう。

 でももしかしたら身体構造が違うから、そうなのかもしれない。メタいけど、彼らは一応ゲームの世界の住人なのだし。

 もはやそういう設定も忘れつつあるくらい、この世界に馴染んでしまっているけど……。

「ま、まぁまぁクライヴ落ち着いて」

「私のことも呼び捨てにしていいからな、ハイネ」

「ハイネのことを呼び捨てにしていい許可は出してないんですけどね?」

「ハイネ、呼び捨てでいいか?」

「え、いや、まぁ、そうですね……」

 隣からの圧がすごかったけれど、王子様からの頼みを断るわけにもいかずに私は頷いた。

「本人に許可を取ったぞ?」

「……そりゃあ、王子様からの頼みなんだから聞かないわけがないでしょう」

 ため息混じりに、クライヴは言う。けれどアカツキ様はイマイチピンと来なかったらしい。

「そうなのか、ハイネ?」

「えっ」

 そこまで話を振られるとは思っていなかったので、私はたじろいだ。なんて答えるのが、角が立たないんだろう。あんまり角が立って、魔物退治の前に決闘の続きみたいになったら嫌だし……。

「そうですね……王子様の頼み事は、出来る限り聞かなきゃいけないんじゃないかと思ってしまいます」

 結局私は、出来るだけ穏やかな言い方で素直になった。

 そうか、とアカツキ様は神妙に頷いた。

「結婚は断ったのにか?」

「け、結婚は話として急すぎますよ。それに、好きな人同士がやるものだと思ってますし……」

「お前のいた世界では、結婚とはそういうものだったのか」

「あ、えと……そうですね」

 そういえばこの人には異世界から来ていることはもうバレているんだと改めて認識しつつ、この世界のことを考える。

「この世界で貴族や将軍は、そんなことで結婚することはない。みんな政略のもとで結ばれる。私の母もそうだった」

「……そうなんですね」

「だがアカツキ様は占いの結果をもとに結婚しようとしたじゃないですか。それはどうしてです?」

 クライヴは気になっていたのか、そんなことを聞いた。

「それが幸せになればと、願ったからだ」

「幸せ……?」

「共に歩みゆく人間と幸せでいられないようでは、この国の民まで幸せになど到底出来ないと思った。だからだ」

「なるほど……?」

 アカツキ様はアカツキ様なりに、色々考えて王子としての責務を全うしようと考えているようだった。その姿勢は立派だ。素直に尊敬する。

「もう一人、アカツキ様のところに異世界から人がやってくるといいですね」

「なんだ。そんなにこのクライヴのもとから離れたくないのか」

 そう言われて、言葉に詰まってしまった。そうかもしれないけど、そうじゃないかもしれない……?

「離れたくないに決まっているでしょう。私は彼女に、出来るだけ向こうの生活に近い暮らしをさせているんですから」

「それくらい、王子の自分だって出来る。どうだ。試しに三日間位来てみないか」

「嫌です」

 ぜ、全部クライヴが答えてしまっている……。

「クライヴには聞いていない。私はハイネに聞いているんだ。なぁハイネ?」

「えっと……」

 私は、そんなことよりも気になっていたことを口にした。

「このまま話していたら日が暮れるので、魔物退治しませんか? 私は、何も出来ませんが……」

「そうだよ、魔物退治だ! まったく……ちょっと強い個体のゴーレムが出たからって倒せなくなる最近の冒険者はたるんでいるね」

「しかしゴーレムには、魔法攻撃があまり効かないのだろう? だとしたら力で勝負するしかないわけだが、今の冒険者に対する教育方針ではそれは難しいと聞いたぞ」

「力こそ全てなんだから、力を鍛えないでどうするんだって話だよね」

「きゅ、旧時代の人間だ……」

「うるさいですね」

 ……話から察するに、今は魔法重視の教育が行われているゆえに力で立ち向かうタイプのゴーレムは倒しにくいんだろう。で、それをたるんでいると言っているクライヴは旧時代の人間だと……ジェネレーションギャップみたいなものかな? 

 っていうか、クライヴは敬語つければアカツキ様にうるさいとか言ってもいいと思ってるのかな? ちょっと不安になってきた。

「もうすぐでゴーレムのいる場所に着くよ。すぐに着ければいいんだけど、生憎と出現するエリアは移動魔法に登録してなくってね」

「あ、あの」

「うん?」

「着いてきたいって言ったのは私ですけど、本当に大丈夫ですか?」

「もちろん」

 クライヴの迷いのない返答に、私は安堵しながら着いていくのであった。

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