決闘
「これより、アカツキ様対クライヴ様による、ハイネ様を賭けた決闘を行います」
は、始まってしまう……!
私は賭けられている人間だからと、特等席に座らされている。二人の戦いが、間近で見える場所だ。ちょっと怖い……。
けど、二人の戦いをしっかり見届けなければならない。
クライヴとアカツキ様は、対峙する。
二人とも、訓練用の剣を持っているようだ。練習用だから怪我はしないし、刀身も短めで刃引きがされているから安心だと、朝にノワさんから聞かされている。
「勝利条件は、立会人である王様の代理人としてお越しになられているアーティ様の裁量で決まります。よろしいですね?」
審判さんが、確認をする。二人共頷いた。
「それでは……始め!」
開始の合図と共に、二人は同時に地を蹴った。早い!
私が二人の動きに驚いていると、お互い剣と剣をぶつけ合う!
カンカン、と木剣なのに凄い金属音のような音がしている!
余裕そうに言っていたクライヴなのに、全然余裕そうに見えないんだけど大丈夫だろうか……?
「クライヴがすぐに勝つだろう」
そう思っていたら、隣にいるアーティ様がそう言った。すぐにでも去りたそうな雰囲気を出している。彼も職務があるだろうに……と思うと、なんだか不憫に思えた。
しかし私の関心は、彼の発言にあった。
「……失礼かもしれませんが、どうしてそう思われたのですか?」
問いかけると、彼はこちらを見ずに口を開く。
「アカツキ様の防戦一方だ。素人目には競り合っているように思えるかもしれないが……全然そんなことはない。実力が桁違いだ。そもそも魔法を一切使っていないところから見るにクライヴ、もしかすると遊んでいるな?」
遊んでいる、とまで言わせてしまうのかと思うと、今度はなんだかアカツキ様が不憫に思えた。
けれど安心も、私の心には芽生えていた。
クライヴの元に、いていいんだ。
「か、解説ありがとうございます……」
「……」
その言葉に一瞬だけこちらを向いたような気がしたけど、きっと気のせいだろう。そんなお礼にいちいち反応するような……人かもしれない。でも向いたって考えるのは自意識過剰っぽいから、向いてないってことにしておこう。
アーティ様の言葉の通りというべきか、二人の表情が明暗に分かれ始める。
クライヴは全然表情を崩さず、一方のアカツキ様は苦しそうだ。見ているこっちがいたたまれない。
「これでお終いにしよう」
やがてそんな言葉が聞こえて、クライヴはアカツキ様を壁際に追い詰めた。そしてガッと、首元に刃を向ける。ヒッという小さな悲鳴が、ここまで聞こえたような気すらした。
「アカツキ様。まだ続けられますか?」
「そこまで。……クライヴ。あまり挑発するなよ。次は本当の剣での斬り合いになったら、困るのはこっちなんだからな」
そう言うとアーティ様は、クライヴに剣を下げさせる。アカツキ様の方は、肩で息をしていた。
「勝者はクライヴだ。アカツキ様、お疲れ様です」
アーティ様がそう言うと、アカツキ様はジッとクライヴを睨んだ。
「クライヴには、まだ敵わないのか……!」
……一斉に会場からブーイングが起きている気がするけど、気のせいだろう。
いや、一国の王子様が負けたのだから、ブーイングくらい起きるかも……? クライヴ、ただでさえ恨みを買ってそうだし。
そう思っているとクライヴがアカツキ様から、手を差し伸べられていた。よく戦ったとお互いに健闘を称え合う場面なんだろう。
けれどクライヴは、その手を振り払った。
「馴れ合いたいわけではないでしょう?」
「……それも、そうだが……」
そこでブーイングは、最高潮に達した。物が飛んでくるようになったのだ。
すぐにクライヴが私のところに飛んできて、庇う体勢を取ってくれた。
こういう時は本気を出すんだからと半ば呆れたような気持ちになりつつ、私は彼の肩越しに状況を見た。
アーティ様がアカツキ様の肩を抱いて、医務室の方へ連れていくようだ。それにも良かったと思いながら、それはそれとしてこの状況はどうしたものかと肩をすくめる。
「今ここで屋敷への転移魔法を使ったら、屋敷が大変なことになっちゃうよね?」
「……そうでしょうね」
ノワさんの悲鳴が聞こえてくるようだった。
「しばらく、このままでいようか」
「え? 本当ですか?」
「そのうち、飽きてどこかに行くよ」
その言葉通り、五分もしないうちに物は飛んでこなくなった。反応が返ってこないから、面白くなくなったんだろう。それに、怒るのは疲れる。
「ほらね」
「手慣れてますね」
「うん、手慣れてるからね」
手慣れるべきではないだろうと思ったが、クライヴにそんな正論は通じない。
むしろ今言うべきは、違う言葉だろう。
「……勝ってくれて、ありがとうございます」
「どういたしまして」
クライヴは笑って、私の手を取った。
「……この手に、キスしても?」
「き、え、き!?」
予想していなかった展開に、私はめちゃくちゃ驚いてしまった。
そもそもキスだなんて、私の人生でされるとは思ってなかったのだ。どうすればいいのか分からず、わたわたしてしまう。
「そんな、綺麗な手じゃないですよ」
「綺麗だよ。争いを知らない、無垢な手」
そのまま流れるように手に顔を近づけて、彼は宣言通りキスをした。
「はわ……」
「勝ったご褒美ってことで、いいよね?」
「は、はい……」
有無を言わせない真剣な顔に、私は頷くことしか出来なかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます