騒がしい朝
ゆっくりとお風呂に入らせてもらい、歯磨きも済ませて、ベッドに入る。
今日はあんまり意味があったとは思えないけど頭を使ったし、明日は決闘だっていうんだから、早く寝よう…。
そう思って、目を閉じた。
目を閉じながら、寝返りを打つ。
このベッド、良いベッドなのかな。なんとなく腰にいいような気がする……。この世界でのベッドの良し悪しというか、基準が分からないから、なんとも言えないけど……。
目を閉じながら、再び寝返りを打つ。
家にあったベッドは、どんな感じだったっけ。イマイチ思い出せないけど、悪くはなかったはず……。あの人たちが悪いものを私に与えるわけがないから、当然といえば当然だけど。
それでも腰が痛かったのは、毎日の授業や塾のせいだったんだろうか。そんなに頑張っていたつもりはなかったけど……。
もうよく分からないことを、ぼんやりと考えてしまう。
考えたって、どうしようもないことなのに。
……何度寝返りを打ったか分からないところで、目を開いた。
「ね、眠れない……」
明日もう決闘があると思ったら、どうしても眠れなかった。
私が戦うわけじゃないけど、それでも妙に緊張してしまう。
っていうか、明日?
早すぎない?
心の準備とか、いらないのかな?
……あの二人なら、いらないか。クライヴはどんな時でも何事においても準備なんていらないように感じるし、アカツキ様という王子も占いを頼りになんとかするんだろう。
うーん。どちらも、一般的な感覚からは大きく離れている……。
まぁ、私もこの世界の一般的な感覚とはかけ離れているんだろうけど。あはは……。
そう思うとなんだか開きなおってきて、どうにでもなれって感じでまた目を瞑ったら眠ることが出来た。
これでちゃんとクライヴを応援出来る。
……それはまるで、クライヴから離れたくないみたいだ。
いや、でも、お世話になっている人を応援するなんて普通のことだし……。王子とはいえ占いに傾倒している人と結婚するなんて考えられないし。
なんだか言い訳めいている自分に嫌気がさしてしまうのは、なんでなんだろう。
○
よく分からないけれど、喧噪の声で目を覚ました。普段は静かな屋敷のはずなのに、一体どうしたんだろう。
喧噪が外から聞こえているような気がしたので、窓のほうをおそるおそる見てみる。
「女の子を巡ってアカツキ様と決闘されるそうですが、どういうおつもりなんですか、クライヴ様!」
……そんなことを言っている人たちが、玄関に集まっていた。
どこからその情報が……ってアカツキ様か。広めてるって、そのレベルの話だったんだ。いや、人々の噂に対する感度が高くて広まりやすいっていう側面もあるのかもしれない。分からないけど……。
それにしても、この喧騒をクライヴはどうするつもりなんだろう。
「ああ、ハイネ。おはよう」
「おはようございます……って、のんびりしてる場合じゃないですよ!」
どうしてクライヴはこんなに落ち着いてるんだろう?
クライヴがのんびりとした様子でいるのを見て、またベッドに戻りたくなった。いや、そんなわけにはいかないけど!
「外の人たち、どうするつもりですか?」
「どうするって……無視するよ?」
「無視、ですか?」
まるでそれが当然といったかのようなクライヴに、思わず呆気に取られてしまう。
「うん。別に間違った情報が伝わってるわけでもないでしょ? なら放置でいいよ、放置で」
あっけらかんと答えるクライヴに、私はどうすればいいのか分からなくなった。
なんだか私のほうが間違っているかのようなクライヴの対応に、脳内が混乱する。
クライヴは髪の毛をいじっているあたり、本当にどうでもよさそうだ……。
彼はそれでいいのかもしれないけど、私はどうしてもそわそわしてしまう。
「ハイネも、気にしないでいいよ」
そんな私を安心させようとしてくれたのか、クライヴは私に優しく笑いかける。彼のその笑みに思わずドキッとしてしまったが……いやいや、今はそれどころじゃないぞ、私!
「気にしないなんて出来ません!」
「あ、うるさいからか。気が利かなくて悪かったね。全員黙らせてくるよ」
「えっと、そういうことでもなくってですね!?」
私が慌てる様子に、クライヴは不思議そうにする。
……伝わらないっていうのは、もどかしいな。
でも仕方がないのかな。クライヴって、これまでもこういう人だったし……。
っていうか、今まで考えが及ばなかったけど私が人と意思疎通を図るのが苦手なだけなのかもしれない。クライヴのせいにしている場合じゃない。
「……クライヴが大丈夫なら、大丈夫です! 朝ごはんにしましょう!」
「うん。今日の朝食はなんだろうね?」
またメニューを楽しみにしているクライヴの背中に、思わず私は勝ってくださいと言っていた。
今のクライヴと、私は一緒にいたい。それは紛れもない本心だ。だから、勝ってほしい。勝手な願いかもしれないけど、そう願った。
するとクライヴは、不敵な笑みで振り返る。
それはゲームのスチルになりそうな、悪人面だった。
「当たり前だよ。アカツキ様になんて、ハイネは渡さない」
……セリフも相まって、本当にゲームみたいだ、という邪念を振り払う。
「はい。私は、クライヴと一緒にいます」
「はは、なんだかプロポーズみたいだね」
言いながら照れているクライヴを見て、こっちまで照れてしまうのであった。
「ち、違いますからね!?」
「分かってるよ。それに……」
「それに?」
クライヴはその言葉の続きを言わず、頭を振った。
「食堂に行こうか。ノワが待ってる」
「は、はい!」
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