帰る方法は
○
目が覚めたら、見渡す限り真っ暗闇になっていた。月明かりが入ってきてはいるけれど、それでも暗い。
それは世界が、文明が違うから思ってしまうことなんだろうか……。
帰ってきてすぐは日差しが室内に入ってきていたから、それからかなりの時間を寝てしまったみたいだ。こんなに寝てしまったら、本来寝るはずの夜に寝られなくなってしまうかもしれない。そうなったら困る。
きっとクライヴは、眠れない私に付き合ってくれるだろう。けど、付き合わせるのは申し訳ない。お仕事もあるだろうし。
いやでも、私を守るため?に、私が寝てる間も起きていてくれているんだったっけ?
……うーん。根拠はないけれど、彼なら大丈夫かもしれないと思ってしまうのは何故だろう。なんというか、そういう、私の世界の常識ではどうにかなるような人じゃないっていうか。睡眠不足程度では、どうにかならないような気がする。
かといって、守ってもらうばかりというのも気が引ける。お姫様でもなんでもない私がここまでされるのは心苦しい。やっぱり自分でも何か出来る様になりたいな。
不本意だけど、補佐官にもなったわけだ……し……。
その事実を思い出すと、一気に血の気が引けてきた。クライヴの仕事の心配をしてる場合じゃない。
私だって、仕事をしなくちゃ。
じゃないと、いつどこで誰から反感を買うか分からない。そもそもお飾りの補佐官だなんて、クライヴにも迷惑がかかるだろう。
頑張らなきゃ!
そう意気込むと同時に、お腹が鳴った。
「わ!?」
「あぁ、ハイネ。起きたかい?」
「わっ!?」
いきなり声がしたかと思えば、火が灯された。一気に室内が明るくなり、目の前にいるクライヴの姿が確認出来るようになる。
「く、クライヴ?」
「そうだよ。暗くて見えないなら近づこうか?」
「いえ、十分明るいから大丈夫なんですけど……驚かさないでくださいよ」
「おっと、それはごめんね」
「いえ……私こそ、すっかり寝てしまってごめんなさい」
「気にしないでいいよ。リランプト様とお会いしたんだ。緊張で疲れが出てもおかしくはない」
「はい、すごく緊張しました……」
「威厳がすごいからね、あのお方は」
彼は椅子に座って、私の方を向いていた。
それが様になっていたから、ずっとそこにいたかのように思えてしまう。
「もしかして、ずっといたんですか?」
「いや。少し仕事をね」
「お仕事!」
「あ、もちろんその間僕が結界を張りつつノワが見ていたから、心配はしなくていいよ」
「そ、そうですか。それはそれはありがとうございます……」
私としてはその間の身の心配よりも、クライヴがずっといるものだと思っていたことが恥ずかしくて大きな声を出しちゃったんだけど……そりゃそうだよね! すごいクライヴにしか出来ない仕事がいっぱいあるだろうし! うん!
「とりあえず、水を飲もうか? 飲む前に寝てしまったから、渇いているだろうし」
そう言って、透明な水の入ったグラスを渡される。
「ありがとうございます」
落とさないように、両手で受け取った。一口飲むと、クライヴの言っているように喉が渇いていたらしい。もっともっとと、欲しがっているような感覚になる。
そのまま、最後まで飲み干してしまった。
驚いたような顔のクライヴと目が合うと、にっこりと微笑まれる。
「お代わりはあるから、そんなに急がなくてもいいよ」
言葉通り、次の瞬間にはボトルから水が注がれていた。
「でも、あんまり飲んでお腹を壊さないようにね」
「はい……」
お母さんみたいな心配をされてしまった。
でも、彼の言う通りだ。気をつけるためにも、2杯目はゆっくりと飲み進める。
今となってはクライヴの優しさに慣れてしまったけど、それでも時々頭は混乱する。今はちょっと寝ぼけているから尚更だ。
それに、今のところはまだゲームをしていた日数のほうが長いから、優しいということが信じられない。
……そのうち、こっちに来てからのほうが長くなったりするんだろうか。
帰る、方法は……。
「よっぽど疲れたんだね。早くご飯を食べて、また寝たらいいよ。いや、その前に……食べられそう?」
「そんなには食べられないかもしれないです」
「それじゃあ、なにか軽いものを用意させるよ。おいで」
ベッドから降りた私はクライヴに手を引かれながら、朝にも行った食堂へ向かう。ずっと手を握ったままだったけど、寝ぼけた私が倒れないためだと思って離さなかった。
食堂に着くと、ノワさんが準備を……どうやら様子を見るに、もう準備は終わっているようだ。昨日の夜や朝と違い、メニューは簡素なものになっている。
クライヴが軽いものをとは言っていたけど、それは部屋の中での話だ。それなのに、どうやって把握してるんだろう……?
もしかすると、私が知らない魔法があるのかもしれない。
「こんばんは。ようやくお目覚めになったんですね」
「こんばんは。あの、クライヴがいない間に見ていただいたようで……ありがとうございます」
「いえいえ。俺はただ」
「えっ……!」
クライヴが突然大きな声をあげたので、ノワさんの言葉はほとんど聞き取れなかった。
そんなノワさんと2人揃って、クライヴの方を見る。
クライヴは、打ち震えていた。
これはこれで、見たことがない表情だ。
「の、ノワにはお礼を……?」
「あ……! え!? お!??」
そんなことで!?とも思ったけれど、言われてみれば確かにクライヴの方がよくしてくれているのは間違いない。それなのにお礼を言われなければ、打ち震えてしまうのも無理はないだろう。
私は急いで、クライヴの前に立って頭を下げた。出来る限り、深く深く下げる。
「く、クライヴにはこの世界に来てからお世話になりっぱなしで何と言葉を尽くせばいいのか分かりません!」
頭の中で一生懸命言葉を組み合わせ、お礼を述べる。
「これから補佐官として出来る限り頑張って恩返しをしますので、何卒よろしくお願いします……!」
「恩返しだなんてそんなものはいらないよ」
ふわりと、抱きしめられる。クライヴから抱きしめられたのだと、なんとなく感覚で分かった。さらに彼の手で、顔を上げられた。
真正面に、クライヴの顔がある。
この国、こんなにスキンシップが盛んだったっけ……?
「ハイネがいてくれれば、それでいいんだ」
「……私が、いてくれれば」
「そう、キミがいてくれれば」
真っ直ぐな瞳でそんなことを言われるから、私は思わずクライヴを抱きしめ返してしまった。
これまでにないほど笑顔のクライヴが、目の前にいる。
……なんで抱きしめ返しちゃったんだ、私!
「ゴハンサメチャイマスヨ-」
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