金塵の階段を上る近衛兵
月輪話子
第1話
我ながら名画のような大層な表題にしてしまったものだと思うが、何のことはない、単なるエッセイであり創作である。
「エッセイ」なのか「創作」話なのかは、読み進めて頂くにつれて変化する可能性があるため、冒頭ではあえて曖昧な表現とさせて頂く。
というのも、話題は私が幼い頃に見た、アニメのエンディング映像についてだからだ。
在りし日の思い出というのは、鮮明に記憶されているものもあれば、月日を経て一部が欠落したり美化・自動補完されることがままある。
まして昨日の記憶すら一部判然としないほど覚えに自信のない私の場合は言わずもがな。
一言でいうと、見た覚えがあるが、それが実在の作品であるのか、はたまた私の妄想の産物であるのか、全く自信がない。
もし、以降のテキストをお読み頂き、ないならないでそれはよし、万一正解を導き出せた方がいたとして、「全然違うんですけど…」と思っても、これを免罪符として使うことをご勘弁頂きたい。
えらくもったいぶったが、くだんの記憶の映像はこうだ。
その他一切の色を奪うような、うすぼけた金の靄があたり一面に立ち込める。
画面の右半分にやや急こう配の長い長い階段が描かれ、そこを英国近衛兵さながらの高い帽子と軍服を着た男が歌が終わるまで淡々と上っていく。
空いた左側には制作陣のクレジットが次々表示されるが、その他の描写は一切変わらず、最終盤までは同じ絵がループする。
やっとエンディングテーマ曲が流れ終わるかどうか、というところでやっと階段の先に白い光の漏れる出口が現れ、兵士が消えていく。
かの世界の経過時間は読み取れなかったが、視聴側の体感時間で1分半ほど、兵士の後ろ姿を延々眺め続けることになろうか。
彼はというと息を切らすこともなく、常に一定の速度で一糸乱れずただただ機械然に上り続けるのみ。
そのパーソナリティを象徴するかのように、軍歌を思わせる曲を歌う男性歌手の美声も、抑揚なく感情ない、まるでアナウンサーのようだ。
時は世紀末。
アニメはセル画でテレビの解像度も今ほど良くない時代だが、それでも画質と音質がかなり劣化しているのを見るに、十数年前の作品の再放送ではないかと思われた。
正直、動的緩急や見どころもないつまらない内容なのにもかかわらず、何故かこのエンディングだけが強く頭に残っている。
アニメのタイトル・内容、楽曲名、放送局に至るまで、その他が全く記憶にないにもかかわらずだ。
ワンフレーズでも歌詞を覚えていれば「ネットで検索かけたら?」で済む話だが、それさえわからず非常に調べにくい。
「アニメエンディング」に加え、「兵士」「黄色」「昔」等のワードで検索しても、ヒットしない。(検索条件が雑なのもある。)
あてにできない思い出を頼りに、知人に訊ねもした。
学生時代の知己、また、地方局の可能性も考慮して近隣府県出身の人間を当たってもいい返事はもらえない。
自分より少し年上なら心当たりがあるのでは、と思い、大学時代はサークルの先輩に聞きもしたが、皆思い当たるものがないという。
もっとも覚えていない、のではなく、最初からないのかもしれないが。
いかんせん大分昔の話なので、印象に残った夢か何かをさも現実にあったかのように話しているだけかもしれない。
(まだ痴呆はキていないはずだし、普段からそう狂人めいてもいないのだが)
まあ、しっくりこない状態なのは間違いないため、せめて実在したアニメ映像なのか程度は知りたいと思う気持ちはある。
と言いつつ、目を血走らせて必死に探し回るほどの、常に頭によぎる問題でもないので、わからないならわからないでも特に良い。
現に「次の小説のネタは何にしようか、あ、そういえばこんなことが…」と、思い出した。
その程度の些末な話だ。
なので、引き続き他力本願に、ぼちぼちと探しつつ。
その意向に忠実に、人目にはつかないが暇のある愛読家は読んでくれそうな場所にでもひっそりとしたためる。
金塵の階段を上る近衛兵 月輪話子 @tukino0
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