9-25 岩石砂漠と復興支援


 青竜の尾から部屋に帰宅後、俺たちは金櫛荘の食堂で朝食を食べに行った。

 いつもとは違ってじゅうぶんに朝と言える時間帯もあって、食堂は結構人が多かった。


 出てきた朝食は、ヴァイン亭で食べたモール豆と豚肉のスープとよく似た料理だ。

 モール豆がラクーン豆という豆に代わり、グルメのイン曰く、豚肉の質がヴァイン亭のよりもだいぶいいらしいとのこと。


 スープはお馴染みのパプリカ由来の赤いスープで、ラクーン豆も目立った特徴のない豆ときて、いくら金櫛荘が高級ホテルだとしても俺はその辺りの違いが正直よく分からなかったものだけど、客の中に「今日ははずれ料理か」とこぼしている人がちらほらいた。

 聞き耳を立てていれば、今俺たちが食べている献立はたまにある素材に安物を使ったメニューらしかった。


 普通に美味かったけどね? “退院開け”なので粗食は悪くないだろう。素朴めな味付けだったし。

 インはそんな俺に何ら気にすることなくスープを4皿も平らげていた。成人状態のあの美人モードでもこの食べっぷりなんだろうかとふと思う。みっともないことこの上ないんだろう。


 と、インの食べっぷりをじっと見ていた前の席の大柄の人が話しかけてきた。1人客のようで、席には他の客はいない。


「俺、結構長生きなもんでよ。色んなやつば見てきたが、こん子ほど“意外と食う子”も見たことなか」


 は……博多弁……?


 彼はおかっぱ髪の……ナマケモノみたいな顔の獣人だった。


 動物の顔はインパクトがすごいから困ったものだ。ナマケモノの顔がはっきり思い出せないけどたぶんナマケモノだ。

 ナマケモノの顔の下には高価そうな帯模様の入った緑色のチュニックを着ている。金櫛荘に来るのだから金はそこそこある人なのだろう。


「そうですか……。俺も同意しときますが」


 ナマケモノさんは満足げにナマケモノの顔に笑みを浮かべた。

 元々目から垂れている黒い模様によって垂れ目のような目だが、くわえて口元も緩んでいた。結構かわいい笑顔だ。彼みたいな獣人は獣人真体ブルートと呼ぶんだったか。


「ばってんまあ、よう食べるんはよかことばい。子供のうちからたくさん食べりゃあ肉がつき、体も丈夫になるけん」


 博多弁だよなぁ……。翻訳しなくてもきっと訛ってるんだろうけど。

 ……ナマケモノって猿になるのか? コアラ?


「うむ、その通りだな。私は子供ではないが。んぐんぐ」

「ハハ。喉につっかえるけん、ゆたっと食べればよか」


 ゆたっと。ゆっくりと、か?


 ナマケモノさんは爪が長いことと毛深いこと以外人族とさほど変わりない手で手つきでジョッキを煽ると、席を立ちあがった。


「ではまた」


 と、手を挙げるナマケモノさん。食堂を出るようだ。


「え、はい。また……」


 彼は丸めた羊皮紙がいくつか飛び出している大きなリュックを背負い、食堂を出ていく。

 なんかあっさりしてるなぁ。宿泊客ではなかったのかな?


「さっきの人ってナマケモノだよね」

「怠け者? 彼らは獣人の中でも勤勉な人たちですよ」


 そうなの? ん、ああ、“ナマケモノ”って正式な名前じゃないか。ちょっと不名誉な名前だもんな。


「彼らはフォリボラと呼ばれる方々なのですが、動植物の研究や測量士として活動してる人が多いらしいです。あまり戦いを好まない気性で、エルフやダークエルフとも付き合いの深い獣人です」


 次いでディアラが軽く説明してくれる。獣人のボルさんポジか。


「エルフやダークエルフって獣人とあんまり仲良くないの?」

「とくに種族同士でいがみ合ったりしているわけではないのですが……獣人は好戦的な人も多いので、なにかと波風が立ちやすいですね。フーリアハット内で大きな会議が開かれる際には、獣人は護衛を制限されているそうですし」

「制限?」

「はい。戦闘力に優れた者ではなく、長老会が指定する“話の出来る者”だけを会議に参加させるのだそうです」


 話の出来る者ねぇ。


 頭に血が上って事件化したことがあったんだろうと思っていたら、エルフ側に死亡者が出、殺害した獣人の護衛も処刑されたことがあって、停戦協定を結ばなければならない一瞬即発の事態に発展したことがあったらしいという話がされる。頭に血が上ったどころじゃなかったわ……。


 ちなみに測量士とは言葉通りで、道路や建物などの距離や高さ、川の深さなんかを測ったりする仕事だった。

 地図の作成に始まり、地形に詳しいことから進軍補助、建築の補佐などもする人たちらしい。まあ、測量を仕事にする人が短気なわけもない。



 そんな変わった短い出会いのあと俺たちは食事を切り上げた。部屋に戻る前には屋敷の裏で歯みがきをし、そしてコーヒーブレイクをすることにした。

 今日は予定も立てられないし、だらっと市場で何買おうか話そうと思ったのだが、姉妹が思ったより真剣に意見を出してくれたので軽くメモを取ることにした。


 題目は「旅路(馬車移動&夜営)で必要なもの」。


・俺たち4人+同行人のための食料

 食料 ⇒干し肉や漬物ピクルス、豆類などの腐りづらい食べ物類、ドライフルーツ、棒砂糖などのおやつ類

 飲料 ⇒水と酒。俺やインの《水射ウォーター》でもカバー。

・料理のための道具 ⇒鍋、おたま、コップ、スープ皿、スプーン、薪、かまど用のほどよい大きさの石や枝など

・洗濯のための桶や物干し竿、石鹸など 衣類・貴重品を入れるチェスト

・戦闘用の雑貨 ⇒ポーション、エーテル、リキッド、予備の鎧拭きの布など

・予備の武器とくに矢 クロスボウもあるとなおいい

・匂い袋、魔符(魔物除けの護符)などの魔物除けグッズ、松明

・テントや寝袋などの寝具 ⇒グライドウェルの人たちと相談 彼らが何を持ち寄るのか

・馬の餌、予備の蹄鉄などの馬車のメンテナンス用道具(御者がある程度持ち寄ってくれるはず)

・馬用の装備(鞍や鐙の類ではなく)、結界魔法の魔道具、荷台につける耐火装備(装備は賊を警戒する地域を走る際に着用)


 などなど……。


 もっとこうキャンプの準備的な緩い雰囲気になるかと思っていたが、上記のメモを見ての通り、全然そんなことはないのが分かると思う。


 賊から襲撃を受ける危険性は都市を出ればどこにでもあるし、魔物も同様だ。

 通りがかる馬車は賊たちにとって「懐を潤すチャンス」なわけで、それは夜営をしている間にも同じことが言える。魔物からは金品は奪われないが、賊よりも襲撃のタイミングは掴めないし、強い。


 都市を出る俺たちは彼らの襲撃に備えるのがなによりの優先事項となる。コナールさんが被害にあったように、襲撃されるもされないも全て自己責任。

 メモを作った今は流石に訂正させられたものの、キャンプ気分なんて俺くらいのものだったのだろう。


 馬に関しても新鮮というか。馬は「旅路の懸念材料」の結構な比重を占めているらしかった。

 馬車に乗るのだし当然と言えば当然なのだが、俺は車を車検に出すことはあっても馬の体調管理なんてしたことはない。ましてや、蹄鉄がすり減るなんて“発想”もなかった。もう何度目かは分からないが、住んでいた世界と意識の差を実感した瞬間だった。


 もっとも上記の対策事項は金がそれなりにあり、かつ、そうそう破られないに違いない防御魔法を展開できる俺やインがいなかった場合の内容になる。

 馬の装備などはよほど重要なものを運んでいる商人や貴族しか使わないらしい。それにダンテさんも触れていたものだが、装備で着飾ると魔物には有効かもしれないが賊には金持ちが乗ってるので狙ってくれと言わんばかりなので、装備はほどほどにし、多く魔導士を連れて防御魔法や結界魔法で守らせるのが常套手段なのだとか。


 なんにせよ、姉妹にはひとまず案を出せるだけ出してもらった形だが、この辺はグライドウェルの傭兵たちや御者や厩舎番と応相談ということだった。

 姉妹も奴隷時代に多少馬車移動と馬車整備には慣れているが、バルフサ内での移動がほとんどだったのでガシエントおよび自分たちの故郷周辺を除くその他の地理にはさほど詳しくないし、ぜひ彼らに聞いて欲しいとのこと。


「ビアラットまではどのくらいで着くのだ?」


 姉妹の事前知識がある程度出尽した頃、インが神猪の肉串を片手に訊ねた。ビアラットはセティシアに近いガシエントの都市だ。前も聞いたな。一応5日ほどと聞いているけど。

 ちなみに肉串は今回はこれで我慢するようだが、2本目だ。さきほどの朝食が前菜でもあったかのようなこの姿にはあのナマケモノの彼はさらに驚いたことだろう。


 ヘルミラがゆっくりとカップをソーサーに置いた。


「セティシアからだと5日ほどだと思います」

「ガシエントは水辺も森も少ないです。地面も硬くて馬の体力も減りやすいので、もう少しかかるのは見越した方がいいかもしれません」


 と、ディアラ。ヘルミラも「そうだね」と頷いた。

 5日以上か。長いもんだ。飛行機なら一瞬だろうに。


「乾燥地帯なんだっけね。荒野が多いっていう」

「はい。アマリア方面に行くと草地も多く肥沃な土地も多くなっていきますが、ガシエント領は荒野がほとんどだそうです。アマリアに隣接している<スリ・アウフト大荒野>をはじめとする一帯は岩石ばかりなことから岩石砂漠とも呼ばれていますね」


 大荒野に岩石砂漠か。

 砂漠と言うと砂地だが、実は砂ばかりの砂漠は少数なんだよね。転生前の地理の知識だが。


「緑地の平地を走るのと色々と具合は違うんだろうね。地面が硬くて馬が疲れやすいとか言ってたけど」

「馬の疲弊もありますけど、一番はやはり賊の襲撃だと思います」

「多いってこと?」


 ディアラがはいといくらか神妙な顔つきで頷く。


「見晴らしのいい場所ならそれほど警戒もしなくていいのですが……ガシエント領の道には低いものから高いものまで渓谷が数多くあるそうで、渓谷を通る道では山賊の待ち伏せによる被害が多いそうです」


 上からの襲撃か。いや、八方塞がりか?


「そういう場所は迂回したいところなんだろうけど」

「出来るなら迂回すると思いますが……出来ない場所もあるかもしれません」


 ついため息をつく。


「困ったもんだね」


 ディアラがはい、と苦い顔をした。


 ベッドに両腕をやって脱力する。


 どうしたもんかね。単なる挟撃なら防御魔法でなんとかなりはするだろうが……上から矢だの落石だの、そんなものが降ってきたんじゃ心臓がいくらあっても休まりそうもない。

 馬も耳まではどうすることもできないし、轟音には驚いて立ち止まってしまうだろう。最悪逃げてしまうなんてこともあるかもしれない。


「なんかすんなり通る手立てとかってないの? ガシエントもさ、自国にやってくる大事な取引相手とか貴族とかをわざわざ賊の餌食にさせてそのままってことはしてないと思うけど」

「はい……」

「商人の方々はあらかじめガシエントの各都市で通行証と通行旗を発行しておくそうです」


 と、ヘルミラ。ディアラがそうだったね、と同調する。

 通行キ? 旗か? 旗か訊くと頷かれる。


「賊に効くの? 通れるってことは賊も通行旗のことは認識してるとは思うんだけど」


 ヘルミラは少し困った顔をして、


「モブライファミリーに睨まれている2つの大きな盗賊団には効くそうですが……被害は依然あるようなので、完全に安全だとは言い切れないかもしれません」

「ガシエントにいる賊の全員がその大きな盗賊団に入らなきゃいけないっていうなら分かりやすい話ではあるんだけどねぇ……」

「はい……」


 そうだよなぁ。みんながみんな言いつけを守ってくれる良い子の賊なら、苦労もしないだろう。


「たかだか賊風情に尻込みしおって。防御魔法もあるし、結界魔法も私は使えるのだぞ。戦うとなっても遅れを取りはせん。お主だってそうだろうに」


 串を舐め取りながらそう強気な発言をするイン。

 結界魔法もいけるのか。何でも使えるな。


「単に正面から戦うだけならね。でも地形的不利があるし、馬も連れてるし、だいたい心臓にも悪いでしょ? 上から矢の雨とか落石とか来るかもしれないし」

「矢の雨も落石も通さんぞ? 私がおるからにはな」


 インは何の臆面もなくそう言い放った。


 俺は肩をすくめた。インは落石が来ても驚かなさそうだ。

 姉妹を見ると、安心感はあるが、仕方ないなぁ的な微妙な表情を寄こされる。そういう問題じゃないよね。


 というか落石防げるのか……。でも手刀で岩石を砕けるとか言っていたし、インの実力なら分からない話ではない。

 実際に見るとインパクトすごいんだろうな。目の前で巨大な岩が結界にぶち当たって割れるそんな光景だろうし。



 ひとまずこの辺もグライドウェルの傭兵たちと話し合うことにして、俺たちは市場に――先に東門の厩舎に繰り出すことにした。

 長い旅路で厩舎側が何を用意してくれるのか、具体的な情報を聞いてみるためだ。


 本来なら進路的に北門に寄るのがベターではあるけど、東門は市場から近いし、知り合いもいるので東門にした。


「――ダイチさん」


 厩舎を覗いてみると、馬に餌やりをしているタミル君がいた。


 タミル君はヤギの獣人で白髪の子だ。獣人といっても、さっきのナマケモノ氏のように獣の顔ではなく、人族の顔にヤギの耳と角を生やした半獣的な子だ。

 確か半身獣人ミタドと呼ばれる獣人だ。ちなみに人族の耳はない。……白髪4人になったなとどうでもいいことに気が付く。


「今日はどうされました? ちょうど馬車は空いてますが」


 そう言ってタミル君は前掛けについているワラっぽいものを両手で払った。

 裏手から2,3人の男性の話し声――「俺は賭けるぜ」という内容が聞こえたのでサイコロでも転がしてるのかもしれない――が聞こえた。御者かな? マクワイアさんのことがちらつく。


 いや、と俺は今日の用向き、よければ世間話をしたいことを伝えた。「世間話ですか?」と、タミル君から不思議な顔をされる。


「数日後にガシエントに向けて発つ予定なんだけど、馬車での旅路について色々と聞きたいなと」


 タミル君は少し目を丸くしたあと、「そうでしたか」とアゴを動かした。27歳とはいえ、顔立ちも体型も幼いので子供と接しているような心境になる。

 時間あったらでいいと言うと、今は客もいないし構わないですよ、と承諾される。


「それで何をお聞きになりたいんでしょう?」


 俺は長い馬車の旅で、厩舎側は何を用意してくれるのかを訊ねた。


「用意と言うと、匂い袋や毛布とかそういうものでしょうか?」


 毛布準備してくれるんだな。


「そうそう。旅路の準備でこれから市場に繰り出すんだけど、こっちとしては何を準備したらいいのかと思って」


 なるほどなるほど、とタミル君は目線を落としていくらか考える顔つきになったかと思うとさほどの間もなく顔を上げた。


「旅先はガシエントのようですが、どういった経路で?」

「セティシアを経由してガシエントに行くつもり。その後は北上して、フーリアハットへ」


 タミル君は「それは長い旅になりますね……」と驚いた顔を見せて、俺たちの面々に改めて視線を寄せた。

 それから目線は下がり、少し神妙な顔つきになる。垂れ気味なので分かりづらいが、耳も少し垂れた。


「旅路にはあなたがただけで?」

「いや、グライドウェルの傭兵を何人か連れていくよ。結構腕利きが来るんじゃないかな」


 それなら安心ですね、と頷くタミル君。

 お馴染みの反応だが、少年1少女3じゃ心配だよな。


「セティシアへは北門から馬車を出すことになりますが、セティシアからも馬車を乗り換えずにガシエントのビアラットまで乗っていくか、セティシアの厩舎で馬車を乗り換えるかの2つの方法があります。ただ……」


 ただ?


「出来れば……セティシアで馬車を乗り換えていただきたいな、と……」


 タミル君は不安げに視線を落とし、一転して消極的な態度を見せた。うん?


「何か理由が?」

「……セティシアの関所を通る場合、アングラットン市長の方からよほどのことがない限りはセティシアの馬車を使わせるように言いつけをもらっているのです。これはケプラの厩舎全体に言い渡されているものでして……」


 セティシアの厩舎を使わせるって……ああ、復興支援?


 タミル君は「新領主は狂暴なホーン・オークを連れているようなので無視したら何をされるのか……」とおびえたような上目遣いを見せてくる。

 ホーン・オーク? イノームオークのことか?


「ホーン・オークではなくイノームオークだぞ? あやつらが何かするようには見えんかったがのう」


 と、イン。やはりイノームオークらしい。


「……お知り合いなのですか?」

「知り合いというか、のう?」


 片眉を上げてインが見てくるので、「俺も何もないと思うよ。善人かは分からないけど、新領主とオークたちの絆は強いし、同盟も結んでるよ。王の代理もそのことは知ってたよ」とフォローした。

 だが、「そうでしたか……」と言いつつもタミル君の顔からは不安の色はあまり取れなかった。まあ、別に乗り換えるくらいなんてことはないよな。


「セティシアで乗り換えていくから大丈夫だよ」


 俺がそう言った途端、「ほんとですか??」とタミル君は顔を上げるのと同時に耳も持ち上がった。


「ほんとほんと。復興支援みたいなものでしょ? その市長の言いつけって」

「はい……先の戦いでは幸い厩舎への被害はほとんどなかったそうなのですが、市民の流出がひどく、長期契約していた上客もかなり減ってしまったようで。ただでさえ、これからしばらくはガシエント・アマリア方面の馬車がなくなって稼ぎが減るのが予想されるのに、上客まで減ってはとセティシアの厩舎は焦ってるんです」


 国をまたぐなら国際便と同じように、結構高くつくんだろうな。


「なるほどね。馬車自体は問題なく運行してるの?」

「それはもちろんです! だから安心してください!」


 タミル君は声を大きくしてそう宣言した。勢いに思わず苦い顔してしまう。


 と、そんなところに裏手にいた人の1人が顔を出してきた。マクワイアさんだった。


「あ、坊ちゃん。何の騒ぎで??」


 久々の坊ちゃん呼ばわりに懐かしく思いつつ、微妙な心境になりつつ。経緯を軽く説明した。


「はっは。ホーン・オークに食われなくてよかったなぁタミル」

「ほんとですよ。ヤギの獣人が好みだなんて、僕やトミンを狙ってるかと思ってましたし」

「ホーン・オークってヤギの獣人が好みなのか? 確か奴らは豚と肥えた人肉が好みと聞いておるが」


 え。人食うのかよ……。


「し、趣味が変わったんじゃないですかね?」


 マクワイアさんは視線を逸らしていた。ん?


「なにか勘違いしておるようだが、新領主の元におるのはホーン・オークではなくイノームオークだぞ。トゥロー族と言ったか?」


 インが見てくるので俺は同意した。


「イノームオークも狂暴な種ではあるが、ホーン・オークほど馬鹿ではないし、飼い慣らせば義理堅い面もある。ホーン・オークだったら領主は殺されておっただろうな」

「マークがホーン・オークを連れてると言ってたのですが……」


 見ればマクワイアさんは、後頭部に手をやって「あれ~? そうだったっけかな」と分かりやすくとぼけていた。


「……マーク!! また僕を騙したんですか!?」


 タミル君は噛みつかんばかりの勢いで声を荒げた。おぉう?


「いやあ……ついな? 悪かったって。落ち着けよタミル。馬たちが暴れちまう」


 マクワイアさんはタミル君を両手でどうどうと制する素振りを見せながら、馬たちの方に視線をやった。

 一番近い馬の一頭がこちらを見ていたが、見ているだけでとくに暴れる様子はない。


 なるほど? マクワイアさんの悪ふざけだったと。やれやれ。

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