9-18 延命治療 (2) - 聖馬族と白竜の眷属たち


 裸になる直前、苦し紛れにガウンを着たまま浸かってもいいかフルに訊ねたところ、ちょっと考える間があったが承諾される。

 安堵したのは言うまでもない。たぶん俺のこれまでの人生の中でもトップレベルで。


 何も持っていない方の女性に軽くたたんだチュニックを渡し、もう一方の女性からガウンを受け取ったあとは素早く羽織った。ガウンには上下に2つ紐があったので、上の紐だけ結ぶ。

 次いで、意を決して下着も脱いだ。脱いだ下着を手に手持無沙汰になるが、女性が慇懃に目線を伏せたまま依然として厳粛に両手を差し出していることに気付く。ん? 視線が脱いだばかりの下着に向く。


「そちらの着物もその者にお渡しください」


 着物ね……。


 ディアラたちならまだしも、相手は初対面の女性だ。しかも、シミ1つない白い額と小顔が印象的なフルほど圧倒的ではないがじゅうぶん美しい女性。

 そんな人に渡すものが俺の下着だという。しかも脱いだばかりの。抵抗感しかない。相手が俺の母ちゃんでもあるまいし……。交際したてっていうのもあるが、アレクサンドラにも俺からはあまり手渡しはしたくない。


 とはいえ、直前に風呂に入り、下着を変えたばかりなことが思い出された。渡したくないのは違いなかったが、おかげでいくらか薄まる抵抗感。風呂の後はトイレにも行ってない。

 あまりうだうだしててもみっともないので俺は下着を彼女に渡した。至って普通に。相手が気にしないのなら問題ないのだ、元から。と、自分に言い聞かせつつ。


 ガウンの下の紐も結び、すぐに股間を隠した。


「ふっ。ダイチは恥ずかしがっておるのだ。お主のような美しい女に見られているのであればな」


 そんなレベルじゃないしわざわざ言葉に出すなよ、と内心で軽く怒りつつ。ホテルガウンが厚い見た目の割に軽いことに気付く。

 なんだろうな、素材。普通の素材じゃないんだろうけど。


「そうでしたか……お気遣いが出来ず、申し訳ありません」


 見ればフルは苦い顔をしていた。お気遣い。


 何かズレてるようだが、とりあえず俺は彼女が少なくとも俺の、つまり人族の持つような羞恥心について理解していないんだろうなとは察した。

 着付けにきた《竜人族ドラゴニュート》たちも羞恥心はまったくなかったものだ。いや、大丈夫と俺も苦い顔をする。


 ……というか、この分だと奥の水槽に入る時も裸か。

 生まれた時もそうだったし、ガウンはさすがに着ないだろう。結局全裸は披露しなければならないらしい予感にため息が思わず出る。


 目的の浴槽だが、湯気がないので熱くはないことは分かる。

 相変わらず精巧な竜の彫刻の口からは水がちょろちょろと流れ続けている。霊水と言ってたっけな。


「ではお浸かりください」


 言われたままにゆっくりと片足を入れてみる。……ん? 生温かいが、水の感覚がほとんどない。なんていうか、霧にでも浸かってる感じだ。

 なんだこれ?? 水面には波紋も広がるし、竜の口から出ているのは完全に水なのに。聖浄属性と神聖属性の魔力で満ちていると言っていたけど。


「なんか想像してたより水の感覚がないよ」

「そりゃあ水ではなく霊水だからの。見た目は水に見えるかもしれんが、大半は魔素マナだ」


 魔素ねぇ……。


「霧というか靄みたいな感じだよ」

「霧に靄か。近いかもしれんな」


 言っていて、熱くないサウナみたいなものだろうかとも思う。


 体も浸かってみる。

 だが、サウナとは違うようで、薄いが浸かっているという感覚はある。段差に腰掛けて軽く足を伸ばした。


 ……気持ちいい。浸かったばかりなのに、もう体が生き返る心地がする。

 この水温では体が温まるのに時間がかかるし、血行も大してよくならないだろうに、じんわりと体に染み込む感覚が心地良い。不思議な風呂だ……。


 それからガウンの感触が心地いい。ガウンを着てなかったら感覚的にちょっと心もとなかったかもしれない。

 次いでガウンが湿っているだけなことに気がいく。びしょびしょというほどではない。……不思議な風呂だ。(2回目)


「しばらく身を清めながらお待ちください。わたくしとルオは研究者の者たちと治療の準備を進めてまいりますので」

「分かりました」


 と、さきほど俺から服を受け取り、ガウンを持っていた2人が浴槽に入ってきた。え?

 2人はとくに何を言うまでもなく俺の横に座ってくる。服は着たままだったが……胸が透けている。ちょ、ちょっと待ってくれ? このガウン結構分厚いんだけど……。


「待つ間、お暇でしたら2人を使っていただいても構いませんから」


 使うて。そう言うフルの手には鞭があった。ん?


「鞭はお使いになりますか?」

「使うって……?」

「フル。ダイチは女子を鞭で打つ倒錯趣味はおそらくないぞ。王族でもないしの。のう、ダイチ?」


 つまりあれか。……鞭で打つことそのものや、痛がったり泣き叫ぶのを見るのがいい、と。

 フルは至って素朴に訊ねてきた風だった。


「……ないね」

「そうでしたか」


 王族は倒錯趣味多いのか……。というか、なんで「お楽しみください」の状況になってるんだ……? 確かに直前にはアレクサンドラとやってたけども俺は至ってノーマルだ。いや、セフレがいた部分はノーマルじゃないけどさ。


「それと氷竜様。わたくしには言葉を正さなくても構いませんので」


 半ば混乱している俺とは裏腹にフルはやはり何も動じておらず、まったく真摯な様子だ。倒錯趣味の方は置いておいて、敬語か。


「わたくしとあなたが同列とみなされることがあれば、八竜間で何かしらの軋轢が生じる恐れがあります」


 軋轢ね。


「わかり、……分かった」


 フルは微笑しながら俺に頷き、鞭をタオルラックに優雅な所作で引っかけた後、「では、治療の準備をして参りますのでしばらくお待ちください」と言って背中を向けた。

 背中は上の方が開いていた。色っぽいには違いないんだろうが、それよりも俺はできる女の背中の頼もしさの印象を抱いた。いいよね、できる女。


 フルたちが去り、竜の口から水が流れ落ちるだけの静寂が訪れた。部屋が広いだけに開放感がすごい。何も予定のない日だったらさぞよかっただろうに。

 横にいる2人が何も言わずにただ座っていることに気がいく。


「イン。待つ間暇だから話し相手になってよ」

「構わんが……そやつらはいいのか?」


 見れば2人は俯いたまま静かにしている。恥ずかしがっている素振りは微塵もない。

 透けた胸が目に入ってしまったので視線をそっと逸らした。目のやり場に困る。インがいる前でできねえよ。いや、そもそもしないけど。


「じゃあ、2人の話にしよう」


 とりあえずそう俺は言ったものだが、2人はまだ俯いたままだ。俺が顔を上げて、と言うとようやく顔を上げてくれる。

 表情はこれといったものを見せてはくれないが、2人の顔立ちは美しいは美しいのだが少し少女味がある。幼い容貌に人心地がつけた気がしたが、透けた胸にはすぐに落ち着きがなくなる。


「ま、よかろ。――ちなみにダイチ。そやつらは人族ではないからの」


 インは浸からないようで浴槽の縁に座り、そんなことを伝えてくる。

 え、そうなの? まんま人族だけど……。まあ確かに、七竜の元に人族がいるようにはちょっと思えない。


 2人に事実かどうか訊ねてみると、「はい。私たちは聖馬族ユニコーンです」と外見相応の落ち着いてはいるが可憐めな声による驚きの解答。ユニコーン。


「ユニコーンってあの……額に1本角の生えた白い馬?」

「はい」

「聖馬族はフルの支配下にあり、庇護もしている種族の1つでな。その中でもこやつらは人化が得意なのだ。だから呼ばれたんだろうの。人族と何ら変わらぬお主の相手に相応しいとしてな」

「その通りでございます」


 気遣われたらしい。さすができる女。

 それにしてもユニコーンが人化するってちょっと意外だな。とくにそうした神話のエピソードは出てこない。あるのは処女にしか心を開かないというあのよくいじられるエピソードだけだ。


 角出せたりする? と興味本位に言ってみると、2人ははいと答えた。


 やがて2人の額からは、少しぎょっとしたが、第三の目ならぬ「縦穴」が開いた。そうして穴にあった白い石のようなものが伸び始め、みるみるうちに30センチほどもある見事な一本角を伸ばしてみせたのだった。

 ネジのように溝のすべてが繋がっているわけではないようだが、断続的に浅い溝のような薄い水色の模様が螺旋状に続いている。


「立派な角だの。霊水に浸かっていることによって、角の魔力も増しておる」


 角の魔力。そういえば、姉妹が森で乗り回していたのはミツマタジカだったか。

 気付けば、2人の目はどちらも暗褐色なのだが、瞳孔がヤギのような長方形型に変わっていた。馬ってこういう目だっけ。


「しまっておけ」


 インがそう言うと、2人の角は額に沈み始め、瞳孔の形も戻った。


 情報ウインドウが出てくる。

 タマラが91歳、エヨニが25歳らしい。91て。職業には白竜の召使とあった。


>称号「聖馬族と言葉を交わした」を獲得しました。


 そんな驚かされた変身を見せられたあとは、かつて竜人族ドラゴニュートの2人としたように話を聞いた。


 2人は情報ウインドウのままにエヨニとタマラという名らしく――高い声で艶やかな黒髪がエヨニ、やや低い声で茶髪がタマラだった。どちらも髪は後ろでリース巻きしている――アマリアの東部にある<象牙の森>という場所が出身らしい。

 タマラ曰く、<象牙の森>には白竜教の神殿がある他、教会関係者以外は立ち入らない神聖な奥地に、聖馬族の住処があるらしい。


「<象牙の森>は戦いを好まぬ獣人や鳥や動物などが穏やかに過ごす神聖な森です。森の魔素は白竜様の庇護の元厳重に守られ、いつでも清涼に保たれています。仮に不浄を持つ者が侵入した際にも、<白木の冑プレーンウッド・ヘッド>の方々が排除してくださいます」


 タマラが悟ったような落ち着いた話し振りで答えた。動物の楽園的な場所か。ユニコーンがいるのに相応しい場所ではある。


「<白木の冑>ってどんな人たち?」


 今度は黒髪の若い方――エヨニに訊ねてみる。


「<象牙の森>に住む獣人や、周辺地域から選出された白竜教の亜人の精鋭による武装集団です」


 森を守る戦士ってわけか。


 と、落ち着いているタマラとは違い、彼女は少しだけ表情が硬いことに気付く。


「あまりようは知らんが、<白木の冑>はやり手だと聞いておるな。確か……アマリアの精鋭<黎明の七騎士>やシャナクの<剛健なる七爪>にも匹敵するのではなかったか」


 シャナク。獣人国だったか? やはり「七」がつくらしいけど。俺が襲名したら八部隊目を選出しそうだ。


 はい、その通りです、とタマラが厳粛めに答える。


「<剛健なる七爪>って獣人の精鋭部隊?」

「うむ。シャナクが獣人国家だからの。お主のように、みな<魔力装>の使い手のはずだぞ」


 ハリィ君が獣人は<魔力装>の使い手だって言ってたな。


「ハリィ君から聞いたよ」

「ふむ。ま、フルには<白木の冑>よりも強い眷属はおるがの。我々七竜にもな」


 インが頷きながらそう情報を追加した。

 強い眷属っていうのはテュポーンとかかと訊ねると、テュポーンはでかいだけで知能はない、と一瞬される。眉をしかめているし、あまり好ましく思ってはいない風だ。


「ネロはその辺が気に入ってるようだがの。奴の好みはよう分からん。知能の低い者を眷属にしてもよいことなどさほどないだろうにの」


 インはいざというとき暴れるだけだと肩をすくめた。


 同意ではある。眷属にするなら知能が高い方がいい。……一応、謀反しづらいっていうメリットはあるか? 知能が低いの度合いにもよるんだろうけど。


「ちなみにフルにはどんな眷属がいるの?」

「ん。強力なのは聖獣ホラン・メルや魔女ムラトスカヴェツ、私が貸しておるミストドラゴンなどだな」


 ミストドラゴンはいつか話してくれたものだが、クライシスにもいる銀竜配下の竜系のMOBだ。聖獣がいるのは分かるが、魔女もいるんだな。


「ホラン・メルとかムラトスカヴェツってどんな眷属?」


 ふむ、とインは少し考え込む素振りを見せた後、室内用に履かせていた安い編み込みサンダルを脱ぎ、自分も浴槽に足を入れた。


「ホラン・メルは大蛇の体に翼を持った白い竜だな。アルバグロリアの王城地下にある霊廟で守護をしておる」


 霊廟に大蛇がいるのか。白いし翼もあるから、神聖視されそうではある。


 なぜ守護しているのかと聞いてみれば、かつてフルが親しかった白竜教の司祭――現在は「聖人化」しているとのこと――と結んだ守護の約束のためと、霊廟内の神聖な空気はホラン・メルにとって過ごしやすい場所であったからとのこと。


「――無論、単なる友人との約束程度で我らの眷属を派遣することはないぞ? ここには白竜教の信仰心を集め、高める意味もちゃんとあった。……それに聖獣は強力だが、住処探しが少々大変でな。<象牙の森>のような清澄な場所があればよいのだが、そんな場所はそう簡単には見つからんし、浄化したところで聖獣が満足し得るほどの場所にはなかなかならんのだ」

「ふうん……」


 霊廟が住処か。


「ムラトスカヴェツは半人半霊の魔道士だな。元々は人族だったのだが、《魔力喰らい》という珍しいスキルを持っておった女でな。かつて魔人との戦いの時に奴は死ぬはずだったのだが、助勢したフルの魔力を喰らって生き永らえたのだ」

「《魔力喰らい》……」


 マンガじみた能力者だ。


「《魔力喰らい》を持っておる人族も珍しいのだが、フルの魔力を活力として取り込んで生き永らえたことも奇跡に近い。もっともその結果奴は人ではなくなり、半分が人、半分が精霊という稀有な存在になったがの」


 俺もホムンクルスではあるが、幸い人の心は持っている。しかし半分が人で半分が精霊か。


「なんで魔力を喰らって精霊に? 竜人族になるなら分かるけど」

「あまりよくは分かっとらんくての。《魔力喰らい》というスキルの影響が大きいとは分かっているのだが。そもそも人の身で我々の魔力、それも戦闘時の濃密な魔力を取り込むなどできん。まあ、フルの魔力が人の子と親和性が高いことは確かだ。私の魔力もそうだが、癒す力という側面においてはフルの方に分がある。ムラトスカヴェツは事切れる寸前だったようだし、両者の間で生存するという方向性において《魔力喰らい》の効果を含めた何らかの相乗効果が発揮されたことは確かだ」


 ふうん。


 インが思い出したように、「そういえば白狐の奴はどうした? 奴なら面白がってここに来ておるかと思っていたが」と、タマラに訊ねる。狐。


「白狐様は現在、トルスク神殿を監視していらっしゃいます」

「ああ、トルスクは占領されたからの」


 はい、とタマラが頷いた。

 トルスクというと、アマリア領側でセルトハーレス山に近い都市だ。監視って? と訊ねてみる。


「現在トルスクはオルフェ軍により占領されています。トルスク神殿は、トルスク市の領主であるフランツォース伯爵と領内の教会が管理を任されている神殿なのですが、神殿が戦禍に巻き込まれていないか、白狐様は監視の任に就いていらっしゃるのです」


 ふむ。


「もし戦禍に巻き込まれたら?」

「白竜様が然るべき制裁を行うでしょう」


 タマラは俺の目を見ながら、よどみなくそう答えた。然るべき制裁……。


「各七竜神殿の保護は我々の義務だからの。制裁もまた然りだ。もっとも、神殿を攻撃したところで痛い目を見るのは自国だからの。何もないだろうが」


 まあ、そういう規則があるならそうだろうな。むざむざやられに行くようなものだ。


 然るべき制裁とはどんなことかと訊ねようとしたところ、少し眠気が襲ってきた。

 ん……この霊水、眠くなる効果でもあるのか? 湯冷めとかしないよな?


「なんか少し眠気がきたんだけど、この霊水の仕様?」

「体に至純豊水が満ちてきたのだろうの。むしろ眠くなるのはよく効いておることの証左だ。安心せい」


 インがタマラとエヨニに、溺れんよう抱えてやれ、と言い、俺の肩が2人によって腕組みされる。

 俺に少し不安が襲った。先日の精神操作のせいだろう。


「……寝るのが少し怖いよ」

「ふっ。色々あったしの。ま、今回はルオの領地だし、みなもおるからな。無論この私もおるしの」


 確かに安心だ。ここで何か起こるなら、それはもうよほどのことだろう。

 まだ出くわしていない魔人とか。七竜と因縁の相手とか。そういう予想外の……一大事になりそうな出来事。


 不安をまぎらわせる意味もあっただろう、俺はタマラとエヨニに自分たちの故郷に戻りたいと思わないのかと訊ねた。


「戻りたいとは思いません。私の使命はこの身の尽きる時まで白竜様のお傍でお仕えすることですので」


 と、タマラが俺に宣誓でもするかのように静かに頭を軽く下げた。重い言葉に思ってしまったが、タマラの話しぶりは厳粛である上、気取ったものもとくに何も感じなかった。白竜への忠誠心をひしひしと感じる言動だ。

 一方でもちろん、寂しい解答だなとも思った。ネロですらも故郷の風景を語ったガスパルンに憐憫を見せたというのに。


 もっとも、いかんせん“尺度”が違う。宗教にまったく縁のなかった身であったことを挙げなくとも、七竜しいては実在する神に仕えるなどという仕事はもはやフィクションだ。

 何度か思ったが、ギリシャ神話をはじめとした神々とお告げを聞く人々の関係に近いものを肌に感じた。


「私も戻りたいとは思いません。ただ、故郷のことは夢に見ることがあります」


 見ればタマラとは違い、エヨニの横顔は心なしか憂鬱そうだった。

 おやと思うが、25歳という俺より若い年齢を鑑みるといくらか納得しやすいところがある。


「どんな夢?」

「<象牙の森>で仲間たちと話をしたり、誰が一番早く丘にたどり着くか競争をしたり、木の実を集めに行ったり……そのような何気ない日々の夢です。森の木々が放火されてしまった夢を見たこともありました」

「それは……嫌な夢だったね」


 反対からタマラが「エヨニは予言の力が少しあるのです」と、コメント。それはつまり。


「実際にその火災はありました。瘴気を溜めすぎたデラシネ・エイプの仕業でした。もちろん速やかに<白木の冑>たちが対処してくださいました」


 デラシネ・エイプ。クライシスにもいる猿系MOBだな。同名種は弱いが確かに火魔法も使っていた。

「魔狼肉を食うために瘴気を取り除いたことがあったろう?」とインから訊ねられる。……<狼の森>にいたやつか……。


 本格的にうとうとしてくる。……そのうち寝そうだなー……。


「……うん」

「奴もまあまあ瘴気は溜め込んでおった。魔狼やデラシネ・エイプなんかの上位種は、下位種であるときに多量の魔素マナを取り込んだ末に上位種となるのだが、魔素の中には質の悪いものもある。四大精霊を始めとする自然精霊たちの加護から逃れ、淀んでしまった魔素を瘴気と呼ぶのだが、瘴気には生物の精神を乱し、乱暴者に変える作用があってな。もっとも魔物たちの多くは魔素と瘴気を見分けることはできんのだが――」


 ――話を聞いていると、耐えていた眠気が限界に達したようで、俺はそのうちに眠ってしまった。霊水の効果が高いというべきか、寝つきはずいぶん早かった。

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