9-17 延命治療 (1) - 聖女フル


 渡り慣れた黒い廊下だが、今回は少し長いようで、出口の姿見は結構先にあって、小さい青い光が1つ見える。距離的に200メートルくらいか?


 上空を見上げる。

 ジルと戦った亜空間では一応夜空があったものだが、ここでは不安になるほど何もない。いつもそうだが真っ暗だ。


 足元に視線を向ける。道などはなく、どこも均一に真っ暗闇だ。

 もし道を逸れてみたりすればどうなるのか。なにか懸念材料があれば誰かしら言ってくるはずなので何もないだろうが、俺から不安は消えてはくれはない。


「俺たちはこれからどこに?」


 ゾフの2つの《蒼火フォース》で照らされ、肌が青白くなった青髪美形にいくらかの不安を抱きつつ訊ねる。


「リズーン・フルク・トという私の住処にある研究施設です。最近は人の子に与えるこまごまとした道具を作成するのにしか使っていなかったのですが」


 ユラ・リデ・メルファと似た感じの語感だが、ルオの住処なのか。

 てか、人の子に普通に道具とかあげるんだな。こまごまとした道具ってなんだろう。


「こまごまとした道具って?」

「主には船につける風力の発生装置や、船頭や船尾につける魔物除けなどですね」


 船。


「放っておくと船が沈むばかりらしくてな。無論無法者の海賊などには道具はやらんが、ルオの血筋の者や国を統べる者、一部の海上商人や信心深い者には与えておるのだ。安全な航海ができるようにな」


 と、インによる解説。次いでルオも付け加える。


「港町コルヴァンの東に広がるルガーノ海の海の魔物たちは私の支配下にありますが、海域におけるすべての魔物をコントロールできるわけではありません。私も長年言い聞かせはしてきたのですが……しょせん魔物ですから。彼らが人々に襲いかかるのを完全に止めることはできていないのです」


 なるほど?


「インの言うように、私の加護なしで海に出ようものなら船が沈むのは珍しくありません。七星や七影、名のある攻略者でも、海の魔物相手に船を守るのは難しいですから」


 ヴィクトルさんが海賊退治に行ってたか。


 海の魔物か~。船に乗り込んできた海賊ならともかく、相手をするのは難しいだろう。足元は揺れるし、相手は海上にいて剣は届かないし。

 ああ、だから弓術名士ボウマスターに白羽が立ったのか。弓なら船外の相手でも戦えるし。


「出航しなければ何もないのですが、残念ながら魔物の脅威は陸地以上と言えるでしょう。コロニオ公国は海上貿易とは切っても切れない関係にある国です。海路における魔物の襲撃問題は死活問題なのです」


 貿易国家か。インはあまり人の子を助けるなと言ってくるものだけど。ルオはそうでもないんだろうか。それともこれは「場合による」になるんだろうか。


 そんな小話をするうちにあっという間に出口の姿見に着く。


 姿見を潜った先は――ずいぶん広い大広間だった。


 巨大なシャンデリアが下がった、高さ15メートルほどありそうな壁と柱群にはびっしりと精巧かつ雅やかな彫刻模様が刻まれている。柱の1/3辺りまでは青で、以降は水色と白のパステルカラーだ。

 金細工がシャンデリアのみなので、壮麗さはこれまで見てきた建築より控えめだが、ファーブル村長と隠れて会った地下室を思い出す内装だ。よくよく見れば、壁や天井の一部が草花の彫られた石でびっしりだ。この意匠は地下室と同じだ。


 奥には大きな水槽らしきもの――俺が入る槽だろう――とテーブルセットや大量の巻物の置かれた棚があり、傍には白い服を着た人が数名立っていた。遠すぎてわからないがみんなこちらを向いている。俺の治療を担当する研究者とかかもしれない。

 反対側には天蓋付きのベッドがあった。豪華は豪華だが、こちらも水色と白のパステルカラーリングだ。パステルカラーは七竜の様式の特徴か?


 水の音がしているので振り返ってみれば、ガラスに遮られた海があった。オーシャンビューだ。

 オーシャンビューと左右に続いている廊下の手前側、広間の隅には石造りの噴水というか、広い浴槽がある。浴槽に積まれている石は黄土色で、しっかり磨かれてもいる高そうな石だ。なかなか精巧な竜の頭部の彫り物の口から水がちょろちょろと出ている。


 寝室かなにかか? ここ。

 にしては広すぎるけどな。広さが体育館並みだ。竜サイズとかか?


「行くぞダイチ」


 インに手を引っ張られるままに移動をはじめる。

 ゾフは姿見と一緒にいつの間にか消えていた。また迎えに来るときには現れるんだろうが、いればいいのにと思う。


 遠のく水音を背に俺たちの足音だけが響いている中、マップを開いてみるとマップ名には「青竜の尾」とあった。


 銀竜の顎に青竜の尾か。念じてマップを縮小していく。


 大広間サイズの居住スペースの通り、ここはかなり大きな建物らしい。俺たちのいる広間からは中庭にある渡り廊下を介して左右に円形の離れが続いていて、他にも別の場所には部屋がいくつかある。

 多少違うところはあるが線対称のつくりが意識されているようで、建物を囲っている外壁は八角形の形になっている。


 七竜の住処だし、要塞的規模になるのも分からない話ではない。竜の物理的なサイズ的にも、七竜の相対する敵――魔人の規模が尋常ではなさそうであるという意味でも。


 また、海が見えるようにここは島の端らしい。銀竜の顎の麓の草原ですらそうだったが、結構大きな島のようでマップを最大縮小しても島の全容が見えてこない。七竜の住処だし無人なのか知らないが、緑ばかりで街らしきものもない。

 インの住処は山頂、インたちが話し合いをしたフェルニゲスという土地は天空にあった。ルオは海域を守護しているようだし、孤島が住処というのも頷けはする。ネロはきっと森の奥深くとか秘境とかだろう。


 思索をやめ、視線を待ち人たちに戻す。

 やがて彼らの風貌に違和感を覚えた。


 ドレスの中心の人を除き、みんな白いチュニックに腰帯を巻いた古代ローマ風味の服装なのだが、女性は薄手のベールで顔の下半分を隠し、腕も首元も出している一方、男性は目元のみを残して顔のすべてを布で覆い隠している上に頭髪も隠していて服の袖も長かったからだ。イスラムなら色々と逆なところだ。

 男性の“フルフェイス”には目元に切れ込みがあり、一応視界は確保されているようなのだが、ともあれ怪しさが半端ない。布の色が白なので怪しさは多少緩和されてはいるけれども。なぜ隠すのだろう。


 ある男性の足元から鱗状っぽいものが覗いていた。くすんだ緑色だ。

 鱗ってことは竜人かなにかだろうけど……顔は見えないからな。青白いのは種族は何だろう。てか、隠してるのは亜人だからか? なぜ?


 と、待ち人たちが跪いた。立っているのは中心の女性だけだ。視線が彼女に行く。


 女性のサークレットはルオのものよりもちょっと複雑で、太い針金で意匠を編んだような代物――こう言うと安物っぽく聞こえてしまうけど――だった。サークレット周りには蝶が止まっている風な白い額飾りがあり、側頭部には鳥の羽のような白銀の飾りがいくつかついている。耳からは真珠や宝石を繋げたようなイヤリング。

 髪は額を出して後ろですべて束ねていることもあり、女王然とした人だが、装いは可憐寄りだ。首や腕などにある透けのある白いドレスも合わせて、妖精女王のような印象があった。


 察するも何もなく、彼女は白竜――フルだろうという憶測に至る。


 ほとほと想像の追い付かない第二の人生を歩んでいるが、現在の状況的には俺に跪かなくていい存在は言葉通りに数えるくらいしかいない。

 ただ、彼女は髪が普通に焦げ茶色だ。インは銀、ネロは緑、ルオは紺だった。得意魔法に近い色になるというなら、フルは治療魔法が得意と聞いているし、聖浄魔法で白髪か神聖魔法で金髪辺りになると思うけど。


 近くに迫ると、彼女の美貌がやはり完璧に整った絶世の美女で、ただ他の七竜とは違って顔立ちにハーフ味は少ないことに気付かされる。


 やがて彼女は俯いていた顔を上げ、目も開けた。瞳は金だった。


「ようこそいらっしゃいました、氷竜様。お会いできて嬉しく思いますわ」


 白竜は俺に向けて品のいい眼差しでたおやかに微笑んだ。

 スーツやメガネも似合いそうなエレガントな顔立ちだが、顔が小さく、目力も控えめなので、可憐めな装身具がよく似合っている。


>称号「白竜の慈悲を受けた」を獲得しました。


「わたくしは八竜が1つ、白竜です。みなからはフルと呼ばれています。氷竜様もどうかそうお呼びください」


 と、目を軽く伏せてそう自己紹介してくる。

 やはりフルだったようだが、実に悠然とした所作だ。


「分かりました、フル。俺のこともダイチと呼んでください」


 気軽にそう言ったものだがフルにとっては少し距離が近すぎるのか、「いえ、わたくしは氷竜様と呼ばせていただきますわ」と柔らかく断られる。あら。


「氷竜様のお人柄により、みなはおそらく氷竜様のことを名前や愛称でお呼びになるのでしょう。ですがそうなると、あなた様が我ら七つの竜を束ねる至高の者――氷竜であると言葉で示す者がいなくなってしまいます。七竜のうちでそのお役目を私は謹んで拝命させていただきたいと思います」


 そんな大げさなと思いつつも彼女の心遣いになんか感心してしまった。まったくよどみのない話し振りの影響もあったかもしれない。


「分かった」


 とりあえず同意する。天皇家なんかではこういったやり取りはあったんだろうかと、他人事のように思う。


「このお役目、この八竜が一柱、白竜がまっとうさせていただきます」


 厳粛にそう言葉をつむいだあと、彼女は再び軽く会釈した。内心で苦笑する。態度は硬いし、大げさだが、言動に頼もしさは感じる人だ。

 やがて彼女は視線をふっと下に下げたかと思うと、物憂げな表情になる。


「……まずは歓迎がこのような小規模なものになったことをお許しください。これもすべて、あなた様の治療を優先したがため……。氷竜襲名および八竜結成の儀はまた別の機会に盛大に催させていただきますので」


 半ば懇願するかのような言いように、たちまち準備を急かせてしまって申し訳ない気持ちになったが、「いや、」と手と言葉が出てしまった。

 聖女然とした彼女の“盛大”はシャレにならない気がして。


「え?」と、聞き返してくる白竜。何に対して聞き返されたのか分からない風だ。

 それよりもまったく邪気がなさそうなので困った。いつもだったら、俺たちは目立ちたくないとか気軽に言ってしまうのだけども。


 だいたい……停戦協定は結んだし、七世王たちと会ってしまっているし、さらにはネロたちからも救助されているしで、いまさらだ。

 そしてなにより俺の命はここまでになる。死ぬ気はまったくない。


 どうした、とインが見上げてくる。次いで、『また緊張しておるのか? よもやフルが好みの女と言うのではなかろうな?』と念話。

 声音には好みの女と言う割にはいつもの冗談っけはなく、懸念がたっぷりだ。


 ――いや……なんていうのか。白竜の言う、盛大に催させていただくっていうのに臆したというか。


 インは眉をあげたかと思うと、「なんだそんなことか」と念話ではなく口頭で発言して肩をすくめた。


「イン。氷竜様はなんと?」


 白竜ことフルは俺たちが念話したのを察したようだが、不安げな表情だ。

 意外とそれほど気丈ではないというか……いや、俺のせいだろうな。いきなり見知らぬ上司が来れば誰だって気が休まらないだろう。


「まあ、いつものやつだな。お主が八竜結成の儀を盛大に祝うと言うのを聞いて怖気づいたらしい」


 怖気づいたって。まあ……そうだけどさ。

 フルは「そんなこと」と言って、「いえ、そうだったのですね」と訂正した。すみません、“そんなこと”で臆して。


「心根の謙虚なお方とは聞いてはいましたが……八竜結成の儀について突然お話してしまい、申し訳ありません」

「いや。そんなことはないです。俺が勝手に萎縮しただけなので」


 言ってて少し情けなくなるが、仕方ない。どうせ世界規模だろうし……。


「ダイチ。八竜結成の儀についてどのような内容を想像しておる?」

「大陸中でなんかすごいことをやるのかなと。俺の想像が追い付けない規模で」


 それから、だいたい俺飛べないし、と付け加える。各々ちょっと空を飛んでみせたりするんだろ? 八竜結成の儀というくらいだし。


「飛ぶ? ……ダイチ。八竜結成の儀は特別大仰なものではないぞ。我々八竜が互いの絆を強固にするための宣誓をし合う場であり、そのために祝宴を開くというだけだからな。人の子は一切加わらん」

「そうなの?」


 フルを見てみると、「そうですね。私たちの眷属のご紹介などもありますから」と同意される。ああ、懇親会ね。


「まあ、他にも色々と決めることはあるがの。お主について各教会が布告する日が八竜結成の記念日になるからの。その日を決め、人の子たちが毎年どのように祝うのか決めねばならんし、以前もジルが言っとったが、お主の氷竜教や氷竜教の神殿、服、紋章など、そうした細々としたものも決めねばならん。本格的にな。……どうした?」


 ……頭が痛くなりそうだ。身内紹介なんかよりそっちの方が事だろう。

 何でもないよ、と首を振る。


 ルオがダイチと呼びかけたので振り向く。


「そうした話も大事ですが……あとで決めましょう。あまり悩むようなことがあるとあなたの精神に障ります。これから行う延命治療にも差し支えるかもしれません」


 精神? そうですね、とフル。

 治療時には俺は眠る必要があるらしいけど。治療に臨むにあたりリラックスしておいた方がいいのかと訊ねると、ルオは同意した。


「では早速ですが、治療の方に取り掛かりましょう。まずは氷竜様には治療を行う前に身を清めていただきたく思います」

「身を清める?」

「はい。あちらの方に至純豊水で満たした浴槽がございますので、しばらくお浸かりください」


 シジュンホウスイ? 至純……豊水? ビール製造会社が欲しがりそうな水だなとよく分からない発想をしてしまったが、あの風呂か?

 俺は一度振り返り、竜の口から水がちょろちょろと出ていた浴槽のことを指差して訊ねた。その通りのようでフルは同意した。まあ、浴槽はあれしか見ていないし。


「あの浴槽は聖浄属性と神聖属性の混成魔力や、わたくしたちが精錬した清らかな魔素で満ちています。浸かることで病気の元となるあらゆる”淀み“はもちろん、下界で染みついてしまった一切の不浄を取り除くことができ、生命と魂魄の真なる輝きを取り戻すことができます」


 七竜たちでも医学は未発達か。不浄とか真なる輝きとか少し怖い感じだが、病気の元を取り除けるのはすごいな。

 あらゆる淀みを取り除くっていうのはようするに血行の巡りがよくなったり、温められて細胞の活動が活発になって免疫力がついたり、そういうことか? 風呂じゃないらしいけど浸かるらしいし。


「あらゆる淀みや不浄って具体的にどんなもの?」


 気になったので訊ねてみる。


「淀みは巡りの悪い血液や魔力の道、治りの悪い傷口、病や外傷などにより弱ってしまった臓腑や骨肉など、治療魔法での治療では効果があまり得られない肉体的不調を引き起こす原因となるものです」


 まだちょっとふわっとしてるが、なるほど。魔力の道はまだいまいち“仕様”が分かってないけども。


「至純豊水に顔を浸せば虫歯なども治ると聞いています」

「虫歯」


 虫歯も歯周病も菌が原因だよな。ってことは淀みの除去とは菌の除去?

 いやでも治りが悪いっていうのは、単に体が弱いことが原因だったりするし、骨折なんかは痛みは主に骨がずれて、周囲の筋肉や神経を圧迫したりすることによる物理的要因だろうしな……。


 フルは俺の反応をうかがいつつも続けた。


「“不浄”とは主に取り込んでしまった瘴気あるいは瘴気に近い魔素、または呪術を受けた際の魂魄の穢れを指しますが、獣憑きの類を指すこともあります」


 魂魄の穢れね。


「獣憑き?」


 インが「突然叫んだり、かと思えば痙攣して倒れたりする精神病だの」とコメント。


「癲癇みたいな?」

「そう呼ばれていることもあるの。知っておったか?」


 俺は頷く。


「つまり淀みは身体疾患で、不浄は精神疾患?」

「んー…………。まあ、そんなところかの。病の類ではなく、あくまでも病の前兆なのだが」

「前兆と言っても、石鱗病や木肌病も治りますけどね」


 ルオの言葉に、それもそうだの、とインが同調した。そんなのあったな。名前的に想像のつく病気だ。


>称号「医療に興味がある」を獲得しました。


 なぜ獣憑きなのかと聞けば、癲癇は獣人の間で多い病で、言葉通りに「悪い獣が憑いた」と考えられているからだという。

 獣だし、素で叫んでるんじゃないのかとちょっと思ってしまったが、獣人に限らず妙に賢い奴が発症することもあるとインは続けた。インは賢いし、知り合いに賢者でもいたのかもしれない。


 フルが「では参りましょう」と移動を促したので俺たちは続いた。

 俺たちの後ろからは女性たちが続いたが、亜人疑いが強かった一方で顔の分からなかった男性4名は残っていて跪いたままだった。


「あの残った人たちは?」

「今回の治療を担当する魔導学や魔導療法に詳しい者たちです。普段は我々八竜の眷属としての活動の他、眷属たちの健康管理を手伝わせたりしています。彼らには氷竜様が身を清めている間、治療の準備を進めさせます」


 専属医みたいなものか?


 再び来た道を戻って浴槽に着くと、フルは「少々お待ちください」と言い、ベールの女性たちに頷いた。いそいそと動き出す女性たち。向かうのは離れのある方向だ。

 なんか妙に滑らかだなと思っていたら、彼女たちは足元が“浮いていた”。数センチくらい。さっきは歩いていたのに。人なのか? ……にしてもいいな、あれ。


 さほど待つこともなく女性たちが戻ってくる。女性たちは程度の差こそあるが、みんな綺麗な顔立ちをしていた。一人はずいぶん体格がいい。

 車輪付きの大理石製のタオルラック、白くて分厚いホテルガウン、グラディエーター式の編み込みサンダルなどなど、さすがに高価そうだが、これから風呂に浸かるなら納得のできるものをそれぞれ持ち寄って。鞭のようなものだけが分からないが、何かに使うんだろう。


 すっと一人の女性が俺の傍で膝をついて、両手を差し出してくる。いつかの竜人族ドラゴニュートたちのように顔は下げている。……なかなか大きな胸元に目が行く。


「では氷竜様。着物の方を」


 これから浄化されそうな卑しい欲望に抗いきれずにいたが、白竜の言葉にやがて身が固まる。


 …………まさか。


「……脱ぐとか?」

「はい。着物はすべてお脱ぎください」


 白竜は小首を傾げたあと、たおやかに微笑する。冗談っけは全くない。

 ……マジで? ここで? 冷や汗が出てきそうだ。ルオを見るが、こちらも俺の内心を知らなさそうに俺の動向を見守っている。


 インは……


「脱がんのか? 治療できんぞ?」


 訳知り顔で皮肉っぽく笑みを浮かべていた。このやろう。


 観念して俺はミリュスベの腕輪も含め、着ているものを脱いでいった。その間、内心では冷や汗が止まらなかったのは言うまでもない。

 インだけならまだしも……フルのような妙齢の美女の前で全裸とか、何プレイだよこれ……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る