9-11 息子と店番傭兵と従者 (1)


 改めて石は紹介された5種類すべて購入することを伝えると、コナールさんは「まだ金額を言ってないんだがな……」と軽く肩をすくめた。oh……すっかりお大尽だな、俺。

 とはいえ、サイズによって値段も変わってくるということで、次に石をどのようにはめるのかの話になる。サイズを決めたら工房に作成依頼を出すので、出来次第ガルソンさんの店で受け取ってほしいとのこと。


 何人分作るんだと聞かれたので、ここにいる4人分だと伝えた。

 姉妹は多少申し訳ない雰囲気を醸し出しつつも魔法道具屋の例もあるし口を挟まなかった一方、インが「別に私はいいぞ?」と遠慮してくる。


 くわえて念話で、『私には状態異常の類は効かんからな』と口の端を持ち上げての涼し気な顔で発言。相変わらず便利な体なことで。

 見た目と魔導士アピール目的で星辰魔鉱の指輪でもしといてよというと、仕方ないの、とやれやれと肩をすくめつつも納得してくれる。


 俺が周囲から「何者」にも見えないのは余計ないさかいを生みやすいのは言うまでもないが、インも「逸材」に見えた方がいいのもまた間違いない。毎回ぷりぷりされるのは俺の心臓にも悪い。


 石のサイズの話に戻る。


「――メキラ魔鉱は効果を最低限引き出すためにも少なくとも腕輪サイズを勧めるが、他はどのサイズでも加工できるぞ。まあ、基本はアクセサリー類になるがな」


 腕輪か。


「他の部位につけることはないのですか?」

「たいていぼんぼんや貴族騎士だが、溶かして鎧に模様を入れることはある。わしの専門ではないし、その場合は甲冑細工師と相談してもらうことになるがな」


 甲冑細工師ね。模様か~。見ている分にはかっこいいんだけどな。


「鎧ってもちろん金属製ですよね?」

「ああ。革の肩当てに穴を開けて縫い付けた奴もいたが」


 コナールさんは、まさかそうするわけじゃないよな、といった風な疑いの眼差しを俺に向け、次いでちらりと姉妹を見た。ダークエルフが軽装備派だからか?

 するとしても金属製のものにするつもりです、というと、コナールさんはアゴを小さく数度動かして納得した。


「縫い付けるのはあまりよくないのですか?」

「不格好だろ。それに効果もほとんどなくなる。メキラ魔鉱は金属にこそ最も高い効果を発揮するし、わざわざ効果の薄い革物に縫い付けるなど馬鹿のやることだ」


 コナールさんは吐き捨てるようにそう言い、「戦闘で穴の開いた箇所に一時的に縫い付けるって話なら分からない話ではないがね」とため息交じりにこぼした。どうやら職人的美意識に反する仕事らしい。


 とりあえず話し合いの末、紅玉髄カーネリアン黒死石リーダントスは指輪、光輪石はタリスマン、見せびらかす用途とさきほど言ったこともあり星辰魔鉱は腕輪になった。

 コナールさん曰く――実際にどうかは分からないが――光輪石はネックレスにした方が多少効果が高いらしいので、破邪のネックレスに提げることに。ちなみに夜営をする兵士はコイフにつけることがあるらしい。コイフは冑の下につける頭巾だ。鎖帷子の場合もある。


 黒死石はなにかと不吉ないわれもあり、必要のある時にはめて普段は革袋に提げておくのを勧められた。とくに婦人受けが悪いらしい。


 不吉ないわれとはなんでも、名前になっている<リーダント湿地>による亡者や呪いにまつわる噂らしい。この湿地は毒気と瘴気の強い場所で、亡霊系の魔物も多く出る場所なのだとか。そりゃあ噂も出る。

 くわえて湿地には<スコーンフル沼>という酸の沼があり、犯罪者を沈めるのに用いられている。<山の剣>の連中が沈められた沼でもあった。


 じゃあ売り物にならないのではと聞いたりしてみたが、毒への抵抗力を高める手頃な石はオルフェでは黒死石しか採掘されないのだとか。


 そんな話を挟みつつ、計測は行っていた。


 パーティグッズかなんかでありそうなロボットの手ないし、短いマジックハンドのような木製の器具で俺たちの手首のサイズを測られたあと、コラールさんは羊皮紙に発注リストをメモしていった。

 そこにはこんな記述。「ダイチ 7リスト / イン 4リスト」。姉妹は5リストらしい。足のサイズのフィートや米の合みたいなものだろうと思う。指も同様に測られたが、単位はフィングだった。覚えやすい。


 諸々のヒアリングを終え、代金を出そうとしたところで俺は初めて「事前に」気づいた。とはいえ……どうしようもない。ザバにも金貨見せてるし。

 苦し紛れに「現金でもいいですか?」と、そんな風に訊ねると、「きみが手形を好かんのは知っとるよ」と鷹揚に鼻で笑われたものだった。ザバが言ったようだ。ちなみに総額は50万ゴールドを超えた。


 あとは発注リストをガルソンさんに渡すだけでいいそうなのだが、帰る前に俺は部屋にある鉱石たちを見てもいいか訊ねた。


「構わんよ。なにか面白いものでもあったかね?」


 ほぼ全部です、どの石も興味深いですと答えるとわははとなかなか豪快に笑われたものだった。


 代金の話になってから多少及び腰になっていた姉妹も呼んで俺たちはちょっとした鉱物博覧会を堪能した。

 白一色で不透明の結晶が、磁石に引き寄せられるかのように同じ方向に繊維状に何本も伸びている石。薄緑の立方体に無造作に結晶を乗せ、その上にまた立方体が乗っている青い半透明の石。入ってからすぐに目に入っていた、ぐるりと周回しながらピラミッドを形作っているなんとも不思議な虹色の石。印象の通りガーデンクオーツという名らしい、水晶に庭を閉じ込めたような綺麗な石。……


 世の中には趣味として鉱物が好きな人が結構いるらしいが、理由が分かる気もした。

 たかが石というには言葉で説明できない感動がありすぎた。こうした図形や模様、色合い、そして、鉱物と鉱物、意図せぬ場所と意図せぬ場所の組み合わせ、様々な合体の数々が年月をかけて「自然に」できるんだっていうんだからな。今ほどpoogleで「鉱物 一覧」と検索したいと思ったこともなかったかもしれない。


 1つくらいなにか欲しくなってしまうが、置いてあるのはほとんど自分の観賞用だそうで売れないそうだ。

 コナールさんは仕事柄長年各地を渡り歩いていたそうで、各都市で買ったり、洞窟や鉱床に赴いた際に集めた末、自分で削ったものらしい。


 残念だが、コナールさんの趣味を奪うわけにはいかない。趣味は人と人生を豊かにする。間違いなく。


>称号「金遣いが荒い」を獲得しました。

>称号「鉱物に興味を持った」を獲得しました。

 


 ◇



 廊下から1階を見てみると、ザバが何をするでもなくイスに座っていた。本は読んでいない。何してるんだ?


「ザバ! 終わったぞ」


 コナールさんが1階にいるザバにやや荒っぽく呼びかけた。慌てて立ち上がって上を向くザバ。


「客は来たか?」

「リュックス氏の従僕が来て、あとでまたくると」


 そうか、分かったよとコナールさんは返したが、ちょっとぞんざいな返しで、肩で息もついた。嫌な客か?


「じゃあまたな、ダイチ君。それに君たちも。久しぶりに楽しいひと時を過ごしたよ。しばらく会えんようだが、また入り用のものがあったら寄ってくれ」

「はい、是非」


 ニコリとすると、同じように満足気な微笑を返される。そうしてコナールさんはまた室内の方に戻ってしまった。

 作業を再開するのだろう。楽しいと言ってくれたが、最近はあまりいいことがなかった感じだろうか。


 1階に降りると棒立ちのザバがなにやら言いたげな視線を寄こしていた。ちょっと待ってみたが……何もなかった。

 ひとまず、じゃあまた来ます、とだけ言って宝石店を出たところで、ザバから「なあ!」と呼び止められる。ん?


「……強くなるにはどうしたらいいと思う?」


 うん?


 ザバの声には多少ひっ迫したものがある。本気悩みか? コナールさんから事情は何となく聞いているけど。

 それにしても果たしてこの手の話、俺に手伝えるんだろうか。ジョーラたちのように勝手に学んでくれるなら手合わせをするだけで済んだものだけどな。


 ザバはレベル19だし。それに強くなるにはとか悩んでたら、その辺はちょっと難しい気はする。

 インが片眉をあげて、なにか言いたげに俺を見てくる。どうしたもんかね。


「強くなるって剣ですか?」

「ああ。……敬語は使わなくていい。あんたは俺より強いし」


 ん。分かったと頷く。


「稽古はしてるの?」

「もちろんだ! 毎朝100回ほど剣を振っている」


 100回? 素振り100回って考えるとなんか少ない気もするが、どうなんだろうな。剣普通に重いだろうからな……。


「他には?」

「え。いや。他はとくに……」


 他ないのか。うーん……。素振りだけじゃ強くなれないだろうなぁ……。


「修練不足だの」


 そんなやり取りの中、インがきっぱりと言った。インが言うならそうなのか? 千年竜だし、いつぞやのワームに食われた男も歴戦の戦士っぽかったが。

 ザバはインにむっとしたが、なにか思い当たったのか、すぐに深刻に考える顔つきになって視線を逸らした。


 この2人、ちょっと不安だな。どっちもそれほど気は長くないようだし。インのことも触れておくか。


「先に言っとくけど、インも強いよ。あ、この子インね」


 俺がそう軽く紹介すると、インはむすっとしたまま手に《魔力装》をつくってザバに見せつけた。さっき俺がつくったものよりも長くしている。インの《魔力装》はティアン・メグリンドの小屋で見て以来か。

 ザバは目を見開いた。姉妹も少し驚いている。姉妹には見せるの初めてだったか。


「お、……」


 お?


 少し待ったが、ザバは黙り込んでしまった。

 続かんのかい。……浅さも垣間見えるが、彼なりに結構悩み深い感じらしい。どうしたものかな。


 ややあって、道の右手の方から「ダイチく~ん」と馴染みのある声が俺を呼んだ。

 見てみるとやはりベルナートさんだった。アバンストさんと……息子のフルドもいる。


「ベルナートさん……アバンスト団長!? 知り合いなのか??」

「まあうん」


 ザバは声にも顔にも明らかな喜色を浮かべていた。

 憧れの人って感じか? 葬式直後だからっていう感じでもないし……そもそもザバはミーハーというより往年のプレイヤーを応援する気はする。あの人ぼちぼち引退だろとか言われて憤慨するファンね。


 3人が俺たちの元にやってくる。


「ダイチ殿。アクセサリーの調達ですかな?」

「ええ。注文を終えたところです」


 アバンストさんはそうでしたか、と頷きながら俺たちの顔ぶれに視線を寄せていったが、やがてザバのところで止まった。


「きみは……」

「お、俺はグライドウェル所属の傭兵ザバであります!」

「おお。傭兵か」


 ザバは驚くほど速い脊髄反射的な動作で胸に手を当てて敬礼した。勢いもあり、鉄の胸当てからは結構な音が鳴っていた。尊敬の念かなり強そうだな。


「いつもいるわけではないようですが、宝石屋の用心棒をやってるそうです」

「ほお。そうでしたか」


 ここの宝石屋はグライドウェル家の傭兵が交代で用心棒やってるんですよ、とベルナートさんによる解説。グライドウェル家専任か。

 フルドから探るような視線を受けていることに気付く。昨日も葬式で見てきていたようだが、何だろうな。


「アバンストさんは見回りですか?」

「いえ。さきほどソルマック商会のお嬢さんが誘拐されかけましてな。その犯人に牢で会ってきたところなのです」


 ああ、あの時のか。解決早いな。


「もう犯人を? 朝方にソルマック氏やキーランドさんを見かけたばかりなんですが」

「ええ。騎士団が探し出したわけではないのですが」

「というと……」


 警備兵か、血盟団のどっちかか?


「メイ・マーフィ血盟団が見つけたんだよ。まるで実は犯人を知ってましたって速さだったけどな」


 フルドがふてくされた風にそう説明してくれる。先に見つけられたのがあまり面白くないようだ。

 フルドは相変わらずつんつんしてるというか、アバンストさんにあまり似てないなと思う。似てるのは髪のバター色と目の色だ。顔もまだ若いからか類似点にピンとこない。


 続く返答がないことに気づく。


 アバンストさんもベルナートさんもちょっと難しい顔をしている。ん? ……え、そういう感じの事件なの、これ?


「もしかして、犯人逮捕して自分たちの評判をあげようとか、そういうでっちあげ系の事件だったりします?」


 いや、とアバンストさんが苦笑しつつ首を横に振る。


「そんな証拠は何一つ出てないよ。ただ、もしそうだったら、俺たち騎士団としては嬉しかったかもしれないっていうのはあるかな」

「バレて評判が落ちるから?」


 そうそう、とベルナートさんが同意する。


「血盟団は近頃アングラットン市長が目にかけている攻略者の自警団でしてな。もしこのまま活躍を続けるようなら、彼らの“持ち場”が出来るかもしれないのです。規模はまだ小さいと思いますがね」


 ははあ。いよいよ縄張り争いじみてきた。キーランド門番兵長がコルトンさんにつっかかってたのが思い出される。

 インが、都市を守る仲間が増えるんじゃないのか? と訊ねた。仲間ではあるだろうけど。


「血盟団はケプラを守る想いに関しては確かに頼もしい仲間ではありますが……もし血盟団が正式にケプラの警備組織として認可されれば、これまで我々が得られていた資金や物資が減ることが予想されるのです。賃金も減らさざるを得ないでしょうな」

「なるほどの。……昨日は盛大に団員の葬式をしたばかりなのにのぅ」


 インが同情の言葉をかける。


「まったくです。市長もひとえにケプラの警備を盤石にしたいのでしょうが……正直なところ、兵士の動員数は我々と門番兵たちで事足りてます」


 アバンストさんが不満の息をはいた。


 王の代理が来たことがかえって空振りの要因になりそうってわけか。警備を増やせば確かに安全な都市にはなるかもしれないが……3つも4つも組織があるんじゃ色々衝突もあるだろうな。


 ザバが黙って話を聞いているのが目に入る。

 一言も口を挟んでいないが、別に退屈そうにしているわけではなく、聞き入っている様子だ。


 ……と、ザバが強くなりたいと言っていたのを思い出して、彼らならなんとかできるんじゃないかという考えが浮かぶ。

 どうにかしてやりたい想いはなくはない。つっかかれたけど、コナールさんの身内だし。でも、今の俺たちはそれほど暇じゃないし、俺たちがケプラを出たあとまでは世話を焼くことはもちろんできない。


「話は変わるんですが。アバンストさん、ちょっとお願いがあるというか」

「なんですかな?」


 ザバに視線を寄せる。


「……彼、強くなりたいそうなんですが、なにか妙案ありませんか?」

「ほう? ザバ君がですか?」

「お、おい??」

「ええ。結構深刻に悩んでる様子というか」


 ザバが一転してぎょっとした顔つきになって俺を見てくるが、無視する。


 フルドが「お前グライドウェルの傭兵じゃないのか?」とザバに訊ねた。

 彼は元々ふてくされたような表情をしていたが、言葉には明らかに物申す剣呑な雰囲気があった。


「ああ、……いえ! はい。傭兵ですが……」

「自分の実力に悩んでて傭兵なんてできるのか? 宝石屋で見張りやるだけが仕事じゃないだろ?」


 ザバにとっては息子のフルドも尊敬すべき対象らしいが、フルドの言うことももっともなんだろうな。傭兵稼業も攻略者と似てて、指名されることはあれど自分で稼ぐ職業だろうし。


 ザバはフルドの言葉に難しい顔をしたまま言い返さず、黙ってしまった。……え、もしかして仕事ってここの用心棒だけか?


 ヒゲを撫でながらザバのことを見ていたアバンストさんが、フルド、と声をかける。


「……なんだよ」


 フルドはふいっとそっぽを向いてしまった。反抗期か?


「詰め所で彼と手合わせをしてみろ」

「え。俺が? こいつと??」


 アバンストさんは息子に言葉を返さずに、「ザバ君がよければだが。そろそろ宝石店も閉める頃だろう?」と、ザバに確認する。


「こ、光栄ですが、息子殿に手を煩わせるわけには……」

「ふん。お前の相手くらい別になんてことねえよ」


 フルドのウインドウを出してみる。確か20くらいだったっけか。


< フルド LV20 >

 種族:人族  性別:オス

 年齢:19  職業:兵士

 状態:健康


 やっぱ20か。レベルではいい勝負できそうだが……なんとなくザバは勝てない気がした。店番と素振りだけっぽいし。フルドはアランプト丘にも来ていた。

 でも逆に考えるとザバの素振りでレベル19ってすごいな。魔物の討伐したことあるとか?


「それとダイチ殿。これから時間は空いてますか?」


 一考したあと、発注書のために武具屋に寄るだけであることを伝える。

 一応今日する予定だったことはすべて消化してある。明日はヘッセーだ。


「よければなんですが」

「なんでしょう?」

「ディアラ殿かヘルミラ殿も手合わせに加えてもらえますか?」

「え、2人をですか?」


 つい見ると、姉妹は目を丸くしていた。俺はともかく自分たちが手合わせとか想定はしてないよな。

 フルドも意外な顔で姉妹のことを見だした。ディアラはいいだろうが、ヘルミラは……。


「親父。何考えてんだよ」

「いい訓練の相手になると思うぞ。彼女たちはセルトハーレスの警戒戦も経験してるしな」


 フルドは「マジか……」と言葉を呑んで、再び姉妹に視線を寄せた。フルドは経験してなかったか。


「ご主人様。私は構いませんが、ヘルミラは手合わせは」


 そんな中、ディアラが妹の身を案じるので、「ヘルミラは魔導士で弓使いなんです。近接戦闘の方はあまり」とアバンストさんに伝える。

 ゲーム寄りの世界だったらワンチャン戦えるけど、アランプト丘での戦いや警戒戦でみんなで遠距離から魔法や矢を射ってるのを見てるとさすがにな。


「そうでしたな。では、ディアラ殿でお願いしたいのですが、いかがですかな?」

「ディアラがいいなら構いませんが……」


 私は構いません、とディアラは両手を握ってやる気を見せた。アイドルポーズにやる気がちょっと削がれたのか、フルドは軽く肩をすくめていた。

 では、決まりですな、と朗らかな表情になりアバンストさん。まあ、レベル的にはいい塩梅だけどね。


 じゃあ、俺はヘルミラと的当て対決でもしようかな、と冗談なのか本気なのかわからないがベルナートさん。うん、でもそれは穏やかでいいね。

 ヘルミラがちらりと見てくるので、「いいんじゃない?」と言ってみると、是非お願いします、とこちらもやる気を見せた。知らない仲じゃないからか、ヘルミラには気負うものはとくにないようだ。


 なにやら楽しい流れになってきたの、と口の端を持ち上げてくるイン。

 まあね。俺が戦うよりは断然気楽でいいよ。姉妹のレベルアップにも繋がるだろう。


 店の前でざわついていたせいか、コナールさんが店から出てきてしまった。


「アバンスト殿。何事ですかな?」

「すみませんな、コナール殿。店の前で騒がしくしてしまって」


 アバンストさんはコナールさんに事情を説明し、ザバをこのあと借りる旨を伝えた。

 話を聞くと、コナールさんは「ぜひ鍛えてやってくだされ」と表情を崩した。


「ザバ。もう店番はいいからいってこい」

「でも店が」

「気にせんでいい。リュックス氏がくるまでは開けとくがね。他の注文は明日だ」


 そんなコナールさんの計らいにより、俺たちはザバを連れ、騎士団の面々ともに詰め所に行くことになった。

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