8-18 ヘラフルの憩い所にて (9) - 異国の高級料理
バッツクィート子爵やマスタス・ベルグフォルク氏との対話が終わったあとは各席には飲み物が配られ、話は流れが変わった。
セティシアをつぶさないための、防備、兵募、都市経済の回復などの具体的なシティープランニングだ。
・ピオンテーク家の財産の半分はいったん公爵が接収し、公爵や公爵の派遣する会計士、ピオンテーク家の老家令と相談の元、都市の復興にあてる額やバッツクィートを支援する額を決めること(アルバンはバッツクィート子爵の元で家令として領主業を補佐すると申し出て、子爵、公爵ともども承諾された)
・今後、セティシアの都市収益が激減するので、テホ氏、マクリオ氏、オネスト男爵を始めとする資産家の面々がしばらくの復興支援を誰がどのように分担するのかをできるだけ早く決めること
・他領地でも兵募を各都市で取り行い、人口500人以上の都市は最低でも5名は兵士または大人の男をセティシアに送り出すこと(ガウスの村はこれに限らない)。貴族の私兵でもOK。攻略者もめぼしい者がいれば同様に
・市民の流出を防ぐため街を出る「退去税」なるものをつくる代わりに、セティシアの他の税の一切を少し下げ、くわえて3年住み続け、税もしっかり納めていれば「名誉市民」なる称号と褒賞を与えること
・また、現市民から兵士になる者がいれば、1年後「名誉兵士」の称号を与えること
・セティシアからオルフェがアマリアへ攻めるのは現状現実的ではないので、主に防衛方面で話を進めること
……と、話された内容はおおまかなところではこんな内容だ。
この名誉なんたらの称号はいくつか種類があったが、新領主と面会が叶うようになるとか、武具が割引で購入できるようになるとか、記念品のアクセサリーがもらえるとか、まあ、経済・防衛方面で危機に瀕している都市で出来ることはその程度のようだった。
他にもやり返しとばかりに占拠したアマリアの都市トルスクの情勢についても語られたが、討伐に向かった
ヴィクトルさんの知り合いの人たちが話していたが、トルスクにはジギスムント領の兵士が中心となって応援に行くらしい。
彼らの仕事はトルスクの警戒網の維持にくわえ、駐屯地の敷設だ。また、
セティシアからはもちろん攻めない。
しばらくは北門と砦の修繕と兵備を整えることが最優先であり、復興の目途が立つまでは七星・七影の部隊を置くことになった。
……元々こうした話をする場だったので、当然誰も俺に寄りかかってきたインのような体たらくになるわけもなく。むしろ話し合いは白熱していた。
ディーター伯爵の王の代理人としての威厳ある言動がすっかり鳴りを潜め、素の多少やかましい感じの性格にすっかり戻っていたことも大きいだろう。王の厳粛さは良い緊張を与えてくれるけど、活発なディスカッションの場に必要かと言われると微妙だ。
ディーター伯爵は
セティシアの魔法道具屋は北門の近くにあった。北門は一番被害が大きい場所であり、魔法道具屋の店主も殺され、店内の魔法道具の多くも持ち出されてしまったらしい。この店の修繕と、新たな店主の派遣はシスルーン商会が行うと伯爵は豪語していた。
伯爵の素は、「自慢がしたい年頃」らしかった。
さきほどまでの立派な代理人の姿を見ていなかったら、俺はちょいちょいイラっとしていたかもしれない。ホイツフェラー氏も何度か息をついていた。
ケプラ騎士団の方もジョーラたちが加わることもあり、防備の拡張が打診され、受理された。当面の軍資金はオネスト男爵や他の貴族や商人たちが追加で捻出することになり、魔法道具のいくつかも騎士団の方で所持が認められた。
アバンストさんが喜んでいたのはもちろんだが、ティボルさんの喜びようが印象的だった。あとあと聞けば、魔法道具の所持は騎士団員たちのかねてからの悲願だったらしい。
・
なかなか長い話だったが、ある程度話がまとまったあとは食事をすることになった。
「さてさて。どのような料理がやってくるのでしょうな?」
「さぞ豪勢な食事が振舞われるだろうことを見越して今日の朝食は質素なものにしてきましたよ」
「それはそれは。……まあ、私も豆のスープとラカースをかじったくらいのものですが。家計が傾いたのかと嫁に心配されましたよ」
「ほほほ」
と、貴族席の入り口から3つ目ほどの席でそんな商人か貴族と思しき2人の声。誰も彼もが楽しみにしている様子だ。
――やがて、赤いカーペットがしまわれ、代わりに置かれたテーブルには料理が運ばれてきた。
香ばしい香りとともに皿の数々が並べられていく。ビッフェ形式のようで、料理の皿はどれも大きい。
「おおぉ!? ……どれも良い肉だのう……。長い退屈な話を聞いとっただけあるのう! のうダイチ!?」
会合の話聞いてたっけか。俺まで退屈してた扱いしないでくれる??
ラディスラウスさんが軽く鼻で笑うが、その笑みには悪いものは少しもない。ヘリバルトさんも笑っている。
ラディスラウスさんはなんかいつの間にかインに好意的になっていたが、この分だとヘリバルトさんも取り込みそうだな……。
もっとも。インの言動があまり目立たないほどには、みんなの注意はしっかり料理にあった。
芳醇なハーブが香り立つバラトンキジの丸焼き。ゲラルト山産のシカだというシカ肉のクリームソース和え。レプロボス川のうなぎのパテ。具は多いがお馴染みのグヤシュスープに。
付け合わせの魚の白身の入ったザワークラフトも地味に美味かった。各料理少しずつつまんでいたものだが、インがにおいだけで美味いと断じたように、何でも美味かったものだ。
ただ、最高級だというパルミ・レッジチーズ――もちろん粉ではなかったけどパルメザンチーズだと思う――はともかく、ビールとワインは残念だったけども。
ビールはフィッタで飲んだものと変わらず常温で麦感の強い微妙なやつで、ワインはソラリ農場で飲んだものを上品にした感じの代物だったが、酸っぱいし渋いしでおよそ飲めたものではなかった。ガンリルさん宅での「飲めたワイン」はもはや幻だ。幸い、紅茶があったので口直しに淹れてもらった。
また、テホ氏のお抱えだという料理人に作らせたムニーラの料理――テホ氏が言うところの「砂漠の料理」も料理のラインナップに加わっていた。
ムニーラ料理もとい砂漠の料理は、チクピー豆という豆をつぶしてペースト状にしたマフス、マフスをつけて食べるのだというピタと名のついた薄いパン、マチュブースという大きな鶏肉入りのカレー色の焼き飯、お馴染みのケバブに、デザートのバクラワといったラインナップだった。
転生前の思い込みの知識で、砂漠の料理はスパイシーな料理かと思っていれば、いやいや意外にも食べやすく、また、さすがに甘さは控えめだが、バクラワの俺の知ってるスイーツと遜色ない美味しさにはびっくりした。
伯爵やマイアン公爵はバクラワは好みなんだそうで、堪能していた。バクラワはバターの風味豊かなパイ生地を重ねて層にし、間にピスタチオやナッツを入れてメイプルシロップやベリーシロップをかけたスイーツだ。
ちなみにマチュブースの焼き飯の「飯」はもちろんライス――米だった。
ただ、細長い米だ。バスマテというらしい。タイ米とかのあの類だが、タイ米よりもずいぶん細長かった。
このバスマテを用いたマチュブースは、大勢で食べる料理なのか今回用にこうしただけなのか、巨大な皿に入っていたのだが、茶色い米の上に初体験となったトマトなどの野菜やらろくに切ってない鶏肉やらをどかっと入れた料理で、かなりのインパクトがあった。
各種香辛料を混ぜ込んでいるらしく、食べていると、体がぽかぽかしてくるのが心地よかった。少し風合いは違うが、味はカレーに近かった。俺は食べたことはないが、インドカレーなどはこういった味わいなのだろうと思った。
ひょんなところで米を味わってしまったが、このマチュブースは姉妹がお気に入りのようだった。インも気に入っていたし、人気だね、米。よきかなよきかな。
――こうした砂漠の料理を含んだ料理群には、ケプラ騎士団の面々など、入り口に近い席にいる人たちが絶賛しつつ堪能していたのが印象的だったが、この料理たちに一番喜んでいたのはイノームオークたちだろう。
まるで料理中は静粛にという決まりを守るように彼らは3人とも静かで、黙々と料理を口に運んでいた。
とはいっても、平らげた皿の数はおそらく一番ではないだろうか。彼らが食べていない時間は俺は見ていなかったほどだ。
そんなイノームオークたちをときどきからかう人たちがいた。
ホイツフェラー氏もその1人で、「マスタスよ。どうだ? なかなか食べられない料理ばかりだぞ?」とビッフェのテーブル越しに陽気に質問すると、彼は「実に、実に、美味い」と聞いたことのないような機嫌のいい調子で声も高々に感想を述べたものだから、会場内はいくらかの冷笑を含めつつも和やかさが一気に増したものだった。
「よもや盟友である子爵ではなく、食事のためにセティシアを守るのではないだろうな?? 俺はあの演説におそらくこの面子の中で一番感動したのだがな」
テホ氏が喜色を浮かべながら、野次よろしく肩をすくめてそう皮肉を言っても、
「……正直、今はエディングのことはすっかり忘れていた。すまない、エディング」
と、ベルグフォルグ氏は“クソ真面目に”バッツクィート子爵に謝罪を言うのだから、会場内は次いで爆笑の渦に包まれてしまった。
「いいよ。今日くらいは使命を忘れ、楽園にいるつもりでいてくれ」
子爵は苦笑しつつベルグフォルグ氏にそう言葉をかけたものだが、爆笑の連鎖は止まらず、会場内はしばらくイノームオークが主役になり、彼らの討伐譚や身の上話を聞く場になっていた。
そんな和やかな雰囲気の中で話された彼らの陥っていた諸問題――食料問題はなかなか痛烈だった。
彼らは空腹に耐えかねて、セルトハーレス山とロッタフル山の間にある<モルモーの森>――モルモーというのは魔族に似たLV50近い凶悪な魔物らしいが、彼らは倒していたらしい――という森で乱獲していたのだという。
その末、動物はいなくなり、魔物の肉にも手を出したのだが逆に食中毒や毒によって死ぬことになり。
次いで、一念発起して仕事を得るため人里、つまり、ジギスムント領に赴かせても住人と問題を起こして投獄されるわと、事態は思った以上に散々で深刻だったらしい。幸い凄惨な事件こそ起こさなかったものの、伯爵がうまくやっていけるか懸念していたのも納得というものだ。LV50の魔物を倒せる狼藉者だしね。
こうした彼らの屈強な外見通りのエピソードは、子爵と会って人に慣れる以前のことなので、問題はないらしかったけれども。
この話の後、話を聞いていた一部の人の間で微妙に彼らへの不信の色がうかがえ、せっかく詰まった距離も少し開いてしまったものだった。
とはいえ、子爵はそこまで動じていなかったのはさすがというところか。いずれ話す話題ではあるし、その時に訪れる一時の不信も予想していたにちがいない。
……ところで。インはイノームオークたちと同等レベルの量を食べていた。毎度のこととはいえ……どんだけだよ。
イノームオークたち以上に目立つのは困るので、壁際に席を移動してもらい、俺やホイツフェラー氏でインの姿を隠して、おかわりの食事も取ってきてやっていたのはここだけの話だ。
隣席で見ていたウルスラさんはインの食べっぷりに驚いていたものだが、「あなたも大変ね」と、やがて“兄”である俺のことを笑うようになっていた。大変だよ、ほんと。
また、嬉しいところでは、ハリィ君とディディが挨拶に来たことだ。
彼らはディーター伯爵の護衛として一緒に移動していたので、伯爵が会場に到着後は裏で警備がてら話を聞いていたらしい。
「まさかダイチさんが来ているとは思いませんでしたよ」
「俺が誘ったんだ。ダイチほど面白い奴もなかなかいないからな。な、ダイチ?」
な、ダイチと言われてもとホイツフェラー氏に苦い顔をすると、笑いが起こった。
アルマシーやハムラ、それから隊長候補だというダークエルフも来ているが、彼らは警備任務中なので、そのうち会えるだろうとのこと。
>称号「ムニーラ料理を堪能した」を獲得しました。
・
――そうした食事の場も一息がつくと、ディーター伯爵は席を少し外した。グラシャウス氏はそのまま会場に残り、伯爵にはジョーラがついていった。
その間、俺たちは依然として料理とお喋りを堪能していたのだが、店主のダビエスさんがやってきて、伯爵が俺たちのことを呼んでいることを伝えてきた。
俺たちだけ、らしい。
ホイツフェラー氏やヘリバルトさんから理由を聞かれたが当然俺にもわからない。
ひとまず、待たせてもさほどいいことはないだろう。未だにハムスターのように肉をほうばっていたインをつまみあげ――実際は小脇に抱えた――姉妹も連れて、俺たちはダビエスさんのあとについていくことにした。
「早く食べて。なんか大事な話っぽいよ」
「う、うむ。子供のように持ち上げるでない」
「子供でしょ」
「む、むぐむぐ」
全く。その食べっぷりじゃ可憐なドレスが台無しだ。
――ダビエスさんについていった先にあったのは応接室的な部屋だった。
室内にいたのは、ディーター伯爵にジョーラ、そして、ジョーラの反対側に立っていた護衛――七影は
フェタイディガーさんのことは食事の席でホイツフェラー氏から説明してもらった。
彼は正直言って、ぱっと見では、ジョーラよりも強そうな人の印象だった。
小麦色のかきあげられるほどの前髪の下には青っぽい目がある、あまり詳しくはないがイギリス風イケメンだ。聖騎士団の隊長とかだったら非常に似合っていたかもしれない。
ただ、40歳という結構な年齢で、しかめっ面がちょっと堂に入りすぎているのが玉に瑕というか。会場内でも彼が表情を緩めていたのは見たことがないように思う。護衛としては頼もしいかもしれないけどね。
ちなみにジョーラは小ぶりの槍に持ち替えたらしい。
槍はさきほどまで持っていたファンタジーな代物ではなく、穂先の彫刻は見事だし高そうだが、この世界でも買えそうなハルバードだ。
「ジョーラ・ガンメルタ。彼らで間違いないな?」
うん? そうジョーラに訊ねる伯爵は俺たちから視線を外さない。
「ああ。ダイチとイン、それにディアラとヘルミラさ」
ジョーラは俺に向けてニコリとした。ああ、ジョーラとの知り合いの線でバレてるのか。
「元気してたか??」
「もちろん」
……となると、実力の方もバレたか?
「うむ。お主も元気そうだな」
「ふっ。あたしが元気じゃないのはなかなかないだろうね。――ディアラとヘルミラは訓練してるかい?」
「はい! 毎日やってます」
ディアラが控えめにアイドルポーズをすると、ジョーラが満足そうな表情をして、一番上の姉のように頷いた。
やがて伯爵はこほんと、咳ばらいをする。
「内密に話があって呼んだ。ここで話した内容は、王以外には外部に漏らすことはないので安心していい。……貴殿のことはジョーラ・ガンメルタから聞いている。……にわかには信じがたいが、君は七星は
ああ、やはり。ジョーラを見ると、すまなさそうな顔をした。嘘苦手だもんなぁ……。
「ええ、まあ……そのようです。あの時のジョーラが本気であったのならそうでしょうね」
槍で挑んでも勝てる気しないよ、と肩をすくめてジョーラ。槍か。
「……ふむ」
ディーター伯爵が後ろで手を組み、いよいよ深刻な顔になる。
伯爵が一歩前に出ると、フェタイディガー伯爵が“鎧ずれ”の音をわずかにさせながら手を剣に置いた。「アモスの暁光を纏いし剣」ではない普通に立派な長剣の方に。
「フェタイディガー。別によい。彼は王の賓客だ」
ちらりと横を見て、伯爵がそう釘を刺した。
しばらくして、フェタイディガー伯爵が手を戻した。物騒だな。頼りがいあるけど。
ジョーラの方は槍こそ手にしているが、こちらに槍を向ける素振りは一切ない。
「……と、王と幼馴染であり、親しくもある私は王より聞いているが。貴殿は我が王の賓客。これは相違のないことかね?」
賓客ね。
八竜としての姿を知ってるのなら、賓客にもなるだろうけど、この分だと王はディーター伯爵に何か話したようだ。どこまで何を話した? ……八竜のことも話しているのなら伯爵はもっとへこへこしていそうだけど。
「はい。私と七世王はよく見知っています」
「見知っている? それだけかね?」
言葉が足らないか。うーん。
「……七世王は私たちを害そうとはしませんし、私たちも同様です。友人関係というにはいささか交友が少なすぎるきらいはありますが。少なくともディーター伯爵と七世王ほどの深い絆は、私たちは持っていません」
「……ふむ。……ああ、席につきなさい」
言われたままに俺たちはテーブルについた。ジョーラとフェタイディガー伯爵は立ったままだ。
少しお膳立てしつつそれっぽい雰囲気で語ってみたが、ひとまず進んだようだ。
あの王と友人になる未来は、正直浮かばない。
俺に八竜要素がなかったのなら、ジョーラ辺りの伝手から、ホイツフェラー氏との関係くらいにはなったかもしれないが。
「失礼。まずは礼を言わなければならないね。……貴殿らはジョーラ・ガンメルタを救ってくれたそうじゃないか」
「正確にはみんなで、ですが」
「うむ。どちらにせよ、一緒に行動していたのは事実だ。色々と思うところはあるが、この点に関しては私も心より感謝を述べたい」
そう言って、ディーター伯爵は左胸に手を当てて、会釈した。フェタイディガー伯爵も軽く続き、ジョーラも続いた。
「……1つ訊ねたいのだが、よいだろうか?」
と、次いで伯爵は微笑して訊ねた。うかがうような感じだが、俺は頷く。何だ?
「君の出自についてだ」
ああ、話っていうのはその辺か? 王との繋がりもあるし、詐称はちょっと面倒かもな……。
「単刀直入に聞くが、君はアンスバッハ王家となにか関わりがあるのかね?」
ん? 王家?
「例えば、両親や祖父母、ないし親戚が……アンスバッハ家の血筋であるとか」
なぜ俺が王家の血筋の者になるんだ?
「いえ。違いますよ」
『こやつは何を疑っておるんだ?』
インも伯爵の疑惑の意図が分からないようだ。
答えたあとも伯爵はじっとこちらをうかがうように見ていた。そうして視線がインの方に行く。
「彼女は君の妹だと聞いている。無論、腹違いだろうね」
俺は頷いた。
次いで伯爵は「彼女は亜人の血が入っているのかね?」と聞いてきたので、分からないと素直に俺は答えた。
亜人かどうか聞かれたのは初めてだったし、どの種族にするのかとっさに浮かばなかったのもある。適当に種族を言うには亜人のことをあまり知らないので自信がなかったのも。
「分からない? ……まあいい。王は君を七星に推挙したがっていた。もっとも、ジョーラ・ガンメルタが言うには君は謙虚な性質だと言い、七星には興味はないとも言っていた。そうなのかね?」
この分だと七星に入らなくても面倒な事態にはならなさそうだ。
「ええ。七星には入る意志はないです」
伯爵はしばらく俺の顔を見ていたが、息をついた。
「そうか。それは残念だ」
少しも残念そうではないけども。
「何を疑っておるのかは分からんが、私たちの素性は明かせぬぞ。どのような者でもあろうとな。その辺はあの王は心得ておるから安心してよいぞ。むしろ、根掘り葉掘り訊ねることは、王の機嫌を損ねることになるかもしれんな?」
少し真に迫るインの言葉に、伯爵は眉をひそめていよいよいぶかしむ様子を見せた。伯爵が混乱しそうな発言だ。
無礼者とか言われることも少し懸念したが、とくに言いそうにはなく、みんな怪訝な表情をしていた。インの口調が堂に入りすぎていたのも手伝ったかもしれない。初見はインパクトあるからな、インは。
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