7-25 終わらない死線


 警戒目的に村の周りを一巡りして戻ると、ロウテック隊長とクレメントという兵士がやってきていた。クレメントさんは警戒戦で見かけた兵士だ。特別絡んだことはない。

 彼らは俺たちがフィッタに向かう道中で出会った、逃亡中の村民の応援申請によってきたものらしい。次いで数名の兵士が馬車で来るらしかった。


 村では相変わらず死体の移動が行われていた。

 軽く見積もっても100人は死んだと思しきフィッタ村民のずらりと並んだ痛々しい遺体を見ると、数える気もなくすというものだが、遺族に伝えなければならないため、名前をメモしなければならない。


 この仕事は見知らぬ兵士たちと、ハスターさんとアルビーナで行っていた。

 ハスターさんはともかく、アルビーナの選出は意外だった。彼女は物覚えがいいらしく、遺体の名前を挙げてはとくに強いられてはいないのに死亡者の小さなエピソードを話していた。ハスターさんが物憂げに頷いているのが印象的だった。


 死体はベンさんや兵士たちにより、台車で順次集められては、名前をメモされ、馬車に乗せられていった。運ばれる先は共同墓地にする予定の土地だ。フィッタから北東に行った更地を共同墓地にするらしい。

 <山の剣>の死体も移動させられる予定だ。彼らはもちろん共同墓地ではなく、だいぶ南下した土地にあるとある沼に捨てられるらしい。ここではあらゆる大罪人が捨てられている。沼は半ば酸化しており、魔物は幸い大したものはいないが、周辺はもの凄い異臭がするそうだ。


 それにしても死体運びは基本的に丸太を運ぶ用の台車を用いて運んでいたが、そうでない人は腕や足を取ってずりずりと運んでいた。おいおいとは思ったが、死体を背負う人はいなかったし、俺自身もあまり背負いたくはないと思った。知ってる人ならいいだろうけどさ。

 キリスト教圏だと死体を運ぶのを嫌がるというか嫌悪される風習があった気がしたが、イン曰く、嫌悪を促すような教義は七竜教にはないが、誰だって嫌だろう、とのことだった。


 嫌なのは確かだが……ここまでの数の死体が運ばれているのを見ると、無感動になっていく自分に気付いた。彼らはもう「モノ」でしかない。泣いても、願っても、「モノ」でしかない。

 運ぶときに顔を軽く布で巻いて顔が判別できないようにしてほしいという考えを、俺はいつの間にか持っていた。そうすれば遺体をより「モノ」であると認識できるだろうから。


『また友人が増えたのか?』


 と、それはそれとしてインは俺たちと一緒にいるクヴァルツのことをちらりと見てくる。


 ――友人というか……俺のことをミージュリアの生き残りだって疑わなくてね。


 ふうん、とあまり興味なさそうにインは村の方に視線を戻した。

 興味がないというか、テンションが低いというか。まあ、こんな有様の村の様子を見て、テンションが上がるのもおかしな話だ。知人ばかりなら怒りも湧くだろうが、9割以上知らない人だ。……いや、知人ばかりでももう復讐は一応し終えたので、大して変わらないかもしれない。


『ミージュリアは使役魔法使いと武術家が多かったらしいからの。分からんでもないが。どう答えたのだ?』


 ――彼はミージュリアの生き残りらしくてね。なんかあまりそういう雰囲気でもなくて、俺はそうじゃないって言いそびれちゃったよ。


 インは肩をすくめた。


 ――ミージュリアの王女が生き残ってるらしい。彼はその子の騎士になるってさ。


『ほう。まあ、ミージュリアは都市ごとごっそりなくなってしまったからの。領地もミージュリアだけのような小国だったし、現在はアマリア領になっておる。執権の復活は厳しかろうな』


 ――俺もそう思う。彼もそう思ってるみたいだったよ。


 そうだろうの、とインが依然淡泊に同意した。


 木材の加工所だった場所にはフィッタ民の死体が並んで置かれているが、運んできた兵士によってまた2人増えた。どちらも額から血を流し、見覚えのないおじさんだった。レフのナイフによるものだろうかと思う。


 フィッタ村民の遺体はまだ死後硬直が始まったくらいで、腐臭はない。彼らがすべて死体なことに未だに少し夢のような心地がある。

 傷口も確かにあるのだが、目はしっかり伏せられているので、ここはいわゆる野戦病院であり、ただ集団で眠っているようにも見えるからだろう。


 ちなみにベルガー伯爵とラフラ伯爵夫人は、殺害された際に運び込まれた家屋でラウレッタが傷の処理をしている。ラウレッタは治療にはいくらか覚えがあるらしい。

 とはいえ、傷の処理と言っても、水でしめらせた布で拭きとるだけだ。埋葬用に綺麗にするだけらしかった。


 ヘンリーさんは兵士と馬に乗ってケプラに戻った。彼はミラーさんやケプラ市長を通じて、フィッタのことを告げに行くらしい。兵士の方もまた、細かいことをあれこれ伝えに行くとのこと。

 役人と神父も呼びに行くらしいが、彼らの葬式は川を渡ったヘンジルータの神父が執り行う予定だとのこと。教会的な建物はとくに見ていないが、フィッタの神父は死んでしまったらしい。


 それと、ケプラの警戒を強めることもだ。

 ドルボイさんが、連中の持っていた剣がアマリア出であり、後ろにアマリアがいたかもしれないとは既にホイツフェラー氏含む戦斧名士たちに知らせている。セティシアからは、フィッタから直線距離で同距離にケプラはある。


「こんな光景は二度と見たくないな……」


 クヴァルツが死体置き場を見ながらつぶやく。ミージュリアも“本来なら”こういった景色が広がっていたことだろう。ともあれ、見たくないことは同意だ。

 とくに知り合いがいるならなおさらだ。ベノさん、ティルマンさん、ズィビーさん、そしてコンスタンツェさんの死体も見てしまった。ウィンフリートはまだ見ていない。


 村の入り口にまた馬がやってきた。応援だろうかとちょっと思ったが、一人のようで、乗っている兵士はヘッセーの兵だ。

 乗っていた兵士は馬から降りるとすぐに「ハンツ様に知らせることがある!」と近くの兵士に叫んだ。なんだ?


「なんかあったのか?」

「変なことでないといいけど」


 インが、あの様子じゃあまりいいことじゃないかもしれんの、と俺たちの心境を代弁した。


 やってきたヘッセー兵は近くにいたダゴバートに案内されて、ホイツフェラー氏たちのいる伯爵夫妻のいる家屋に行った。

 木材の加工所の広さが足りないということなので、木材をどかしに手伝いに行く。フィッタには住人が何人くらいいるのかと訊ねてみると、200人ほどらしい。兵士は、山賊のくせによくこれだけの人数を殺せたものだと苦言を吐いた。全くだ。


 しばらくして、ホイツフェラー氏とラディスラウスさんが家屋から出てきた。


「みんな集まってくれ!! セティシアがアマリアから襲撃を受けたらしい!!」


 セティシア襲撃って、マジかよ。

 ……あ。アマリアからってことはつまり、同時襲撃か? 奴らの剣からアマリアの後ろ盾疑惑があったものだが、繋がってしまった。


 ラディスラウスさんの叫びに、兵士たちが集まってくる。ラディスラウスさんと同じように集まってくれと叫びながら、1人が村の奥に行き、もう1人は村の市場方面に向かう。


「セティシアが??」

「同時襲撃か。やるもんだの〜」


 インも気付いたようだ。クヴァルツもまた閉口して少々怖い顔になる。


 俺たちもラディスラウスさんとホイツフェラー氏の元に行く。ベイアーとベルナートさん、アレクサンドラが近くにいた。


「セティシアは今どうなってるんです?」


 ランハルトの質問に、


「分からん。だが、セティシア兵団は隊長と副隊長がやられ壊滅状態、警戒地から応援に行ったケプラ騎士団もやられたとのことだ。落ち延びたアルバンたちによる伝令だったそうだ」


 と、厳しい顔つきのまま、無念そうにラディスラウスさんはこぼした。アマリアの野郎ふざけやがって、とランハルトが怒ったような声を吐き出した。だみ声なのでいよいよ呪いそうな迫力があった。団長は……?

 周囲は騒然となった。見れば、ベルナートさんとアレクサンドラが険しい表情で半ば固まっていた。


 イーボックさんが、「このひどい惨劇がまだ続くってんですかい……? 相手の数は?」とおずおずと訊ねる。


「正確な数は分からん。ただ、<金の黎明>と<黒の黎明>の部隊が来ていたそうだ」


 イーボックさんをはじめ、兵士たちの顔色が変わった。「マジかよ……」という誰かのうなだれたような声。七星みたいなものか?


「よりにもよって<金の黎明>か……」


 イーボックさんが難しい顔をして腕を組んだ。やばい奴か?


「おそらく……セティシアは占領されたと見ていい。セティシアには七星や七影の常駐の部隊はいないからな。七騎士が2部隊も来ていたのでは……落ち延びた彼らによると、アルバン様はワリド殿が逃がしてくれたらしい。……ワリド殿はアルバンたちを送ったあと、自分は市内に戻ったのだそうだ。残り少ない兵士たちとともに戦うために」


 ラディスラウスさんが目を伏せて首を振った。

 団長……。そんな簡単に死なないよな……?


「ハンツ!!」


 また誰か来たようだ。馬の音は消えないまま、俺たちのところで止まる。また別の場所で襲撃だったら笑うぞ。3点同時襲撃とか用意周到すぎて勝てる気がしない。


 来たのは10名ほどだったが、弓を持っている者が多く、先頭の1人は装備の質が違った。ホイツフェラー氏の装備のように装飾と彫刻が刻まれている豪華なものだ。全身鎧フルプレートではないが、しっかりと各部位で鈍色を輝かせている。

 彼の冑の後頭部部分には、緑色をした、馬の尻尾やほこり取りのブラシのようなものが生えている。隊長であることは明白だった。弓の七影か七星かか?


「ヴィクトルか」


 ヴィクトルと呼ばれた隊長が馬から軽やかに降りた。鎧は金属製で、彼はそこまで体格がいいわけではないのだが、あまり重そうにしている素振りはない。


 ヘッセー兵の何人かが「ウラスロー様」「弓術名士ボウマスターだ」などとつぶやきあった。弓術名士は七星の隊長だった気がする。ともあれ、やはり弓の達人のようだ。

 気付けば彼の弓はアーチェリーの弓のような変わった形状をしている。あれもユニーク武器の類かもしれないが、クライシスにあったかどうかはちょっと思い当たらない。


「ひどい有様だな……」


 ヴィクトルさんは軽く村を見渡してそうこぼした。


「フィッタ民はほぼ全滅した。襲撃したのは<山の剣>だ。もう奴らはいないがな」

「聞いてはいるが……やはりベルガー伯爵とラフラ夫人もか?」

「……ああ。中にいる」


 ホイツフェラー氏が後ろの家屋に向けて振り向いた。ヴィクトルさんは屋内には入らなかったが、軽く息をつくと、ホイツフェラー氏の肩に軽く手を置いた。


「……喪に服したいのは山々なんだがな。敵は私たちに悲しませる暇はくれないらしいぞ。セティシア襲撃のことは聞いたか? 私は鳥便で聞いたのだが……この様子じゃ受け取れなかったか」


 ホイツフェラー氏が、ヘッセー兵によって知らせを聞いたことを伝えた。


「念のために伝令も送っていたか。ヘリバルト殿はさすがだな。うちのにも見習わせてやりたいものだ。ああいや、うちのケヴィンも優秀だが、いかんせん若さが目に余る部分があってな」

「そろそろボケてもいいとは思ってるよ」


 ホイツフェラー氏がやるせなく肩をすくめた。ヴィクトルさんは少し頬を緩めたが、すぐに表情を引き締めた。もっとも、彼は眉尻が思いっきり下がっているタイプの人であり、そこまで迫力が伴うわけではない。


「気持ちは分かるが……ハンツ。悲しみを激情に変えて気合を入れてくれ。これから私たちはアマリアの奴らを弓の的にし、お前は奴らを肉塊に刻んでやらねばならんのだからな」


 ああ、分かっている、とホイツフェラー氏が頷いた。だが、見る感じ調子はそう簡単に戻らないようだ。親友が死んで、遺体を拭いてたからな……。気分的にはもう喪に服す心境だったのかもしれない。

 それにしてもヴィクトルさんの物言いに俺は少し驚いた。威勢の良さは隊長として頼もしい限りではあるのだけど、なんというか、困り眉に人の良さそうな顔に、口周りの濃い黒ヒゲと、日和見男爵っぽい第一印象もあったからだ。


 もっとも、弓術名士の隊員の顔ぶれはあまり男くさい印象ではない。女性兵士もいるし、美形もいる。もちろん大柄の兵士もいる。盾もあるし、彼はタンクだろう。

 七星の比較対象はジョーラ部隊の槍闘士部隊しかなく、知ってる隊員がアルマシー、ディディ、ハムラの3人しかいないが、戦斧名士部隊にはドワーフがいるように、顔ぶれ的にも特徴に傾向が生まれるんだろう。


「それはそうと、ヴィクトル殿はこれからどこに行かれるのです?」


 ラディスラウスさんの問いに、ヴィクトルさんはさあな、と雑に返した。


「襲撃の報告は受けたが、誰がどこで陣を構えているとも聞いていなくてな。一応私たちは北部駐屯地か西部駐屯地に行こうと思っていたよ。うちの隊としては西部駐屯地だ。ロックウッドの森で陣を構えれば、奇襲も仕掛けやすいし、弓の私たちには利がある。だが、私たちだけ行ってもな」

「ああ。俺たち戦斧名士が加わっても奪還するには手勢が足りないだろうな。今駐屯地の兵も数が減っている。かき集めても厳しいだろう」

「灰色の霧の丘に陣を構えるのは? ケプラから支援も臨めます」

「支援というのは物資の話か? 物資の支援はありがたいが、兵士の方はあまり集まらないだろう。ケプラ騎士団は団長が亡くなってしまったと聞いたからな」


 そうなのですか? と、焦った口ぶりでベルナートさん。


「え、ああ。俺が受け取った文にはそう書かれていたが……違うのか? 正確には、『討たれたと見ていいでしょう』だったが……」

「いえ。……仰る通りあまり期待は出来ないでしょう。団長の実力では、あなたがた七星や七影、アマリアの七騎士の実力に及びません。団員も数名ついていきましたが……」


 ヴィクトルさんは気付いたようで、「君は騎士団の者か?」と訊ねた。ベルナートさんが頷く。


「そうか。……すまなかった。……子爵の息子や伝令を逃してくれたのは彼の功績だ。私は彼とあまり会ったことはないが、アンスバッハ王の親衛隊を辞めてからも、ケプラの兵士育成のために尽力していたと聞いている。彼と会うまでは生存を信じていなければな」


 ベルナートさんが俯いてはいと神妙に頷いた。


「ところで……なんだか色んな兵士がいるように見えるが」


 ヴィクトルさんが俺たちの顔ぶれを見渡して改めてそう言葉をつむいだ。


「そうですね。生き残ったフィッタの警備兵、我々戦斧名士の者、ヘッセーの兵士、ケプラ騎士団員、それから攻略者もいます。攻略者の方は、プルシスト討伐の折に駆けつけてくれた者たちです」


 なるほど、とヴィクトルさんはラディスラウスさんに頷いたあと、再び顔ぶれを眺め、やがて目線が俺のところで止まった。次にインと姉妹に行く。


「そういえば、団長が言っていたのですが……」


 君も団員か、と少し驚くヴィクトルさんに、アレクサンドラがはいと頷いた。


「警戒戦のあとは魔導賢人ソーサレス陣風騎長ストームライダーが来る予定だったそうです。団長は彼らが来るまでセティシアに逗留する予定でした」


 そういえばそんなこと言ってたな。

 ふむ、とヴィクトルさんは腕を組んだ。顔つきはいくらかほぐれてくる。


「2部隊が来るなら、話は変わってくるな。総勢4部隊なら申し分ない。いつ来るんだ?」

「それは聞いていませんでした……」


 ヴィクトルさんが後ろを振り向く。


「ダリミル。ウルスラからなにか聞いてるか?」

「いや。何も聞いてないよ」


 そうだよな、とヴィクトルさんは残念そうに息をついた。ダリミルという兵士は、美形の兵士だった。ウルスラってどこかで聞いたことがある気がする。


「でもまあ、戦いは彼らと合流してからだろうな。どの道、急ごしらえの作戦ではこちらの死体を積み上げるのが関の山だ。相手は同時襲撃まで考えてきた奴らだからな、こちらも相応に慎重に事を運ばねばならないだろう」


 ヴィクトルさんの言葉に兵士たちが頷いた。


「ここは道なりの駐屯地に寄りつつ、ケプラに寄るのがいいでしょう。状況がよくありませんし」


 涼しげな目元をした弓術名士の兵士がそう助言した。彼は弓は背負っておらず、腰からは2本長剣が下がっている。高潔そうな声音に、ヴィクトルさんは頷いた。


「ナクル・メイソンバッハの息子か?」


 ラディスラウスさんは知っているようで、「ジャスと言います、ラディスラウス殿」とクールな彼はニコリとした。なんかまた聞いた名前だな。ああ、ディディとハムラが言ってた弓の教官か。


「弓術名士に入ったと話は聞いていたが……性格はともかく顔立ちは若い頃の奴に似てるな」


 よく言われます、と彼は口元をわずかに緩めた。


「うちの頼れるナイスな剣士さ。なんでうちにいるのかとたまに考えることがある。うちはちゃらんぽらんなのも多いからな。……ジャスの言うように、私たちはひとまず北部駐屯地と西部駐屯地に寄りつつ、ケプラに行くことにするよ。戦闘に参加する意志のある者はケプラに来てくれ。額の方はまだなんとも言えないが、褒賞は弓術名士の名誉にかけて約束する。……ハンツ。さっきは急かしたが……お前は少し喪に服してから来いよ。2部隊の到着次第にもなりそうだが、どの道出撃はまだできないだろうしな」

「分かったよ。まあ、あまり遅くはならん。でなければオトマールの奴に顔向けできないからな」


 ホイツフェラー氏はいくらか調子を取り戻した様子だ。ヴィクトルさんがふっと笑みをこぼす。


「ではな」


 ヴィクトルさんたちがフィッタを出たあと、あまり晴れない顔でベルナートさんが自分たちもケプラに戻ることを告げてきた。アレクサンドラとベイアーもだ。これに乗じて俺たちもケプラに戻ることになった。エリゼオも同様だった。


 馬車を使っていいことになったが、代わりに、ホイツフェラー伯爵の名前を出して可能な限り馬車を呼んでほしいとのこと。用途はもちろん死体運びだが、この分だと用途は尽きないことが予想された。


 赤斧休憩所で兵士たちの食事の準備に追われているデレックさんとウィルマさんに挨拶をしたあと、俺たちは馬車に乗り込んでいく。


「今日は世話になったな、ダイチ。いつかこの礼は返すと誓おう。戦斧名士の名誉に掛けてな」


 ホイツフェラー氏が声音を和らげて声をかけてくる。ラディスラウスさんが宿について訊ねてきたので、金櫛荘の名前を伝える。


「金櫛荘? ……はっは! やはり金持ちだったか。とんだ坊やがいたものだ」


 ホイツフェラー氏の笑いに少し驚きつつも、来た当初の赤斧休憩所での雑談時のような磊落な調子には安堵させられる。


 ダゴバートやドルボイさん、ランハルトやイーボックさんなど。近くにいたベンさんとラウレッタさんに軽く見送られて、俺たちはケプラに戻ることになった。クヴァルトからは、落ち着いたら是非ヘッセーに寄ってくれと言葉を添えられて。

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