6-27 セルトハーレス警戒戦 (2) - 牛の屠殺
西の方で砲撃音が聞こえた後、兵士が二人駆けていく。
セルトハーレス山と北部警戒地の間の広間はなかなか広い上に、地面が整えられている場所だ。
プルシストやミノタウロスを迎え撃つのだから当然だが、仮にここで駆けていった二人があっちにこっちにと移動しながら、さらに魔法の打ち合いをし始めたとしても問題はなさそうな広さがある。
もっとも、そんなことをしていては広間の側部に展開されている両翼の石塁からの弓矢や魔法の餌食になる。
彼らが生き残るためには矢と魔法の嵐を潜り抜けつつ基地の方へ果敢に向かい、配置されたホロイッツやイェネーのタンカー役の二人、そして俺たちやオランドル隊長含めた兵士たちをどうにかしなければならない。
駆けていった一人が、広間の中心辺りに小さな香炉のような形をしたものを置いた。
プルシストを誘う、憤懣の香とやらだろう。もう一人の兵士は彼の後ろに立っているだけだ。護衛か何かか。
マップ情報によれば、山には近い場所に1匹、少し奥に行った場所に5匹いる。どれもがうろうろするばかりで、あまり移動していない。
さらに奥にいくと大量の赤丸がある。数えるのも躊躇われるほどの量だ。この大量の赤丸を定期的に減らすのが北部駐屯地の仕事らしいが、この大量の赤丸がある図を見ていると多少なりとも不安が煽られ、絶望的な気分に襲われもする。この世界の俺は“とんでも君”だからこそこのレベルの不安ですんでいるが……普段から、そして今後も、変なことが起きなければいいと願わずにはいられない。
香を置いた兵士が憤懣の香に《
《風壁》は自分の前方に風の壁を生み出す。地面から噴き出した風は、術者の頭の上を通り背後にいく。背後とはつまりセルトハーレス山の方向だ。だから後ろを向いて魔法を展開したのだろう。
彼はしばらく山の方を見ていたが、やがて軽くかがみ、香炉を回り込むようにゆっくりとその場所を離れると、もう一人と一緒に構えている俺たちの方に駆けだした。香炉は放置らしい。そのままだと倒されないか?
ともあれ、作戦開始だ。
1分もしないうちにマップ情報には動きがあり、一番近くにいた赤丸が俺たちに向かって移動を始めた。
現実の方でも山道の向こうから一匹の水牛が猛烈な勢いで駆けてくるのが見えた。
「きたぞーーー!! プルシストだ! 1匹だ!!」
物見の兵が大声をあげた。
見た目はメイホーでも見かけた水牛そのままの姿だが、二本の角は少々攻撃的で、螺旋を描きながら上に向けて伸びている。あれがプルシストだろう。鉄の防具にあの角は刺さるんだろうか。
――ブモオオォォッ!!
物見の大声に呼応するかのように駆けてくるプルシストは猛々しい声をあげたが、基地の前の開けた場所ですぐに悲鳴じみた声をあげた。誰かの射った矢が彼の目の上に命中したからだ。
プルシストが痛みに突進を止め、引き返そうとしたらしいが、無数の矢が彼を無情にも襲った。
鼻、側頭部、首、胴。一本も外れることなく刺さった矢は間もなくプルシストを地に倒した。しばらくプルシストは足を動かしていたが、やがてパタリと動かなくなった。
見た目は水牛そのものなので少しかわいそうにも思ってしまったが、俺のそんな現代っ子心情をよそに物見からは、
「今度は3匹だ! 山からも2匹!!」という声。
声のままに山を見てみれば、確かに真ん中の山道から3匹、山道の左右から1匹ずつ降りてきていた。いずれも突進してきている。あまり憐憫にうつつを抜かしている暇はなさそうだ。
先ほどと同じく間もなく矢が飛び交い、先頭を行く3匹のプルシストのうち2匹は間もなく失速したが、一匹が無傷のまま突進してくる。
前にいるのはホロイッツだ。大きな両刃の斧を肩に乗せている。
斧は、銀色の刃には少し意匠が刻まれているようだが目立ったものはそれだけで、高価な代物ではないことは分かる。子爵もプルシストに鋼のものは使うなと言っていたので、安物かもしれない。とはいえ、牛の首を両断するのならそれなりの殺傷力は必要か。
そんなホロイッツはやがて軽く飛びのいて、プルシストの突進の射程から外れた。結構早すぎる回避だったが、全力疾走しているプルシストが急な軌道修正をできるようにはちょっと思えない。
「ふんっ!!」
実際その通りだったようで、プルシストがホロイッツの横を通り抜けようとする際、ホロイッツはタイミング良くその太い首に両手で斧を思いっきり振り下ろした。
バキン! と何かを断ち切る鈍い音が一瞬聞こえ、そのまま斧は地面に突き刺さった。切断された首が前方に転がっていき、プルシストは刺さった斧につまずいて滑るように地面に腹から伏した。
プルシストの首はもちろんなく、首からは骨肉の断面図が覗いている。
見事なものだが……えぐい……。牛だからかそんなにメンタルダメージはないようだけれども。
そういえば左右からも来ていたなと思い、気持ちを切り替えて見てみれば、右の方の一体は既に倒れていた。深々と首に矢が刺さり、血を流していた。
左の方のプルシストは……ちょうどエリゼオが肩から両断したところで、青いロングソードについた血を切っていた。前脚が斬られている。傍にはイェネーさんもいて、彼もまた長剣の血を切った。二人ともさすがだ。
これはいよいよやることがなくなるかもしれない。俺がやることなくなるのは別に構わないのだが……。
ディアラは俺の傍で槍をしっかりと構えて前方の討伐模様を観察している。俺のようにたじろいだりしている様子は一切なく、どことなくうずうずしているように見える。狼戦に幾度となくそう思ったか分からないが、狩人の申し子のようだ。
俺たちの後ろでは、オランドル隊長をはじめ、駐屯兵たちが暇そうにしている。暇そうと言ってもしっかりと剣を構えていて、世間話をしているとかさすがにそこまでの砕けた雰囲気はない。
まあもう少し様子を見よう。ミノタウロスもいるしね。プルシストは前座だ。
特に変わったこともなく、さらに5匹のプルシストと小柄なカーフ・プルシスト1匹が同様のやり方で始末されたあと、ロウテック隊長が石塁から降りてきた。少し急いでいる様子だ。矢でもなくなったか?
マップでは特に変わった動きはない。香りがまだ森の奥には届いていないのか、運よく転がっているだけですんでいる憤懣の香も、依然として白煙を吐き続けている。
隊長はイェネーさんの元に行き、頷いた。入れ替わりにイェネーさんが移動する。イェネーさんが駆けていった先には小屋があり、大きな台車があった。
用事は台車だったようで、彼は急いで台車を転がしていく。それと同じく、後方のいた兵士の半分以上が持ち場を離れて台車を転がしているイェネーさんの元へ駆けていった。
彼らは台車に畳んであったスロープを降ろしてプルシストの死体を乗せ、石塁の方へ移動させていく。
何してるんだ? 邪魔とか?
俺はベイアーの元に行って、彼らが何をしているのか訊ねた。
「肉や革の確保ですね。プルシストは北部駐屯地の貴重な財源なんです。ああやってなるべく損傷が少なくすむように隅の方に移動させています。今は仮の移動ですが、あとでまた大掛かりな移動がありますよ」
お金はいるだろうけど……相変わらずこの世界の人たちは逞しい。
移動を終えてイェネーさんが持ち場に戻り、ロウテック隊長も石塁に戻った。
しばらくすると、またプルシストたちがやってきた。
今度は10匹とかなり多い上に、プルシストの背中にグラス・エイプが乗っかっているのもいた。なるほど、確かに少ない数でプルシストたちを相手するのは危険だ。いくら猛者だろうと、牛のような巨体が何体も押し寄せてきたら命の危険もあるだろう。
今度は矢の他に、魔法班も加わった。数の減ったプルシストに対し、首を断つか、前脚を切って倒したあとに止めを刺すかの同様のやり方でホロイッツたちが始末していくが、さすがに数が多くて手に余ってきたので、俺とディアラの出番もまわってきた。
ディアラは打ち合わせ通りに、ホロイッツがそうしたように、プルシストの愚直な突進の直線範囲から軽々と逃れたあと――首を槍で突き刺した。首の支えを半ば失い、ガクンと頭を垂れたプルシルトは勢い止まらずにしばらく走っていたが、やがて地に伏した。
少し心配していたが、ディアラの動きは軽やかで、突進に槍が持っていかれるといったこともなく何も問題はなさそうだった。首には相変わらず綺麗な風穴が開いていた。
一匹は一撃で仕留めることができたが、もう一匹はまだ動いていたので俺が槍にした《
心臓は前脚の上にあり、手動だと狙いにくい場所のように思うのだが、念じるだけでしっかりと狙ってくれるものらしい。
ディアラがいくら心配した面持ちで見てきたので、問題ないよ、と返した。
別にそうしようと思ったわけじゃないんだが、槍の形は牛突槍で、馬車の時よりも少し平べったくなっていた。次は首を切ってみてもいいかもね。
突進してくるだけのプルシストと攻撃してくる人型のデミオーガを比べると、タイミングが重要という部分はありこそすれ戦闘の難易度は全然違うと思うが、ディアラは頼もしくなったものだ。
今回のディアラは戦闘中に誰からも指示をもらってはいないし、俺の傍に来ることはあれど、特に不安を漏らすこともしていない。
グラス・エイプには石塁の人たちが《
火を怖がってプルシストの背中から降りたグラス・エイプたちは、俺たちに向かってくるでもなくあらぬ方向に移動していたが、一匹は《魔力弾》の槍で俺が、他のはオランドル隊長や後続の兵士たちが後ろから走ってきて仕留めた。
グラス・エイプは聞いていた通り、腕や背中に草を生やした猿で、それ以外の変わった特徴らしいものはなかった。掴みかかってはくるようで一人グラス・エイプから足蹴にされた兵士がいたが、しっかり鎧を着こんでいれば怪我すらもしそうにない。
ちなみにその兵士はホロイッツから怒られていたバルトロメウスとかいう若い兵士のようだった。彼はあの時の印象のままにあまり戦闘に向かない兵士らしい。1年の勤務でこの様子だと確かにちょっと考え物かもしれない。子爵の噂がほんとならいいね。
この戦闘が落ち着いた頃、イェネーさんが何か言いたげに俺のことを見ていたが、結局何もなかった。
イェネーさんとはまだこれといった交流がない。単に俺の力量に驚いてる、信じられないとかならいいんだけども、とにもかくにも戦闘には集中した方がいい。タンカーだしね。
再び8匹ほどのプルシストの群れがあった。グラス・エイプも2匹乗っかっていた。
心臓を狙って刺すのと、剣のように降り下ろして首を落とすのをやってみたが、どちらも問題なかった。前者は地面に《魔力弾》が刺さり、ちょっとそのままにしてたんだが、当然のようにプルシストは突進の勢いをもってしても俺の《魔力弾》を折ったりすることはできず、そのまま息絶えることになった。
同じ要領でグラス・エイプともども何事もなく仕留めると、ロウテック隊長が上空に向けて小さな岩を射出した。《
間もなく、4人の兵士が山道に向かっていった。一人は巾着袋を手にしていた。
何をするんだろうと見ていると、周りの兵士たちにはいくらか緊張が解けた様子があった。マップを見ると、こちらに向かってきそうなものは特にいない。
広間は言うまでもなく、プルシストもとい水牛や猿の死体がごろごろしている。
死体の付近は血も流れているし凄惨な現場には違いなかったが、デミオーガとゴブリンの死体の山よりはメンタルダメージは少ない。見慣れたのもあるんだろうけど、人型でなく牛だというのはやはり大きいのだろう。
ベイアーが俺たちの元に歩いてきた。クマのような巨体を覆う鎧には血の跡がそれなりにある。
「これから死体の大掛かりな移動です。香り袋でしばらくプルシストはやってきません」
「休憩時間ですか?」
「まあ、そうですね。……後ろにいる兵士たちはこれから仕事です。このくらいからミノタウロスが出ることもあるので、そろそろ鎧は着替え、武器にはリキッドを塗りますが」
さすがに北部駐屯地は討伐をやり慣れているようで、ミノタウロスの出没時間も把握しているものらしい。
「ミノタウロスが後から湧くのは聞いてますが……後から湧くというのは何かカラクリというか、理由があるんですか?」
ベイアーが「湧く?」と怪訝な顔をした。ああ、えっと。
「魔物が現れるという意味です」
「なるほど。……セルトハーレス山は北部駐屯地が管理しているわけではないのですが……北部駐屯地ではプルシストをある程度、早くて30体ほど討伐すると現れるものとして動いています」
怒って親玉が現れる系か。クライシスでもそういうものはあったが、どちらかといえばクエスト内などの特殊な条件下だった。
管理か。……そういえば、アランプト丘は「掃討後に湧かなくなる」というのがあったか。あれはどういう意味なんだろう。
「少し話が変わりますが……先日アランプト丘の魔物を全滅させましたが、今後アランプト丘はどうなるのですか?」
「魔物が一切出現しなくなるか、今まで通り魔物が出現するかのどちらかですね」
場所にもよりますが、オルフェでは確率は3割ほどだと聞いてます、とベイアー。3割か。高くないな。
「アランプト丘はとある貴族が依頼していたと思うのですが、魔物が現れなくなった場合は、アランプト丘を何かに活用すると?」
「はい。ザシウス・ノルンウッド子爵ですね。私が聞いているのは、子爵は丘をブドウ栽培に使うと聞いています。既に公爵からも許可を取っていて、栽培がうまくいったらワインを作るそうです」
ブドウ。ヴァイン亭やソラリ農場で飲んだ赤ワインはまずかったものだが、みんな飲んでいるようだし、投資先としては妥当な産業だろうか。
「3割では討伐費用もかかりますし、子爵はアランプト丘ではそれなりにブドウ栽培がうまくいくと考えてるんでしょうね」
「あ、はい。そうかと思います」
ベイアーはいくらか驚いた様子を見せたあと、微笑してくる。貴族付きの兵だったというので、俺のような――つまり“賢いお坊ちゃん”的な言動にはいくらか慣れているのかもしれない。それにしても馬車内でも少し驚いたところだが、だいぶ落ち着いた人のようだ。
水を飲まなくていいか、休まなくていいかベイアーが訊ねてきたので、それに乗じて俺たちは休憩するべくテントに向かった。
インたちも合流してきた。
「どうだった?」
「ん? ヘルミラはよくやっておったぞ。矢はしっかり全部当てていたからの」
「おぉ~」
ヘルミラは照れくさそうにしていた。さっすがうちの子だ。聞けば、魔法はまだ使っていなかったものらしい。
俺も「ディアラもしっかりプルシストを仕留めてたよ」と褒めておいた。照れた姉妹は今度は、インの補助魔法や俺の《魔力弾》を褒め始めた。別にいいのに。
気付けば、アレクサンドラは俺たちのやり取りに表情を緩めていて、ベイアーも同様に緩んでいる。傍から見れば、構図的には二人が姉兄なんだろうな。
だいぶ慣れてきたが、30歳の俺がいよいよどこかにいってしまいそうだという恐れも少し抱きつつ。若返りというと聞こえはいいが、言動や思考が子供っぽくなるのは少々怖いところがある。
兵士たちがプルシストの死体の移動をしたり、矢を集めている間、俺たちは地面に座り込んで武器や防具の手入れを始めた。
防具の方はいつものように《
さっきベイアーも触れていたが、リキッドは武器の刃に塗ることで武器威力が増す魔法道具だ。アランプト丘ではカレタカにもやってもらっていた。
ザクロ水晶は薄桃色の綺麗な水晶らしい。石の価値はそこまででもないが、リキッドの効果としては安い割りに有用で、ザクロ水晶炭のリキッドは兵士たち御用達になっているのだとか。
「おい、お前。そいつの槍、そろそろ替えた方がいいと思うぞ」
と、ベイアーとアレクサンドラがリキッドを塗る作業を見ているとエリゼオが後ろからそんなことを言ってくる。そいつってディアラのことか?
「ディアラの槍のこと?」
「ああ。その槍は訓練用だ。実戦用にちゃんとしたものを買い与えた方がいい」
ガルソンさんも確かに訓練用と言っていたが……でもそうか。訓練用で実戦は確かにおかしい。
ディアラと目が合う。目が泳いだ。新しい槍欲しさからか、お金を使うことになる申し訳なさからか。
「ちゃんとしたものって……鋼の槍とか? あとそいつじゃなくてディアラね。ああ、俺のこともお前じゃなくてダイチだから」
エリゼオは肩をすくめて地面に腰を下ろした。俺たちの後ろに座られてしまったので、エリゼオの方を向くことにした。ディアラも俺に続いた。
「まあ、鋼でも魔鉱石でもいいんだが、重いのはダメだろうな。そうだろ?」
エリゼオの言葉に、ディアラは少し間があったが頷いた。鉄製の鎧重くてつけてないくらいだしな。
「ガルソンの店にはビルやハルバードもあったはずだ。何でも振ってみるといい」
うん、確かに色々と種類はあった。今使っているショートパイクを選んだのは、ディアラたちだ。槍の名手のジョーラもいたので、変な選択肢ではなかっただろう。戦闘慣れしていないのに始めからわざわざ特殊な形の槍は選ばないだろうとも納得したものだった。
「ディアラは何か振りたいのある?」
「私は……ちょっと分かりません」
ディアラは少し考えたようだが、本当に分からなさそうだ。里では訓練と狩猟しかしていなかったらしいしな。でも、うーん。所詮俺もどの武器が強いか速いかのゲーム情報的な部分以外は分からないからなぁ……。
なんかおすすめとかある? とエリゼオに聞いてみると、エリゼオは怪訝な顔を向けてきたが、眉間にシワを軽く寄せて考え込む様子を見せた後、
「……パルチザンとかいいかもな。《
ピアースインパクト? ディアラのスキルか? ディアラは全部ではないが、プルシスト相手でもデミオーガ戦のように風穴を開けていた。
「ピアースインパクトってスキル?」
「ああ」
「風穴開けてたやつかな」
「そうだ。そのパイクだと《穿孔衝》の範囲も狭くなる」
なるほど。確かにこのショートパイクは、他に色々あった槍に比べると穂先の幅は狭かったように思う。
ベイアーやアレクサンドラが槍を使っているのは見ていない。作業中にしても聞こえてるはずだが、二人は特に反対意見は挟まないようだ。ということは、特に変な意見ではないということか。
てか、エリゼオいい奴じゃん。
「ありがとう。すごく参考になったよ。槍の経験が?」
エリゼオは少しなと言い、ふっと口元を緩めた。ちょっとツンデレか~?
「ありがとうございます。エリゼオさん」
今度はディアラがお礼を言った。胸に手を当てている。
エリゼオは視線を逸らして手でしっしっと払う素振りをした。普段はあまりお礼を言われないのかもしれないが、素直じゃないねぇ。
『なんだ、もう仲良くなったのか?』
――いやあ、変貌っぷりに俺もちょっと驚いたとこ。
『ま、無知の内は友も作りやすいかもしれんな』
インはしたり顔で俺を見てきてそんな念話を伝えてきた。
言うなぁ。まあ確かに無知っていうのは話をするきっかけにはなるんだけどさ。俺も評価の上がり下がりの少ない範囲ではよく利用してるよ。新人社員の教育の際には、あえて知らない振りをすることもある。
オランドル隊長が兵士たちを引き連れてテントの方にやってきた。
広間のプルシストの死体はだいたい運び終えて南下した場所に集められ、順次馬車に運び込んでいる。
ノルトン川で解体作業をするのだそうだ。広間にあるのは残り数体のようで、依然運搬作業は続いている。隊長はさっきまで死体運びを手伝っていたので、あとは任せるといったところだろうか。
「オランドル、ダイチが一撃で即死させたプルシストはちゃんと村に運んだか??」
え? そんなことわざわざ頼んだの?
オランドル隊長は苦笑しながら、「手配しておきましたよ」と告げる。と同時に、うむ、ようやったと満面の笑みになるイン。作業中のアレクサンドラとベイアーはこちらこそ見ないものの、口元には苦い笑みがある。
俺、恥ずかしいよ。母ちゃん。
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