5-25 アランプト丘討滅作戦 (6) - 出番


 戻ってきたアレクサンドラにより、作戦内容が伝えられた。


 内容は考えていた通り、オーガクリードの根城の入り口でデミオーガの数を減らした後、先ほどと同じく進軍していくというものだ。

 もっとも赤丸はさきほどと違って3~4匹ではなく、単独だ。インプメイジが紛れ込んでいることはあれど、デミオーガしかいないらしいので、進軍の難易度は低くなる。


 根城の入り口は狭く、下手をすると一気にデミオーガ数体と対峙することになる恐れがあるため、タンカーが複数人配備される。うちからはカレタカが選ばれ、南と西、そして騎士団からもタンカー役が選ばれるそうだ。

 もちろん後ろでは皆のフォローがある。タンカーはときおり下がることも考慮する。森ではうちからはロレッタと射手の騎士団員――確かベルナートとか呼ばれてた人だ――が配置につくことになり、そこからも攻撃が飛ぶ。


 タゲ取り戦法を思い出しつつ、こちらの数が少ないこともあるが、堅実な作戦だなと思う。


 あまり貢献していないので森にいって、長距離投擲して数を減らしたかったとか少し思ったが、アレクサンドラの護衛対象なので、俺を無闇に動かすのは無理だったんだろうなと察した。

 気になるのはオーガクリードだが、アレクサンドラ曰く大した相手じゃないらしい。死霊オーガというゴースト化したオーガを呼ぶという召喚魔法があるのが厄介ではあるが、呼び出すまでに結構時間があり、詠唱の邪魔もしやすいのでさほど気にしなくていいとのこと。


 もうしばらくしたら作戦が開始されるので待っててくれと言った後、アレクサンドラさんがこちらにやってきた。


「ダイチ殿は前にも出れると聞いていますが……」

「え、はい。少しなら……」


 少しですか、とアレクサンドラが考え込む様子を見せた。俺前に出ていいの? ……護衛じゃないの?


「ダイチ君意外と武闘派なのか?」


 アランがしゅっしゅっとボクサースタイルで空中を殴りながら訪ねてくる。


「ええ、まあ。少しですが……」

「ほ〜う。俺はそんなでもないんだが、イワンが結構やり手でなぁ。喧嘩するとだいたい俺が負ける」


 あっさりとした敗北発言にちょっと笑ってしまった。


「喧嘩の発端はだいたいアランなんだけどな」


 イワンが俺を見ながら肩をすくめた。姉妹は苦笑していて、グラナンは両手を挙げてやれやれと分かりやすい仕草をしていた。グラナンの中でもアランは下らしい。まあ分からなくもない。


 おいおい、俺が全部悪いみたいな言い方よせよ、と立ち上がってイワンに抗議するアラン。割と必死だ。


「だいたいいつもあなたが原因じゃないの?」

「おーい! ロレッタまで言うかよ!」


 アランが盛大に頭を抱えたあとうずくまり、うらめしそうにロレッタを見上げた。ロレッタは澄まし顔だ。いつものことっぽい。

 前から思ってたけど、アランはリアクションがでかい。三枚目というか何というか。男前な顔ではあるので残念な男前か。ヘルミラがくすくす笑っていた。受けはいいようなんだけどね。


 ふと気づけばアレクサンドラが俺のことをじっと見ていた。怪訝に思っていると、


「では、そういうことでお願いします」


 と、唐突に告げてくる。へ? では、って。


 アレクサンドラは真面目な女騎士らしいというべきなのかボケ殺しの素質があるというか、トリオの寸劇に大した興味を寄せていなかったものらしい。

 全く場の雰囲気を汲まなかったので、何のことか一瞬考えさせられてしまった。……理解はしたが、そんなに付き合いがあるわけじゃないにしても、彼女はなんだか難しい顔をしている気がした。


「時々カレタカや他の人のフォローに回るということですか?」

「それもありますが……入り口のオーガをある程度減らした後、皆で進軍する際に前でオーガの相手をできればして欲しいのです。気を引ければ問題ありませんので」


 なんとなく遠回しな風に聞いてみてしまったが、なるほど、デミオーガ、タフだもんね。気を引く役、つまりタゲ取り役は多ければ多いほどいいんだろう。

 でも、護衛対象ならなおさら前にやりたくないと思うんだけど。活躍できてなかったし、実力でも見たいのかな?


「ではその時は私もご一緒します!」


 と、アレクサンドラの心境の変化の意味を考える俺の横で奮起してディアラ。カレタカにひっつく形でオーガの相手をしていた――主にオーガの脚に風穴を開けていた――おかげか自信がついたようだ。


 アレクサンドラがディアラにニコリとする。お? 笑った。


「では、お願いします。いざとなったら私もいますので」


 ま、いいか。俺はインプメイジにちょろっと魔法撃ってただけで何か貢献したいなぁとは思ってたところだしね。《掌打》で軽くどついてみよう。短剣も流す用に使えるかな?


「後半の進軍では二手に別れましょう。一つは私とダイチ殿とダークエルフのお二人。もう一方はフリード殿のパーティとアラン殿のパーティで。ロレッタ殿は森にお願いします。――ベルナートも森に。ベンツェは私の隊だ」


 アレクサンドラがベンツェさんを見て頷くと、ベンツェさんもまた頷いた。ベンツェさんは長剣使いの人だ。ベルナートさんは弓使いの人。

 二人とも動きが機敏で無駄がなく、さすが騎士団と思える動きをしていたが、とくにベルナートさんはよくスキルを使っているようでみんなが褒めていた。


「カバーし合えるよう、お互いあまり離れすぎないようにしましょう。……それとダイチ殿。私のことはアレクサでいいし、敬語もいりません。それと団員たちにも」

「……分かりました」


 以前からちょくちょく指摘されていたが、やはり敬語はこの世界ではいまいち不評らしい。誰からだったか、戦地に出る者たちが特にそうだと言われていたので、アレクサン、……アレクサもまたむずがゆかったのだろう。レクサスみたいだな。

 アレクサの方も敬語はいらないと言おうとしたんだが……アレクサはずいぶん真剣な表情をしていた。元々、他の団員よりも軍人らしい凛々しさと勇ましさのにじみ出ている言動の数々の割に、庇護欲を煽られるようなちょっと泣き顔めいたもの――潤んでいるように見える瞳や持ち上がっていく下まぶたや、横に結ばれた薄い唇などが、本来の彼女の表情にはある。


 彼女には懇願している気はとくにないんだろうが、見つめられて言葉を飲み込んでしまった。……頑張るか。


 ベルナートとベンツェの方を見ると、気軽に呼んでくれな、とベンツェからはサムズアップをされ、腕を組んでいたベルナートからはにこやかな笑みとともに頷かれる。


「おー俺にも敬語はいらねえぜ! 前から言おうと思ってたんだよな」

「俺もいらないぜ。かたっ苦しいのは苦手だしな」

「私もいらないわよ」


 絶妙なタイミングでトリオがかぶさってくる。なんか急に友人が増えた感が。


「仲いい人増えたねぇ。良かったじゃん」


 グラナンがにやけながら肩をぺしぺし叩いてくる。


「まあね」


>称号「友達大収穫」を獲得しました。


 見ればディアラがニコニコして見てきていた。顔に出てたとか? 恥ずかし。

 まあ、いくつになっても友達が増えるのは嬉しいよ。



 ◇



「――では、皆、検討を祈る!」


 アバンストさんの説明の最後の激励におおと歓声が上がり、各々が散っていった。歓声は結構でかい声だったので俺を含め、いくらかの人がデミオーガの方向を見たようだが、魔物たちには特に変わった動きはない。

 説明の方は、アレクサンドラから聞いたような内容だった。一応、西、南、東と隊は3つに分かれたままだが、お互いの距離は狭いので、助けられるなら援護してやってほしいといったことも、アバンストさんは触れていた。


「では、カレタカ殿にフリード殿、作戦通りに頼む」

「ああ。任せてくれ」

「任せてください」


 邪魔かと思い、解除していた《氷結装具アイシーアーマー》をカレタカの腕に再度付与する。

 「二人ともがんば!」「がんばってください」などなど、俺たちの各々のエールを受けて、カレタカとフリードが前線に行く。


 カレタカは、フランベルジュを肩にかついだ大男と目が合ったようだ。彼も前線らしい。


「オーガをこっちに吹っ飛ばすなよ、ハーフオーク」


 フランベルジュ男がちらりをカレタカに顔を向けてそう煽る。


「見てたのか?」

「話で聞いただけだ」

「そうか」


 話はそれで終わりらしく、二人は無言で森の方向を眺めた。寡黙な大男二人の背中は実に頼もしく見える。


 フランベルジュ男の後ろには革で覆われたサークルシールドと片手剣を持ったスキンヘッドの男がいる。

 スキンヘッドの男はカレタカとフリードを少し陰険な、含みのある眼差しで一瞥しただけで特に声をかけなかった。実力はありそうなんだけれども、彼に話しかけるには少し心構えがいりそうだ。


 また他には、集合時に見かけた白い金属鎧を着た聖騎士っぽい美青年と、体はでかいが小太り気味の騎士団員が出てきた。


 二人とも長剣と盾を持っている。美青年の持っているものはそこら中に模様や縁飾りなどがあり、明らかに高価そうだ。

 一方で小太りの騎士団の方は、剣も盾も他の団員のと同じもので特に変わった装飾はないが、剣が少し長めだ。体格の似ているアルマシーがランス使いだったので、似たような戦い方になるんだろうか。機敏に動けない分、得物の長さで補う感じか。


 フランベルジュ男とスキンヘッドは強そうなので早く到着した南の隊っぽいし、そうなると聖騎士男と小太り団員の彼らが遅れていたという西の部隊のメンバーになりそうだけども。

 スキンヘッドが声をかけたため、6人が集合した。軽い作戦会議なのか、何かを喋っている。


「じゃあ私たちも行ってくるわね」


 頑張ってとロレッタとベルナートにエールを送る。

 ロレッタは任せてと元気に微笑み、ベルナートは「そんなに心配しなくても大丈夫だよ」とニコリとして、二人は森の中へ入っていった。


 話をしていた6人が早くも散った。どうやら、フランベルジュ男とカレタカが2トップで、後ろに4人が控えるようだ。

 他の人の実力は分からないが、体格的には無難な配置なんじゃないだろうか。フランベルジュ男は自信ありげなので、きっと強いんだろうし。


 前衛でなく、森に配置もされていない俺たちは彼らの後ろでフォローに回ることになる。


 アバンストさんが出てきて、前衛の彼らの左斜め前方に立ち、鞘からレイピアを抜いて地面に刺した。オーガたちを見、俺たちを見たあと、アバンストが準備はいいなと俺たちに向けて言葉を贈る。

 それと同時に、一斉に得物を構える攻略者たち。

 魔導士たちも杖を前方に向けて構える中で、俺も構えた方がいいのだろうかと悩むが、杖を持たないヘルミラは目つきを鋭くしただけなので、俺もそれに倣った。


 やがてアバンストさんがオーガたちに向けてレイピアをかざし、「突撃!!」と声を張り上げた。


「――ふんっっ!!」


 まっさきに突撃したフランベルジュ男が思いっきりフランベルジュを振り下ろした。

 気づくも応戦するには動作の遅かった先頭にいたデミオーガは、一瞬の後に隻腕になっていた。


 俺の周りからは「すげーな」「さすがエリゼオだ」などと歓声が上がる。有名どころの攻略者らしい。


 フランベルジュ男は隻腕になり、痛みに顔をゆがませ、血がぴゅるぴゅると出ている肩口を左手で抑えるデミオーガを無視して、左後方にいたデミオーガの前に剣を肩にかついで立ち、こいよ、と手でくいくいっと挑発した。生で初めて見たよ、それ。


 狂戦士化の状態で挑発の意味が理解できるのかは分からないが、オーガは「ウガアアァァ!」と、吠えた。目は例によって充血している。


 その間、隻腕になったデミオーガにはスキンヘッド男が立ちはだかり、剣で切り上げ、胸に深い切り傷を与えていた。間もなく、フリードが《魔力装》で首元を目にもとまらぬ速さで切りつけたことにより、デミオーガは血を吹き出しながら倒れた。首も一応弱点のようだ。


「やるじぇねえか」


 と、少々悪どいというか嘲笑寄りだが笑みを見せたスキンヘッド男に、フリードがあなたもと返した。返答もそこそこにフリードは素早くカレタカの元に行く。


 カレタカは右にいたデミオーガの片手斧の一撃を《氷結装具アイシーアーマー》で受けている。オーガはまるで子供のように、馬鹿正直にガンガンと音を鳴らせてカレタカの腕に片手斧を振り下ろして続けているようだが、カレタカは全く動じる気配がない。


 俺たちの隊にいたら横に吹っ飛ばして、グラナンの《火炎槍ファイアランス》で焼いているところなんだが……。


 と、そんな考えが頭をよぎっていると、カレタカが斧の一撃を受けた瞬間に一歩後ろに下がりつつ、斧の一撃を流したようだ。デミオーガが攻撃を仕掛けた勢いのまま、よたつく。

 その隙に、足元をフリードが斬りつけた。カレタカはよろついたデミオーガの背中に素早く回り、斧を振り下ろした。


 ザン! という音を立てつつ倒れたデミオーガの背中は深すぎる切り口ができ、オーガは動かなくなった。

 えぐいよカレタカ。俺の怖気づいた心境とは裏腹にうおおと上がる歓声。


 オーガの悲痛な雄叫びが聞こえて見てみれば、小太りの団員が、長い剣をオーガの肩に突き刺したところだった。

 フランベルジュ男が下がっているので、彼が連れてきたオーガのように見えるが、呑気にフランベルジュをかついでいるので特に参戦する意識は感じない。「お前らの番だぞ。見せるもん見せとけ」といったところか。呑気だな。


 痛みをこらえながらオーガは小太りの騎士団員に片手斧をふりかざすが、あえなく盾で防がれ流される。やるぅ。

 その隙に、聖騎士男が、横から刺突の連撃を繰り出した――剣先が光っているのでスキルか何かかもしれない。オーガの側頭部から半身にかけて無数の刺し傷ができ、最期には頭を刺し貫いた。エグイ。


 小太り団員と聖騎士男の戦闘を特に表情も変えずに見届けていたフランベルジュ男が再び駆け出し、奥のデミオーガに対峙した。

 また連れてくるのかと思いきや、振り下ろしを一発お見舞いして隻腕にし、そして身をかがめ、上半身がにわかに白く光ったかと思うと「はあぁっ!!」という野太い気合の入った声と共に切り上げた。


 オーガは斜めに切り傷ができ、……だけかと思いきや、腰から肩より上の上半身がずるりと落ち、残った下半身も次いで倒れてしまった。ひえぇ……。


 この6人いれば何とかなるんじゃないかと思ったのは俺だけでないようで、当初に湧き起こっていた歓声は鳴りを潜め、「あの域に到達するには何年かかんだろうな」とか、「簡単に切りやがって」とか、感心したり呆れた声が、周りからあがる。


「フリードは体力がないからともかく、うちらいるかなぁ」


 と、呆れ声を出すグラナンに俺も同意した。


「まあ、まだオーガはわんさかいるし……」

「そうなんだけどね~」


 彼らの後ろには武器を構えた俺たちがいて、いつでもサポートができる体勢は整っているのだが、正直邪魔にしかならない気がするんだよね。出るタイミングが分からん。


 ・


 もう3匹、同じようなやり方でデミオーガを6人が倒してしまった頃、


「ハークライ氏! そろそろ俺たちも参加するぞ!」

「見てるだけじゃ剣が腐る!!」

「俺たちもやらせろ!!」


 などという声が後方から上がり、次第にそうだそうだとみんなが同意した。どうやら我慢できなくなったらしい。アドレナリンどばどばだな。


 ザクザクという地面を刺す音が聞こえてきたので見てみれば、元山賊らしい彼が剣先を地面に何度も刺していた。


「お前らの剣技見に来たわけじゃねえぞ!!??」


 結構凄みのある声だ。山賊らしいというかなんというか……落ち着きなさいよ。

 隣には、職員と話していた時にもいた背の高い男がいるのだが、彼は静観している。特に顔は似てないが、革の装備の外見も似ているし、弟分とかか?


 聖騎士男と騎士団の小太り男が頷き合って、追撃を止めた。聖騎士男はハークライと言うらしい。

 それを合図にフランベルジュ男とスキンヘッドも配置を下げてきた。カレタカとフリードも俺たちの元にやってくる。出番か。


「もう少しで入り口を越えますが、フォローを頼みます」

「了解」

「《火炎槍フレイムランス》誤射するなよ」

「しないよ!」


 入り口で別れるまで後方にいた俺たちも参加しつつ、残りのデミオーガを倒していく。


 フランベルジュ男は相変わらず腕を切り落としたりあるいは首を切って即死させたりし、カレタカも《氷結装具》で受け止めている。隙があれば俺たちの魔法や攻撃も入り、部隊を前進させながら、順調にデミオーガの数を減らしていく。


 ちなみに俺たちはと言ったが、俺はまだ何もしてない。

 行こうとは思っているんだが……ディアラが出ていったり、みんなのいない森の方に軽く吹き飛ばしたデミオーガをグラナンが《火炎槍》で仕留めたり、アランやイワンが斬りつけたりと、結局いつもと同じなので攻撃のタイミングが掴めなかった。


 そんなこんなで、入り口付近のデミオーガは倒しつくした。


 道が狭いのもあって、辺りはデミオーガの死体でいっぱいだ。死後も顔つきが明王像から変わらないのが唯一の幸いかもしれないが、手足を切り落とされているのもいるし、顔や胸など体の至るところに傷があるので、あまり直視したくない図なのはさっきと変わらない。

 狼と同様、傷の割に出血量は少ないようなんだが、……足からぬちゃっという音を聞いた時、地面を見なかった自分をすぐに後悔した。ちなみに血のにおいもしっかりある。ここではもうどこにいても血のにおいのする戦場でしかない。


 アバンストがやってきて、西の部隊は左回りで、南は中心付近、東は右回りで進んでくれと告げられる。


「ではダイチ殿、前を頼みます」


 アレクサンドラの言葉に俺は頷く。さ、頑張るかぁ。


「がんばろうね」


 姉妹にそう言うと頷かれる。


 ふとヘルミラはどうしようかという考えに及ぶ。これから戦うデミオーガ同士の間隔はあまりない。詠唱時間の長い《雷撃トルア》を使う暇はちょっとなさそうだ。弓でもいいのかもしれないが、今日は魔法を頼まれていたし、オーガには物理効かなさそうだしな。


 ヘルミラに「《火弾ファイアボール》いける?」と訊ねる。


「大丈夫ですけど……《雷撃》は使わないんですか?」

「あれ強いけど、撃つまでに結構時間かかるでしょ? だからこれからは基本は《火弾》がいいと思う。グラナンの《火炎槍》より発動早いんじゃない?」

「あ、はい。《火炎槍》よりも威力は落ちますけど……《火弾》だったらすぐ打てます」

「ええ、それがいいでしょうね」


 アレクサンドラの同意ももらえたので、安堵する。ダメージは落ちるだろうけど、オーガの動きを止めれば十分だろう。あとは俺を含め、誰かしらが仕留めてくれる。


 しばらくして西と南も確認を終えたようで、集まってくる。


「よし。皆、準備はいいな? では、――突撃!!」


 アバンストの再度の合図に一斉に皆が走り出す。俺たちは言われた通りに東側だ。

 間もなく、カレタカたちが一匹目のデミオーガに差し掛かった。カレタカが《氷結装具アイシーアーマー》で受け止めたようだ。俺たちはそれを横目に、右後方にいるデミオーガの方に向かう。


 2匹近い場所にいるが……さて。

 後ろを見ると、4人ともついてきている。勇んでしまったのか、落としてはいたのだがそれでも走る速度が速かったようなので、もう少しペースを落とした。


 とりあえず、一番近いデミオーガに向かう。気付いたようだ。雄叫びをあげるオーガ。

 その間に胸元に入り込み、《掌打》を軽くかました。腹はダメージが入らないらしいので、胸に入れた。叫びが中断され、白目を剥いてふらつくオーガ。もう終わったか? でも一応!


「ディアラ!」

「はい!!」


 ディアラが駆けてきて槍を突き出し、脚に風穴を開ける。間もなく、アレクサンドラの剣が首元に入り、オーガは完全に息絶えた。


 後方からオーガが駆けてきている。近かったし、やっぱくるよな。


「ヘルミラ、あいつに《火弾》を」

「はい!」


 ヘルミラが両手をかざした。間もなく赤い魔法陣が出るのとほとんど同時に火の玉が勢いよく射出され、向かってきていたデミオーガの胸部に直撃した。


 ――グガッ!?


 火はほとんど上がらなかったが、オーガが着火した胸を払っている間に胸元に入り込み、顎にほんのり力を入れて《掌打》を打った。

 体を浮かせて仰向けに倒れるデミオーガ。マップの赤丸も消えた。《火弾》を見るのは初めてだったが、足止めになるし、いい感じだ。


「おーやるねぇ!」

「……た、戦い慣れているんですね」


 と、ベンツェとアレクサンドラ。ふふん。狼戦で俺たちの連携は抜群よ。


「ちょっと訓練しましたからね。ね?」


 ディアラとヘルミラが機嫌よく、はいと頷く。


>称号「デミオーガならお手の物」を獲得しました。


 称号のお手の物の言葉のままに、俺たちはデミオーガを倒していった。

 《掌打》の手加減具合もいい感じだったので、俺の攻撃と誰かしらの一撃――たまに森の方からロレッタらしき叫び声とともに魔法が飛んできていたが――が加わることでオーガはだいたい倒せた。


 合間にインプメイジが1匹飛んでいたので《氷の礫アイス・クラッシュ》で処理しつつ、5匹目を倒した頃。

 

 俺たちの割と近くにいて、カレタカ+アラン班のオーガに一撃を仕掛けようとしたアナが、急に力が抜けたように、地面に膝をついたかと思うと、倒れた。


「「アナ!!」」


 フリードとカレタカが叫んだ。フリードに首を切られたデミオーガが、最期の一撃とばかりに斧をアナに向けてゆっくりと振り下ろした。

 ちょうど一部始終を見ていた俺は、アナの前に急いで移動してデミオーガの腹部に《掌打》をかました。ぶっ飛ぶデミオーガ。


「大丈夫か??」


 抱き起こしたアナは……目を見開いていて、口も半ば開けていた。まるで時間が急に止まったかのような、……動いていた人形が電池切れでも起こして、いきなり止まったかのようだった。


 胸騒ぎがした。嫌なものを見てしまったと思う予感だ。だが、狼やオーガの血や死体を見てしまった時のものとは別種の抵抗感だ。

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