5-9 ソラリ農場 (3) - 商談
ソラリ邸は、メイホーと似たような白い壁とオレンジ色のレンガ屋根の石造りの家だった。
石塀もあり、家庭菜園をこしらえてもいる広い庭もあるので、外観からは村長宅を彷彿とさせた。だが、内装は、置いてある物は、結構違う。
飾りものや家具類など、村長宅にはあった物が少ない一方で、何かでパンパンに詰まった麻袋やビワっぽい果物が詰まった木の箱、積まれた樽、DIYでもしていたのか削りかけの細い木材など、実に農場主らしいものが屋内にはよくあった。
こうした光景には、貧乏くさいとかは特に思わない。むしろ印象は良い方にある。
特に汚らしい感じではないのもあるが、強めの木や土の匂いからメイホーを懐かしく思ったからか、金櫛荘の豪華さや従業員たちのとっつきにくさにまだ慣れてないからか。
「ダイチ君たちはチーズを買いにきたんだってな?」
奥の居間らしき場所で、6人ほど座れる大きなテーブルセットで俺たちの前に座ったソラリ氏が訊ねてくる。
「はい。少しお世話になった人がいるんですが、その方がここのチーズを好きだったようで贈ろうかと」
まだ若いのにしっかりしたものだ、とソラリ氏は機嫌よく頷いて俺を評する。
「貴族の坊やどもにも見習ってほしいものだ。……君と同じように、たまに買い付けにくるのがいるんだがね。ケプラから近いからか、外交や商談の訓練だとかで、貴族の客には坊やが多くてな。でもなかなか君のような丁寧な言葉遣いをするのもおらんよ。従者を連れておるようだし、君もいいところの坊ちゃんなんだろう?」
ええ、まあ、と例によって曖昧に頷いておく。
「しかしダークエルフの従者か」
そう言って、ソラリ氏が姉妹のことをまじまじと観察する。
「貴族の人となりは従者を見れば一発で分かる。その点君の連れとる二人は装備の割にはなかなか精強のようだし、実に品が良い。余計なことを喋らんし、背筋も目もしっかりしとる。二人ともまだ若いダークエルフだろうに、よう躾が行き届いておる」
躾、ね。俺的にはあまり使われたくない言葉ではあるが、彼なりに心から褒めている様子はうかがえるので、ありがとうございますと微笑しておく。
姉妹の方はソラリ評にまんざらでもないようだ。二人とも多少の恥ずかしさと共に笑みがこぼれている。その様子にソラリ氏がうむうむと頷いている。
エルマが木のジョッキを持って俺たちがついているテーブルにやってきた。
中身は赤ワインだ。アマリアでブドウ農園を営む知り合いが作った一品だとかで、断れなかった。
ヴァイン亭で飲んだものはまずかったが、ガンリルさんのところで振舞われたものは美味かった。今のところ俺のこの世界の赤ワインに対する評価は二分している。
てか、ジョッキ、ワインで濡れてるな……。
「これだけか?」
「エミリアやフロレンツ兄さんからおじさんへの昼のお酒はピッチャー半分って言われてるの。知ってるでしょ? 体の震えが止まらなくなって倒れたこと、もう忘れたの?」
ピッチャーね。エルマは実子ではないようだが、ソラリ氏には息子と娘もしっかりいるようだ。
それにしてもソラリ氏はアルコール中毒を発症済みらしい。
ソラリ氏の情報ウインドウの状態項目は健康とあったが……情報ウインドウは、アルコール中毒をどの時点で病気だと診断するのかは分からないが、この分だと「普通の病気」は表示されなかったりするのか? でもステラさんの妊娠はお腹膨らんでいなかったのにすぐに分かったんだよなぁ。
「まあ、そうだが……水はあるか?」
「ごめんなさい、切らしてるのさっき思い出して。今朝方、ハウマンと兄さんが買い付けに行っているからもうすぐ帰ると思うわ」
そうか、とため息をつくソラリ氏。薄めるんだろうか?
「もしよければ《
「おぉ! ダイチ君水魔法使えるのかね?」
「はい」
インによれば、魔導士のいる家は水が工面できるとのことだが、実際水魔法が使えるのと使えないのとではだいぶ違うだろう。
まだ少し調整に自信がなかったので、空のピッチャーを持ってきてもらう。
水を入れた。澄んだ美味しい水をと、ちょっと念じてみながら。特に注文がなかったので、水は少し冷えた程度にしておいた。たっぷり水を入れてソラリ氏に渡す。
「綺麗な水だな……ちょっと飲んでみていいかね?」
もちろん、と頷く。綺麗じゃない水が出ることもあるのか……?
《水射》で出す水は魔導士の力量で、そこまで質に差があるんだろうか。なんにせよ、それなら俺のは美味いだろう。
「これは美味い! こんなに美味い水は高い料理屋でもなかなか出ないぞ」
やっぱりね。念じておいてよかった。
「それは何よりです。あまり水の良し悪しは分からないもので……」
ご機嫌なソラリ氏がワインに水を入れたのを確認して、俺もワインを口にする。……酸っぱい。というか、渋いというべきか? あまり美味くはない……。ハズレだったようだ。
「水をいただいてもいいですか? 俺も少しお酒は控えていて」
「おお、そうだったか。なに、君の出した水なんだから好きに入れなさい。……お、美味いな。水が違うと酒もこうも変わるのだな。エルマも飲んでみなさい」
ソラリ氏の絶賛に相槌を打ちつつ、俺も水を入れて再度飲んだ。うん、多少マシになった。
姉妹は特に気にしたところもなく、水なしでごくごく飲んでいた。美味しいか訊ねてみると、美味しいらしかった。俺の舌が合ってない感じか。現代の方が製法的に確実に上だろうしなぁ……。
二人は最初はとくに飲むつもりはなかった感じだったが、ソラリ氏に押し切られた形だ。
エルマもソラリ氏に勧められて、水を入れて飲んだ。
「あ、ほんと。美味しいわ……」
「だろう? ダイチ君、チーズを欲しいということだったが、いくつ欲しいのかね?」
「二人分でお願いします。大丈夫ですか?」
「もちろんいいぞ。1か月分ならともかく、1個や2個なら大して変わらんからな。……で、折り入って少し相談があるんだが」
なんだろう?
「代金はいらんので、少し水をくれんか?」
水を? チーズと交換? と、一瞬理解ができなかった俺をよそに、ソラリ氏は立ち上がり、部屋の奥から小さめの樽を持ってきて床に置いた。小さめといっても、2リットルのペットボトルが3本くらい入りそうな樽だ。
樽の円周よりも少しばかり大きな木のフタがかぶせてある。中は空で、深めの木の柄杓が入ってあった。
つまり。
「この樽に《水射》で水を満たしてほしい、ということですか?」
「うむ。これはいつも水を入れてる樽だよ」
現代感覚で言うと2リットルのペットボトル3本分は300円程度だし、確実にチーズの方が高そうだが……。でもここはヨーロッパの国と同じように飲料水が高いし、そんなもんなのかな?
エルマはソラリ氏の商談に特に口を挟む気はないようで、美味しそうに水で割ったワインを飲んでいる。
ちなみにチーズはでかいのか分からないが、1つ2,000Gもするらしい。ヴァイン亭で3泊できる。
チーズの大きさについてソラリ氏に聞くと、手でホールケーキくらいの大きさの円を描かれた。でかっ。
商売気よりもまだ人脈構築をしている段階なので、交換自体に特に不満はない。気になるのは魔力消費による過剰睡眠くらいだ。
まあ《水射》は割と日常的に使っているし、おそらくそこまで響かないだろう。一応帰ったら少し昼寝しとくか。帰りの馬車内でもいいな。
「分かりました。いいですよ」
「そうか! ありがとうな! よし、エルマ、チーズを二つ包んでやってくれ。一番新しいのをな。ああ、あとトウモロコシも用意してやってくれ」
「はいはい」
俺は空の樽の中に手を軽く突っ込んで、《水射》の水を入れた。結構勢いよく出てしまったが、途中から少し勢いを弱めた。満タンいっちょ~~。
>称号「初めての商談」を獲得しました。
ご機嫌中に聞くのもあれかと思ったんだが、エルマが去った今、タイミング的には良かったので聞くことにした。
「失礼な質問だったらすみません。エルマさんは……獣人が嫌いなのですか?」
ふむ、とソラリ氏は腕を組んでエルマの行った方角を見た。ぐびりと酒を飲んで、ピッチャーをテーブルに置くと同時に目線を落とした。
「あれは2年前に夫を亡くしていてな。アマリアの部隊に所属している腕利きの兵士だったんだが、相手が獣人の賊だったようでな」
聞いた通りだな。ソラリ氏が俺を改めて見て、寂しさを含んだやりきれない顔をする。
「しばらくは家から出られんかったそうだ。獣人が怖いからとな。……私もそれは聞いていてな。昔はフロレンツやエミリアと仲良かったし――ああ、フロレンツは兄でエミリアは姉だよ――まあ心配しておったんだが、周りの人たちに色々と世話になりながら細々と暮らしておったらしい。……1年前、農場が忙しくなったもんだからエルマに農場に来ないかと誘ってな。今ではよく手伝ってくれておる。獣人嫌いはもう問題ないと言っておったのだが……実際のところはそうでもなくってな」
「……フリードさんと普段から喧嘩とかを?」
いやいや、と手を振るソラリ氏。
「エルマはそんな娘じゃないよ。喧嘩の気配などあったらすぐさま逃げる方だ。まあでもフリードは温厚な性質でな。エルマにあまり近づかんようにしたり、色々と気にかけてくれてな。そのおかげもあって、獣人だって私ら人族と大して変わらんと分かってはくれてるんだろうが、まあ……近頃はフリードに少しきつく言っていたこともあった。甘やかしすぎたかと思い、その度に叱ってはいたんだが……エルマはフリードに何か言ってたのかね?」
事実をぼかそうか少し考えるが、結構事が事だったしな……。エルマもフリードに対してあまり扱いがいいようには見えなかったし、ここら辺で言っておく方がいいのかもしれない。ソラリ氏もちゃんと叱ってくれる人のようだし。
「言ったと言いますか……。俺は二人の間で何があったのか知りません。おそらくソラリさんもでしょう。……なので、いきなりエルマさんに怒鳴りに行ったりしないで欲しいのですが……」
ソラリ氏を見ながらそう言うと、約束すると、ソラリ氏が神妙に頷く。
「角材で殴りかかろうと。私の気持ちの何が分かるのか、とそんな声も聞こえました」
俺の回答を聞くと、ソラリ氏が目を大きく見開く。唇を引き締め、眉を思いっきり寄せて怒りの表情になる。
だが間もなく、ふうと大きく息をつくソラリ氏。寄せたシワにはまだ厳しいものがいくらか残っているが緩んでくれたようだ。
「そうか。……フリードを連れてくる。少し話をするかもしれんから、トウモロコシでも食べて待っててくれ」
ソラリ氏が去った後、姉妹を見ると、二人とも困ったような顔をしていた。
あまり尾を引かない結果になって欲しいね、と言うと二人は同意した。
・
エルマと俺たちでトウモロコシをかじっていると、ゴロゴロと何かを転がす音が近づいてきてやがて止まった。
何か話しているようだ。たぶん二人だと思うが、部屋の窓は閉まっている上に方角的に別なこともあってか、《聞き耳》を介しても内容までは聞き取れない。
「フロレンツ兄さんかしら」
「水を買いに行ってたんでしたっけ」
「そうよ。ケプラにね」
近場だとケプラになるよな。どこで水を買うんだろう。
戸が開いて、見知らぬ男性が居間に顔を出してきた。
「……おや。お客さんかい?」
「フロレンツ兄さん。おかえり」
ソラリ氏と同じ格好をした青年――フロレンツ・ソラリは爽やかめな顔立ちをしていた。鼻筋もすっと通っている。エラが結構張っているが、あまりマイナスイメージにはなってない。
父親のソラリ氏も肉付きの良さであまり目立ってはいないが少しエラが張っているので、肉がついたら似た感じの顔の形になるのかもしれない。
そういえば、鼻が似ていないように見える。ソラリ氏の鼻は鷲鼻っぽいと言えばぽいので、ソラリ兄弟の鼻の特徴がエルマにいったのかもしれない。
「こちらは?」
フロレンツと目が合う。温厚さの中に人懐っこいものを宿した眼差しだ。
「チーズ買いに来た方々ですって。おじさん待ってもらってるの」
「ふうん」
エルマはフロレンツに視線は向けずにむすっとそう答える。
トウモロコシを食べている間、生のトウモロコシのオルフェでの食べ方や、栽培方法なんかを聞いたりして場を持たせていたが、さすがにここまでのようだ。
エルマが少しご機嫌斜めなのは、ソラリ氏がフリードを連れてくることを伝えたからだ。怒られることを分かっていて、機嫌をよくする人はいない。むしろ、機嫌を悪くしている辺り、あまり自分の行いを顧みていない証拠でもあるのだけど。
エルマのフリードに対する仕打ちなどを含めた獣人差別に際しては、一度真剣に話し合った方がいいかもとは思ったが、いよいよ現実味を帯びてきてため息をつきそうになる。
今のところ、俺の見立ては、エルマは放っておいたらつけあがるタイプの人だ。ソラリ氏が言っていたように、父親やフリードに甘えているとも言える。寡婦な上に獣人嫌いで、扱いが大変だっただろうから、仕方ない部分は多分にあったのだろう。
ちなみにトウモロコシの食べ方については別に変わったことはなかった。
なんてことはなく、塩をかけたり、粒をスープに浸して食べたりするそうだが、基本はかじりつく。串を刺してBBQのように焼いて食べることもあるらしい。ちなみに、渡されたトウモロコシは一本丸々ではなく、いくつかに短く切ってある。
栽培方法の方は機嫌が悪いためか、客に話すのはさすがにまずいからなのか、あまり話はしてくれず、代わりに美味しいトウモロコシの見分け方をいくらか話してくれた。
トウモロコシは“ヒゲ”が茶色くなり始めているもので、朝一番に収穫したものが一番美味しいのだそうだ。市場で買うなら、朝早くに実がふっくらしているものを選ぶのが良いとのこと。
トウモロコシは持ち運びがしやすく、携帯食料にもできるだろうし、地味にいい情報だった。トウモロコシなんて普段食べなかったしね。
「フロレンツ・ソラリです。ここのソラリ農場を運営しているアルフォント・ソラリの長男です。お見知りおきを」
ややあって、俺たちを見ていたフロレンツから、胸に手を当てて丁寧に挨拶されたので、俺も応じるべく立ち上がった。身分的に、土地も持ってるし、行商人以上貴族未満といったところだろうか?
ディアラとヘルミラも俺に続いて立ち上がる。
「ダイチ・タナカです。この辺りを旅している者です。理由あって家のことなどは言えませんが、ご容赦ください。……こちら、従者のディアラとヘルミラです」
ケプラ内ではジョーラの威光もあったので名前だけの簡単な紹介ですましたりしたが、ここは一応別の土地だ。俺も胸に手を当てて軽く一礼した。
「ご丁寧にありがとうございます。若いのにしっかりしていますね」
「いえ。……堅苦しいのは苦手なので、言葉を崩してもらっていいですよ」
「そうかい? じゃあお言葉に甘えて。改めてよろしく、ダイチ君」
と、フロレンツはごくごく自然にイスに座る。居座るようだ。結構礼儀作法も学んでいるようだが、ラフな人でもあるようだ。
フロレンツの情報ウインドウが出てくる。31歳らしい。こちらもソラリ氏と同じく健康。彼は鑑定通り、健康そうだ。
「水置きに行かなくていいの?」
「ん? まるで席を外してほしい口ぶりだね」
フロレンツの指摘にエルマは目線を逸らしたあと、口を閉ざした。なかなか……というか、だいぶ鋭いな。
「水はハウマンに頼んだよ。フリードに手伝ってもらうようにも言ってあるから」
「そう」
いつもと違う従妹の様子に、首をかしげただけのフロレンツは俺のことを見据えた。どういうこと? と訴えているようにも思えたが、とりあえず目だけの相槌だけ打って黙っておいた。
これはあれか。……この人ちょっと天然か?
「この樽は?」
と、フロレンツが今度は隅に置いてある樽を指さす。中には俺が入れた《
「水よ」
「水? 残ってたんだ?」
そう問いかけたあと、フロレンツが俺に目線をやってきたので、
「俺が水魔法の《水射》で入れたんです。ソラリ氏が俺の水を気に入って。その樽分の水とチーズの交換になったんです」
「へえぇ……。僕も君の水もらっていいかな?」
「もちろん」
ちょっと待っててね、と言ってフロレンツはジョッキを持ってくる。《水射》の水を入れる。
「おぉ、美味い……。さすが父さんが目をつけるだけあるなぁ。飲んだのはだいぶ昔だけど、フーリアハット産の清流水といい勝負だよ。君、水魔法の熟練者かい?」
「そこそこですが」
ふうん、と俺の解答にはそれほどの興味はないようで、フロレンツはその手のプロかなにかのように、口に水を含んだまま、軽く顎を動かして楽しんでいる。
「うぅん、冷えてるし、瑞々しいし、美味い! 僕もワイン飲もう」
フロレンツが今度はワインをもってきて、水で薄めて飲む。
「美味いなぁ。しばらくこれ飲めるのか。嬉しいねぇ」
KYというか、フリーダムというか。フロレンツは一人ではしゃいでいる。少し笑ってしまった。
「なんだい?」
「いえ……失礼だったらすみません」
「うん? 全然いいよ」
「フロレンツさん天然って言われませんか?」
天然? と、そう首をかしげるフロレンツに、「えーっと……気負わず、結構自由奔放というか、自分に正直な性格って意味です」と説明すると、黙っていたエルマが噴出した。エルマは心当たりがあるようだ。
「あははっ。ダイチ君鋭いわ。そうなのよ、フロレンツ兄さん“天然”なのよ。子供っぽいところがあってね。まあ、幸い? 駆け出しの女優を親身に応援するくらいには恋愛もできるんだけどね」
「なんでそこで彼女の話を出すんだよ」
「だって、フロレンツ兄さん結婚する気配が全くないんだもの。ぼけぼけってしてるから結婚できないんだって、皆で心配してるのよ?」
「ぼけぼけって……言うね。僕だって色恋の一つはするさ。まあ、……エヴェリアは、結婚とかの前に舞台の方を頑張って欲しいけど……」
最後の方はだいぶ小さな声になっていたが、エヴェリアという女性といい仲であるらしい。
エルマが肩をすくめて、まあ、資金援助もほどほどにね、とコメントした。
資金援助かー……。いい仲だと思ったが、微妙なラインだ。女優だろ? しかも駆け出しで、遠距離とくる。上手くいくといいが、見た目のままにあまりガツガツはしてないようだし、だいぶ茨の道な気はする。
それにしても女優か。舞台見に行ってみたいな。
外で足音が近づいてきた。聞こえたようで、エルマは若干表情を引き締める。ややあって、ソラリ氏がフリードを連れて入ってきた。
「おお、フロレンツ。おかえり」
「ただいま父さん。あれ、フリード、水は?」
「ハウマンにやってもらっています。手伝いを頼まれていましたが……」
「そうかい」
ソラリ氏は席にはつかず、エルマの横にフリードと一緒に立った。フリードは難しい顔で俯いている。
「聞いたぞ、エルマ。フリードにひどいことをしたそうじゃないか?」
エルマはソラリ氏の方を向かずに黙っている。
「ひどいことって?」
フロレンツの問いに、ソラリ氏はため息を一つついたあと、「角材で殴ろうとしたそうだ。幸い、ダイチ君が間に入って止めてくれたようだがな」と、事の次第を説明する。
「えぇ!? 何があったのさ」
素っ頓狂な声をあげるフロレンツに、別に何も、とエルマが言いかけるのをソラリ氏が「ちゃんと答えなさい。何があったのか」と強めた語気で遮る。
「だって!! 仕方ないじゃない! フリード、しないでって言ったのに私の服洗濯してるんですもの!」
え。女子中学生かよ……。いや、別に父親の衣類と一緒に洗った話ではないけども。
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