5-4 ケプラの朝


 薄切りにしたエリドンとチーズを乗せたフレンチトーストならぬ黄金トーストを堪能した俺たちは――ガチョウの卵は普通に鶏と大差なかったように思う――一度部屋に戻り、出かける準備をすることにした。


 ちなみにエリドンは、外見がリンゴで中身は桃だと勘違いしていたのだが、実際は逆で「外見が桃で中身がリンゴ」だった。ややこい。

 二人とも美味しく食べていたので言わなかったけれども、フレンチトーストに乗せる果物は果肉が柔らかい方が合うはずなのでちょっと失敗したなと思ったのはここだけの話。


「じゃあ、準備しといで。近いようだし、防具は装備しなくていいから。少ししたら呼びに行くよ」


 そう二人に告げて、俺は一人部屋へ。


 準備と言っても俺の方の準備は着替え以外にとくにない。ベッドに腰を降ろして、そのまま寝転がった。


 今日の予定を改めて考える。


 ・ソラリ農場でマクイルさん用のチーズを買う

 ・酒屋で団長さん用の酒を買う

 ・ガルソンさんのところで姉妹に短剣を買う


 目的は主にこの三つだ。


 酒の銘柄はなんだったかな……メナードクだっけ? 一応聞こう。

 ルカーチュさんに会ったらルカーチュさんに、会えなかったらガルソンさんか、分からなかったり忘れていたら最悪マルトンさんとかの近衛兵の人に聞けばいいか。

 ここの人たちは騎士団と訓練してるんだっけか。ダンテさんがいたらダンテさんでもいっか。


 あとは……本店のコルヴァンの風にも顔を出そうかな。洗濯してもらわないといけないし。

 洗濯(染み抜き屋)は市場でも出来ると聞いているけど、コルヴァンの風の方が安心だろう。ケプラのコルヴァンの風は本店らしいし、店員さんと仲良くできると嬉しい。


 短剣買うのもあったな。ティアン・メグリンドさんのことも聞かないとな……。あーやだやだ。


 酒の銘柄に自信がなかったこともあり、今日の予定をメモするため、使っていなかった紙とインク、羽ペンと羽ペン台をテーブルに取り出す。先日買った木の板も取り出して下敷きにした。


 1.武器屋で短剣買う

 2.ソラリ農場に行く

 3.酒屋で酒を買う

 4.コルヴァンの風

  ・酒の銘柄(メナードク)、ティアン・メグリンドについて聞く


 こんなものか。

 羽ペンの書き味は意外と悪くはなかったが、特に良くもない。カリカリ言うのが新鮮だが、インクを付け足すのがね。ボールペン偉大だ。


 それにしてもケプラはメイホーの倍以上の広さがあり、それなりに込み入った街でもある。

 マップ情報で俯瞰図は常に確認できるんだが、どこに何があるのかは分からない。一応取引のできるNPCは白いマークとして表示されているが、最悪話はしなくてもいいっぽいが顔をじっと見る必要はあり、一度は会わなければ表示されない仕様だ。


 地図欲しいなと思う。いずれ取引可能NPCたちを埋めるか。

 にしても地図はどこに売ってるんだろう。ディアラたちに聞けば分かるかな?

 レベル上げもあるし、ギルドにも行かないといけない。紙にギルドと地図の言葉を書き足す。


 1.武器屋で短剣買う

 2.ソラリ農場に行く

 3.酒屋で酒を買う

 4.コルヴァンの風

  ・酒の銘柄(メナードク)、ティアン・メグリンドについて聞く

  ・地図について聞く(いつか取引NPC埋め)

  ・ギルドに行く


>称号「やることが多い」を獲得しました。


 ほんとにね。


 手にインクがつく。書いた方のインクも乾いてない。


 ふと思いついて、掌を窓に向けて《微風ソフトブリーズ》を軽く放つ。ドライヤーの「強」くらいの結構強い風が出たので、「弱く」と何度か念じて少しずつ弱めていく。

 やがてUSB扇風機の「弱」レベルになった。インクは墨汁っぽいし、これくらいならいいだろう。

 1分ほど当てていたら完全に乾いた。うん、OK。やってることはアナログもアナログだが、ほんと魔法便利だ。


 食堂に行くのに一応着ていた正装のベストをクローゼットにしまい、いつも着ている方のベストを羽織る。

 正装用に買っておいたベストは生地が分厚くて質も良く、裾と肩にあしらわれたゴシック模様的な草花の刺繍が細かくて精緻だ。

 地味なのを選んだので生地と刺繍が同色の黒だが、有名な刺繍家の刺繍だそうな。あとボタンが真珠になっている。ミュイさん曰くコルヴァン産の高い真珠らしい。

 いつも着ているベストは高くなかったし、誰がどうだの言われなかったので、大したものじゃないんだろう。


 メモした紙を折りたたみ、紙やインクなどとともに魔法の鞄のインベントリに収納し、二人を呼びに行く。


「準備できた?」

「はい!」


 部屋から槍を持ったディアラが出てきて、意気込んだ顔を見せた。槍の穂先は皮で包んである。

 矢筒と弓を背負ったヘルミラも同じような顔つきで出てくる。武器を携帯するなら、防具もつけさせてもよかったかなと一瞬思うが、牧場に行くだけだしなぁ。あんまり物々しいのもね。


 二人の服装は食事の時と同じで、かつてオールインワンと見間違えたボーイッシュな黒の上下だ。

 この服は気に入っているらしい。腰にはいつものように、いくらか膨れたショルダーバッグを提げている。なにが入っているのか細かいことは聞いていないが、携帯用の食糧とか、安いポーションとかだろう。


「地図って売ってる場所知ってる? この街の地図でもいいよ」

「ギルドにはありそうですが……」

「ギルドに置いてあると思います」

「じゃあ、帰りにギルド寄ってみよう」

「はい」


 階段を降りたところでダンテさんがいた。ワゴンカードが傍にある。ルームサービスか。

 遠目に目が合う。マクイルさんの姿は周りに見当たらない。フロントだろう。


「ダイチ様おはようございます」

「おはようございます」


 ワゴン内の料理は食べた後のようだった。話すのにちょうどいい。


「ダンテさんはケプラ騎士団の方と親しいですよね?」

「ええ、多少お付き合いがございますが」

「実は今日、ケプラ騎士団の団長の方にお酒を贈るつもりなのですが、騎士団長の好みのお酒はメナードクというお酒で合っていますか?」

「確かにメナードクはヒルヘッケン様が好んでいるお酒です。かなりの高級品なので、滅多に飲まれているわけではないように思いますが」


 そんなに高級なのか。まぁ……酒だし目が飛ぶようなレベルではないだろう。うん。


「そうですか。ありがとうございます」


 いえ、と柔和に微笑まれる。さきほど会った時よりもちょっと優しげな表情のようにも見える。

 贈り主が子供で、その助言をするのなら、そういう表情にもなるだろうな。ふふ。酒を贈るとか、こんなできた子もいまい。


「もしケプラの酒屋に行かれるのでしたら、アマリンの武具屋の二軒隣の酒屋ですとお安く購入することができますよ」


 酒屋もこれから探す予定だったので、ありがたい。お礼を言うとまた微笑。男性客を射止めそうなのはユディットだったが、女性客ならダンテさんだなと思う。


 フロントにいくと、やはりというかマクイルさんがいた。農場に行くことは教えたくないので、出かけることだけ伝えると特に詮索はしてこなかった。OK、OK。部屋の掃除について聞かれたのでお願いした。


 館を出る時に貴族らしき男性とすれ違う。

 男性の光沢のある緑色のチュニックには豪華な刺繍やひだ飾りがちりばめられ、肩からは木や鳥や太陽の絵が全面に描かれたオレンジ色のマントを羽織っている。腰には、現代観で言うところの前ポケット辺りに剣が下がっている。

 顔も超然としていて自信たっぷりだ。ただ、やや垂れた目や不敵に微笑んでいる口元や整えた口ヒゲとあごヒゲなどに、いくらかひねくれた性格の印象も受ける。


 視線を逸らすと、後ろにいたシャツとズボンに帽子を被った従僕らしき男性と目が合ってしまい、睨まれる。少し怒ったような顔だ。が、すぐに驚きの表情に変わる。

 どうもディアラたちに目がいったらしい。珍しいもんね、ダークエルフ。男性は分かりやすく悔しい表情を見せた。悔しがる理由は分からないが、別に権威勝負なんてしたくない。


 一方の貴族は確かに俺のこと見たんだが、すぐに視線を逸らして俺のことなんて眼中になかったようだった。姉妹のことも同様だろう。

 ある程度歩いてから振り返ってみると、貴族の男はマクイルさんと話し込んでいた。


 俺が考えているより、この世界の貴族はずっと貴族をしているのかもしれないという考えに及ぶ。

 俺のイメージしている貴族像なんて、太っちょで、権力欲にまみれ、親の威光にしがみつきながら主人公に嫌味を言う“3人組”と同等のみっともない人物像でしかないので、過度な先入観は持たないでおこうと思う。

 まあ、エンタメ用に肥大化させた性格と言動とは裏腹に生い立ちにはそれほど差異はないと思うので、大なり小なりそういう要素はあるように思うんだけども。



 金櫛館を出て、ガルソンさんの店に向かう。

 これまでに見てきた朝日の高さや体感的に朝9時頃だと思うが、金櫛館前の静かな通りを過ぎると、街中は既になかなか騒がしい様子だった。


 商人や労働者が多く行き交っている。どちらかと言えば労働者が多いようだ。

 道では、大きな樽を三つ乗せた荷車を労働者風の男性二人と兵士が一人、前から後ろから頑張って動かしていた。荷車には、付き添うように足を引きずっている同じく労働者風の男性が歩いている。


「怪我でもしたのかな?」

「そうかもしれませんね」


 頑張れ~。


 突然、


「タマつぶされたくなかったら自分の家か娼館でやれ!!」


 という怒鳴り声があり、女性と男性が家から放り出されてきた。二人とも全裸で、手には衣類がある。

 2人はそそくさと路地の方に向かう。色々と驚いた。見ていた2人の若い男性が、「ちっさいイチモツだな」「あれでよく女は満足したな」と嘲笑する。


 見せるならせめて夜にしてくれ? 洋画あまり見てなかったからびっくりするよ。

 ちらりと姉妹を見てみると、二人には特に目立った反応はないように見える。よくある光景か……。

 姉妹がため息をついた俺にどうしたかと訊ねてきたので、なんでもないよ、と答える。


 さらに歩くとウルナイ像前に人だかりがあった。見えづらかったが、木箱の上に置かれた大きめのカブとマスカットがちらりと見えた。

 この前ここにあったのは確か倉庫だっけかな。呼子によれば、フーリアハットの新鮮な野菜だとのこと。


「フーリアハットって野菜美味しいの?」


 エルフが住み、森深い土地だというし、そんなイメージはある。


「美味しいですよ。緑竜様の恵みがたっぷり詰まっていて、お野菜なんかは瑞々しくてシャキシャキしていますし、果物はとても甘いです」


 インのお恵みと一緒か。


「緑竜の恵みがあるなら美味しそうだね。見ていく?」

「よろしいのですか? お時間とか……」


 ヘルミラが心配してくる。ディアラも同じ気持ちらしい。


「それもそうだね。用事を先に済ませよっか」

「はい」


 寄り道はよくないよね。盛況な野菜市を背中に、アマリンの武器防具屋に入る。


「坊主じゃねえか!!」


 挨拶しようと思ったのだが、ガルソンさんがカウンターに手をついてひょいっと身軽に飛び越えてやってきたので少々面食らう。客は特にいないらしいが。


「騎士団がいなくなったから見つかったんじゃねえかと思ってたんだが、……無事だったか! よかったよかった、ガハハ!! 嬢ちゃんたちも良かったなぁ!」


 軽く駆けてきたガルソンさんが俺を見上げて盛大に笑いながら、両手で体をバシバシ叩いてくる。例によって痛くないが揺れる。俺この世界で背中よく叩かれるな。

 ガルソンさんが事の次第を知っていることに多少驚くが、そういや騎士団の警備は街全体に及んでいたので納得する。……俺はケプラでのんびりできるんだろうか。


「……まさか大げさだなとか思ってねえか?」

「いやいや」


 実は多少は……。ガルソンさんが腰に手をやって深刻なため息をつく。


「よーーーく考えてみろよ? 坊主。お前さんは七星の大剣であるジョーラを下せるような猛者なんだ。そんな奴が賊の襲撃でいなくなったとくる。俺からしてみればそいつは既にただの賊じゃねえ。七星を超え、その七星を超える……凶悪な魔獣や魔人の類と考えるのが自然だ。違うか? まあ手練手管に長けたクソ面倒な野郎の可能性もあるがよ」


 あっ……そうか。そりゃそうだ。


「確かに」


 てか忘れてたけど、ガルソンさんは俺がジョーラよりも強いことを知ってる数少ない人だった。


「分かったか? まあお前さんのことだからよ、大したことねえと思いたかったが……嬢ちゃんたちが捜索にあまりに必死なもんでな。見つかったら教えるとは言ったが、店をしばらく閉めてケプラから出ることも考えちまっていたよ俺は」


 そう言ってガルソンさんが眉をひょうきんに上げてお手上げポーズを取る。二人を見たので俺もつられて見ると、二人がめいっぱいの申し訳なさに視線と耳を下げていた。


「「すみません……」」


 そんなにしょげなくともと、内心で苦笑する。

 振り返って二つの白い頭にぽんと手をやる。


「心配してくれてありがとね」


 微笑して、二人の白い頭を撫でる。

 ダンテさんの完璧な大人の微笑が脳裏に浮かんだしまった。俺にはあれは無理。でも感謝だけはしっかり伝えよう。


「賊の心配はもうないと見ていいのか?」


 俺たちのやり取りを見て、視線をいくらか生温かいものに変えたガルソンさんがそう訊ねてくる。


「ええ。賊というか、最近知り合った奴なんですが、手荒い奴なんですよ。ちょっと俺の意図せぬ方向にいってしまって……俺も驚きましたが、ちゃんと言い聞かせたので、今回みたいなことは今後起きないはずです」


 だいぶぼかしたが、言っていることはだいたい間違ってない。


 言い聞かせたわけじゃないが、ジルは《凍久の眠りジェリダ・ソムノ》にはだいぶ懲りていた様子なので、いきなり亜空間に飛ばされ、よし戦おうなんてことは今後ないだろう。たぶん。

 今後の俺自体に関しては、インとジルが事の経緯を七竜たちにどう伝えるかにもよるのだが……。


「変な事態にならないならそれでいいんだが……知り合いだったんだな」

「ええ、まあ。インの知り合いです」

「嬢ちゃんのか?? 嬢ちゃんもただ者ではないだろうとは思っていたが……そういや嬢ちゃん今日はいねえんだな」


 インのこともただ者じゃないと踏んでたのか。


「インは外出してるので今日は俺たちだけなんです」

「そうか。……はあ、とんでもねえんだな、坊主たちは。元からとんでもなかったが」


 驚きすぎな気もするが、七星よりも俺が強いのを分かってるならこういう反応に……でもそんな俺が手荒い奴というのなら、ガルソンさんたちには手が負えない相手と取るか……。

 そんな奴とインが知り合いなら、インだってとんでも存在になる、と。


 なんにせよ、ガルソンさんは今後付き合いが長くなりそうな人だ。あまり嘘はつかない方向でいきたいものだ。

 嘘はおおよそ内容よりもついた回数、ついた人の数の方が重要だが、俺は嘘の修正はそんなに上手くない。


 それはそれとして。俺は姉妹の後ろに回って、二人の肩に手を乗せる。


「今回の捜索は、二人が俺のことを心配している様子を見かねて、宿の支配人さんが手配してくれたそうなんです」


 きっと俺の発言で二人は再度申し訳ない表情をしているはずなので、ぽんぽんと姉妹の肩を叩いておく。

 別に俺は、再度事件のことを掘り返して、姉妹を凹ませたいわけじゃない。より真実を混ぜておきたかったのと、今後仮に俺の身にまた何かあった時に、ガルソンさんが二人の味方になってくれる保険作りのためだ。


 身元保証人になってくれとまでは言わないけど、二人の性格の保証はしておきたい。ガルソンさんが無償で二人を助けてくれるくらいには、できれば。


「そうか。……良かったなぁ、坊主が見つかって」


 ガルソンさんが穏やかな表情で姉妹に声をかける。はい、と同意を寄せる二人の声には嬉しさの他に、安心感もあったので、俺の身内心も満たされる。


>称号「人心掌握術」を獲得しました。


「ま、あんまり騒ぎは起こさないでくれよ? 俺は工房よりも嫁と娘が大事だからよ。坊主はジョーラじゃねえから、その辺は安心してるが」


 ガルソンさんがそう言って意味ありげな笑みを浮かべる。俺も苦笑した。

 ジョーラは色々やらかしてそうだしなぁ。俺の内心を汲み取ったように、ガルソンさんは肩をすくめたあと、バシッと小気味いい音を立てて両手で腰を叩いた。


「で! 今日は朝早くから何しに来たんだ? 俺への報告だけか?」

「それもあるんですが、二人の短剣を購入しに。出来れば調理……動物を捌ければ」

「おぉ! それだったら容易いもんだ」


 ガルソンさんが剣ブースに行って、短剣を2つ持ってくる。シャコンと小気味いい音を鳴らして鞘から短剣を抜いて見せた。

 俺のはメイホーで購入したものなので、持ち手が俺のと意匠が違うようだが、刃渡りや全身など、見てくれはほとんど一緒だ。


「そいつはうちのよく売れる商品の一つだな。ケプラを根城にしてる奴らはだいたいこれ使ってるぞ。武器としては少々頼りねえが、肉や枝を切るのには十分だな」


 渡されたので手に持ってみる。軽い。見慣れたもので、鋭利な刃先に緊張が走ることはない。むしろ、二人の力量で武器としてどこまで使えるかなとそんなことに考えが及ぶ。姉妹に短剣を渡した。


「剣帯はやっぱりハライさんの店ですか?」

「剣帯もしっかり数揃えてあるから心配しなくていいぞ。ガキどもも結構買うもんでな。もちろんこれよりいいもんが欲しいってんならハライのとこだが」


 剣帯いるか? と聞いてくるので、もちろん頷く。

 ガルソンさんが武器ブースの下の木箱の一つから剣帯を二つ取ってくる。腰に巻くベルト式のやつだ。二人に渡す。


「つけときな」

「ありがとうございます」


 二人が装着している間に、ガルソンさんに値段の6000G――銀銅貨を6枚渡す。


「子供も魔物狩りを?」

「ん? そいつの力量にもよるが、さすがに短剣では戦わねえよ。基本は家の手伝い用だな。薪集めとか肉の解体とかな」


 なるほど。


「お前さんは短剣で戦えるのか?」

「まあ、一応は」


 ガルソンさんは視線を逸らして考える素振りをした。やがてうんうん頷いた。


「今日はどっか行くのか?」

「ソラリ農場に行こうかなと」

「ソラリ農場か。ってことはチーズとかか?」

「はい。……内緒にしてくださいね? 宿の人へのお礼の品なので」

「お? 任せとけ! 口は堅いんだよ俺は。七竜様の鱗よりもな! ガハハ!」


 そんな文句あるのか。覚えとこう。


 お土産にチーズを持ってくると言うと「気にしなくていいぞ」と言いつつ嬉しそうだったガルソンさんと別れ、俺たちは東の厩舎に向かった。

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