4-10 妊婦と猛獣使い

 ニーアちゃんがインの両手を取る。


「イン嬢、元気でね!!」

「うむ。お主もな」


 女子高生と小学生の女の子が仲良くしているという構図自体は微笑ましくていいのだが、ニーアちゃんの言う「イン嬢」ほどおかしなものはなかった。

 今まで他の誰かがイン嬢と呼んでも特に何も思い浮かべることはなかったのだが、なぜかニーアちゃんだと、インがヤクザの関係者に見えるのはもちろん、インジョウという中国風味かなにかの名前のような気すらした。


 ヘイアンさんがいつの間にかイン嬢と呼ぶようになったことに影響を受けたんだろうが……。

 ちなみにステラさんはインちゃんのままだ。この差は何だ。


「あまり喋ってばかりいないで二人のことを手伝うのだぞ?」

「うっ……。イン嬢は可愛いのに痛いところ突いてくるなぁ……」


 可愛い印象はあったのか。ともかく、俺が見ている限りでも結構サボってはいたので、「自覚あったの? なら気をつけないとね」と便乗しておく。


「ダイチさんまでぇ」


 ヘイアンさんが大笑いする。ステラさんも笑っている辺り、こりゃあんまり効果ないかもなと思う。ま、家族仲がいいのはいいことだ。


「ディアラちゃんとヘルミラちゃんも元気でね!」

「はい。ニーアもお元気で」


 ディアラとヘルミラが微笑む。インや俺に比べるとこっちはちょっと固い感じもするが、これはこれでいいと思う。


 二人の実年齢は28歳と25歳で、種族も違うので、こういう接し方になるのも仕方ないんだろう。外見年齢と精神年齢が違うという意味では俺と境遇が似ている。

 とはいえ、俺が寝ている時に一度ステラさんを含めた四人で山菜摘みに行ったようなので、もう少し逗留していたら彼女たちはもっと打ち解けていたかもしれない。


「ダイチさん、私はお別れというわけではないのですが、今回はお世話になりました」

「いえいえ」


 姉妹のやり取りを見計らって挨拶をしてきたのは、ゴブリンのミラーさんだ。


 ミラーさんは相変わらずインよりちょっと高いくらいの背の割に、サイズぴったりの黒いベストと白いシャツを立派に着こなしている。

 胸にはもちろん、外交長官という官職や、銀竜信仰者を現す六角形の模様をあつらえたバッジなどが誇らしく輝いている。


 俺はミラーさんとははぐれゴブリンの一件以来会っていないのだが、狭い田舎村らしいというべきなのか、どこからか俺の出発の話を聞いて挨拶にきたものらしい。まあ、俺たちは珍しい一行ではあるだろうしね。


「宿はもう決まっているのですか?」

「一応、金櫛荘というところを予定しています」


 これをハリィ君に伝えたところ、泊まったことがあるので、謝意も兼ねて面通りをよくしてくれるとのことだった。俺たちはぱっと見は少年少女しかいないので、その辺を考慮してくれたのかもしれない。


「おや、金櫛荘ですか。私の管轄ですね。では、またすぐに会えるのでしょう」

「そうでしたか。楽しみにしています」

「ぜひぜひ。その時は一緒に会食でもしましょう」


 ミラーさんと握手する。ミラーさんのわさび色をしたゴブリンの手は、俺よりも多少大きく、関節が妙にごつごつしているのと、手の厚みによってか体温が少し低いこと以外は特に人間の手と変わらない。

 ミラーさんの官職然とした厳かな言動やかつての説教を見ていることなどから、実現には至っていないが、肌や耳、鼻を触ったりしてみたい学究的な欲求があるのはここだけの話だ。


「ほぉ……金櫛荘とはね。やはり金あるんだなぁ、ダイチ君は。あそこと比べたら貧乏宿かもしれねえが、立ち寄った時は泊まっていってくれな」

「もちろんです。というか、金持ち宿と聞いているので、たぶん慣れるまでこっちが懐かしくなると思います」


 まぁ、家具が全くないことや、イスが1脚しかないのが致命的だが、こうやって気心知れた家族同然の付き合いが出来ることはないだろうなと思う。高級宿だしね。

 大人になってからさすがに遠のいてしまったし、結局それっぽいものは手に入れられなかったが、昔の俺がいつも欲していたものだ。


「おい、ステラ聞いたか? うちの宿は高級宿に勝るんだとよ」


 勝るとは言ってないけども。(笑)


「お世辞でしょうに。ねえ?」


 そういうわけでもないんですけどね、料理も美味しいですし、と言うと、ヘイアンさんから「今度来たときは初日の飯は無料にしとくぜ」と肩をバシバシと叩かれる。

 ああ、そうか。こういうとこがジョーラと似てるんだな。


 食堂は例によって、半分貸し切りのような状態になっている。幸い客がそう多くない時間だからいいが……。

 こんなことばっかりして目立つから、ライリやアリオに疑われるのかなと思ってみたりする。まあ、ジョーラ部隊との食事中にも結構あれこれ話しかけられていたので、あんまり意味なかったかもしれないけど。


 ちなみに起床後、インにはなぜ起こさんのだと怒られた。別れの挨拶をする前に食事をしていたが……俺のせいなの?


 俺を見知っているミーハーな人たちと別れの挨拶をしたあと、ミュイさんにもヒルデさんにも挨拶したしもう用事ないよなと考えていると、一つ用事があったのを思い出す。


 ステラさんを連れて皆から少し離れた場所に移動する。


「なあに?」

「耳をちょっと」


 要件を伝えると、ステラさんが目を丸くして俺を見てくる。細身でおっとり系の雰囲気ながら、シャイアンにも後れを取らなかった気丈なステラさんにしては珍しい表情だ。少し得意然になる。


「絶対ではないですが……ほぼそうだと思います」


 ステラさんの情報ウインドウの状態項目には、今でもしっかりと「状態:妊娠」とある。

 今のところステラさんのお腹は膨らんではいないが、情報ウインドウのデータは嘘は言わないだろう。そのうち、新しい命があることを周囲に堂々と示すに違いない。


「……本当に?」

「はい。体が重くなってきたら、お酒とかお肉とか、あとここでは見てませんけど魚とか控えめにして、体を大事にしてくださいね」

「……お酒、やっぱりダメなの?」


 実は酒豪だったか? まぁ、飲み水が酒だし珍しくもないだろうが……。

 俺は苦笑して、「はい。お腹にいる赤ちゃんの体は未熟ですから、お酒の成分を上手く処理できないんです。刺激物に弱いんですね」と伝える。


「詳しいのね。故郷にはお嫁さんいないわよね?」

「残念ながら。知識で知っているだけです」


 もっと言えば、俺が胃腸が弱かったがために食べ物や飲み物、栄養についてネットで調べ、そうすると決まってそのページには妊娠中にはどうのこうのと書かれている欄があり、それで覚えてしまっただけだ。

 ついでに、牛乳や卵、豆類や葉物野菜を食べすぎない程度に食べるように伝える。

 お節介なのは分かっているのだが、こういう時くらいしか生かせない知識なら、生かしておきたいよね。


 俺に子供ができた時に使うだろうって? ホムンクルスが子供を作れるのかなんて、怖くて聞けないよ。整理現象もきてないし。

 もし仮にそうなら、いきなり絶望はしないかもしれないが……徐々にダメージは来るように思う。恋愛、女性関係、結婚にまつわる価値観をいくらか変え、やがて人生観をも変えてしまう、そんな“DOTダメージ”を。


「そう。……色々とありがとう。気をつけるわ」


 ステラさんから優しく手を握られる。感謝の眼差しには違いないんだが、かつて注がれたことのないほどの柔らかい女性的な眼差しに、照れくさくなって視線をそらしてしまった。

 さすが人妻。風呂場での色っぽいのと使い分けてくる。


 このやり取りは速攻インのからかいのネタになったのは言うまでもない。


>称号「妊婦の味方」を獲得しました。



 ◇



 俺たちに気遣って、ヴァイン亭の外で待っていたジョーラとハリィ君と合流する。


「ずいぶん人気者なんだなぁ」

「なんかそうなっちゃったよ」


 ハリィ君が、ダイチさんらしいですねとにこりとする。なんだかさっきから照れ臭い。


「もう少し欲深くなって欲しいところはあるんだがの~。男だというのにのう。野心もこれっぽっちもなくてな。少々困っておる」


 インのため息交じりの意見に、全くだなとジョーラが笑う。

 はいはい。すみませんね。ていうか、金には困ってないし、野心がなかったら何に困るんだ?


「ディアラたちはもう買い出しとかないよな? まぁ、ケプラの方が色々とあるんだけどさ」

「はい! 必要なものは大体揃えてあります。ですよね、ご主人様?」

「うん、大体ね」

「なら問題ないな」


 厩舎までの道を歩く。

 メイホーの景色はいつもと変わらない。


 木の色、砂の色、木材の色、色あせたレンガの色、石壁の色、植物の緑色、そして澄んだ空の色。


 長閑で、緑が豊かで、こまごまとしている。


 白い石造りの家々の合間に、家を覆いそうなほど立派な樹木たちが生え並び、自然との共存をナチュラルに主張してくる。

 反対側では掘立小屋形式の倉庫や店などがある。木や金属で作られた道具たちが柵の後ろに大量に置かれている。酒樽がある辺り、酒屋もあるのかもしれない。


 道の中心に植えられた大きな木を境に道が狭くなり、石造りの白い家の家屋に挟まれる。老婆が通りがかり、老婆特有の全てを悟ったような穏やかな薄い笑みを寄こされる。

 子供が三人前からやってきて、「ジョルデだ!」と親しげに口々に叫ぶ。ジョーラが「今日は遊ばないぞ。しばらく会えないから元気でな」と言うと、女の子が不満の声を挙げるが、ボロ布を着た少年が「今度は負けないからな! さよなら!」と言うと、少女ももう一人の少年もさよならと威勢よく言って去っていく。インを見てみると、目じりが下がり、頬が溶けていた。


 また道が広くなり、金属を打ち付ける音、気合を入れる声とカカシに木刀を殴りつける音らしき打撃音が聞こえてくる。鍛冶屋と詰め所だ。

 結局弟の方ばかりで、兄の方はあまり接点が生まれなかったなと思う。ドワーフだと勘違いして喜んでいた頃が懐かしい。


 網膜に焼き付けるかのようにしっかりと村の風景を眺めていると、厩舎はもうすぐのところまできていた。

 小さな村だ。村長宅が目に入る。役所にいるんだろうか。行ってきますよ、村長さん。


 厩舎の傍までくるとなにやら大声が聞こえてくる。


「イスル!! まだ一番の馬は帰ってこないのか!!」

「だから~オックルたちはまだ出たばかりなんですって。ラビアに行ってるって言ったじゃないですか」

「むうううぅぅ。もしかしたら引き返してくるとかはないのか!?」

「さてね。そんなことは僕は知りません」


 イスル君がふいっと、大声を出していた巨躯の男性から離れていく。やっぱり猫っぽいよなと、頭に猫耳を生やしている厩舎番に考えを馳せる。


 さきほどからイスル君に怒鳴り、地団太を踏んでいる巨漢は、メイホーの詰め所の警備隊長であるバリアンさんだ。

 暗めの茶髪がダイコンの葉のような生え方をしている頭。警備兵服でいくらか隠されているが、小顔効果抜群の、ヘイアンさんと同等かそれ以上のムキムキマッチョ。腰には長剣と、それから棍棒を提げている。


 ジョーラがため息をつく。


「やれやれ……全く。どこにでもいるよな、あの手の奴は。ハリィ、また頼むぞ」


 今度はハリィ君がため息をつく。ハリィ君に何度もため息をつかせるという意味では、バリアンさんは貴重な人材だが……。


 バリアンさんは見た目のままに、おつむが残念な人だ。


 それはもう、ハリィ君がため息をつくほどであり、ライリが「実は隊長はヒポルンの森の奥深くで暴れていたオークに育てられてな」と大嘘の冗談を言って、堅物でたぶんピュアなアリオが苦笑しながら否定しないくらいときている。


 声が無駄にでかい。物覚えが悪い。都合が悪くなるとすぐに駄々をこねるか責任転嫁をする。

 おつむが残念な人の嫌な主要ポイントをしっかり三つとも揃えているいい歳の男をたぶん俺は初めて見た。俺、老人付き合いあまりなかったからね。


 バリアンさんを見た時、俺ははじめ、うちの園村課長を思い出した。課長も体格がよく、言動もバリアンさんと似ていたのだ。


 もっとも課長の方は物覚えは割とよかった。ただ良い方向にはいかず、人の失敗をいつまでも覚えていて、ときおり冗談めかすなり卑屈にこぼすなりで日々言うがために鬱陶しさが増していた。

 根の気の弱さからセクハラなどはなく、ありがちな口の臭さや加齢臭なんかは気にしていたようでなかったが、パワハラまがいの新入社員いびりはあり、ちょっと優しくするとすぐにつけあがっては怒鳴るようになる厄介な人でもある。誰もがクソ課長と呼んでいたものだ。


 バリアンさんはどうか分からないが、また、課長は仕事が大してできなかった。

 正確には、昔はそこそこやり手の営業マンだったらしいが、「課長になって傲慢になり、部下に甘えすぎて出来なくなった」だ。


 部署内ではそんな課長とは、日頃から東君や小林君をはじめ、みんな1度はキレるか問答を起こしていて、もう少しで大手の取引相手の1社をなくしそうになったこともある。

 この大事件はまあ課長一人だけの問題ではなかったのだが、部署内での不信任は決議されたようなもので、転生前には現在進行形で内々で人事に降格処分を進めてもらっていたほどだった。

 3年もすれば役職定年だったが、3年もあれば、新しい課長の人も課長職が板についている頃でもある。俺たちの知らない人が課長になっても、前任が部署内で降格処分が決議されたとあれば、変なことはしないだろうし、園村課長の二の舞にはならなかっただろう。


 ちなみにバリアンさんは50歳らしく、戦士としての強さ的にはヘイアンさんが同列だと言われていたように、二人のレベルは仲良く21で、メイホー最高レベルだ。


「ほんといつもいつもうるさい人だなぁ……昼寝もできやしない」

「ごめんよ、なんか」


 馬を撫でながらそう愚痴るイスル君の背中に声をかける。


「あ、ダイチさん! いえいえ、気にしないでください! ジョルデさんたちもこんにちは~」

「ハリィがすぐ落ち着かせるからな」

「助かります!」


 イスル君の撫でていた馬が俺のところに首を伸ばしてきたので、鼻筋の下の方を撫でてやる。馬は気持ちよさそうに目を細めた。

 ディアラとヘルミラがこっちを見ていたので、来させて触らせる。ディアラの方は上手く触れたが、ヘルミラの方は鼻息をかけられてしまった。


「大丈夫?」

「はい……」


 今朝作っていたふきんはもったいないように思ったので、縫われていない布を渡す。

 イスル君が「その子も大丈夫だよ」と言いながら撫でると、馬は少しおとなしくなり、改めてヘルミラが触れてみると成功した。ヘルミラは嬉しそうにして耳を動かしていた。


「あの馬鹿男の騒ぎは何なのだ? ……っと、あまり舐めるでない」

「その子はレイニーって言います。ダイチさんのはマルローです。名前を呼んだら喜ぶのでよかったら呼んでやってください~。あの騒ぎはですね、別に意味なんてないんです」

「というと? マルロー顔近いよ」

「マルローはレイニーと同じで人懐っこいですからね。あの人からは一番の馬を出せって今朝方言われたんですけど、その馬、前にダイチさんたちの馬車で走らせたオックルだったんですけどね、もう出た後だったんです。なのにああして出せ出せとかれこれ今日は四回目です。叫んでも馬は戻ってきません。だから意味はないんです」


 イスル君はプリプリしながら口を突き出してそうこぼす。

 4回はうざいな。50歳というし、もう痴呆が始まってるのかもしれない。


 ハリィ君が噂のバリアンさんを連れてやってくる。強面の表情は落ち着いたもので、叫ぶ気配は微塵もない。……というか、緊張している?


「いいか、バリアン。厩舎の人や村の人に迷惑がかかるので、あまり大声を出さないように」

「はっ! 申し訳ありませんでした」


 バリアンさんが手を後ろにやり、目線を上にする。よくある軍人や兵士が上官の話を聞くポーズだ。

 バリアンさんはちらりと目線を動かし、すぐに戻した。目線の先にいたのはジョーラだ。ジョーラは腕を組んで、面倒くさそうだが見定めるように彼を眺めている。


「それと、馬はあるもので構わない。私はそう言ったよな?」

「はっ。ですが、良い馬でお連れしようかと……」

「もう一度言うぞ? 馬は。あるもので。構わない。私はそう言ったよな? 我々の恩人がそう言ったんだ。聞けないか?」


 ハリィ君がそう問い質す。態度こそ変わらないが、言葉には圧がある。さすが七星の大剣の副隊長、辺鄙な村の警備隊長くらいでは手も足も出ないらしい。

 バリアンさんはちらりと俺に目線をやるが、視線はまたすぐに空中に戻った。


「はっ……! 申し訳ありません!」


 バリアンさんは叱られている子供のようにぎゅっと目をつぶり、そう叫ぶ。さっきの傲然な態度はどこいったよ……。


 二人の身長も体格も、結構な差がある。LVも倍離れているんだが、バリアンさんは見た目はここにいる全員軽くひねりつぶせそうなので、ハリィ君が猛獣使いか何かのように見えてくる。


 にしても、大丈夫か、この警備隊長……。警備兵に稽古をつけている時は、少々荒っぽいが厳しいだけの人に見えたものなんだけどな。

 まぁ……警備兵が、やる気のないライリや酔っ払いのヒューリさんのような人たちばかりだと、こういう人が上司になってしまうものなのかもしれないけど。


「相変わらずハリィさんは凄いですねぇ……」


 イスル君がハリィ君を尊敬の眼差しで見ていた。お尻の尻尾がゆっくりとふりふり揺れている。全く同意だよ。


 厩舎の倉庫整理の手伝いをしていたディディ、アルマシー、ハムラがやってくる。

 アリオたちが部屋に来た後、彼らとは食事をして友好を温めつつ、出発の計画も一緒に立てていた。俺たちが厩舎に来るまで、倉庫の手伝いをするというのも計画の一端、ハリィ君の指示によるものだ。


 ライリだったらなぜこんなことを、と言いそうなものだが、彼らは特に口答えはしなかった。結束力の差ね。


 俺たちは馬――触っていたマルローとレイニーが幌馬車に繋がれるまでの間、出発の準備に取り掛かった。

 とはいえ、俺たちの荷物は姉妹の武器と、トートバッグと魔法の鞄の少量で、すぐに終わったので手伝いをすることになった。


 ジョーラ部隊の面々は、馬車に並走する各自の馬に積み荷を乗せ、ディアラとヘルミラはその手伝い、俺とインはイスル君が暴れないように是非触ってやってくれというので、マルローとレイニーと戯れることになった。なんか遊んでいるようでちょっと申し訳なかった。


 ちなみにバリアンさんは、厩舎の前で、例の軍人のポーズで突っ立ったままだ。

 ハリィ君から、「厩舎の人たちに迷惑をかけたので黙って立っておくように」という罰を受けたからだ。


 罰と言えるか微妙なところだし、バリアンさんのような人は全く好きではないので別にかわいそうとかは思わないが……ここまでくると、犬の躾だなと思う。

 犬をしつけるのと同じだよ、とは介護職に就いていたストレスMAXだった知人の暴言の一つだが、妙に納得した。大柄で手に負えないなら、なおさらそうなりそうだ。

 でなければ、“噛みつかれる”からだ。実際、介護の場では、彼らがぶってきたり、暴言を吐いてくることはよくあるそうだ。実際に噛みついてくることもあるらしい。

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