3-4 紙屋と英雄ウルナイ


「4人かな?」

「そうです」


 全身に銀色の防具をつけ、冑だけを外した中年の男性兵士が俺たちを見定めようとする。

 彼は鎧の上には、胸に白い三角形が横に三つ並んだマークの入った緑色の服を着ている。


 生の全身鎧フルプレートは、どこも曲線が滑らかで惚れ惚れするほどだ。ぱっと見、使われている留め具が鋲だけっていうのが正直信じられない。

 薄そうな鉄板だし、指先なんかは小さな鉄の板をうろこ状に重ねているだけなので、重厚かといわれるとそこまででもない感じなのだが、鎧の分中年男性の体型はだいぶいかつくなっていて、それなりに圧迫感がある。


 でも当の彼は、ちょび髭はないが、服屋のミュイさんの雰囲気に近い品の良さがあって、兵士的な威圧感というとあまりない。

 職業柄か、仕事中だからか、それとも性格的にかは分からないが人を見下しているような雰囲気はあるが。


 生兵士への感動という意味では、反対側にいるバイザーを上げて、斧槍ハルバードを片手に仁王立ちしている男性の方がずっとある。

 彼は俺たちの挙動一つ見逃すまいとばかりにこちらをじっと見ている。ただの寡黙屋なのかもしれないが、実に門兵らしい使命感と威圧感が彼の佇まいにはある。


 カシャカシャ音を立てながら、ミュイ風の中年門兵が俺たちの後ろに回る。

 後ろにいる、斜面で転がりそうなほど大きなリュックを背負った商人風の大男が少し後ろに下がった。

 大男は気付けば、ターバンの下には大きい鼻に分厚い唇に浅黒い肌と黒人風の男性だった。もちろん黒髪だ。ついに黒人も出てきたか。


「ダークエルフは珍しいね」

「そうですね」

「今日は何しにきたの?」


 ううむと、後ろで時々唸っていた門兵が前に戻ってきて訊ねてくる。ダークエルフを連れていることに関して何か言われるかと思ったが、特にないようだ。


「買い物です」

「ふうん。メイホーから?」

「はい」

「メイホーからだとそうだよね~」


 俺の回答に特別興味を抱かなかったらしい彼は、傍の小さなテーブルの上に乗せたインクに羽ペンをちょんちょんとつけて、かまぼこ板を薄くしたような小さな板の上でさらさらと羽ペンを走らせる。

 それを4人分繰り返した。傍には板がこんもり入った木箱がある。


 ああ、文字が書けるからここで門兵やってるとかかな? 1200Gだよと言われたので、通行料を渡す。


「はい、通行証。明日の朝には再発行しないといけなくなるから注意するように」


 板には日付が書かれているだけだ。「10, 4, S312」と書かれている。4月だよな?

 こんなので通行証になるのかと思ったが、裏側には判子が押されてあった。逆三角形が三つ横に並んでいる。門兵の服にもあるし、この町のシンボルマークだろうか?


「オッホン。え~日付が読めなくなるほど完全に消えると、再発行扱いになるぞ。それと、日付を書き換えるなんて愚かな考えはやめるように。バレたら3000Gの罰金だからな」


 そういう奴が出てきそうだなと思っていたら、先に言われた。

 でもこの門兵の書く字は、斜めがかった癖のある字を書くようだからねつ造はそれなりに大変だとは思う。それにしても警察みたいだ。


「分かりました」


 まあ揉め事にはしたくないし、変に興味を引かれても面倒だったので、短い言葉で済ませる。


 ウインドウが出てきた。ミゲルという彼は45歳でLV12らしい。

 うん、ライリにも勝てないね。魔法兵の可能性もあるけど、文官の方が彼は似合っている。


「では次ぃ!」


 俺の文官予想とは裏腹に、ミゲルさんはピシャリと列の後ろまで聞こえそうな掛け声を出した。声は腹から出せるらしい。

 さほど雄々しくはないが、明瞭でなかなかいい声だ。現実の俺と同じもやしのミュイさんにはきっと出せないだろう。さすが兵士だ。


 もう一人の寡黙な門兵が斧槍の石突を地面に数度叩いた。彼が立っているのは石畳なので音がよく響いた。

 列が動く。どうやら行ってよしの合図らしい。

 中年門兵が黒人商人に俺にしたのと似たような質問をしているのを聞きながら、俺たちは西門を潜った。


>称号「都市に来た」を獲得しました。



 ◇



 塀はそんなに高くないので外からある程度は見えていたのだが、メイホーでは味わえなかった街並みや人々の喧騒、建築技術の高さなどが、西門を潜った俺たちを出迎えてくれた。


 メイホーが田舎だと痛感させられたのは、まずケプラの道という道がすべて石で埋まっていたことだ。

 メイホーの道は基本的に砂土で固めた黄土色の地面で、道の周り周りにはどこにでも容赦なく短い雑草が生えまくっていたからね。ケプラの道周辺には雑草の類はない。

 ただ立派な石畳かと言われると微妙で、石の形は不揃いだし、これといった様式めいた並びでもない上に砂で半ば埋まってしまっている。これはちょっと興味深かった。

 それと「車道と歩道のような区別」がケプラの道には作られている。メイホーには当然なかったものだ。

 もっとも「ような」としたのはそんなに厳密に仕切っているわけではないためだ。縁石は並びが他と違うだけで、高さも大して違わない。砂もあるので少し分かりづらくなっている。

 そのような半端な縁石のため、通行人は車道歩道関係なしに多い。とはいえ、単に馬車がひっきりなしに通るわけではないためかもしれない。

 また、もし縁石に貴族の馬車がつまずいたりしたら? 結構厄介なことになるだろうとも思った。封建社会だ、貴族を怒らせていいことなんてなさそうだ。


 ケプラの家の作りも違っていた。

 メイホーと同じく石造り様式ではあるのだが、壁の石はレンガ調で綺麗なものだし、2階建てもやたら多い。

 屋根が急斜面になっていて高かったり、玄関口には赤く塗装した天幕をつけていたり、家によって多少石壁の石の積み上げ方や種類が異なっていたりなど、技術レベルは段違いだ。

 教会堂から、縦長のアパートらしき3、4階建ての建物や、ヴァイン亭のような長屋まで建物の種類も色々あり、メイホーの建物がいかに様式・技術的に偏っていたことも分かった。


 ちなみに石造りと言っても、灰色一辺倒なわけではなく。

 道や外壁の石の多くは乳白色か乳白色のモルタルで固められているため、堅牢な印象はさほど与えず、人里として柔らかい印象も与えてくれる。

 堅牢なのは街を覆っている高い石壁のみだ。人もそうだろうが、魔物が襲ってくるのを考慮しての壁なのだろう。

 見上げないといけない高い石壁はなかなか物々しさも与えてくれるが、兵士含め、庶民にとってこれほど心強い城壁もない。


「ほう。メイホーと比べてずいぶん賑やかだのう」


 インがそう感心するのも当然だろうと思う。行き交う人の数はこっちが圧倒的に多いのだから。


 人々の身なりも、だいたいがやはり麻色や草色、皮の色などの地味な色にまとまっているのは違わないが、兵士たちの鎧姿に加えてガンリルさんのような緑色の服や赤色の服などの派手な色合いの服の人が増えていて鮮やかさがプラスされている。


 極めつけは防具をまとい、武器を提げた傭兵風の格好の人が多いことだろう。


 つけているのは多く革の防具のようで、長剣とは別に短剣を腰に提げている人はザラだ。他にも小物入れだの、ポーション入れだの、妙に所持品が多い。

 強面の人もいるのでならず者や悪漢の類に見ることもできなくはないが、装備の厳重さが彼らをその手の人々には見せてくれない。そもそも本当にならず者や悪漢の類なら、街から締め出されてしまうと思う。でなければ兵士や騎士団がある意味がない。


 また、汚れたポケットつきの前掛けをつけ、腰にいったいいくつ提げているのかと聞きたいくらいの数の革の入れ物を提げている人もいる。ハンマーが下がっているので職人だろう。


「そんなにキョロキョロしていたら田舎者だと笑われてしまうぞ?」


 インがそんなことを言ってきて、生暖かい目で見られていることに気付く。

 そんなに目移りしていただろうか。田舎者であるのは事実だとは思うんだけどね。メイホー田舎だし。


 それにしても植物が少なくて少し寂しい。


 メイホーは家より高い樹木なんてざらで、雑草、茂み、空き地の草地、低木、高木にと、建物の合間を縫ってどこを見渡しても植物があった。

 だがケプラでは樹木は家の周りに低木が一、二本あるばかり。雑草も道の周辺に刈りきれていないものがちょろちょろ生えてるくらいなので、見かけない。

 高い樹木を生やしているところはあるようで、ひょこっと顔を覗かせている高木もあることはあるんだが。

 現代では田舎か都会かの判断は人口や人口密度が多くを占めていたが、まだまだ緑化活動をする域にまで達していなさそうなこの世界では植物の多さも判断基準になりそうか。


 あまり周囲に視線を巡らせすぎないように注意しつつ、とりあえずライリの言っていたウルナイ像は遠目で確認しているので、西門から道なりに歩いていく。


 すると、すぐに「紙屋」という看板の文字が目につく。看板の下には端をくるりと軽く巻いた紙らしき絵がある。

 紙だけで店を構えられるのか? と内心でツッコミを入れたが、店は小ぶりのようだ。


「入ってもいいかな? すぐに出るからさ」


 紙屋は俺個人の用向きなのでそんな風にいうと、存分に見てよいぞとインがさきほどと同じ生温かい目線を寄せてくる。むう、子供扱いは嫌だぞ。


 開けられた玄関をくぐる。

 店内は木造作りだったが、メイホーの木造建築とは違って家具、床ともに木材の色が明るくなっていた。壁もモルタルで白く固められているようで、雰囲気はだいぶ柔和だ。

 口を半ば開けっぱなしにしていたのに気付いた。恥ずかしい。街の中を見ているときも口を開けてたんだろうか。これじゃ田舎者だと言われても仕方ない。

 てか、そういえば小学5年生くらいまで口を開ける癖があったっけ。そんなところまで反映させなくても。


 口を閉めつつ、気を取り直して陳列されている商品をざっと見たところ、本でも使われているわら半紙のような紙や羊皮紙などの紙の他、インク、羽ペン、判子、封蝋用のロウロクと紙などが置かれているようだった。紙屋ではあるが、値札は相変わらず木の板らしい。

 さすがにというか、文化違いというか、硯や筆などはなかったが、文鎮というか重石はあった。

 重石といっても「丸い石ころ」と「つまみのある鉄の塊」だ。どちらも綺麗に磨かれてはいるようだが……。

 彫刻刀と、門兵のミゲルさんが書いていたようなサイズ毎にまとめられた木の板もある。中世版文房具屋と言った感じかな。


「いらっしゃい。欲しいものあったら言ってね」


 右目の方が少し大きい、人の好さそうな顔をした中肉中背の男性が声をかけてくる。店内の柔らかい雰囲気に合った人だ。

 裏で何をやってるのか分からないが、かけているエプロンはシミで汚れに汚れている。……ああ、紙作りかな?


 それにしても、紙はA4くらいのサイズで一枚200Gもするらしい。相場とも変わらない。

 メイホーでりんごが6個買える価格だと考えるとなかなかにバカ高い。錬金術の本は安くて3000Gだったが、内容は50ページほどだ。紙代だけでも採算が合わない。

 著者のアモン・ハーバリ氏は確か元王都の従軍魔導士という経歴の持ち主で本も人気らしいから、パトロン的な人がいるのかもしれないが、どうなんだろうね。1巻を丸々無駄にしている辺り、結構好き勝手やっている人の気もする。

 でもこの辺では紙はまだ浸透しきっていないようだし、こんなものかもしれない。


「そういや紙なんぞ買ってどうするつもりだ? 本でも作るのか?」

「いや、メモ帳だよ」


 メモ帳? という顔を姉妹ともどもする。メモ文化ないの?


「備忘録にね。今日は何やろう、何買おうっていうのを忘れないように書いておこうとね。あとは……思いついたことを書いておく用途もあるかな。そうすると考えてることの無駄がなくなるんだよ」


 あと、ダークエルフの里の名前を始めとした、ちょっと聞いただけでは覚えられそうにない固有名詞を覚えることも多分にある。


「ほお。なるほどのう。でもそれなら、わざわざ高い紙を使わずに木の板に彫るのでもよい気もするが」

「まあ……そうだね」


 この世界に生まれ育ったならそれでいいかもしれないけど、俺は文字を書くのはペンで慣れてるし。

 メモを取るのに手間がかかったり、いちいち雑念が入るようじゃ、正直メモにはならない。広告ちらしとかがあるなら裏にでもメモを取るのだが、今のところ使用済みの魔法の巻物マジック・スクロールしかない。あれはなんか、メモ用紙にするのはちょっと躊躇われる。


『そういえばお主は転生者だったの』


 ――ご明察。察しが良くて助かるよ。


『であろ? ふむ。紙を備忘録にしていたのか。高価なのにのう。さすが進んだ時代だの』


 ――もちろん備忘録用途だけじゃないけどね。というか、紙はごく一般的なものだったから安いよ。子供でも紙を集めたものを持たされていて、1枚200Gもしない。


『子供ですら持っておるのか……』


 実際は紙の時代は一種の低迷期に入っていて、皆スマホでもメモするようになっていたのだが、冗長になりそうなのでその辺りの説明はやめといた。姉妹もいるし、人の目もあるしね。


 ひとまず紙を50枚とインク――紙は草紐で結ばれ、小さな白い陶器にコルク栓がしてあった――と羽ペンを購入する。インクは1万Gで、羽ペンは1000Gだった。


 また買いに来るのは面倒なので、羽ペンとインクの替えがあるか聞く。羽ペンは問題ないが、インクは店頭品含めて在庫が3個あるということなので、3個とも買うことにする。インクの中身だけは売られていないらしい。


 なぜか店員に驚かれつつ、1個は在庫を残しておきたいと慌てて言われたので、結局2個だけ購入した。紙も大丈夫かと聞いたのだが、紙の在庫はあるので気にしないでくださいと苦笑された。なんかごめん?


 購入品をヘルミラのトートバッグに入れて店を出た。出てすぐにバッグを開いてもらい、手を入れて購入品を全て空間魔法の《収納スペース》に格納した。

 《収納》のウインドウにもしっかり表示されている。紙の説明文には、「紙が50枚入ったセット」との記載。


「軽くなりました!」


 OK。腕を軽々上げる無邪気なヘルミラ可愛い。



 服屋。料理屋。パン屋。代筆屋。靴屋。金銀細工屋。ギルド。……

 住居らしき建物の合間にそんな店々が立ち並ぶ通りを、ウルナイ像に向けて進んでいく。


 服屋はコルヴァンの風とあり、ミュイさんの言っていた本店だと思う。さすがにメイホーよりも敷地が広いようだ。今回は残念ながら用事は特にない。


 ギルドについては奴隷の契約時にも少し触れていたが、不安にさせるのを考慮して聞いてなかったので改めて聞いてみた。もう大丈夫だろう。

 ギルドは何をするところかというと、二人によれば「貴族からギルドへ依頼されている仕事を受けたり、住民登録をしたり、街で商売をするための申請や税の支払いなどこまごました手続きを行う場所」であり、と同時に「ギルドに所属するための手続きを行う場所」とのことだ。聞いていた通りようは役所だ。

 メイホーの役所でも同等のことは出来るようには思うが、大したことはできないだろうとのこと。街の規模が違いすぎるしね。


 職人や商人たちにとってギルドに所属することはまず第一に目指すことらしい。

 ギルドに所属しないと、職人は仕事をもらったりできないし、若い人は職人の徒弟にもなれず、商人もまた街で商売ができないらしい。

 人里に降りたダークエルフにも職人や商人たちが多くいたらしいが、彼らもまた街のギルドに所属することは第一目標に掲げていたとか。

 もちろんギルドに所属しなくとも、さすがに薄給らしいが一応仕事にはありつけるし、スラム街――街の南東に位置する区画らしい――なら全て自己責任の元バレないよう隠れて商売もできる。

 ただヘルミラ曰く、“怖い顔の兵士さんたち”がスラム街を日頃から見回っているとのこと。見つかれば商品は没収され、下手すると捕縛されてしまうらしい。怖い怖い。


 ちなみに後で聞いた話によると。

 ギルドの依頼の内容は、魔物退治、行商人や薬草や鉱物採集の際の用心棒、新しい商売に際しての相談や人や物の斡旋、金品や採集した魔物の部位の売却だったり、貿易路の調査だったり、市からの徴兵だったり、多岐に渡るとのこと。

 シャイアンたちは遠路の移動の際に傭兵を雇ったり、近場で開催される奴隷市場の日取りの確認しに時々ケプラのギルドにはきていたらしい。

 なんとなく依頼に猫探しや人探しとかあるのか聞いてみたら、「貴族様からの依頼でない限りは、そういう依頼は受け付けていない思います」とのこと。スラム街でお金を渡して子供たちにさせるのが早くて安いらしい。

 お金だけ取られるんじゃない? と聞いたら、そんなことをしたら街の人から噂されて生きていけなくなる。子供たちもそれを分かっているとのこと。なんというか逞しい話だ。


 ウルナイ像の近くまでくると、天幕の下で、テーブルやイスを並べている露店が目に入る。


 店主はオニキスっぽい石のネックレスを下げている丸坊主の渋いおじさんだが、出ている家具は明るい木材の所々に小さなステンドグラス風のガラス細工があったりして、こじゃれている。

 テーブル欲しいんだよね。でもまだ仮住まいなのでさすがに購入はしないけども。


「安心安全のハーフル倉庫だよ~~! 倉庫はしっかり魔法の《固定ホールド》で戸締り管理してるし、石壁も二重にした頑丈な家だから、エリートゴブリンの襲撃に合ってもへっちゃらだよ~~!」


 倉庫は、魔法の鞄や《収納スペース》持ちが二人もいるので、今のところは用途がなさそうなのだが……呼子をしているのが兎の耳を生やした子で、少し立ち止まってしまった。

 客に説明するために背中を見せてきた際、お尻に丸い尻尾があるのが見えた。ちなみに名前はラーユらしい。覚えやすい。呼んだら悪口みたいだ。


 犬、猫、兎の獣人は見た。次はなんだろう。あ、ドワーフまだ見てないなそういえば。


 大きな幌馬車がやってきて、通行人が馬車だぞと叫んでいたのでみんなで端に避ける。信号とかないからなぁここ。でもなんだか悪くない一体感だった。危険と言えば危険なんだけどね。


 そのまま歩いてウルナイ像の下まで来た。像を見上げてみる。

 大きな両刃の剣を天に掲げた戦士が堂々と立っている。だいぶ黒ずんでいるし、はっきりとは見えないが、なかなかハンサムのように思う。


 ディアラが像について解説してくれる。


「ウルナイ・イル・トルミナーテ様は100年ほど前の人族の英雄です。当時この辺りで大暴れし、国の方でも手を焼いていたウロボロスという邪悪な魔物の軍勢に戦って打ち勝ち、ケプラを存亡の危機から救ったと伝えられています」

「へえぇ」


 銅像になる人らしいエピソードだね。というか、ウロボロスか。くすぐられるワードだ。


「ケプラの騎士団はその戦い以来から出来たと言われてますね。……元々はここには長い間ケプラの商会ギルドを立ち上げた方が立っていたそうなのですが、ウルナイ様のご活躍を讃えて建てられたそうです」

「詳しいね?」

「ウルナイ様のご一行は私たちのタミアルエの里にも訪れていたんです。色々とお話が残っているんですよ。……ウルナイ様は気さくで強い方だったそうです。当初ウルナイ様がいらっしゃった時、里の警備のダークエルフが矢を射ったりして警戒したそうなのですが、剣で簡単に矢を落とし、戦いにきたわけではないと両手をあげて叫んで、矢を射ってきたことも許したそうですよ」


 ディアラが像を見上げながら誇らしげに語る。英雄らしいエピソードだ。


「お父さんの槍はそんなウルナイ様とおじい様が狩ったカトブレパスの角で作った魔槍なんです。……二人とも半分酔っ払っていたらしいんですけどね。無事だったからいいものの、二人ともボロボロだったそうです」


 ディアラが苦笑して、ヘルミラが「ちょっとやんちゃな人だよね」と、くすくす笑う。

 二人を見ながら、自分の身にふりかかった不幸や里の不幸をあまり引きずりすぎていない姿にちょっと安心する。……いや、今だけか。


 それにしてもカトブレパスか。俺の印象的にはベヒーモスとかと並んで強MOBの印象だけど、神話ではどんな生物だったかな?

 にしても酔っ払って狩られるって。カトブレパスが弱いのか、二人が強いのか。二人はボロボロになって帰ってきたらしいので、きっと弱くはないんだろうが。


「カトブレパスってどんな魔物?」

「カトブレパスはLV40くらいのバッファロー系の魔物だのう」


 うん、普通に強いね。メイホーが壊滅になりそうなのは当然のことながら、ケプラでも現状では相手は厳しいと思う。

 街の中ではちょいちょい情報ウインドウが出てきては住人のレベルを教えられているのだが、20を超えている人はまだ見ていない。あまり参考にならないが門兵のミゲルさんもレベル12だったし。


 というか、おじい様いくつだ。普通に150年生きるっていうからなぁ、ダークエルフ。


「ウルナイ様は美食家でもあったそうですよ。里ではたまにミソシルというスープを出していたのですが、これはウルナイ様が教えてくれたソイビンという豆とコメという食べ物を使ったスープなんですよ」


 んん!?


 ヘルミラの言葉を聞いて、俺の頭の中のウルナイ像が急に日本人顔になった。

 改めて像を見てみる。確かに多少薄めの顔ではある……か?

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