3-3 ケプラへの車窓から


 魔狼を無料で浄化をしてくれた上に、肉を斡旋してくれたということで、ヘイアンさんから奢られた遅い朝食を満喫したあと――いわゆる「ほうれん草とキノコとベーコンのキッシュ」だった。ただし薄味。――俺たちはケプラに向かうため、村の厩舎に向かった。


 厩舎は俺たちが初めて村に入ってきた入り口とは反対側の端にある。つまり詰め所やヘイアンさんの畑がある側だ。方角で言うなら北口になる。

 厩舎に着くや否や、「馬番を呼んできますね」とディアラとヘルミラがわれ先にと人を呼びに行った。何かきっかけあったかなと思いつつ、やる気に溢れた新人社員でも見てるような気持ちにさせられる。


 現実世界では厩舎は見ることはなかったが、ヴァイン亭や魔法道具屋に小さいものだが隣接してあるし、散策時にも既に見ているので、それほどの感動はない。

 むしろ馬自体の方が感動がある。乗馬はやってみたかったことの一つだったんだが、結局やってないんだよね。


 厩舎は扱う物が馬と馬車だけあるのか、なかなかでかい建物だ。


 レンガのように長方形に切った石を積み上げた石造りなのは他と変わらないが、吹き抜けの二階建てで、ヴァイン亭ほどではないが横に広く、小さい住居が二つ分ほどの広さがある。

 馬の匂い、餌の草束の匂い、それからメイホー村自体の匂いと、匂いは色々と混じっている上に濃い。幸い馬糞の匂いはほとんどしないが、窓が妙に大きて広いのは、匂いをこもらせないためかもしれない。

 厩舎の横には荷車を置いた屋根だけの倉庫があり、さらに横には布をかけられた幌馬車が一台止まっている。

 厩舎の後ろに少し行くと、貯水槽か何かなのか、蛇口がついていたらビールかジュースでも出てきそうな大きな酒樽がある。


 馬は馬だ。獣人じゃない。


 “馬面”に、艶のある茶色の肌に。個体によって違うたてがみの生え方に。

 たてがみが目を隠せるくらい長いのがいることに、走る時邪魔だろうなと思ったくらいで、馬は外見上は現実世界と何一つ変わっていないように思う。ケンタウロス的な種族はいるのかなと思ったりもする。


 馬に関して、急に触っちゃいけない・あまり近づいちゃいけないくらいの決まり事は覚えていたので近づきすぎないように観察していると、馬の方から寄ってきた。

 ハミが長いようで、動きは止まらない。そのまま鼻筋を体にこすりつけられた。

 なんだろう、懐かれてる? 横で見ていたインも同じようにこすりつけられたようだ。


「……あれ、珍しいですね~。オックルたちが初めて会う人にこんなに懐くなんて。動物が好きですか?」

「それなりかな?」


 現実世界の俺は特別野良動物に懐かれたことはない。飼っていれば、そのうち懐かれる程度だ。実家ではダックスフントを飼っていたことがあって異常に懐かれていたが、あの犬は誰にでも腹を見せていたどうしようもないやつだった。

 インの魔力が植物や動物に好影響を与えることは分かっているので、その辺りの影響だろうかと考えてみる。インのどの部位が俺の中に入ってるのかは、インも知らないようなんだけどね。


「ご主人様。4人乗りのケプラ行き馬車が一台戻ってきているそうなのですが、それでよろしいですか?」

「うん、それで頼むよ」


 動物が寄ってくる体質なら、棒立ちしていたら肩に鳥とか飛んでこないかなとか思いつつ、可愛く見えてきたのでしばらく触らせてもらう。

 そのうち顔の方に口を近づけてくるようになってきたので、唾液でべろべろにならないように避ける。鼻息は飛竜ワイバーンの2体と同じでなかなか強烈な臭いがした。

 ちなみに俺は犬は、クバーズとシベリアンハスキーが好きだ。飼うなら中型か大型犬がいい。


「はは、こやつめ」


 インは頬を思いっきり舐められていた。拭くものあったかな?


>称号「馬に好かれる」を獲得しました。

>称号「天性の操馬士」を獲得しました。


 え、そうなの? 乗馬いつかやろうかな?


 ディアラとヘルミラがなんだか生温かい目で見てきて恥ずかしかったので、馬から離れた。睫毛の長い濡れたような目が良心を刺激してくる。


「こいつらがこんなに可愛い顔してるのも久し振りです。今日はきっと少しペースが速いですよ~」


 顔分かる??


「できれば安全重視でお願いしますね」


 もちろんです、と厩舎責任者らしいイスル君が、“肉球のない手”で胸を軽く叩く。


 イスル君は猫の耳を生やした男性だ。種族もしっかり「獣人(猫人)」となっている。 

 じろじろ見るのもあれなのでちらっと見てその度に観察していたのだが、耳はかなり大きく、中には細かい毛がびっしり生えている。お尻からは長い尻尾を生やしていて、時折揺らしていた。

 体毛も、見る限りでは人間と変わらない程度の毛しか生えておらず、それ以外では猫要素はない。


 目が大きめなのでそれが猫っぽいと言うことができなくもないが、顔立ちは少し薄めの西欧人のそれで、茶寄りの山吹色の硬そうな髪が頭部を覆っている普通の男性だ。

 ただ人間の耳はない。この発見に若干驚いたせいなのか分からないが、眼鏡をかけるのに苦労するだろうなと、どうでもいいことが浮かんだ。


 彼は31歳という年齢なのだが、身長は俺や姉妹より低く、140センチかそこらしかない。

 村の中で見た獣人はそこまで背の高い人はまだ見ていないのだが、その辺もまた猫要素もとい獣人要素なのかもしれない。


 イスル君についてはこの辺で置いておいて。馬車は狭いがなんとか4人が座れる屋根付きの台車を馬2頭が引く形だ。

 木で作られているが屋根は露店で使われていたような白いキャンバス生地で覆われている。屋根があるのに少し驚いたが、村人は結構ケプラに行くようだし、乗合馬車は儲かっているサービスなのかもしれない。


 魔物除けの札――イン曰く、瘴気にも使っていた《浄化ピュリファイ》の術式を付与したものだろうとのこと――をつけるか、クッションを敷くか、警備兵を一人乗せるか、高い馬にするかなど、イスル君の商魂に内心で内心で苦笑しつつ、安全・金銭的にケチる理由もないのでとりあえず全部のオプションをつけてもらう。


「今日は日帰りですか?」

「ええ。ケプラをゆっくり巡る感じです」

「ふんふん。お客さんは多分うちでは初めての方だと思うんですけど、あまり長い間馬車をケプラに置かないことになっているんですよ。長くても2時間くらいだと考えておいてくれるといいかなぁ」


 他の利用者もいそうだしね。


「分かりました。ケプラの馬車はすぐ取れますか?」

「問題ないですよ~。ケプラの厩舎はここより規模が大きいですし。暗くなれば利用者も減るのですぐに出してもらえるとは思いますが、安全を考慮して料金を吹っかけられてしまうので気をつけてくださいね~」


 イスル君が気づかわしげにそんなことを心配してくれる。オプションの話ではそんな素振りは全くなかったが、そこはしっかり心配するらしい。


「まあいざとなったら、宿に泊まります。なので、馬は返してもらって大丈夫ですよ」


 俺がそう苦笑すると、そうですかと微笑むイスル君。割と大きめの八重歯がちらりと覗く。


 ――お前ら準備できたかー!?


 準備があると言うので、待たされていると、奥からイスル君の怒号が聞こえてくる。なかなか驚いた。

 2,3人の「大丈夫です!」という気持ちのいい返事が厩舎の奥から返ってきた。俺がイスル君と話している頃からせっせと準備を始めていた若い男性たちの声だ。


「コルンです! よろしくお願いします」


 俺たちの馬車を引くことになるらしい黒髪坊主の彼は比較的地味めの顔立ちだが、岩のような体つきで、頼りがいのありそうな人だ。

 イスル君曰く、ケプラ主催の馬車引きレースで1等を取ったことのある逸材なのだとか。体つきあんまり関係なくない?

 でもそのレースちょっと見てみたい。競馬の類だろうと思って、賭け金があるか聞いたら、やっぱりそうだった。


 俺とイスル君の話がつまらんからと言って馬とじゃれていたインを呼んで、俺たちは馬車に乗りこむ。インは袖で顔を拭いていた。ああ、服が。


 ちなみに馬車内は、そうだろうなと思ってた通り、それなりに狭い。外観は赤の背景に緑のラインと派手なのだが、窓にはガラス窓なんかはなく、屋根と同じく生地を垂らしてブラインドカーテン式にしてある。


「おや、誰かと思えばダイチ君か? 買い物かい? アリオの友人その1のライリだよ」


 しばらくして、軽口と一緒に御者台にやってきた警備兵はライリだった。

 アリオはともかく、ライリと話すのは二度目だ。名前のことを聞いてみれば、アリオが俺のことは話のネタにしていてそれで知っていたらしかった。


「まあアリオが話さなくとも目立ってるからな、君たちは」

「あ~……そうかもしれませんね」


 階下で2回騒いで? 看板娘のニーアちゃん助けて、それとさっきは魔狼の浄化もしたしな。村では見ていないダークエルフを二人も連れているのも目立つ理由だろう。インは俺が思うほど目立っていなくて、可愛い嬢ちゃんと言ってきたのが一人二人いたくらいだ。

 ちなみに警備兵が馬車に乗るのは滅多にないことらしい。


 今日は仕事が楽だよ、よろしくなとライリに気さくに声をかけられ、馬車は発進した。いつも割と楽なんじゃないのかなと思ったのは言うまでもない。



 ◇



 小屋から降りてくるときにちらっと景観は見えたので、ある程度は想像していたが、馬車からの景色はどこまでも「野原と石」だった。


 現代だったら普通に田園風景が広がっているところなんだろうが、今のところは田畑は一つも見ていない。

 まずメイホーを出ると、民家というものがまるでなかった。廃屋同然の掘立小屋は一つあったのだけど、ぽつぽつと高木があり、その間を延々と大きな石や伸びっぱなしの雑草群があるのみだ。

 さすがに道の周辺は刈り取られているが……草の生え具合も石の置かれ具合もまばらで、馬車の通り道以外に舗装している形跡はほとんどなく、風景は小汚いと言えば小汚かった。


 まあこれはこれで風情があるんだけど……。


 人の手のあまり入っていない自然ってのは現実ではよく憧れていたものだけど、そうした未開拓の土地っていうのは、逆に見ごたえないんだなとつくづく思い知った。そりゃそうだ。人の心境を幸せにするために植物は育つわけじゃない。

 ただ寝るには絶好の機会だとは思う。風の気持ちよさ、空気の清らかさといったら一級品だ。

 道自体は以前荷馬車で通った道よりも整えられているようで、あの時の荷馬車よりは断然揺れないし、座席にはクッションも置かれてあるからね。


>称号「初乗り」を獲得しました。

>称号「オルフェの車窓から」を獲得しました。


 世界の車窓から好きだったなぁ。ああ、脳内にテーマソングが流れる。


 乗り物に乗るとすぐに寝る性質だったが、同乗者がいるしさすがに寝るのはあれなので、精神にちょっと気合を入れて、朝食中にもしたケプラでの予定を皆でもう少し煮詰めてみることにした。


「――防具は気にかけてくださるのでしたら、革系のものにしてくださると助かります。でも……メイホーでも揃うのではと思います。あまり良いものをいただいても悪いですし、第一私たちはさほど実力があるわけではありませんから」


 ディアラの言葉にヘルミラも同意を寄せた。

 革系か。鉄よりは防御面は劣るけど、軽いってやつだよな。俺としては俄然金より二人の安全なんだけど、重さもあるなら金属鎧一択というわけでもないんだろう。


「メイホーに防具ってあるの? 武器屋では見ていないけど」

「鍛冶屋で請け負っていると思います。……私もお姉ちゃんの意見に賛成です。里で訓練している時は鹿や羊の革の防具をつけていました。一応実践の練習では軽めの鉄の防具を着たりしていましたけど、ちょっと重くて……」


 やっぱ重いのか。まあ、実際はそうだよね。

 防具の話をしたのは、明日する予定のレベル上げ兼狼狩りの時に防具でも着させた方がいいかな? と思ったためだが、やはり普通に着るらしい。


「じゃあケプラは武器目的だね。まあ一応革の防具も見てみよう。お金は気にしなくていいよ。……インは武器防具の類はいる?」

「いらん。それよりケプラでは何が食えるのか知りたいぞ」


 防具の話は退屈だったのか、インはだらけた感じになっている。


「インは食べ物ばっかだなぁ……」

「そんなことないぞ!! 魔法も詳しいのだからな? というか、魔法が使えるから武器防具はいらんのだ。この馬車だって私の防御魔法のおかげで矢一つ通さんのだぞ?」


 防御魔法貼ってたんですか? と少し怪訝な様子でヘルミラ。


「うむ。貼っておるぞ。ちゃ~んと馬車の端から端までな」

「端から端まで……」


 端から端まではすごいな。


「絡め手を使うのもおらん感じだし、本来なら物理防御のを三重で貼るんだが」

「さ、三重!?」


 得意げなインの言葉を遮ってヘルミラが立ち上がり、頭をぶつけた。なかなかすごい音が鳴った。ヘルミラはだいぶ痛がっている。だ、大丈夫か? 3つはおかしいのか?

 ヘルミラの頭をディアラが撫でていたら、インが仕方ないのうと治療魔法を唱えてくれる。狼の噛まれあとにしたのと同じで魔法陣は出てこず、わずかに手が光るばかりだ。


「ありがとうございます……。馬車あまり乗り慣れてなくて……三重ってほんとですか……?」

「うむ。三重が基本だの」

「二重で張っても効果が半減すると聞いてますけど……」


 ええ、面倒な仕様だな……。ゲーム的には面白くなるかもしれないが……俺のはどうなんだろ。


「ああ。累積負荷オーバークロッグか。私のはないぞ」

「えぇ……」

「ちなみにな、ダイチもおそらく累積負荷なしで3つ貼れるぞ」


 ヘルミラがばっと俺を見てくる。葉のような楕円の紫色の瞳がさらに見開かれていた。少し、怖い。


「まあ……うん」


 俺も問題ないのか……。防御魔法が優秀なのは嬉しいところだけども。


「まあ、お主の場合は累積負荷を解くべく制御力の上昇に励むよりもまずは魔力量を増やさねばな。師にはそう教わらんかったか?」

「は、はい。そう教わりました」

「うむ。であれば、レベルを上げねばな。のう、ダイチ?」


 のう、ダイチと言われてもだな……。

 ヘルミラがさっきのちょっと怖かった怪訝な顔を消して、今度はいくらかの不安もあれど期待のこもった眼差しを寄せてくる。

 まあ、二人のレベルを上げようとしていたのは事実だ。


「しかし、うーむ……狼狩り程度なら防御魔法をかけるだけでいいと思っとったが、……防具をつける方がいいのかもしれんの。常に防御魔法に守られるとあっては危機意識が身につかんだろうしの」

「そうかもねぇ……」


 オーバークロッグといい、危機意識といい、リアルな話だ。


「ディアラも頑張ろうね」

「はい! お二人に近づけるように頑張りま……イ゛ッ!」


 意気込んだディアラだったが、妹と同じように立ち上がって頭をぶつけた。ヘルミラより若干音がでかかったと思う。なんか……ごめん。


「お、お姉ちゃん!」

「ご、ごめんな」


 耳が垂れ下がり、だいぶ痛がっているようなので、俺もヘルミラに便乗してつい頭を撫でてしまう。またインが魔法で痛みを飛ばしたのだが。


 天井は木材だ。俺がやると天井破りそうなので、注意しとこう……。


 ライリが姉妹の頭突き音を気にしてか、どうした? と前から聞いてきたので、気にしないでくださいと答えておく。


 そんな感じでケプラで見る物を考えたり、インの魔法講座など色々と話をしていたら、案外早くケプラに着いてしまった。



 ◇



「帰る時はそこの厩舎で頼むといい。夕方前は混むから、それより前か、日が落ちる前辺りがベストだな。暗くなると、一応出してはくれるんだが金を吹っかけられるから注意してくれ。保険だと言われたらぐうの音も出ないしな」


 馬車がいくつも止まり、人混みや露店の呼子の声などで騒がしい西門前から少し離れた場所で、ライリがそう俺にアドバイスする。


「分かりました。検問があるようですが、何か調べるんですか?」

「検問っていうほど大したもんじゃないよ。うちほどじゃないけどな。……君らの顔が大罪人と同じ顔してないか見て、荷馬車なら中身をさっと見るか聞くかするだけさ。あとはあまりにも貧乏な身なりの奴はからかわれて終わるだけかもな。通行税払えないだろうしな」

「なるほど。通行税はいくらですか?」

「300Gだよ。お前さんほど金があるなら大した額じゃないだろ?」


 ライリは意外と色々と見てるのかもしれないと思いつつ、ええまあと頷く。宿住まいな上にダークエルフの姉妹を引き連れているので、その辺の金のない人には見えないか。


「住民でない場合は通行証がもらえるんだが、翌朝になると再発行になるから注意な。あと何か聞きたいことあるかい?」

「そうですね……良い革防具のある店、インクの買える店、ライリさんおすすめの美味しいご飯が食べれるところですかね」


 ディアラたちもケプラのことはある程度は知ってたんだが、この三つはあまり分からないようだったので聞いてみた。

 ふむ、とライリが俺たちを見比べつつ一考する。


「武器も見るのか?」

「そのつもりです」

「なら中央にウルナイ像――この街の英雄の像な――が立ってるんだが、そのすぐ近くに武具屋があるぞ。革の防具はだいたい専門の革細工店で頼むんだが、先に武具屋に顔を出した方がいい。武器も見るなら尚更だな。インクはちょっと分からんが、紙を売ってる店が確かこの西門を入ってすぐのところにあったと思うから見てみな。なかったら像から東寄りの日用雑貨売り場だが、インクはちょっとない気がするな」


 詳しい。まずは歩いてウルナイ像か。


「飯は何が食いたい?」


 インが肉だの、と間髪入れずに口を挟んでくる。


「肉好きな嬢ちゃんとは聞いてたが、相当だね?」


 ライリが面白そうに言ってくるので、苦笑して同意する。


「ウルナイ像から南門へ少し行ったところ、でかい屋敷の横に『ヘラフルの憩い所』って店があってな。別に肉料理の専門店ってわけじゃないんだが、ケプラでは一番って誰もが口を揃えて言う店だ。その分値は張るがな。ま、いい店は大体ウルナイ像の周りにあるよ。……初めて色々見て回るなら、ウルナイ像の周りから見るのがセオリーだろう」


 他あるかいと聞いてくるので、三人にも聞くが特になさそうだ。


「じゃ、俺はコルンと戻るよ。村で暇してるんだったら、詰め所にでも来てくれな。アリオほど村に退屈してるわけじゃないが、よそ者と話をするのは割と好きなんだ」


 お礼を言って、ライリと別れる。的確なアドバイスだったので、迷うことはなさそうだ。


「なかなか知恵のまわる男のようだのう」


 インも似たような感想を抱いたらしい。レベル的にはライリもアリオもヘイアンさんよりも下なのだが、今となったら二人が並んだら、凸凹強者コンビって感じがあるね。


 検問の列に並んでいると、首から番重を下げた中学生くらいの男の子からお兄さんお兄さんと声をかけられる。


「1本どうだい? ウルナイが好きだったっていうフリットだよ」


 男の子が差し出してきたのは、串に刺さった丸い揚げ物だった。さすが街の英雄。

 番重には布がかけられてあるが、その上には荒く編んだ麻袋が置いてある。揚げ物を中に入れる袋なんだろう。


「何が入ってるんだい?」

「それは食べてみてからのお楽しみさ~。味は保証するよ!!」


 商売上手なのかは分からないが、気になるのは確かなので、4本もらう。


「ありがとう~!」


 食べてみるとじゃがいもにチーズが入った揚げ物だった。むしろ伏せられて構えていただけに残念感がちょっとある。シンプルな味付けで、チーズもだいぶ少ないしね。


「あ、美味しい!」

「うん、美味しいね!」

「おお~これはなかなかいけるのう」


 三人にはずいぶん好評だった。なんかちょっと損した気分だ。

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