3-2 浄化と奉公人
バーバルさんに続いて部屋にやってきた警備兵のアリオがニッと笑みを浮かべる。
「魔狼は無事に狩ったぞ! もちろん俺たちにも被害はない。転んで怪我した奴はいるが」
転んで怪我したって。怪我の規模どのくらいなんだろうな。なんにせよ、よかったよかった。
「それは良かった。死傷者ないのが一番です」
俺の返答にうむ、その通りだね、と満足そうなアリオ君。
「ただ一点、気になることがあったんだ。……一応周辺の調査もしたんだがな。狼の森に一部木が切り倒されている現場があってな。ただ切り倒されているだけならいいのだが、切り口が魔法で切ったかのように見事な切り口だったんだ。魔狼の仕業にも思えるんだが、魔狼の風の刃には木を真っ二つにするほどのパワーはなくてな」
……ごめん、それ俺。
「さらに別の木の幹には綺麗な穴が開いてたんだ。丸窓のような綺麗な穴さ。あまりに見事な穴なもんだから驚いたよ。細工師がヤスリで削ればそれこそ丸窓になるほどだった。……ライリが言うには、魔道士が魔法か何かの試し打ちでもしたのだろうとのことで、調査も打ち切りになったんだが、魔法っていうのはあんなにも凄いものなのだな? 木を放り投げて、その放り投げた木で他の木をなぎ倒した形跡もあったし俺はてっきり魔狼ではなく別のオークのような巨大な魔物か何かの仕業だと思ったんだが、皆に笑われてしまったよ。……ん? どうかしたか?」
「いえ、すごいですね、魔法って」
俺はできるだけ神妙な顔で、そう答える。間もなく、インから『お主そんなこともしとったのか』という非難の声が届いた。
……スキル確認はもう少し人里離れた場所にしよう。
「ま、確かにライリたちの言うように、あんなことのできる魔物が近くにいたら、メイホーはとうの昔に騒ぎになって、ケプラからも騎士団が出ている頃なんだろうけどな。……本当は魔狼を狩ってからすぐに報告するつもりだったんだが、久しぶりの大物討伐に沸き立って飲み会になってしまってな。すまない」
「いえ、気にしないでください」
飲み会ね。呑気なもんだが、この村娯楽なさそうだもんな。いや、まあ、現代は娯楽がありすぎるんだけど。
それにしても律儀な男だ。皆からも真面目君扱いされているようだが。
アリオと似ている東くんはそこまで真面目でもなければ律儀でもなかったんだよな。知識欲が人並み外れて強いというだけで。
「しっかり肉も皮も剥ぐ予定だから、しばらくメイホーは潤うな。ヴァイン亭でもそのうち魔狼の肉料理が出ると思うから是非食べてみてくれ」
……魔物の肉普通に食べるの?
横になって聞いていたインが起き上がった。
「魔狼の肉は美味いのか?」
肉好きめ。
「なかなかだぞ。魔物の肉は癖のあるものが多いが、魔狼の肉は特に美味の部類でな。狼の肉よりも食べやすく、それでいて肉の香りも実に食欲をそそると評判だ。俺も食べたことがあるが、ジューシーで美味くてな。そう思う。煮てトロトロにするのもいいんだが、俺はステーキにした方が好きだな。ガツンと肉の味がくるのがまたいいんだ」
ほう、とアリオの通なコメントに興味津々に聞き入るイン。聞く感じは美味そうだ。
「で、いつ料理で出されるのだ?」
「そうだな……これからケプラに瘴気を払ってもらうよう頼みに行くから、早くて明日になるんじゃないかと思う」
瘴気とかあるのか。
「瘴気を払えば食えるのか? すぐできるぞ」
もうやっちゃうの?
「え、できるのか?」
と、驚いた顔を見せるアリオ。
そしてアリオは俺のことを見てくる。その反応は例によってインの小学生か中学生かの見た目的に正しいのだが……そもそも瘴気が分からない上――もちろんファンタジー諸作品にはよくある単語なので、人や動物を狂わせたりする邪気的なものだとは察してみるが――魔物を食べるためにそういったものを除去しないといけないことを今知った身としては、微妙な返信顔しかできない。
そこまでして魔物の肉を食べたいほど俺はB級もいけるグルメではないし、料理の調理の過程を知らずに呑気にうまいうまいと言っていたい現代人の一人だ。
「金はいらんぞ。代わりに肉は食わせてもらうがな」
「それは是非とも嬉しい話だが……魔狼なら魔導士2,3人で一時間ほどかかると聞いているぞ」
「下っ端の魔導士にでも頼んでないか? 回復魔法を多少できるくらいの魔導士では浄化の効率が悪くなるぞ。少しでも効果をあげるために複数でかけているのだろ?」
図星だったのか、インほど詳細を知らなかったのかはしらないが、虚を突かれたような顔をするアリオ。
「私は聖浄魔法には長けているのでな。《
アリオが怪訝な顔でもう一度俺を見てくる。
「すぐに出来るのだったら、今からしてきてもいいですよ。すぐ終わるんでしょ?」
「うむ。任せろ!」
目的が肉なためか、インはやる気に満ち満ちている。全く。
「魔狼の肉料理は、仮に瘴気を今すぐ払ってもさすがにすぐには食べられないですよね?」
「あ、ああ。早くて今日の晩に少量出るかというところだろう。まあ、この子に手伝ってもらってすぐに終わった暁にはヴァイン亭には最優先で肉を渡すよ」
「ほお。なかなか気が利く男ではないか」
インは普段と特に変わらない調子で言っているのだが、アリオは不服そうというか、いまいち納得できていない面白い顔をしている。
アリオとインの掛け合いはなかなか見物らしい。インを一人にするのは不安だが、変なことにはならないだろう。多分。
「じゃあ、戻ってくるまで待ってるよ。朝食は皆で食べたいしね。アリオさんインのことよろしく頼みます」
「了解した。ではこの子のことをしばらく借りて」
「私の名前はインだぞ」
「イン……さん」
「呼び捨てでよい。いくぞアリオ」
この子はいつもこうなのか? とでも言いたげな、首をかしげながら怪訝な顔を向けてくるアリオ。
うん、面白い。東くんのような人からペースを乱されない男が、と思うとさらに面白い。近くでやり取りを見れないのがちょっと残念だ。
「あ、あんまり引っ張らないでくれ」
インに引っ張られ、アリオが部屋から出ていく。
「じゃあ、ディアラとヘルミラは水浴びでもしておいで。歯みがきも忘れずにね。インが帰ってきたら下で朝ご飯を食べよう」
「分かりました。……ご主人様は水浴びしないのですか?」
「俺は二人のあとに入るよ」
そう言ってから、姉よりも内気なヘルミラはともかく、ディアラまで目を泳がせているのに気付く。昨日水浴びをさせた時もちょっとそわそわしていたが……
>称号「
ああ、もしかして主人は先に風呂に入るべきだったか。まあ、どうでもいいよ別に。とりあえず触れないまま、彼女たちに行かせる。
特に何事もなく二人のあとに水浴びしに行くと、ステラさんの“突撃”を受けた。昨日はそのうちくるかもなとは思ったりもしたが、本当にしてくるとは思わなかった。
もちろんステラさんもニーアちゃんと同じく衣類は着たままだったんだが、手つきは丁寧で、ニーアちゃんの倍近い時間体を洗われた。
相手が相手だったので、始めは“息子”の心配をしたが、若返った息子は我慢強かった。
とはいってもステラさんは娘と同じく前は洗ってこず、背中だけを洗ってきただけなのだけども。まったりと会話をしたので、何もないと分かれば和やかな時間だった。
このヴァイン亭名物(?)の際、ステラさんは、自分には年の離れた弟がいることや俺の肌や髪が滑らかで綺麗なことを話題にしてきたが――シャンプーは想像通りなかったが、裕福な人の間では、香油やオリーブオイルなんかを髪になじませるらしかった――俺の勘違いでなければ、妙に時間をかけて腕を洗っていた。
腕フェチか何かなんだろうか? ヘイアンさんの方がよほど触り甲斐のありそうな逞しい腕なんだけどね?
◇
若干疲れた感じのアリオからインを引き取り、あまり信用はしていないが何事もなく無事に瘴気を払い終えたらしい報告を受けた後、水浴びをしてきなよと言う。
「別によいぞ。汚れておらんしの」
「まあ確かにそうなのかもしれないけど、寝てたら寝汗とか」
『この体はほとんど汗はかかん』
念話が来る。
――便利ー……。
インが水浴びしに行った形跡はこれまでなかった。
服も髪も特別汚れたりしていないし、匂いも特別なかったので、七竜としての特性とか魔法か何かでどうにかしているとか考えたりもしたが、そもそも必要がないってわけか。
――まあ体も綺麗になるしさ。一応女の子なんだし、俺やディアラたちと合わせてたら竜だとは気づかれなくなるよ。それに若干獣の匂いするよ?
後半は適当だ。だが、インだけ水浴びしないというのもおかしな話だ。
そう言うと、むうと口を突き出すイン。
『私は人族の女子ではないのだが……仕方ないのう。ダイチたちの生活に合わせんと少々変に思われるしな』
うんうん。
「じゃあ行こうかの」
ほっとしていると手を引っ張られる。
「お主もな」
「え。……俺も行くの?」
「ここでの水浴びは初めてだしの」
インは狼狽えた俺に、たまに見かけるニヤニヤ顔をしてみせる。
『人の子の水浴びの作法は分からん。湖に飛び込むくらいしかしとらんのだ』
それもまあ、水浴びになるだろうけど……。
ディアラとヘルミラがなんとも言えない視線を俺にじっと送っていた。「変態!」と罵ってきたり、現代的なジェンダー感覚は持ち込まないとは思いたいが、役所の話からすると変態的貴族はいるし、それが不健全であるという認識もあるっぽいんだよな……。
弁明的な言葉を言おうとしたんだが、とっさにこれといった理由が思い浮かないまま、引っ張られるままに部屋を出てしまう。
打ち解けてきていただけにため息が出る。
ヘイアンさん一家同様に、彼女たちにもインのことは腹違いの妹だと紹介している。変な風に解釈していないといいんだけど。
水浴び場では当然のようにインは俺の目の前で服を脱ぎ捨てた。羞恥心な。やれやれと思いつつ、脱ぎ捨てられた服を簡易ラックに引っかける。
インの裸体をあまり意識しないようにして、タオルに泡立てた石鹸をつけてこする洗い方や、石鹸について、主に匂い取りと毛穴の話重視で水浴びの必要性について軽く教えた。
途中で「前の洗い方も分からんなあ?」と、くるりと振り向いて煽ってくるので、もうなんかさすがに慣れておこうと誓った。俺は父親。インは娘。それだけのことだ。
しばらくわしゃわしゃと無言でインの脚やら体やら洗う。
「なんだ、もう女子の裸に慣れたのか?」
「娘だと思って洗ってるから」
ほう、とからかいを含んだ声を流し聞きしつつ、シミもなければ毛もない綺麗な柔肌を軽くこすっていく。
「そういえば子供はおらんかったのか」
「いなかったよ。独身」
「ほお。文明が発達しておるというのに」
その理屈はよく分からないが、あまりにも文明が進みすぎているとそう思うのも仕方ないかもしれない。じゃあ文明が発展してるから誰でも子だくさんというのも、いまいちよく分からないけど。
「文明が発達したからこそ婚期が遅くなったというべきかな。利便性がよくなって、娯楽も増えたせいか、みんな興味が薄くなったんだよ、異性のこととか、結婚とか子育てに対して。子供だけが欲しいって言う人も多いよ」
「そ、それは難儀だのう……そのうち種が絶えるのではないか??」
「そうかもねぇ。出生率も減り続けてる。どの国も出生率の改革に着手してるけど、俺の故郷の国は社会的な雰囲気から国民の性格に至るまで種の繁栄にあまり適しているとは言えなくてその辺は特に遅れてるよ」
「ほぉ……謙虚な国民だったか」
「そそ。異性間でもね」
「ふうん……」
しかし綺麗な肌だ。そんなに見てばかりなわけではもちろんないが……正直、職場の女性、セフレや元彼なんかの記憶のどの女性たちよりもずっと綺麗な腕をしていると思う。インの外見の年齢的には当たり前といえば当たり前なんだろうけど。
当然のように、シミ、ホクロ、傷跡の類など、そういったものも何一つない。キメも細かいし、筋肉の付き具合も均等なようで、美少女の白い細腕としてこれほどのものはないようにも思える。信仰される神聖な竜が化けた少女の姿として完璧だろう。
「じろじろ見おってからに。小娘になったときは私は色々と危ないのう?」
インからからかわれる。ガン見してしまっていたようだ。小娘?
「ああ、あまり見慣れてなくってさ。小娘になったときって?」
「あー人化の時間が大幅に減るのでなりはせんが、私にとってはこのくらいの年頃が人化がしやすいのだ」
ああ、なるほど。通常の人化はもう少し年上か。でもそれはそれで安心する。
今のところ、何故か誰もそういった扱いをしないのであくまでも俺の感覚と言う他ないのだが、インにはいって中学生の外見の今でさえ男を軽く惑わしそうな天使的な美貌がある。なんで誰も容姿を褒めないのか不思議でならない。《
幼少時に美少女でも大人になったらいまいち……という例はよくあれど、竜だからな。しかも七竜だ。人化してこの美少女具合なら、大人でも同等だろうという想像しかできない。成人した裸はさぞ魔性の塊に違いない。
もっとも、コスプレ要素が強いというかアルビノ風というか、成人女性時は「天使が顕現した」とかの方が納得しやすそうではあるので、欲に塗れた男たちがインに群がっている様子は少し想像しにくかったりはする。
俺にしても相手はインだし、何かあるわけでもなし、起こそうとも思わないが……。
「なかなかさっぱりするのう!」
「そりゃよかった」
ま、この性格だしね。ちょっとほっとする。唯一俺の身元を知っているインとはこのフラットな関係を維持しておきたい。一応“母親”だしな。
>称号「奉公人見習い」を獲得しました。
タオルで髪を拭きながらご機嫌なインとともに部屋に戻る。拭き終わると、インは犬のように頭を振った。やめなさい。
「おかえりなさいませ」
迎えてくれた二人の態度がちょっと事務的になってる気がした。うーん、妹相手でもダメか?
気を逸らすのも兼ねて、思いついたままに、ヘルミラにインの髪を《
特に含みなく素朴に「なぜでしょう?」と聞かれたので、乾かした方が髪にとってはいいし、髪も綺麗になると伝えると特に理由も聞かずに納得してくれた。
「こうやって風で髪を乾かしたりはしないの?」
「タオルでは拭きますが……」
疑似フリーズドライ技術があっても、その辺の知識はないらしい。
「あ~~~~気持ちいいのう」
と、扇風機の前で口を開ける子供よろしくのんきなインをよそに、真剣な顔でどのくらいの風がいいかヘルミラから聞かれる。それなりの強さで、温度はぬるいくらいでと教えた。
インは何もしなくてもあの美髪なので、果たして効果があるのかは分からない。
ちなみに俺も“髪質は変わっていない”。
転生前とこの世界に生まれた直後の髪質を比較することはもうできないが、特に根拠はないが、現実世界と変わらない髪質だったんじゃないかと思う。
始めはこれに気付いた時、道端で立ち止まって考えてしまった。石鹸が意外といいものなのかとも思ったが、今は七竜のインが美髪であり続けるように、ホムンクルス的な影響に一票入れてある。
この世界には獣人がいて、亜人がいて、一定数の人々が魔力を体内に宿している。体内の仕組みだって違うところはあるだろうし、遺伝子情報だって確実に違う。どのような作用でどのような影響が出てくるのか、転生者の俺が到底想像できるものではない。
インにもこの件に関して聞いたんだが、ホムンクルスの優れた能力云々は知っていても、石鹸で髪質が変わらない理由なんかの細かい「仕様」の方は知らなかった。予想はしてたけどね。
まあ……今は髪をキメてる人が周囲にいないのでいいが、みっともない髪型だけは避けておきたいところだ。
それにしても《微風》便利だ。多少なら温風は出せるようだし、風切り音は全くうるさくないし。魔道具の作り方が分かれば、割と簡単にドライヤー作れるんじゃないかと思ったりもする。
ヘルミラが髪を乾かしている間に、ディアラにケプラ市について教わることにした。機嫌についてはそんなに気にしてないかと思い始めていたが、俺も飲みたくなったので、一応コーヒーを用意することにする。
「ケプラ市って住むとしたらどうなんだい? 正直にお願いね」
ディアラがそうですね、と少し思案顔をする。
「いいと思います。私たちも一時期いましたが、大きな市場があって、武器防具から日用雑貨まで大抵のものは揃います。私たちは大したものを食べてはいませんが、食事が美味しくないという噂は特に聞いたことはありません。ここの食事も美味しいですし、必要最低限のものは揃うところですが、消耗品や防具に関しては不安がありますね……。商人や貴族様はよく王都方面に行くようですが、ここよりはずっと充実した生活が送れると思います」
ふむふむ。おおむね聞いた話や、外観からの印象通りだね。
「治安も良いとは聞いてるけどメイホーよりも安心?」
ディアラにコーヒーを渡しながら訊ねる。ちなみにディアラもヘルミラもブラックが好みだ。
「ありがとうございます。ケプラの方が安心かと思います。確かにここも魔物は弱いし平和ですが……メイホーの警備兵は、皆さんここの住人たちだそうですから」
住人だと何かいけないのか? ディアラがコーヒーに口をつけて、「おいし……」とこぼした。
「ここの住人が警備兵やってると何かいけないの?」
「ケプラにはマイアン公爵様がお作りになったケプラ騎士団があります。団員の幹部は王立の軍学校出身の方だそうですし、団長のヒルヘッケン様は、かつて王都の近衛騎士団の副団長を務めていらした方です。ヒルヘッケン様は市民からの人気が高く、ケプラで安心して商売ができるのはケプラ騎士団のおかげだとは商人たちの間でもよく聞かれた言葉でした」
アリオも触れていたが、騎士団か。これまでは序章で、中世ファンタジーがいよいよ始まりって感じかな。多少物々しくなるんだろうが、ちょっと楽しみだ。
そういえば昨日食事中に話しかけてきた客が言っていたが、メイホーの自警団は昔は王都から派遣された兵が逗留していたんだが、人が揃い、ある程度警備の環境が整ってからは撤退してケプラに行ってしまったらしい。
「兵を置く理由がない」とのことだ。銀竜もこれに関して、承諾というかむしろそうするのが賢明だと言って送り出したらしい。
「それは心強いね。じゃあ魔物の被害とかもほとんどなさそうだね」
「そうですね。ケプラ周辺には、デミオーガやブラッドラットなど、ここよりは強い魔物がいますが、騎士団はもちろん、赤竜様の結界もありますし。近くにエリートゴブリンの大きな巣があるそうですが、昨今はゴブリンたちの方が怖がって、街はおろか道にも近寄ってこないそうです」
デミオーガもブラッドラットもなんとなく分かるが。結界も銀竜仕様ではなく赤竜仕様なんだな。
「ケプラに住む予定なのですか?」
「ん。永住はしないと思うけど、滞在する可能性は高いかな。メイホーはいい村だけど、ここにずっといても仕方ないしね。俺がよぼよぼのおじいちゃんならともかく」
よぼよぼのおじいちゃんという部分に対してだろう、ディアラがくすりと笑う。
余生を過ごすにはいいと思うんだけどね。俺の冒険心はそこまで枯れてない。観光目的というのもあるけど、ティアン・メグリンドの手がかり探しや、他の転生者と会ってみたいのもある。あとディアラたちの里のこともだ。
「しばらく各地を巡ることになると思うけど、大丈夫?」
「もちろんです。私の行く先はご主人様の行く先ですので」
ディアラが力強く言ってくる。なんとも嬉しい言葉だ。ヘルミラも私もついていきます、とインの髪を乾かしながら続いた。
もしかしたら里にも寄るかもしれない、という言葉が出かかるが、同胞に侵略されている上、身内の生死も絶望的なことを思い出して、それは控えた。
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