2-7 ウィンザーの双子


 階下はたくさんの食事客で賑わっていた。 


 焼けた肉の匂い。酒の匂いに、スープの素朴な優しい匂い。どれも馴染みのある匂いだ。

 この分だと食事はある程度おいしく頂けそうな予感。ただ、つられてお腹が……とはあまりならないようだ。色々あったので腹を空かせてもいいと思うんだけど、そこまででもないらしい。

 なんだろうね、ホムンクルスであることで空腹具合に何か影響があったりするのかな?


 チェックインした頃と比べてホールには小さなテーブルセットがいくつか増えている。

 カウンター席も客でいっぱいで、隅の方で積み上げた木箱の上に皿を置いている立ち食い客すらもいる。人気だな。宿というかもう食堂だね。


 というか……あれだ。


 パンはまだ分かるが、みんな手づかみで料理を食べている。


 スープにスプーンを使っている客もいることはいるが、スープは基本的に皿の縁に口をつけている。

 傍にはテーブルごとに藁束がある。あれで手を拭くようだ……。イスラム圏に住んでたこともあるが……お行儀よくしようよとインを責められなくなってしまった。


 傍でパンを短剣で切っている男性客がいた。老人一歩手前といったごくごく見かける髭をたくわえた壮年の農夫らしき人だ。

 短剣を所持しているからといって荒くれ者の類ではないようだ。剣帯つきの鞘がテーブルに出ているので、自前だろう。テーブルに備えつきのナイフがそもそもないらしい。あるのはスプーンだけ、と。

 テーブルには短剣で切っているためだろう、切り傷がたくさんある。一昔前の小学校の机でもここまでの傷はつけないだろう。


 男性から不審の目をもらう。慌てて美味しそうですね、と微笑つきでコメントしてみると「うまいぞ。わしはここ以上の店は知らん」と意外と穏やかにコメント。

 隣に座っている似たような格好をした若い男性からも「メイホーに来たなら誰でも一度は足を運ぶ店さ」と、こちらは不愛想に続けられる。息子か?


 箸がないのは当然として、手づかみとか短剣とか色々と頭を抱えたくなる光景だが、今回は耐えられた。何はともあれ、客はみんなここが極楽でもあるかのように表情豊かに談笑していたからだ。


 奥の方から少々うるさいが陽気な声が聞こえてくる。


「やっぱここの料理はうめえなぁ! 王都の店にも勝るとも劣らねえよ」

「それは言い過ぎじゃねえか? ヘイアンの旦那には悪いけどよ。まあ、俺は王都の店なんぞ行ったことないけどな。げっはっは! でも確かにうめえよなぁ。ソラリさんとこのチーズが欲しくなるぜ」

「チーズか。……あ。なあ、お前さん、熊を誘き出すのに最適のチーズって何か知ってるか?」

「あ? なんだ、なぞかけか? ……うーーん、教えろよ」

「よ~~く聞けよ? カモンベーア・・・・・・チーズってな!」

「げっはっは! やるじゃねえか!!」

「だろう? 王都では美味い飯を食ったら賢くなるっていうのが通説らしいがほんとだな」

「んじゃ俺はそのうち学者先生にでもなるかもしんねえな」


 ……いや、ちょっとうるさいかもしれない。げはは……。というか、カマンベールチーズあるんだな。


「お前さんが学者先生なら、世の中の学者先生たちはいったい何になるんだ?」


 横からちょっと身なりのいい男性が切ったパンを突き刺した短剣を掲げながら会話に参加した。


「そんなこと知らねえよ。王様か??」

「馬鹿言え、王はそんなにいらねえ。国がたちまち滅んじまう」

「ほう。よう分かっとるな。本当に学者先生かもしれんな?」

「へへ。褒めんなよ。だが、そんなことは天下の格闘王アンスバッハ七世王が黙っちゃいないだろうよ」

「ちげえねえ! 俺は100年生きたって王に勝てる気がしねえよ!」


 彼らの周りで笑い声が起こった。格闘王ね。


 インの手を引いて、すみませんと言いつつ店の入り口に向かう。

 カウンター内でお酒を注いでいたヘイアンさんに、客の邪魔にならないようカウンターの端から話しかける。店内はうるさかったので少し声のボリュームをあげた。


「急に人が増えましたね」

「おーダイチくん。これから晩飯だって看板出したからな。まだもう少し増えるぞ」


 そりゃすごい。


 忙しそうなので一言声をかけるだけかけて宿を出るつもりだったが、ヘイアンさんが、ほとんど怒鳴り声だったが客から注文を受けていた見慣れない給仕の女性に声をかける。


「嫁のステラだ。ステラ、この二人は今日から泊まるダイチくんとインちゃんな」

「あら、初めましてステラです。お若いのね。ゆっくりしていってね」 


 嫁というステラさんは、茶髪ポニーテールの小顔美人だった。腕まくりをしている細腕にはニーアちゃんと同じ紐のブレスレットがしてある。ブレスレットには六角形に研いだ小さな白い石がついている。

 きびきび注文を受けていたから明るい感じの女性だと思っていたが、ステラさんは雰囲気はどちらかというとおっとり系だ。俺は少し焼き鳥屋の女将を思い出した。もっとも、あの怒鳴り声に何ともないならもはやおっとりさんではないだろう。

 ついでにヘイアンさんの紹介を聞いたらしいカウンター席のおじさん二人が気さくに挨拶してくる。二人のテーブルにはスプーンも短剣もなく、指先がスープの赤色で染まっている。血に見えなくもない。


「ほう。旅の人か。若いのに大したもんだ。なんか困ったことがあったら言いなさいよ」

「だな。ヘイアンさんや村のもんが助けてくれるからな。遠慮なく。そう、遠慮なくだ」


 どうもどうも。親切な人たちだ。


 客の一人に「ステラちゃーん!」と大声で呼ばれ、ステラさんは行ってしまったので、自己紹介はかなり短いものになってしまった。はーいと応えた彼女の声は店内によく通る、実に聞き心地の良い声だった。

 声って大事だよね。看板娘はニーアちゃんかと思ったけど、ステラさんが本命の人も多そうだ。

 ちなみにニーアちゃんも動き回っているが、客との私語が多いようで楽しそうではあるがそこまで忙しそうには見えない。やれやれ、お母さんに怒られるぞ?


「ま、また時間があったら話し相手にでもなってやってくれ。奥に料理作ってるヤツがいるんだけど、そのうち紹介するよ」

「ええ、是非」


 店を出ようとしたところ、話し声の一つが大きくなり、耳を貫いてくる。


「おまえら! 明日売れなかったらどうなってるか分かってるよな!? ウィンザーで死にそうだったのを助けた俺の恩を忘れてねえよな? ハーフゴブリンのお前らなんて拾ったとしても扱いに困るなんてのは分かってたんだよなぁ。俺もやきが回ったもんだ。さて、そんな俺はオルフェ紳士だったのかな?」


 つい反応して見てしまうと、壁際のテーブルに男が二人ついていて、一人が壁に向けて身を乗り出していた。その先には床に座り込んだ二人の少女がいて、恐怖の混じった顔で怒鳴った男を見上げていた。

 内容が内容だけあるのか、周囲の話声は少しばかりボリュームが下がったようだった。


「おーおー! シャイアンの奴、あんまりいじめてやんなよ?」

「ハーフゴブリンなんて珍しいじゃないか」


 と、客の数人がヤジを飛ばすが、「あーうっせえうっせえ。俺の商品だ、文句出すなよ」と、シャイアンというらしい男性はあまり取り合わない。内容が内容なだけ、という俺の思惑はあまり通じないらしい。


 あまり清潔ではなさそうな衣類をまとった二人の少女は、褐色の肌、金色がかった白髪、そして横に耳が長いハーフゴブリン――ではなく、ダークエルフだった。この世界のダークエルフをまだ見ていないので絶対そうだとは言えないが……。


 と、そうこうするうちにウインドウが出てきた。早い。まだ俺は彼女たちのことを何も知らないのに。さきほどレベルをあげた《洞察力》のせいだろうか?


 ともかく《鑑定》ウインドウによれば、前の方にいて髪が少しカールしているのが、


< ディアラ(ディアラ・トミアルタ)LV13 >

 種族:ハーフゴブリン(ダークエルフ)  性別:メス

 年齢:12(28)  職業:奴隷

 状態:幻想・飢餓


 で、後ろにいるのが、


< ヘルミラ(ヘルミラ・トミアルタ)LV11 >

 種族:ハーフゴブリン(ダークエルフ)  性別:メス

 年齢:12(25)  職業:奴隷

 状態:幻想・飢餓


 らしい。

 シャイアンたちの会話とウインドウの情報から察するに、括弧内が本当の素性というところか。彼女たちが何らかの方法によりハーフゴブリンに成りすましているって感じだろう。しかしハーフゴブリンってことはゴブリンと致すのか。人間の性癖には色々あるとはいえ、なかなか変わった性癖だと思わざるを得ない。


 彼女たちは見た目は双子だ。ただ、妹のヘルミラの方が髪の結び目の高さが低く、よく見れば姉よりも恐怖が色濃く顔に出ていて性格も気弱そうに見える。

 二人ともニーアちゃんと近いような幼さの残る顔立ちだが、実年齢は二人とも20代らしい。ディアラに至っては俺の1個下だ。

 普通に出会っていたら、ファンタジー的代名詞の一柱の登場に素直に喜んでいただろうに。


 怒鳴ったほうの男の情報ウインドウも出てくる。


< シャイアン LV13 >

 種族:人族  性別:オス

 年齢:36  職業:奴隷商人

 状態:健康


 情報ウインドウの内容を見て、さっきしていた会話の内容と照らし合わせて、まあそんなところだよなと納得する。

 シャイアンの前にいる男のウインドウは喋っていないからか出てこないが、正直特に見たいとも思わない。同業者か友人だろう。


 かぶっていたターバンのような帽子をむしり取ったシャイアンが席を立ち、奴隷二人の前にしゃがみ込む。


「いいか。明日はしっかり売り込むんだぞ? 俺もそれ以上は面倒見切れないからな。確かにお前らはハーフゴブリンだが、容姿は結構人族に近いし綺麗どころだ。さらには双子ときている。そこを俺は買ったんだ。絶対に好きなヤツはいるだろうってな」


 ハーフゴブリンとしてシャイアンの目にどのように映っているのかは分からないが、確かに二人の顔立ちはファンタジー諸作品のダークエルフの例によって整っている方だと思う。

 ただそれにもまして、まとっている汚れた服や、やはり汚れている手足など、貧相で痛々しい身なりや怒鳴られている状況の方が目に余るが……。


 店内の喧騒はほとんど戻っていた。何人かは未だに興味深そうにシャイアンと奴隷とのやり取りを眺めているが、ニヤニヤしているわけでもなければ、無機質な顔を寄こすでもない。

 さしずめ、知り合いがちょっと真面目な話をしているのを横で聞いているといった風だ。街中には奴隷らしき人々もいたからな……。


「俺の商人の目は曇ってないだろ? お前らハーフゴブリンをこんなに優遇してやってんだ。そのうちアズバリの旦那のような亜人好きの金持ちに目が留まり、そして俺のかわいがりっぷりに感激して大金をはたいてくれるって寸法よ。……おい! 分かってんのか!?」


 シャイアンがヘルミラの肩を乱暴にゆすり、手首からステラさんと同じ六角形の白い石が躍る。ヘルミラは抵抗せず、身を縮めながら、じっと我慢するように目をつぶっている。

 シャイアンは悪党って顔でもないんだが、神経質そうではある。テーブルには空になった食器がいくつかと酒瓶、コップが置いてある。


 俺はいざという時のためにカバンに手を突っ込み、硬貨を一枚取り出して、鞄の口ぎりぎりのところで指で挟んだ。


 当てるのは顎辺りでいいか。だいぶ加減はしてやる。このくらい我慢しろ。


「食事の場所で変なことしようと思ってないでしょうね?」


 俺の《投擲》準備をよそに、ステラさんがシャイアンのテーブルの前に立って声をかけた。ステラさんはとても腕っぷしが強いとは思えない人なのだが、こうしたことに慣れているのかなかなか堂々とした振る舞いだ。


 ステラさんがそう言うと、シャイアンの方も立ち上がって対面する。まさか取っ組み合いに……とはさすがにならないようで、シャイアンが大げさに両手を挙げて肩をすくめた。


「変なこと? もちろんですよ。ここはこの村、いや、ベルマー領内で一番の料理が食べられる場所な上に、そんな料理を提供してくれるヘイアンの旦那とステラ姉さんの愛の巣だ。むざむざこいつらの汚い血で汚すような野暮な真似なんざしませんよ。だよな!? おまえら!!」


 シャイアンが腕を挙げて叫ぶと、客たちの半分ほどが一斉に呼応する。うるさい。

 呼応している人の中には、警備兵の人やガンリルさんのような人の好さそうな商人もいる。俺の用意した敵愾心とはあまりにも異なった店内の雰囲気に呆気に取られる。ステラさんも憤慨こそしているが、姉妹に対してそれらしい憐憫の情があるかと言うとおそらく違う。


 俺は舌打ちしたい気分になった。


 シャイアンは調子がいいことこの上ないが、客たちの結託具合を見るに、誰かが叫んだり、喧嘩したり、その後に仲良くなったり、そんなことは日常茶飯事で日常の一部なんだろうなと思わせられる。

 もちろん、ハーフゴブリンが奴隷であることや、奴隷に対するシャイアンたち奴隷商人の言動もまた「日常」であり、さほど同情を寄せるものでなかったことも感じ取れてしまった。


 前髪で気づかなかったが、シャイアンの額にはかなり大きな切り傷があった。この村の一部の人々には帽子を被る習慣があるようなのは分かっているが、シャイアンの場合は額の傷を隠しやすくするための用途もあるのかもしれない。一応商売人だしな。


 それにしてもシャイアン、お前なんで名前に濁点入ってないんだよ。別にどうだっていいけどな。


「別にここは愛の巣じゃないんだけどね。家はここじゃないし。それにしてもあなた意外と親分肌よねぇ。食器下げるわよ」


 全くだ。物語の展開的には三下なはずなのに、むしろ敵に回したくない感じがいくらかあるよ。

 ステラさんの感想に同意してると、情報ウインドウが出てくる。


< ステラ LV10 >

 種族:人族  性別:メス

 年齢:34歳  職業:給仕

 状態:健康・妊娠


 と出た。ステラさんのお腹は至ってスリムだ。知っているのかは分からないが、おめでたらしい。


 シャイアンたちが騒ぎ始め、客たちもダークエルフの姉妹たちに目がいかなくなる。姉妹たちもほっと胸を撫でおろしたようなので、硬貨を鞄の底に落として手を出そうとすると、インが左手首を軽く包んだ。


「これでどうするつもりだったのかのう? 第一、ダイチは右利きだろうに」

「俺は両利きだよ。まあ完全とはいかないけど。なんかあったらちょこっとぶつけようかとね。大事になりそうなら、二人のいる近くにお金でも投げて男の機嫌取りにしてさ」


 鞄から手を出す。《投擲》スキルをLV10にしたら、便利なことに投擲に関しては利き腕関係なくなっていたんだよね。投げ方はさすがにいくらか下手な感じなのだが、右でも左でも同じ力加減と命中率で投げられる。

 ダーツをやったらどうなるかは、ちょっと気になるところだ。趣味でちょっとやってたからね。


 今度は手をがっしり掴んでくるイン。そのまま引っ張られる形で俺たちは店を出た。出る際に客と談笑して騒いでいるシャイアンが目に入る。……ほどほどにしとけよ。


「ダイチはなかなか知恵が回るの。しかしな、奴隷なんて世の中にいくらでもおるぞ? あれも珍しい光景ではない」

「そうなんだろうけどね。ダークエルフだったからかな、ちょっと意気込んじゃった」


 ボロ布をまとった村人は何人か見かけていた。子供たちの中に、普通の服装の子が二人、ボロ布の子が一人で仲良く遊んでいるのを目にして、この村が平和と言われる一端を見た気がしていた。でもそれは子供時代という名の一過性の幻想に過ぎなかったようだ。


「ダークエルフ? ハーフゴブリンだったはずだがの。だいぶ人族寄りの顔したゴブリンだったが」

「隠蔽してたっぽいよ。幻想って書いてあった」


 そう言うと、ふむと目線を落とすイン。何か思い当たることがあるようで、ヴァイン亭の入り口から少しずれた木立の場所で俺たちは立ち話をすることになった。


「《幻想イルシオ》という魔法があっての。私の使った《隠蔽ハイド》よりも強力な隠蔽魔法で、ダークエルフや魔族たちが主に使う魔法だ。《幻想》を真似て人族の魔導士によって作られたのが《隠蔽》と言われておるの」


 ほお。七竜のインよりも強力とはな。魔族ってどんな種族を指すんだろうな。やっぱデーモンとかか?


「……しかしよう看破できたの。ダークエルフの隠蔽魔法は優秀でな。七竜である私にもほとんど分からん。さすがに驚き疲れてきたぞ?」


 インが呆れ顔で言ってくる。俺としては特別何かをしているわけではないので、なんとも言うことができない。


「ダークエルフって人族から嫌われてるの?」


 それとは別に気になっていることの一つを訊ねる。

 ダークエルフは本来的には名前のままに悪役サイドのエルフだが。洋ものだと敵寄り、日本だとエルフと同じで味方寄りの印象がある。MMORPGだとプレイヤブルキャラクターになっていることは非常に多い。


「そんなことはないぞ。エルフは人族に対して排他的な姿勢を見せる種族なんだが、その点ダークエルフは人族に差別感情は少ないし、社交的での。人族への貢献という意味で言ったらダークエルフの方が上かもしれん。……まあ、エルフと同じく奴隷の身となったら、売れば大金、売られた先では良い慰み物になるのは変わらん。あの双子はそれを回避しているにすぎんのだろう」


 インの解答に胸を撫でおろした。あんな光景を見て、敵勢力だと言われるのは少し胸が痛む。

 それにしてもインの説明はある程度納得できるところではあるが、奴隷とか、慰み物とか、今更だが思わずため息が出る。双子というか姉妹なんだけどね。


「なるほどね。エルフとダークエルフは仲良いの?」

「里によるだろうの。だいぶ昔だが、ある大戦の頃に一部のエルフが黒竜の加護を受けたことがあっての。エルフたちは黒竜の力を授かった代わりに黒竜の魔力の影響で青白い肌になったのだが、……そんな彼らと相容れないエルフも大勢いた。彼らがダークエルフになったのは、自分たちエルフの国を救うためでもあったのだが、エルフは本来緑竜を信奉している種族だったからの。緑竜を信奉していながら黒竜の力を手に入れた者どもを受け入れるわけにはいかんかったのだ」


 ふうん……。多神教ではなかったわけね。


「二人は褐色の肌だったよ」

「ふむ。そうだろうの。青白い肌は子が生まれる度に薄まっていったからの。元のエルフの白い肌の色にしようとして、長年肌の色を薄める研究しておったのもいたようだが。……ま、今となっては昔のことだがの。王都の騎士団にも確かダークエルフの騎士がいたしの」


 ダークエルフの騎士か。ファンタジー好きとしてはいつか会ってみたいものだね。


 そんな話をしていると、さきほどのシャイアン、もう一人の男、ダークエルフの姉妹の4人が店を出てきた。


「やばい奴? そんなのは見ませんでしたが」

「そうか……俺の勘はよく当たるんだよ。俺を見てた気もしたんだが。……そういや、メイの奴は腹よくなったか?」

「一応薬をやっていますが、やっぱ微妙ってところですね」

「はー……メイは受けは一番いいんだが。なんだってまたあんなに腹が弱いんだ」

「明日ドルクさんのとこ行くんで?」

「まあそうだな。ドルクのじいさん腕は確かなんだが、ぼったくってくるのがな」


 メイって子は胃腸が弱いのか。俺もストレス性のやつで一時期苦労したよ……。

 買った可愛い子がトイレばっかりじゃ、ちょっとな。シャイアンにしても、いつ返されるか分からない子を売るのは商売人として困るところだろう。


 情報ウインドウが出てきて、


< スリアン LV10 >

 種族:人族  性別:オス

 年齢:35  職業:奴隷商人

 状態:健康


 と、出る。やっぱり奴隷商人か。


 変なところでシャイアンに同情していると、シャイアンたちの後ろをとぼとぼついてきていたディアラと目が合う。ポニーテールが高く、いくらかきりっとした顔の姉の方だ。

 ディアラが俺に気付いた。彼女は多少表情を緩めて俺に軽く会釈をしたあと、ヘルミラに何かを囁く。妹のヘルミラもこっちを見てきて、少々ぎこちなかったが、俺に笑みを返した。俺も軽く笑みを返す。元気でな。


「バレたかもしれんの?」

「え、何を?」

「ダイチがあの子供らを看破したことが、だの。……ふ。ま、あの様子じゃ、ダイチの同情心にほだされたってところだろうがの」

「……目立ってた? 俺」

「まあ、店を出ようとしているところで棒立ちしてにらんどったらちょっとは目にはつくだろうの」


 気をつけよう……。初ダークエルフが奴隷なのが悪い。ゴブリンは立派な外交長官だったのになぁ。あの立派っぷりを見た後だと、ゴブリンが彼女たちのような扱いを受ける奴隷であっても心が痛むんだけども。


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