1-8 好物は肉串


 俺は銀竜から勧められるままに本の上の魔法陣に手をかざした。

 

 すると、

 

【 ティアン・メグリンドからの申請により、ダイチ様は「ルーマン商会ホムンクルス推奨スキル(民間)」を習得することができます。習得できるスキルは以下です 】

 

というメッセージウインドウが出てきて、習得できるらしいスキルが表示される。

 

< 魔法 >

・シールド …… 初級物理防御魔法

・バリアー …… 初級魔法防御魔法

・マインドガード …… 中級精神防御魔法

 

<スキル>

・物理耐性 LV2 …… 物理攻撃の威力軽減

・魔法耐性 LV2 …… 魔法攻撃の威力軽減

・精神耐性 LV5 …… 精神攻撃の効果軽減

・鑑定 LV5 …… 対象の情報を得る

・土地勘 LV5 …… 地理情報を覚えやすくなる

・自己状態 …… 自分の情報を得る

・聞き耳 …… 聞き耳を立てることができる

・健康体 …… 新陳代謝が上がり、健康になる 

 

 

 おぉ、と思わず軽く声をあげてしまった。ゲーマーの性というのもあると思うが、メッセージウインドウには見慣れた魔法やスキルが羅列してあったからだ。


 ん?

 《シールド》と《結界バリアー》はパラディンやウィザードからだな。《識者の哲理マインドガード》や《精神耐性》はアークシャーマン、《物理耐性》はウォーナイトで……バラバラだな。スキルが偏らないのはありがたいけれども。

 

 初見のものもある。知らないのは《土地勘》《自己状態》《聞き耳》《健康体》の4つだ。

 とはいえ、理由はすぐにわかった。地理情報はマップでOKだし、自分のステータスもステータスウインドウを開けば一発だ。

 ようはどれも、“ゲーム的に必要なかったスキル”だからだ。


 《鑑定》もなかったんだが、これも字的に内容はなんとなく分かる。ただ鑑定系スキルはクエストによって取得できる「モンスター鑑定」しかなかったので、相場とか人物鑑定とか、範囲がどこまでなのか分からない。アバウトだ。


 魔法はこの分だとレベルの概念がなく、単に初級、中級、上級で区分けされているだけか。クライシスでは魔法もレベルがあり、スキルポイントを振っていた。

 スキルでもレベルが明記されてないスキルがある。

 絶対ではないが、《自己状態》《聞き耳》《健康体》はスキルポイントを振れないらしい。永続パッシブスキルってところか。


 クライシスにはない《爆発耐性》があるのをみると納得だが、この世界における魔法・スキルに関するシステムは、クライシスと全く同じというわけではないらしい。

 混ざっているだけマシかもしれないが、理解が遅くなるので出来ればクライシス仕様がよかったな。


 それにしても「ルーマン商会ホムンクルス推奨スキル(民間)」か。


 クライシス内でルーマン商会なる商会は聞いたことがない。

 ホムンクルスは強力な兵として使われたというし、軍事利用用のセットアップセットもなかにはあるんだろうか。

 使ってみたかったので残念だったが、攻撃魔法がないのはそのためかもしれない。まだ魔法使いにはなれないようだ。ホムンクルスという奇特な存在にはなっているけれども。

 

「その分だとしっかりスキルは習得できるようだの」

「え? ああ、うん。精神耐性重視で、あとはホムンクルスとして生きるための基本的なスキルって印象を受けるよ」

 

 別に受け取らない理由もないだろう。スキル一覧の下部にあった「習得しますか? はい/いいえ」の「はい」を見つめてスキルの習得に承諾する。

 

 どうなったか気にする間もなく、今度は別のメッセージウインドウが入れ替わりで出てくる。


【 「転生の儀」により、キャラクターネーム『タイチ・長谷川』およびアカウントネーム『t・hmmm』からの引継ぎを行います............ 】


 三点リーダの最後には“砂時計がくるくるしている”。懐かしいアイコンだな……。


 にしても転生の儀ね。

 「t・hmmm」は俺のアカウントネームで正しい。クライシスを続けるかどうかわからないので適当につけた名前だ。


 さて、ここは果たしてゲーム寄りの世界なのかリアル寄りの世界なのか。VR世界で生まれそうな問いかけだな。

 メッセージウインドウには「はい/いいえ」の選択肢もないので、砂時計が動いているままに待つ以外どうしようもないらしい。


「……なあ。俺は現実世界に帰れるのか?」


 銀竜は唐突な俺の質問に神妙な顔で俯いたままだった。少し待ったが、彼女は何も返答をくれない。


 つまり……そういうことらしい。好感を覚えるほど分かりやすい反応だ。


 だが望みはないわけではないだろう。ここは魔法という科学では立証できない技術があり、銀竜の驚きようから察するに、他にも転生者はいるようだから。


 どうやらティアン・メグリンドに会うことに加えて、転生者たちに会うのが俺の旅路の目的の一つになったらしい。


 ため息をついた。


 スキル欄を眺める。


 アカウントネームが出たということは、クライシスとこの世界がリンクしていることは確約されたと言っていいだろう。どの程度リンクしているのかは全く分からないけども。

 ゲームの中に転生なんてほんととんでもないファンタジーな考えだが、とりあえずひとまずは腹をくくるしかない。


 ふと、運営会社がこの転生の事実と関与しているのか、考えが及ぶ。常識的には、技術的に関連性はあるように思えないが、俺は実際に起こった現象の渦中にいる人物だ。


「スーパーハイルって知ってる?」

「ん? なんだそれ?」


 スーパーハイルはクライシスの運営会社の名前なんだが、知らないようだ。

 小首をかしげる銀竜の反応はごくごく自然な反応に見えた。運営会社の名前を出したところでボロは出ないようだ。

 銀竜には体温があり、唇は言葉と同時に動き、会話の語彙も豊富だ。何らかの意図をもってしてスーパーハイル社が設置したNPCである、などというよりは、自律的に動いている――全く普通の、俺たちと同じ知的生命体だと考える方がずっと納得しやすい。


 魔法は本物だった。比較対象がないので、何をもってして本物と言えばいいのか分からないが……俺は吹っ飛ばされ、気絶もした。

 ゲーム的なウインドウやスローモーションなどの不可解な現象はあれど、草木も本物、感触も本物、そよ風や体温を気持ちいいと感じる感触も、そして俺の心も本物。心的障害により“落ちた”のが何よりの証拠だ。

 この世界の経験を、運営会社が何らかの思惑によりもたらした疑似体験と呼ぶにはあまりにも生々しい経験であり、技術も進みすぎている。

 俺のいた世界は別にファンタジーな近未来世界じゃない。人間とほとんど変わらない強いAIが浸透してもいなければ、当然ホムンクルスのような人工生命体もいない社会だ。結びつきを考えるのは……


 息を吐いた。無駄なあがきのようにも思えたからだ。

 ここにはインターネットという便利な代物はない。俺もそういう研究機関に所属していたわけでもなければ、プログラムをやっていた人間でもない。一般庶民の大したことのない現代知識でどうにかできるわけもないだろう。


 なんにせよ。何を考え、行うにしても、準備は大事だろう。この世界のことを知っているという準備が。


 突然、非表示にしていたHPとMPのウインドウが出てくる。


 数値表示のなかったHPとMPが、HPの部分には「HP:12653/12653」、MPの部分には「MP:5478/5478」と出るようになっていた。

 《自己状態》辺りの影響だろうか? 物理職ではMP代わりにあてられていたが、FPファイティング・ポイントではないらしい。ということは、俺は職業的にウィザードになるのか? にしてもレベル280にしてはHPもMPも多いが……。

 

 次いで唐突に空中からショルダーバッグが出現して地面に落ちた。

 

「うぉ。……鞄、だの。なんだこれは?」

「……俺も分からない」

 

 転生の儀云々と書かれてあったメッセージウインドウは消えていて、魔法陣も消えていた。本の方も魔法陣が消えている。どうやら引継ぎとやらは終えたらしい。


 ひとまずバッグを拾ってみる。

 普通の鞄だ。机の上にあったティアン・メグリンド女史の所有物らしき鞄よりは頑丈そうだし、見た目も綺麗なものだが、本当に何の変哲もない皮製のショルダーバッグだ。ブランドマークなんかもない。


 中を開けてみるが、何もない。空だ。手を入れてみる。

 

 突如クライシスで見慣れたインベントリのウインドウが出てくる。

 

 5,745,630,284,032G、PVP用切り替え装備いくつか、大量のMPおよびFPの時間制限つき無限重鎮アイテムとポーション系の消費アイテム、ホムンクルスのクエストで使った素材の残りや、労働者たち向けの消費アイテム……


 残念ながら、キャラが装備していた装備アイテムはないようだが……これはクライシスで操作していた「タイチ・長谷川」のキャラのインベントリの中身だ。驚いたが、引継ぎとはこういうことらしい。


 手を抜くとインベントリのウインドウがなくなった。

 もう一度手を入れる。インベントリのウインドウがまた出現した。なるほど。でも手を入れたときしか閲覧できないのはちょっと不便かもしれない。

 銀竜にも鞄に手を入れさせたが、視界には何も変化ないとのこと。ウインドウも見えていないようだし、まあそうだろう。


 ホムンクルスのクエスト関連で余った素材があるのを見て、俺はさきほど曖昧だと分かった、自分が転生された時期というものを察することになった。


 時期的には、ホムンクルス「超級」のクエストをみんなの協力をもとにやっとのことで終了して、ゲーム内の自分の家でホムンクルスを培養していた頃らしい。

 確か……もう少しで完成じゃなかったか? あまり記憶が鮮明ではないけど、確かにそれ以降のことは思い出せない。

 それを証明するように、PVP用の消耗品もあるが、減ってない。昼寝で寝坊し、久しぶりに敢行したPVP戦にギリギリ出られなかったのだ。ポーション類が減っておらず、夜に狩りをした形跡がないのは、イワタニ達と飲み会をしたためだろう。


 俺がホムンクルスである辺り、ゲーム内でホムンクルスを今まさに作っていた状況とリンクしていると言えそうだが、……この世界はクライシスの世界ではないし、錬成したのはゲーム内では見覚えのないティアン・メグリンドという謎の人物だし、いまいちピースが繋がらない。偶然なのか、なにか関連性があるのか。わけが分からない。

 

 インベントリの食事アイテムが目に入る。

 「神猪の肉串」か……。そういえば俺はまだ食事してないけど、まさか食事のいらない体とかではないよな。味覚は?


「なあ、俺って食事できるよな?」

「できるが……問題なかろうな」


 ふむ。食べてみるか。


 鞄から手を抜くと、目の前の空中の空間が歪み、何かが落ちてくる。慌てて受け取る。

 

 神猪の肉串だった。は……?


 ゲーム内グラフィック情報をリアルにした生の焼肉だ。掌で肉の部分からダイレクトに受け取ってべとついてしまったので、すぐに串の部分に持ち替える。


 てか、でっか。マンガ肉級だよなこれ。ワニとか喜びそうな大きさだ。中は骨じゃなくて串だけど……。


 くるりと回しても肉だ。立体的であり、実物だ。串から伝って肉の脂がつつーっと落ちてくる。

 それにしてもリアルだ。今まさに焼きましたと言う感じで、湯気があがり、ブスブスと小さく音が鳴っている。

 普通に焼き鳥、というか、鳥肉がバカでかいブロック肉になっているバージョンだ。……いや、鶏肉じゃないだろう、常識的に考えて。名前にも猪肉とあるし。なんか混乱してるな、俺。

 

 気づけば銀竜が口を半開きにしていた。口からは涎が出ている。目を見開いて注視しているのは、俺の持つ神猪の肉串だ。……腹減ってるのか?

 

「……食べる?」

「いいのか!?」

 

 銀竜の勢いにちょっと引きながら、俺は頷いて肉串を差し出す。

 

 神猪の肉串を渡すと、銀竜はまず思いっきり息を吸いこんで、匂いを堪能した。極上の匂いらしく、頬がとろけそうになっている。確かに懐かしい感じの匂いだが……。

 そうして恐る恐る横からガブリ。余裕でステーキ肉以上の厚みがあるので割と硬いと思うのだが、銀竜の歯が硬いのか、巨大な竜らしく少女モードでも顎の力が凄まじいのか、それとも意外と柔らかい肉なのか分からないが、あっさりと口の形に消える肉の一部。

 

「……!!! うまーーーい!!」

 

 銀竜は目を見開いたかと思うと、小屋に響く大声をあげた。うるさっ。


 始めは驚いたし、引きもしたが、一心不乱に肉串を食べる彼女の様子には段々と微笑ましくなってくる。机の隅に布切れがあったので、手についた脂を拭いた。


 神猪の肉串は、クライシスの生産コンテンツで労働に従事するゴブリンやオークなどの労働者を労うための食べ物だ。与えることで彼らの体力が回復、もとい彼らの労働により減った「生産力」を回復することができる。

 労働者関連はアップデートされたのは随分前だが、神猪の肉串は一応今でも労働者に与える食事アイテムとしては最高級のものだ。他には「モリンガ入りクリームパスタ」や「宝来亭のビール」なんかがある。


 普段は生産力を回復させるために淡々と与えて、インベントリから数が減るのを見て補充しなきゃな、というくらいの感想しか抱いていなかったものだが、ここまで喜んでもらえるなら持っていてよかったものだと思ってしまう。

 猪はリアルでも食べられるし、神がついているくらいだしね。相当うまい肉なんだろう。この分だと、労働者たちもさぞ喜んでいたにちがいない。

 俺たちの世界ならそこまで美味しいと思える料理は何に相当するんだろうかと考えるが思い至らなかった。いや、松坂牛とかかな? 俺は食べたことないけど。

 銀竜の食べっぷりはじゅうぶんに食欲をそそられるはずなんだが、俺は見ていてもさほど食欲はそそられないらしい。今はあまり腹が減っていないようなので、あとで食べてみよう。


 見ていると銀竜の傍に小さなウインドウが出てきた。小さいと言っても、例によって注視すればウインドウがズームアップされ、スラスラ読める。


 ウインドウには、


< 銀竜(人化)LV105 >

 種族:竜

 性別:メス


 とある。


 今まで出なかったし、《鑑定》スキルの影響か? というか、レベル105だったのか。俺はLV280だし、スキルの威力がとんでもないわけだな。


「な、なあ、ダイチ、どうしたのだ!? この肉は!?」


 ズームアップされた半透明な情報ウインドウの後ろで、名残惜しそうに串を舐めていた銀竜が訊ねてくる。食うの早いな? 情報ウインドウを消す。


「あー……転生前の俺の所持品?」


 ゲームで持っていたアイテムといっても説明が難しい気がしたので、そんな短すぎる解説になった。


「ということはまだあるのか!?」

「あ、ああうん……食べる? 出てこなかったらごめんね」


 猛烈な勢いで首を縦に振る銀竜のために、鞄にもう一度手を入れる。すると、再びインベントリのウインドウが出てくる。

 手をべたつかせたくなかったので、神猪の肉串だけを見つめて、「1本・串の部分を持ちたい」と念じつつ鞄から手を抜き、掌を上にして待ってみる。

 掌の上の空中で空間が歪む。神猪の肉串が出てくると、うまい具合に串の部分が俺の掌の部分に収まった。おお、上手くいった。


 銀竜に差し出す。


「感謝するぞ、ダイチ!!」

「お、おう」


 ガツガツと肉串をむさぼり、時折「ん~~~~」と頬を綻ばせる銀竜。ほんと良い食べっぷりだ。

 指に少し脂がついていたので、舐めてみた。普通に肉の脂だった。うーん? なんか懐かしい匂いがするんだが……思い出せない。


 神猪の肉串は2個減って253個になっている。255個が3セットあるので1,2個の消費は全く問題がない。この世界で神猪の肉串を補充できるかは分からないが、銀竜にはこれまでいろいろと教えてもらっているから全部あげても良いと思う。どうせこの分だと人間よりも食べるんだろうし。

 いや、1セット、100個くらいは残しておくかな。こんなに喜ばれる食べ物ならこれから何かしらで有効活用できそうだし。 

 

 銀竜のがっつきっぷり、喜びっぷりを見ていたら、料理スキルとかあったら習得してもいいかもなあと漠然と思う。この分だとすぐに達人クラスの料理人になれそうだしね。

 というか、飛竜ワイバーン戦のスキル習得具合から察するに、料理を実際に始めたら確実に習得できるんだろうから、割とすぐに振る舞うことができそうだ。もちろん、料理というスキルがないのなら意味はないんだけど。


 インベントリを見ていたら、スクロールバーがあったことに気づいた。ちょっと細めで分かりにくい。

 バーを見つめて、実際にスクロールしているのをイメージしたらできた。下にあったのは、他のキャラクターのインベントリの中身だった。

 アカウントの6キャラ全員分あるらしい。アカウントの引継ぎなんだからそりゃそうか。


 レアものの装備や予備の装備、売れ残りやいつかさばく予定だった売り物のアイテムをはじめ、消滅させるのを惜しんだ末に残しているイベントアイテムやら、新規キャラ作成時に使おうと思っていた大量の経験値アップアイテムやら。色々あったが、一番下の方は上級ポーションと上級エーテルでびっしり埋まっていた。


 懐かしいと思いつつ、内心で笑う。このポーションだらけのインベントリの中身はおそらくお遊びで作ったサブのウィザードだ。


 ウィザードなのにメイン攻撃が杖の物理攻撃というネタキャラだ。中身的にソロで狩ろうとしたのだと思う。もちろんステ振りもSTRにほぼ極振りだった。

 基本的に野良PTに入っても普通のウィザードほど火力はでず、支援魔法もINTが低いがためにさほどの効力が出ずで、早々とソロに落ち着いたのだ。もちろん途中で色々と限界を感じて育成は放棄してしまっているのだが、もういつ放棄したのかすら思い出せないほど昔のことだ。


 ちなみにさらに下の方は空欄だった。何だろう。

 余っているのは50個分ほどだ。空きがあるのはありがたい。日用品入れにでもするか。

 空欄はインベントリの一番下にあるのでいちいちスクロールしないといけないので不便だなと思っていると、50個分の空欄がインベントリの一番上にいった。元に戻したいと念じてみると、また一番下にいく。

 俺はインベントリ内のアイテムの位置は結構気を使ってたプレイヤーだったのでそれほどソート機能は使ってなかったけど、便利だなと思う。


「……ふう。美味であった」


 食べ終えたらしい。俺が作ったわけではないけど、ついおそまつ様と口にした。


「こんな極上な代物を食べたのはいつ振りであろうか……いや、ついぞないな。で、なんなのだ? その鞄は」

「なんか魔法の鞄的なものらしいよ。ちょっと仕様が違うけどこの鞄も今の肉串も、転生前の俺が持ってたものだよ」


 インベントリと言うのもあれだったので、魔法の鞄と適当に名付けた。 


 魔法の鞄? と首をかしげる銀竜に、鞄の中は実際は空だが、所持者が手を突っ込んでイメージすることで中身を取り出せるといった感じの説明をする。

 上限重量とかは分からないが、クライシス準拠なら、装備品以外重さは関係ない、か? まぁあったら確実に重量オーバーになってそうだし。

 

「ほほう! 空間魔法の《収納スペース》のようなものかの。それが魔道具として世間に罷り通っているとは、ダイチもよほど文明の発達した国から来たらしいの!」

 

 “文明”の齟齬はともかく。魔法にも似たようなものがあるらしい。

 鞄は物理的に失くしてしまうという甚大な欠点がある。破れてしまった時にどうなってしまうのかも分からない。

 聞けば《収納》は割とポピュラーな魔法だというし、そのうち習得してみたいものだ。


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