1-7 寝る子は育つ!
銀竜と一緒にティアン・メグリンド女史の家に向かう。
銀竜と話している間ずっと傍にいた黒い竜と紺の竜の2匹が俺たちにのっしのっしとついてきたが、家のある森に入ったところで銀竜が振り向いて頷くとそれ以上やってはこなかった。その場待機らしい。
家の中は出たときと変わりない。一応破壊しないように注意していたので当然だ。
「ずいぶん小さいとこだのう。必要なものはあるようだが。よくここでお主のような力の持ち主が生まれたものだ」
「俺もそう思うよ」
やはり設備的に規模はかなり小さいらしい。ともあれ、魔法陣は変わらず浮かんだままだったので安心する。
「この魔法陣でスキルをもらったんだ。ティアン・メグリンド……家主の好意みたいな形だったけど」
「ほう。何をもらったのだ?」
「《言語翻訳LV5》だよ」
「《言語翻訳》……? まあこの世界には言語は色々あるし、必要といえば必要だろうが。お主を連れて国でも回るつもりだったのかの。それか、…………」
そういやインの言葉は竜語とかじゃないんだな。まあ今は人型だからおかしいか。
《言語翻訳》か。一応目にした言葉が日本語になっているのは確認している。ON/OFFで切り替えればこの世界の謎の言語にもなる。そうなると、《言語翻訳》内の言語に日本語があるということになるわけだが……この世界にも日本語があるという風にはならないか?
そんなことを考えていると、なにやら考え込んでいた銀竜が驚愕した顔で俺を見てきて、
「お主もしや転生者か!?」
と、そう半ば叫んだ。
て、転生者? 転生というとあれか、仏教とかヒンドゥー教とかである新しい生を未来や別の世界でっていう? ……でも転生って赤ん坊からだろ?
訝しむような眼差しを緩めて銀竜が説明をする。
「つまりな、ここで生まれる前にこことは全く別の国で生活をしていたか、ということだ」
「あ、うん。してたよ」
「ふむ……。お主、ここに来た直後の記憶はあるか?」
「直後? あの水槽の中にはいたけど……時々……眠ってはいた」
時計が目の前にあったわけでもないし、どのくらい寝てたのかはわからない。何度か目覚めたようにも思う。
「ではここに来る直前はどうだ?」
直前?
記憶を遡ってみるが、……思い出せない。近頃はそんなに変化のある生活をしていたわけではないので、主に仕事かクライシスをしているかのどちらかだと思うけど……。
「……直前はちょっとよく分からないかな。していたことの予想はつくけど」
「ふむ。はっきりとせんのは当然よの。お主がここにいる道理がない」
なんだその質問。……夢だろ??
銀竜が腕を組んで考えるように目をつぶる。大した時間も経たずに目を開けた。
「なるほどな、合点がいった。なぜ生まれたばかりのお主が人の子のような自我を持っているのか。逆にこの世界の知識をまるで持たぬのか。……まあにしても生まれたばかりで私よりも強いのは聞かん話だが……しかしホムンクルスの錬成と転生の儀を掛け合わせるなんぞ聞いたことがないぞ――」
銀竜の態度や転生者という言葉から、俺は自分の生い立ちのあらまし――現代からこのゲームだか中世ファンタジー的世界だかよく分からない世界に、ホムンクルスとして生まれ変わったという事実を改めて事実らしく突き付けられた気がした。
まだ短い付き合いだが、銀竜が嘘を言っているようには思えない。
魂だの、肉体だの、竜の素材だのと、演技しているというなら相当の腕だ。俺が察するに、銀竜はその手の虚偽が苦手な子だ。
夢ではないのか。……仮にそうだとすれば俺はもう現代に帰れないんだろうか? 身内もいないし、友人もいないし……そんなに惜しい世界でもないか? イワタニたちと会えないのはちょっと寂しいけども。
――唐突に、俺を強烈な不安が襲う。
闇の中に立っているかのような気分だ。
暗い、沼のような、そして濃い霧がたちこめた闇……。
誰かに心臓を鷲掴みにされたらしい。動かされている。やめろ。
気持ち悪い……。苦しい……。むかむかする。もどかしい。やめろ! 動かさないでくれ。動かすな!
やがて脳裏に浮かんできたのは、ノヴァのメンバーとゲーム内でバカ騒ぎしている様子や、一番よくリアルで会っていたイワタニやガブ、ニル、マイの四人との賑やかなオフ会の様子だ。
それから。
いつも無理強いしか言わない嫌われ者の上司が珍しく労ってきたときのこと。
生前の両親と初任給で送った熱海への旅行に繰りだしている様子。
元カノと同棲を始めて間もない頃の仲睦まじく献立を悩むスーパーでの光景。
初めて買った車での一人ドライブ。
新しく買ったパソコンをセットアップする時のワクワクしている俺。……
帰りたい……。帰りたい!!!
滂沱のごとく襲ってきたのは郷愁の念だ。
俺は帰りたいんだ!!
……なぜ? ホームシックか? 別に言うほどそんなにリア充じゃないだろう?……
いや、待てよ。ちょっと変だろ。
一番楽しかった思い出しか出てきてないぞ。むしろ嫌な思い出の方が色濃く残っていたはずなのに、嫌な思い出が全く出てこない。
上司との会話はテレビや芸能人の話ばかりな上に話が浅く、さらにほとんどが愚痴の類で、部署内でもお人好しの部類な俺でさえ上司との会話は避けている。労わってきたのは俺が偶然社長と世間話していたのを見られた日だろう。社長と接点が生まれた日でもある。
両親は仕事ばかりだったため接点がまるでなく、大して仲が良かったわけじゃない。熱海への旅行も、俺は行きに車で送っただけだ。車内の会話もほとんどなかった。
俺はそんなことよりも、その日の夜にする予定だったイベントPVPが実のところ大事だった。二人も旅行や仕事のことなどの自分のことで頭がいっぱいだったろう。俺たちは海外出張がいくらかあったことを除くと、典型的な冷え切った家族、あるいは“下手な家族ごっこをしている家庭”だった。
元カノと仲が良かったのは始めの頃だけだ……。車なんて俺は乗れればいい性質だし、パソコンだって、セットアップ後はとくに感激も何もない。Findows7からFindows10に変えたときの方がむしろ感激は強かった気がするが……。
俺は別に涙もろい性質ではないし、感動的な映画を見て、お涙頂戴の典型的な大衆向けストーリーだと脳内批評するくらいには大人だった。
他の同僚と同じく、約30年生きた身として、オンゲにハマったり、独身貴族を堪能したりしてそれなりに人生を達観していたのに。
帰りたいという子供のような気持ちが急激にしなびていく。
今度は異常なほど悲しい……。現実世界の人、物、風景、建物、空気が、異常なほど恋しい……。
いるのは闇ではなかった。大地がひび割れ、ぽつぽつと枯れ木があるだけの荒れ地だ。どこかで見たようなボロ小屋がぽつんとあるだけの荒れ地だ。
ここはいったいどこだ? 俺がいるのはこんなボロ小屋の中じゃない。俺がいるのは、……。
ノヴァのギルメンとの付き合いが一番楽しい時間だったはずなのに。脳裏に浮かんできた上司や両親や元カノの表情はなんでこんなに優しい顔をしているんだ。そんな顔は記憶に残っていなかったのに。
「そうではない」? 「君が本当に欲しがっていたのは現実世界を心から楽しんでいる俺」? それはまやかしだ!! 俺を散々絶望に突き落としてきた“お前たち”が言うな!! お前らはそんな穏やかな顔をしなかった!!
いつだって、そうだ……。だから俺は人として大事なものを失ってしまった……お前らがつくって閉じ込めた無機質な部屋の中で俺はいつも一人で過ごしていた……ぜんぶ、ぜんぶ、ぜんぶ!! お前らのせいだ!!!!
はあ、はあ……苦しい。深呼吸だ…………。
……ネットよりリアル? そりゃそうだし、俺だって度々引退や休止を決意するギルメンとかにそう言ってるが、それを自分が受け入れるのは時間が決めることであって、焦る部分じゃない……。
DYを受け、容姿からくる嫉妬からいじめを受け、リスカをしていたマイがそうであったように、真剣にネットに逃げるしかなかった人もいるのだ。
俺は? 俺だって苦しかった。俺はいつだって親に振り回され、周りに振り回されて……。その事実を裏から表から少しずつ消化して、ようやく受け入れられ始めたのが最近の俺だった……。
人のせいにするな……そんなことは分かってるんだ。そんなことは……。
……何をしようとしてるんだ、俺は? 現実を頑張ろうと焦ったって空回りするのは分かってるんだぞ? いつだってそうだったじゃないか。一念発起して動いても長続きしないしだいたい失敗するんだ。マイペースで少しずつ受け入れるのが一番なんだぞ。
第一ネットが必要不可欠になった今どき、ネットだのリアルだのと、わざわざ黒白つける問題でもない。もう30歳だし、そんなことは理解して、納得しているだろう?
でもなんで。
なんでこんなに不安なんだ? なんで俺はこんなに悲しいんだ?
なんでこんなに、いつまでも、“現実への帰還”を切望しているんだ……?
父は胃がんで死に、その後母は生活が荒れたことによる心疾患で死に。本当の俺の両親が浮かぶ。いつかアルバムで見た顔はもう思い出せない。
『義母さん! なんで死んだんだよ……』
俺を引き取った義父が死んでまもなく、後を追うように義母が死んだ時、義父の時と違いなぜか涙を流しまくった俺は果たしてどっちの母親に対して涙を流したのか。
親はいない。嫁もいないし子供もいない。同僚だって、上役だって、そしてギルメンだって、俺なんかより自分や家族のことが第一に決まっている。彼女だって連絡がパタリと途絶えて終わった。
俺は決して誰の一番になれない。出会ったとしてもきっといつかさよならだ。俺の複雑すぎる生い立ちを理解できる奴なんているわけがない。
俺の帰りを本気で待つ人なんて、いないだろ……? “根無し草”でゲームばっかりしてる俺の帰りなんて、誰も……。誰も……。
俺は一人でも生きていける……。いつでも、一人で死ぬ覚悟は……できている……。
俺はいつでも一人だ……。俺は一人でも生きていける……。俺は本当は誰も信じていない……。俺は自分だって信じてない……。
俺は何も、信じてない……信じるのは、期待するのは、やめたんだ……だから、一人でも生きていける…………。
死ぬのは、怖くない……。
――気付いたら銀竜が背中を撫でていた。
「不安にさせて悪かったの。何度も声をかけたんだがの?」
銀竜の声は、これまで聞いたどの声より穏やかで、慈愛を含んだものだった。
「母の胸で泣いてよいぞ?」
と、両腕を差し出してくる銀竜。何のつもりだ……?
頬を何かが伝った。“汗”だ。
……寒い。無性に温もりがほしい。ハルカに会いたい。叫びたい。駆け回りたい。いやそんなことしてどうする……。ムカムカする。でも怒っているわけじゃない。焦りだ。
何に対しての……?
そんなことは分かっている。
俺はこの、過去でもなければ未来世界でもない、ゲームのシステムを残したよく分からない世界に転生したなどというバカげた事実を受け入れられないだけだ。信じられるかこんなもん。
自分の突然の精神的変化と肉体の異常に戸惑って何もできずにいると、銀竜がそっと横から抱き着いてくる。
温もりだ。人の温もり……。こいつは竜だが……温かい。
不安定だった心が少しずつ落ち着きを取り戻していく。帰りたいばかりを口にするわがままな子供が消えていく。現実の良かったところしか見ていない俺も、セフレのハルカには度々披露している感傷家の情けない俺も、すうっと綺麗に消えていく。
情けないよな、俺。いつも情けないんだ、俺は……。ホテルで添い寝だけで終わらせたこともあるくらい情けないんだ……。
だから、人一倍頑張らないといけないんだ。占いだっていつもそんな結果を出してくるしな。分析学とviki博士とpoogle先生はいつだって俺の唯一無二の味方であり親友だ。
俺は現実ではいまいち使いこなせていなかった29歳の男の見栄を取り戻した。
「俺、29歳だったんだ。もういい大人だからさ」
泣くわけないよ、と言いつつ、ぬぐった手にはしっかりと水滴の後がついていた。これは汗じゃない。
「ほう。100年も生きられぬ人族であればいい大人だな。しかしな、私は千と二百生きておる」
銀竜はニッと微笑む。
「ほれ! やはり私は母親だろう」
年の違いを提示しただけじゃ母親も何もないだろうと、銀竜の俺の母親だと全く疑っていない顔と認識のズレにちょっと吹き出してしまいそうになる。
でも一応、銀竜の体の一部は俺の体内にあるんだっけか。凝ってるよな、ほんと。
「少しは復活したようだの。よい、よい」
銀竜はそう言って、背中をさすってくる。心地いい。
「……ま、こう言うのもなんだが、あまりくよくよ悩むでない。生まれたてのホムンクルスの精神的脆さに付け込まれてしまうぞ? 全ての生あるものと同じように、快活であり、生に貪欲であることが、ホムンクルスとして成熟する近道だしの」
全ての生あるものとは随分スケールのでかい話だが、その通りか。
快活さも、貪欲さも、活力につながるのは間違いない。大人になったらそれだけでうまくいくわけではないけど、快活さも貪欲さもなければ、やはり生きる力、生きようとする力、動くためのエネルギーはしなびていくだけだ。
それにしてもこれが注意しろと言っていた「ホムンクルスの精神耐性の無さ」か? 夢ではなくリアルだと言われたのをキッカケに、ああもメンタルがブレたのか? 情けないな……。ずいぶん久しぶりだよ、あんなに“落ちた”の。
俺はため息をついた。
果たして俺は何についてため息をついたのか。考えるまでもない。いつまでも変われない、結局変われていなかった俺自身にだ。言ってみれば……こんな俺自身を見たくないがために歳を重ねたようなものかもしれない。
それにしても生まれたてのホムンクルスが赤子と同じ、ね。
子供がそうであるように、すぐに鬱っぽくなったり、自暴自棄になったり、あるいは自己中心的に喚いたりするんなら、正直バカにできない。その先にあるのは自滅と破滅なのだから。
放任主義という今風の仮面をかぶった愛を与える気などさらさらない奴なんかには親という名の仕事は任せられない。出来れば、精神的安心をもたらす、健全な付き合いのできる人々の人脈が欲しいところだ。もし当時の俺をどうにかしてやるという話なら。
「なに、この銀竜がついておる!」
銀竜が薄い胸を叩いて鼓舞してくる。頼もしいよ、と俺は疲れた笑みをこぼした。
彼女が相手として健全なのか、俺にはよく分からない。
「そういえばお主の名前はなんというのだ?」
「田中大地。ダイチでいいよ」
「ふむ! ダイチか。良い名だの」
>称号「銀竜の友」を獲得しました。
息子なのか友なのかどっちだよ。
ツッコミを入れたところで、今度は急に眠気が襲ってきた。忙しいな俺……。
「なんか疲れたみたいだ……急にめちゃくちゃ眠い……」
「ダイチはまだ生まれてから一度も睡眠を取ってないだろう?」
銀竜からやられたのは気絶だったようだしな。
「安心したこともあるであろうな。赤子は寝て育つものだし、ホムンクルスの魂と肉体の調和も睡眠で円滑に進むのだ。ベッドでひと眠りするといい。なに添い寝してやるから安心するがよいぞ」
「ふわあ……そうしようかな……」
俺は現実ほどは寝心地の良くない簡素なベッドに身をゆだね、1分も経たないうちに寝てしまった。
◇
目が覚める。夢は見なかった。
俺はそれほど寝起きがいい性質ではないのだが、だいぶ気分が良い。寝る前に起きた出来事、銀竜の話していたこともしっかり覚えている。驚くほど脳内がスッキリだ。
……転生、いや転移か? まあどちらでもいいのだが、転生したという事実をしっかりと受け止められるほどには、まだ胸中は完全には穏やかではないようだ。
というか、受け止めるの無理だろ。普通に考えて。はあ。
夢であればそれに越したことないよ。クライシスを起動したいな……。今はまったりギルドだけど、ギルマスの長期不在はよくないよ。
横では銀竜が丸まって寝ていた。小さな手で、俺のシャツを遠慮がちに掴んでいた。
でかさ的に無理だが、竜モードだったら尻尾がきっと顔の傍にきてるんだろう。可愛いヤツめ。
……横に誰か寝てるっていいよな。安心するよ。
天井にあるのは知らない切妻屋根だ。少々作りが雑なように見えるが、特に変わった点はないように思う。
周りにある家具なんかも、あまり綺麗なものではないが、シンプルなアンティーク家具といった趣がある代物だ。サイドボードの上には新しい蝋燭とランプがある。
別次元なのは横の少女だけだ。
彼女の存在が、竜に散々威嚇され襲撃され、肉体的に傷ついた記憶が、ここは「リアル」ではないとうるさいほど喚き、主張している。でも本当に彼女が竜であると証明できるものは何もない。
耳をつんざいてきた威嚇の声と獰猛な竜の顔が思い浮かぶ。
ちょっとショックだったんだよな、正直。リアルドラゴンならおそらくそうなるだろうとは頭の隅では分かってはいたけど、実際あんなに威嚇されるってさ。
彼らからは恐怖と死の危機しか感じなかった。生きてるのが不思議なくらいだ。
なんとはなしに片手を天井に伸ばす。
腕が目に入る。腕は少し震えている。しばらくして止まる。
ちょっと若くなってるっぽいこと以外、別に普通の俺の腕なんだよな……。鏡が欲しいな。顔が見てみたい。別人の顔があったらちょっと嫌だ。俺は俺だ。
生まれたてのホムンクルスの脆さ、精神耐性の低さ、か。それと、安心すると同時に襲ってくる眠気もか? そうだとしたらほんとに幼児というか子供というか、そんなレベルなんだな。勘弁してくれよ……。
眠気がくることまでセットなら銀竜が言っていたように本当に気をつけるべきだろう。あの魔法陣で精神耐性スキルを入手したらまっさきに最高レベルであるLV10にしないといけない。
……それでどうにかなるのか?
感触があって、体温があって、眠くもなって。そんな「現実」でしかない現状をどうにかするのにゲームのように「スキルレベルをあげないといけない」って馬鹿げた話だ。
薄ら笑いが漏れる。VRゲームでも経験してたら、心境は少しは変わってただろうか? ……いや、変わらないだろうな。
銀竜の頭頂部が目に入り、毛先まで目で辿る。
ここがファンタジー世界ではよくある昔の中世ヨーロッパ的な世界だというなら、床屋はともかく、美容院なんてまずないに違いない。
だが、銀竜の髪は美髪だ。シャンプーのCMの女芸能人の美髪のように、艶やかなのに、軽さもありそうで、枝毛の類はもちろんない。昔の文章では女性の美髪をシルクのようだとよく例えていたものだが、まさにそうだ。
「……む、起きたか?」
つい髪を触ってみようとしたところで、銀竜も起きる。
「具合はどうだ? すっきりしたか?」
「だいぶね。どのくらい寝てたのかな」
銀竜が伸びをしながら、30分くらいじゃないかの、と答える。
「……もっと寝てたように思ったんだけどなぁ」
「まあすっきりしたのなら良いのではないか? これは私の知るエルフの医者の言葉だが、あまり長時間寝すぎても疲れが取れるわけではないらしいからの」
それは俺も知っている現代知識だ。15分の昼寝が最適だとは、俺の尊敬する大成したビジネスマンの言葉だ。しかし銀竜の場合は50年眠るくらいだから、長時間とは相当長い時間のことを指しそうだ。
それにしてもエルフがいるのか。クライシスにも当然のようにいたが、会えるならいつか会ってみたいものだね。
「さて、スキルをもらいにいこうかの」
そういやスキルを習得しようとして寝たんだったな。
なんだか気が進まないのは、この一歩を踏み出すことで、転生の事実をより受け入れたことになるからだろう。
「見慣れないものもあるがあれは使いきりの術式での、おそらくダイチがスキルを習得するまで消えぬと思うよ」
そう説明しながら立ち上がる銀竜が、俺があげたチュニック姿なのが気になった。
タンスの中を探し、下着と薄い緑のワンピースを渡した。ぶかぶかなことに、そりゃそうだよな、ここに子供はいないだろう、とか思っていたら銀竜が魔法をかけてサイズをぴったりにしてしまった。
「《
便利すぎ。さすが魔法、何でもありだな。布団圧縮機もびっくりだ。
インからチュニックを受け取る。そういえばこのチュニックには《圧縮》使わなかったんだな。気遣われてたのかな。
得意げな銀竜と寝室を出て、俺は勧められるままに魔法陣に手をかざした。
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