1-2 調査 (1)


 ――……何だったんだ?


 手が動かせるのなら確実に目を覆っていたはずの光量だったが、俺は相変わらず体をまるで動かせないので、ただただ光に塗れた視覚情報が正常モードに戻るのを待つしかない。


 視界の色味が段々と元に戻っていく。


 相変わらず目の前には机があり、本やフラスコなどがある。イスも転がっているしとくに何も変わってない。


 ……と思いきや世界の色が緑ではなかった。


 緑色の水がない!


 とっさに手足を動かす。あまりにも簡単に動いたことに驚く。

 ただ、動きに違和感がある。水中ほどではないのだが、微妙に浮力が働いてるらしい。

 水がある感じは全くないのにまだ水中にいるのか? 呼吸器はつけてないけど特に苦しくないし、目も痛くない。謎だ……。


 唾でも飛ばしてみるか?


 ……まだやめておくかな。気分的に。


 手をまじまじと観察する。

 少し骨ばった、見慣れた俺の手だった。いやちょっと爪が綺麗だ。こんなに鮮やかなピンク色をしていただろうか。それに分厚い。

 俺は子供の頃、噛み癖があったせいか、爪は人よりも薄めで短かかった……。


 ともかく、自分の姿が人間であるらしいことに安心した。


 腕も観察する。

 特に正確な根拠はないのだが……やっぱり俺の腕だと思う。いや、少し肌の色が白い気がする。まあ、水中にずっといたし。……それにしてはふやけてない。


 今度は全身を観察する。

 相変わらず薄い胸板……ではなく、ほんのり厚みがあり、腹筋も割れていた。

 運動してた頃は少しくらい割れてたかもしれないけど、ここまでのものじゃなかった気がする。流石に覚えてないな。


 二の腕に力を入れる。硬い。明らかに元の俺より腕が太い。これだとお姫様抱っこできる側に回れるかもしれない。

 足に脛毛がほとんどないことに気づいた。股間の毛もだいぶ減っている。

 元々体毛は濃い方ではないが……若返ってるのか? 肌ツヤも良い気がしてきた。


 細マッチョな体らしいのは察したが、なんにしても俺の体だという証明ができない。違うなら違うでいいんだけど……。


 ふと思うところがあって、右足の膝下を見てみる。


 ……あった。

 子供の頃にダンボールをカッターで切っていてつけてしまった切り傷だ。

 結構深く切り込んでしまい、色素沈着を起こし小さな火傷跡みたいになっていて、29歳になる今でも消える気配の一向にない一生ものの傷だ。


 うん。つまりだ。


 細マッチョなことと毛が少ないこと、つまり若返っている疑惑があるのが気になるけど、おそらく普通に俺の体だと思う。

 近頃は年齢と痩せ型からくる体調不良や体力の無さを気にしていたので、細マッチョなのはちょっと嬉しい。やっぱ健康であることのベースは適度に筋肉と脂肪のついた健康的な肉体だよ。


 それにしてもクリーチャーや幼女は?

 ちょっと残念だ。怖い夢を見れば速攻で起きようとするくせにね。


 自分がどこを切り取っても人間らしいことに安心半分落胆半分の微妙な気持ちでいると、自分が入れられている水槽に気がいく。


 水槽はぐるっとガラス張りで、直径2mくらいだ。わかってはいたものの水槽としては随分でかい。アロワナにだってここまでの水槽は使わないだろう。

 底と天上は真っ白く、……何もない。合成樹脂で作られているように見えるが、特に安っぽい印象はない。

 特別変わった作りをしているわけではないように見える。

 ただ、水槽内部には驚くほど何もない。あるのはガラスをはめる厚めの枠組くらいのものだ。呼吸器なんかの生命維持装置的なものも特にないらしい。


 天上にぐっと手を押し当てる。……動かない。


 ……天井には出入りできそうな仕組みは見当たらないし……俺ここからどう出るんだ? ガラス割らないといけない? 息苦しいとかは特にないんだけども。


 周りを見てみる。机一辺倒だった外の情報に新たな景色が追加されていく。 


 左手には外に続いているらしき木の扉と、フード付きのマントが一枚かけられた簡素なポールハンガーがあった。

 下にはサンダルが一足。扉から外の光が漏れている。晴れているようだ。

 ポールハンガーの横には調理器具などがぶらさがった一角がある。蛇口とかコンロとかはないが、箱に入った野菜も見えるし台所といったところだろうか。


 それにしても薄暗い。天井に照明の類はない。錬金術のある時代だし、そりゃそうか……? でも魔法があるのにな。


 水槽の正面にあった机の横を見てみれば、幅の狭い本棚が二つ。

 本はそこそこある。薄い本が多いようだが、分厚くて古い本もあるようで、背がはがれかかっているものもある。

 棚の傍にはテーブルとイスがあり、上には燭台がある。照明は蝋燭か……。

 横の壁際には、木製の傘立てのようなものが二つあり、杖が入れられてある。

 小さな鳥の羽のような意匠があるが、木で出来ている以外の特徴は見られないいかにも「木の杖」な杖に、赤い宝石が先端にはめこまれた鉄っぽい金属の杖。太い木の枝がとぐろを巻き、先端がカタツムリの貝のようになっている杖もある。

 カタツムリ杖は先端にカットされた青い宝石が複数はめこまれている。家庭用RPGゲームだったら、中盤くらいに手に入る杖って感じだ。


 魔法陣を見たのだからいまさらなのだが、杖の存在に、魔法のある世界なんだなと改めて心が躍る。


 魔法を使ってみてから起きるのも悪くないな。

 うん。それがいい!


 特にドアとかあるわけではないが、奥は寝室になっているらしい。

 寝室にはベッドとタンスがあった。ベッドからは乱れたシーツが半分床に落ちかかっている。


 って、人体錬成の研究施設にしてはずいぶん小さい家だな。

 地下とかあるかもしれないが……この分だとこの家は掘っ立て小屋というかなんというか。


 う〜ん……。錬金術師の隠れ家というにはちょっとロマンがないかな?


 そういえば、家の人はいないようだけど……まがりなりにも自分を生み出した人の顔を見れないのは残念だ。


 ……水槽から出るにはどうしたらいいのだろう。


 湧き出てきた不安のままに、ノックするようにガラスを小突づいてみると、ピシっと嫌な音を立てて亀裂が走ってしまった。ガラスを入れる枠組みはだいぶ厚かったのだが、どうやらそこまで頑丈ではないらしい。

 慌てて手を離す。もう替え時だったか?

 周囲に特に変化はない。ひとまず完全に割ってはいないことに安心したけど、構造的にシンプルすぎて、水槽からの穏便な出方が全く分からない。


 水槽の外にスイッチとかボタンとか操作盤があるのがこの手の装置のお馴染みだと思うんだけど、見た感じ全くないんだよね。

 本当にただのでかい水槽。どうしたらいいのこれ。


 うわっ。


 考えあぐねていると、唐突に目の前のガラスの中心部に小さな魔法陣が浮かび上がった。

 魔法陣はさきほど見たようなものと同じく、幾何学的な模様と見たことのないルーン語的な文字が細かく刻み込まれていた。

 さっき閃光を放出した魔法陣たちにはなかったと思うが、魔法陣の四方で四角くボコっと小さく突き出ているコの字型の模様がある。

 今度は勝手に作動したり消えたりしないようなので、ARな緻密な魔法陣の意匠にちょっと魅入ったあと、なんとなく魔法陣に触れてみた。


 意識が引っ張られる感覚がして、気づいてみれば水槽の外に俺はいた。


 どうやら転移系の魔法陣だったらしい!


 さすがファンタジーの世界だ。


 ただ水槽に出ていた転移の魔法陣はもうなく、ぱっと見、水槽を外から破壊するくらいしか水槽内に戻る術がなくなってしまった。まだ出るには早かったとかで、死んだりしないよな……?


 それにしても少し、というか結構肌寒い。裸だしね。


 出れたはいいけどどうしよう……。


 そういえば水が体から一切滴ってないことに気付く。体も特に濡れてない。いや、多少しめってる? 不思議だ……。


 ふと体から、入浴剤のようなにおいがほのかにした。森林浴系とかヒノキ系とかああいったにおいだ。

 しばらく嗅いでいたら、元々薄いにおいだったのか単に家の木材から漂ってきていたからなのか、発生源がよく分からなくなった。気のせいか? まあ夢だしね。


「すみませんー! どなたかいませんか?」


 裸なのが気になるけど、外にいるかもしれないのでとりあえず呼びかけてみる。

 いや、窓ないし聞こえないか? 生まれたんですが、と叫ぼうと思って、マヌケなセリフだなと内心で苦笑する。もう一度叫んでみるけど反応はない。


 軽く玄関のドアを開いて、隙間から外に向けて再度すみませんと叫んでみる。やっぱり反応はなかった。


 家主不在は辛いな……。世界観とか文明具合とかまるで分からないのに。ちょっとした脱出ゲームだよ。いきなり捕縛とかされないよな?


 裸なのがとにかく辛かったので、戻って寝室に向かう。


 ときどきギシギシと床から家の作りの悪さを伝えてくる。台風の日は大丈夫なのかと不安になる感じだ。沖縄じゃ生き残れないな。


 申し訳ないと思いつつ、タンスから着れる物を物色することにした。

 妙に丈の長い麻のシャツがあった。……袖がない。一瞬女物かと思うが、胸元は狭い。袖なしチュニック……。

 もう一枚も似たようなもので、胸元がボタンではなく紐になっている。傍にはベルトがあった。

 別の引き出しにはベストがあった。形はジレベストと同じだ。だけど皮製で、ボタンの代わりに紐がついている。もう一着あり、こちらは皮ではなく普通に布製で濃い茶色のベスト。

 奥の方にカットソーっぽいものがある。袖の切り口も縫い目も荒く、作りが雑めなものだ。

 作り的にこの中では一番安物な気もするが、形状は馴染み深いものだし、気持ち的には一番落ち着く服だ。


 しかしあれだ。中世の服装だなぁ……。


 とりあえず着た。うん、肌に触れる麻感がすごい。夏場は涼しいだろうな。


 また別の引き出しを見てみるとこげ茶色の綿ズボンがあった。テーパードのようで、膝下がタイトだ。腰は現代と同じく中に通した紐で縛るらしい。

 スウェットっぽい作りだけど、これは割と普通だ。生地も分厚く、丈夫そうだ。

 そういえば下着……。あった。色が白なのが気になるが、トランクスとボクサーの中間といった感じ。通気性はよさそうだ。

 ひとまず下着があってほっとする。中世では人々は長らく下着を履いていなかった気がしたからだ。

 靴下もあった。ハンカチが数枚。……


 見つけた服を見ていてふと脳裏によぎったことがあった。

 クライシスの世界観における一部の村の村人の格好だ。

 いわゆる中世ファンタジーの世界を披露しているクライシスには、北欧、南欧、アラビア、ロシア、南アメリカ、中華、日本、そしてエルフやドワーフの住まう国など様々な文化圏があるのだが、多くのユーザーの活動の中心地となるヨーロッパのエリアの村々のいくつかには、中世ヨーロッパの農村を色濃く残すところがあったのだ。


 中世ならそうだよなと思いつつも、魔法で上がったテンションが少し落ちた。

 魔法を使うのは人間なんだから服だって必要だろう。とはいえ、自分が“村人の服”を着ることなんて想像すらしていなかったから。


 それに色がな……。


 白、草色、濃い茶色と、地味だ。白もほとんど薄いベージュだ。ナチュラル派といえば聞こえはいいが……。史実観に忠実なら染色も大変なんだろうか。


 下着とズボンを履いて、カットソーシャツの上にチュニックを着る。ベルトで締めてみた。ちなみにベルトも金具が一個だけで、だいぶレトロめ。

 腕がすーすーするのが気になるけど、意外と……悪くない。なんだろうね、舞台役者にでもなった気分。


 ま、こんなもんか。とりあえず落ち着いた。サイズがでかめなので少し通気性が良すぎるきらいはあるが、ズボンが分厚いので下半身は結構暖かい。


 靴下は足の裏から伝わってくる木材の生の感触がなんだか新鮮なので、ポケットに突っ込んで外に出るまでは履かないままでいることにした。砂浜や広い草原を裸足でいると気持ちいいよね。


 取り出した衣類を全部畳んでしまった後、残りの引き出しをもう少し漁ってみると、まさかの女物があった。


 女物を漁る趣味はないよ? 賭けてもいい。……少しだけ。


 家主の人物像が気になったこともあり、引き出しをさらに漁る。物盗りに見えないように、男ものを調べた時のように、できるだけ位置を変えないように物色していく。

 嫌われるよ? とよく言われるのだけど、机の引き出しとか実はめちゃくちゃ漁りたいタイプです。

 何があるのかにもよるが、その人の趣味とか人柄とか結構分かるからね。ぶっちゃけ、喋るよりもずっとわかる。それはなかなかに楽しい。


 漁ってみると、最初に男物を見つけたからてっきり家主は男性かと思っていたけど、どうやら家主は女性らしい。

 男物は三割ほどといったところのようだ。俺はたまたま男物の引き出しを見たらしい。


 男物は旦那のか、彼氏のか。時代的に彼氏というより愛人? もしかすると家主は寡婦かもしれない。


 内容はワンピース、スカート、インナー、下着、そして中世の女性にはお馴染みのコルセット。

 さすがにブラジャーはなかったが、男物と違って、現代とそんなに違和感がないラインナップのように見える。

 あと男物と同じように、服はだいたい麻製で、毛玉がひどいものがあったり、縫い目が荒かったりと全体的に衣類の質があまり良くない。現代と比べるのもかわいそうなんだけども。

 でもここに引きこもるなら、服無精になりそうなものだし……服の質が落ちるのは仕方ないのかもしれない。

 針子は中世女性の数少ないまっとうな職業の一つで、その技の如何が女性的なステータスでもあったというし、裁縫技術は高そうなんだけどな。


 例外として明らかに上等なワンピースが大きな引き出し1個を独占していて、これが藍色……というかグレーだった。

 ドレスの胸元から裾にかけて、金色で縁取りされた緻密な花の刺繍が独占している。エレガントだが、開けられた背中部分にもフリルがついていて、可愛らしさもある。

 ひだ飾りや花の刺繍も見事な作りだし、生地も光沢があって手触りもサラサラしている。パーティ用の一張羅とかそんな感じか。


 それはいいのだけど、なんでこんな場所に一張羅あるのか疑問だ。


 一張羅ブースにある下着は……黒だった。おおう、なかなか。

 なんとなく後ろを振り返る。もちろん誰もいない。下着をしまって引き出しをさっさと閉めた。


 こんな場所にドレスがある理由が分からないけど、私服との差がすごい。外着はしっかりいいものを着て、部屋着はフミクロなんかの質の良いお買い得商品で揃える感じの人か?

 人体練成ができるくらいの人だし、それなりに裕福ではあるように思う。賢く、合理的な人でもあるだろう。

 でもこの小屋の様子だと……お金にはそんなに余裕があるわけではないように思える。それとか、ここでこっそりと錬金をしなければならない理由があったのか。


 どうなんだろうね。


 ひとまず物色を切り上げた。どっちにしてもこの世界の下地の知識がないのでなんとも、だ。


 とりあえず紙はあるので、あとで拝借の旨を書いておこうかと思う。あ、言語も違ったりするのか? そしたら絵で?

 女の家主だし、確実に嫌がられそうだけど……。仕方ない。物盗りに思われるよりはずっといい。

 というか、水槽の中身がないのだから、「生まれた」ってすぐに分かるか。


 水槽の前に戻ると、机の上が何やら幻想的な光をたたえていた。

 本の上に魔法陣が出現していて、さっき見た、金色と青色の混じった美しい色合いを周囲に放出しているようだった。


 本のページは左のページが白紙で、右のページにはグレーの魔法陣が二つ描かれている。

 俺は投影技術は会議でプロジェクターを使っていた程度の経験と知識しかない。VRゴーグル欲しいんだけどさ。

 何かが分かるでもないのに、まじまじとまた浮かんでいる魔法陣を見て、誘惑のままに魔法陣の下側から指先をそーっと突っ込んでみた。


 魔法陣の裏から入れるとしっかり指先が表面から出てくる。


 なんか嬉しい。魔法陣と本の間で光の線とかはないし、魔法陣の色合いが薄くなってもない。

 ファンタジーだね!

 というか、この魔法陣の映像は、ホログラムとどう違うのだろうね。


 水槽に現れた魔法陣と同じように、この魔法陣も四方にボコっと出っ張りがある。

 たぶんこの四方に出っ張りがある魔法陣は、触れることで作動する類の魔法陣なのだと思う。裏面から指先を突っ込んだのでは反応しなかった辺り、表面からのタッチでのみ作動するに違いない。


 今度は何をされるのかドキドキしつつ、掌をかざすように魔法陣に触れる。


 魔法陣が発光を強めた。しばらくの間明滅していたかと思うと、俺の脳内に“何か”が入り込んでくる。


 頭の中がざわざわしだした。

 やがてもう一人誰かが、しかも知らない誰かが脳内にいるかのような気味の悪い感覚に替わる。そいつに笑われているような感覚。

 つい魔法陣から手を離したが、脳内の様子は変わらない。

 気持ち悪い。出ていってくれ。

 痛みとかはないけど微妙に吐き気がする。


 そうした嫌な感覚は間もなくなくなり、脳内のざわめきも消える。


 そうして視界に出てきたのはなじみ深いクライシスのステータスウインドウだった。

 全部が全部クライシス製というわけでもないようで、右上には見慣れない球体型のマップがある。


 ゲームかよ。


 苦笑してつい声に出してツッコミを入れつつも、各ウインドウとマップは頭を動かしてもついてくるので新鮮だった。


 そういえば。

 「チャットウインドウ」や「運営からのお知らせ」、右下に集まっていた「メールボックス」や「システム」、マップの下に表示される「クエスト進行状況」などのこまごまとしたものはないようだった。


 まああくまでもゲームっぽい夢だけなのであって、運営も何もないもんね。

 きっと俺がMMORPG好きでなくファンタジー小説好きだったのなら、世界観は似たようなもので各種ウインドウはきっとなかったのだろう。


 また、HPバーとMPバー――魔法を使わない物理職ではFPファイティング・ポイントの表記になる――には、現在の数値と最大数値が「/」の形で表示されていたのだが、その表記はなかった。ただHPバーとMPバーの左に表示されるレベルだけは書かれていて、280と表記されている。

 俺のメインキャラのレベルは609だが……280という数字に引っかかりを覚えるけど、何に対して引っかかりを覚えるのか分からない。


 そんな時に唐突に、


【 ティアン・メグリンドから《言語翻訳 LV5》の譲渡がありました。《言語翻訳 LV5》の習得をしますか? 】


 というメッセージウインドウが出てくる。


 メッセージウインドウは透けているが、魔法陣と同様に青みがかった金色をしている。ウインドウ色は基本黒ベースだったクライシスでは見たことがない。


 ティアン・メグリンドなる人物も聞いたことがない。


 ホムンクルス創造のクエストでは何人かNPCが登場していたけど、ティアン・メグリンドという人物はいなかった。

 少なくとも、俺を造った錬金術師であるか、あるいはこの家の家主と関わりの深い人物だとは思うのだけど。


 とりあえず言語が翻訳できるようになるのはありがたい。全く言語のわからない地域での通訳なしの一人旅は自殺行為もいいところだ。

 いや、今は翻訳もナビも備えたpoogleがあるしなんとでもなるか。


 とくにためらいもなく、メッセージウインドウに重ねて表示された「はい/いいえ」の選択肢の「はい」を俺はタップした。


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