第25話 真っ赤なアイツ




 さて、ようやく目的地に到着だ。森の端から断崖を眺めて、周囲の安全を確認する。夜となると敵の分布も大幅に変わっているようで、断崖周辺の大トカゲや山羊は今の時間は見当たらない。

 どこかで眠ってるのかも、少なくとも低地には見掛けないな。以前空を飛んでいた、ワイバーンの姿も見当たらない。そう言う意味では、大物仲間のクマの姿も周辺には確認出来ず。

 それじゃあ安全かと問われれば、どうもそうはいかない様子。


 最初はコボルトかと思ったけど、もう一回り身体が大きいソイツ等は。やっぱり集団で活動中の、ファンタジーで有名なゴブリン種族だったみたい。

 あちらこちらで、クマやワイバーンの食べ残しの残骸を漁っている。彼らには夜目があるのだろうか、この暗闇の中を皆が平気な様子で活動している。

 集団の数は全部で5つくらい、ってかこちらの活動に邪魔過ぎるな。


 目的のほろ馬車の残骸の近くにも、3匹の集団がうろついていた。こちらも残骸漁りが出来ないじゃないか、などと情けない愚痴をこっそりとこぼしつつ。

 こうなりゃ実力行使だと、ゆっくりと闇の中を近付いて行く。森の端から出てしまうと、断崖近くまではほぼ遮蔽物も無い訳で。

 案の定に見付かって、強制的に多対一の戦闘に突入。


 こっちも考え無しで近付いた訳ではない、今夜の戦闘だけでも俺は圧倒的に成長出来たのだ。何せここまで、強敵とばかり戦った道のり……無事に辿り着けたのが、本当に嘘みたい。

 この程度の雑魚の2匹や3匹……おっと、別の群れまで反応しやがった。これは不味いか、まずは《フラッシュ》で数匹まとめて目潰し、向かって来る群れには《風の茨》で時間稼ぎ。

 おおっと、度胸もそうだけど応用力も付いて来たじゃないか!


 こんな場合はとにかく数減らしが先決だ、あらかじめ棍棒に装備チェンジしていたので《ブン回し》の範囲攻撃も効果的。SPが溜まれば、とどめに《撃ち上げ花火》を喰らわせて。

 ゴブリンの強さだけど、体感的にコボルトよりは上かなって程度。装備もちょっと良いの持ってるかなって感じで、特に取り上げる程では無い……と、最初は思ってました、はい。

 戦闘の終盤では、完全に考えを改める破目に陥って。


 コイツ等、持ってる武器でスキル技を使って来やがる……魔法を使う奴も混じってると、マジで最悪なんですけど。コボルトにはそんな個体はいなかったので、完全別モノと思った方が良いみたい。

 魔法を効果的に使うってのは、戦闘を有利に進める上でとても重要だ。例えば、回復魔法持ちが群れの中に1人でも混じってると、戦闘時間が誇張で無く倍に伸びる破目に。

 さっきまで存分に魔法やスキル技を使ってたのに、敵にされると腹が立つと言う。


 効果的な対処法は、魔法を使う個体から先に倒して行く位だろうか。こちらの攻撃力も、レベルの上昇と共に上がって来ているので。

 スキル技混じりの攻撃で、敵の数減らしはそれ程は苦になってはいない。そしてようやく最初の3匹編成の群れを撃破、続けて魔法使い混じりの群れを迎え撃つ。

 さっきも言ったが、この群れは魔法使いゴブリンから倒すべし!


 ゴブリンの戦闘特性は、前述の通りなのだけど。身体的な特徴は、緑色の肌の小鬼と言った風情だった。犬の獣人のコボルトとは違う、いかにも悪そうな顔付きで愛嬌など無い。

 ただやはり、戦士的な特性は余り持ち合わせていない感じ。残念な雑魚感は否めない、こちらにしては有り難いのだが。ドロップに関しても、コボルトと似たり寄ったりな残念感が。

 何度も言うけど、魔法とスキル技を使う奴が少々ウザい程度の敵だ。


 それでも必殺技があるよと脳裏に刷り込まれると、やはり対処に慎重になってしまう。まぁ雑魚とは言え、群れているのだし慎重になるくらいが丁度良いのだろう。

 そんな感じで群れを2つ撃破、何故だか3つ目もこちらに反応している。馬車の残骸エリアは割と広いのに、反応する範囲が広い敵のようだなぁ。

 まぁ、探索に邪魔な敵は全滅必至なんだけどね。


 おっと、蝙蝠まで絡んで来た……近くの洞窟から飛んで来たのか。NMでは無いよね、ちょっとビビってしまう自分が情けない。強敵も良いが、こんな絡む敵ばかりの場所では勘弁だ。

 所詮は雑魚と己に言い聞かせ、どちらも割と短期間で倒し切る事に成功。鞄が増えたので、ドロップ品が楽しみで仕方が無い……おやっ、ゴブリン達は銀のメダルと言うのを稀に落とすらしい。

 これは何だっけ、金のメダルのランク落ちだっけ?


 確か友達の説明では、街の交換所で良品アイテムと交換出来た筈なのだが。獣人が落とすとは知らなかった、ますます狩る理由が増えたじゃないか。

 とは言え、今夜の予定は森の精霊のほこら造りの材料集めなのだ。もう一度周囲を確認して、邪魔が入らない事を念入りにチェック。もちろん頭上も、怖い敵を以前に見てるしね。

 よしっ、見える範囲では大丈夫みたいだ。


 ゴブリンの群れはまだ散見してるけど、割と離れているので大丈夫だろう。ってか、わざわざ倒しに行くのも疲れるので、そちらに移動した際についでに倒す感じで良いと思う。

 そんな訳で、最初の“幌付き破損馬車”から収集作業開始。




 うわっ、思ったより酷い状況かな……いや、確かに獣人どもに漁られた形跡は見られるけど。何か集中して眺めていると、ポンッと収集ポイントが浮かんで来た。

 これって、ランダム収集でアイテムを得るタイプの奴だっけ? 野外でも果実や木の枝やらは、こんな感じで制限が掛かってたけど。

 それじゃあ一度取ったら、ポイント消えちゃうって事か。


 ファーも興味深げに残骸馬車の中に入って来て、あちこち指差してポイントを教えてくれる。ってか俺より数段見付けるのが上手いな、さすが収集のプロである。

 俺はアシスタント宜しく、ファーに示された場所をポンと指でタッチして行く。それだけで、アナウンスがアイテムを得ましたと知らせてくれて。

 当たり外れはあるが、なかなか順調に増えて行くアイテム類。


 そんな作業を繰り返す事10回余り、なかなかに大量のアイテムが鞄の中に入って来た。どうやら法則があるらしく、干からびた食糧の残骸後から食料系が、運んでいた荷物から雑貨類が。壊れた馬車の破片から木材系が、上等な箱の中から割と当たりが採れるっぽい。

 なるほどと感心しつつ、得た品物を確認しようと思っていたら。


 妖精が再び、ここにもあるよとポイントを指し示して来た。あれっ、ポイントの復活がやたら早くないかと、俺はちょっとキョトンとしてしまった。

 これがスタンダードなのか、それとも妖精のパワーが炸裂したのか……一応、琴音にメールで確認しておこうかな。とか思いつつ、収集作業は有り難く継続。

 追加で5回、お陰で一台目は豊作だ。


 得たアイテムの内訳は、食料系で保存食×5個、お酒や乾燥野菜やドライフルーツ等が少々。そしてその中で、恐らくは当たりが体力の果実×1かな?

 雑貨はもっと種類が豊富で、鍋や針金の束や動物の毛皮、売り物なのか鈴のセットやランタンとその油、自分的に当たりは工具セットだな。

 小型のハンマーやノミ、ノコギリや釘セットが入っている。


 これは凄く助かるなぁ、ほこらや家具の工作には無くてはならないモノだし。これで半分は、任務と言うか目論見は達成出来た。肝心の木材だが、一応は板切れ×5と棒切れ×2、それから破れた幌や薄い板金なども発見出来た。

 色々と造るには、もう少し欲しいんだけど……幸い、馬車はもう2台崖から落ちて中破している。収集ポイントもある筈なので、追加でまた採れるだろう。

 そして当たりの保管箱の品は、魔石(小)と鉄のインゴットだった。


 魔石(小)はお金にもなる筈だから良いとして、インゴットは微妙だなぁ。重装備とか工具系の素材にはなると思うので、価値はそこそこある筈なんだけど。

 そんな事を考えてると、琴音のメール返信が届いた。収集系のポイントは、やっぱり一度採ると回復まで一定時間掛かるみたい。一定と言うニュアンスが微妙で、人が滅多に採らない場所は回復が早いとかの法則もあるらしいんだけど。

 それでも何度もそこでお世話になると、回復時間はどんどん伸びて行って。最終的には日を跨がないと、ポイントは復活しなくなるのだとか。

 それもそうだ、ポイント採り放題とかある訳無いし。


 つまりさっきの瞬間復活は、最初の偶然が作用したのかな……けっして、妖精の不思議パワーが関わっていたんじゃないと思う。多分、きっと。

 何だかファーの潜在能力が高いと判明すると、こちらとのパワーバランスが。今だって現実では琴音に尻に敷かれているのに、架空世界でも相棒の妖精に能力的に上回られると。

 身の置き場が、全く無くなるじゃないか!


 そんな事はどうでもいいか、ささっと2台目に向かおう。今度の奴は幌が付いていなくて、その分さっきの馬車よりサイズが大きいみたいである。

 乗せていた荷物も、恐らくは多かったのだろう……護衛も付いていたのかな、もはや骨とボロの装備だけの姿となっているけど。しかも、そこにもポイントが浮かんでいると言う。

 懸念はもう一つ、ちょっと洞窟が近いのが怖い所。


 多分そこは熊か何かの巣なんだろうけど、ひょっこり寝惚けて出て来ないとも限らない。念の為に覗いてみたいが、藪蛇にならないとも限らないし。

 周囲を警戒しつつ、収集に励むしかないかな。ゴブリンの群れも、さっきより近付いて来ているような……? 嫌だな、もう少し向こうに行ってくれないかな。

 そんな現状でも、ファーは元気にポイントを見付けてくれて。


 さっきの1台目より、ポイントの場所は多かった気もするな。なかなかの品数ゲットに加え、レア物も数点入手出来てしまった。ファーと一緒に喜び合いつつ、残骸の影に身を潜め。

 森の方から、新たにゴブリンの群れが2つ湧いてしまったのだ。囲まれるのは不本意だが、さてどうするか……もう1台半壊馬車の探索が残ってるし、洞窟の中も見てみたい。

 洞窟も3つあったし、1個くらいは当たりがありそうじゃない?


 海辺の洞窟の成功体験で、ちょっと夢見がちなのは否めないけど。あの半分でも収穫があったら、それはそれで大したモノ。ちなみに今回の獲得物は、割と品種が豊富だった。

 まずは食材だけど、定番の保存食と果実酒、瓶入りのジャムと穀物の種。何故かそこに紛れ込んでいた、経験の飴玉も2個ほどゲット出来た。

 幸先良いよね、そして雑貨も割と凄かった!


 まずは通常品の、壺やら編み籠やらに混じって売り物らしき薬品類が数本。他にも松明やら麻布やら麻糸が出て来て、大物はマナポ(中)とかポーション(中)の薬品類かな。

 中瓶はHPやMPを50回復だから、今の俺のステータスだとほぼ全回復である。大事にここぞと言う場面で、遠慮なく使わせて貰う事にして。

 ベルトのポッケに、早速しまっておく事に。


 木材に関しては、さっきと同じ木切れの類いが幾つか。大物は壊れた車輪……う~ん、何かには使えそうなんだけど微妙に使い道に困る。

 今回のポイントで初のお目見えの死体からの収集作業に関して言えば。何と言うか、どのポイントより冒険に役立ちそうな品物のオンパレードで。

 当然と言えばそう、何故なら護衛していたのも恐らく冒険者だったから。


 そんな死体剥ぎ……言葉は悪いが、おおむねそんな感じの結果。得たのは盾やら胸当ての装備類、弓矢と消耗品の矢束も2束出て来た。1束20本らしく、弓矢使いなら嬉しい筈。

 それから財布とお金が800モネー、ちょっと心が痛む。


 ――護衛の盾 耐久5、防御+5

 ――錆びた胸当て 耐久3、防御+4、器用+2

 ――護衛の弓 耐久5、攻撃+5


 護衛の弓は、普通に最初に貰った初期装備より強いなぁ。いつか使ってみたいけど、その時が来るかは不明。盾は良品なので、すぐにコボルトのドロップ品と交換して装着。

 胸当ては……何と器用度+2が付いてる良品だ、ただし錆びついていて表面がごわごわして気持ち悪い。少なくとも、気持ち良く装備出来るような状態では無いね。

 どうしようか、取り敢えず鞄に放り込んではおくけど。


 結局、すぐに使用出来るのは盾だけと言う。それは置いといて、この馬車にも保管箱がちゃんとあった。そしてそのポイントからは、宝石が少々と土の水晶玉が3個。

 おっと、水晶玉は有り難い……ここに辿り着くまでに光系は使い切ってしまっていたし。残るはさっき補充した闇系のみ、大事で強力な範囲攻撃の源だもの。

 すぐにベルトのポーチに保管して、一通りのチェックは終了かな?




 近付くゴブリンの群れがウザかったので、アイテム整理中に魔除けの香炉を使ってたんだけど。それを解除して、次なる行動に移ろうとした途端に異変は訪れた。

 断崖の上から、何かが転げ落ちる音が響いて来て。落石かと驚いて身を竦めるも、落ちて来たのは何と大トカゲ。少し離れた場所に落下して、すぐに絶命した様子。

 寝ぼけて足を踏み外したのかな、おっちょこちょいな奴もいたモノだ。


 周囲のゴブリン達も、それに驚いて何やら警戒をし始めた感じ。群れ同士で警告の奇声を互いに発しているので、騒がしい事この上ない。

 影が暗くなった、いや元から夜なので周囲は暗いんだけど。《Dビジョン》の視界では、少しの明かりを増幅してくれて、しかも生物のオーラを感知する感じなんだけど。

 ひょっとして、月明かりを何かが遮ったとか?


 ワイバーンか何かだろうか、断崖の上で何か異変があったのかも知れない。それに驚いて大トカゲが落ちて来たのなら、さっきの説明がつくのだけれど。

 そう思って空を見上げると、確かにそれはいた。巨大なオーラをまとった物体が、悠然とこちらに降りて来ようとしている。何だコイツ、見た事の無い大きさだ。

 その巨大モンスター、目に見えて異質な箇所はもう一つあった。





 ――それは初めて見る、赤ネームの巨大な敵だった。





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