第4話 昼食時の固定メンバー




「そっか、やっぱり投擲とうてきってスキルも存在するんだ……威力ありそうだし、余裕があれば取ろうかな?」

きょうちゃんは、メイン武器を選ぶのが先なんじゃない? ってか、普通武器はみんな1種類しか持たないよ……もう弓は諦めて、槍か両手棍を伸ばす事に決めたら?」

「むうっ……魔法戦士になりたいから、両手武器はちょっとなぁ。遠距離は絶対に有利だから、出来れば弓も諦めたくは無いんだが……」

恭輔きょうすけ君、とうとう例のゲーム始めたんだ? うわぁ、それじゃあ限定サーバで会えるかも知れないんだね! 僕は姉ちゃんと先発組でプレーしてるから、早く追い付いて来てよ!」


 次の日の学校の昼休み、いつものメンバーで中庭で弁当を広げながらの座談会である。このメンバーは、何と言うか琴音ことねと同じく幼馴染率が非常に高いかな。

 その中でも、とりわけ読書が好きで大人しい性格の者が多いのは。琴音の強烈な個性を、やんわりと受け止められる術を持っているかどうかが鍵だと俺はにらんでいる。

 扱いがとても難しいからな、俺の幼馴染は。


 ちなみに昨日の女王蜂NMとの顛末は、華麗に俺の一方的な勝利だったと皆には話してある。死にそうな目に遭ったなどと、正直に話したら琴音の折檻せっかんコースは確実だ。

 もっとも、初日の低レベルでNMと戦うのは正気じゃないと怒られたけど。俺も好きであの蜂の集団と戦った訳じゃ無い、不可抗力だったのは否めないのだが。

 そんな正論も、もちろん彼女には通じず。


 ゲームの話は置いといて、この場のメンバーを順に紹介しておこうか。幼稚園からの幼馴染なのは、さっきも話したと思うけど……琴音はともかく、他の3人はいわゆる秀才だ。

 その中で、さっきゲームの話に参加していたのは浜中誠也はまなかせいやと言う男の幼馴染。誠也も『ミックスブラッド』をプレーしていて、限定サーバにも参加しているとの話で。

 初日から参加を決め込んでいて、そこそこ順調らしいんだけど。


 一緒に参加しているお姉さんに、完全に手綱を握られているとも愚痴っていた。報酬の分け前も7対3と言い渡されているらしく、思わず憐憫れんびんをもよおす尻に敷かれ具合である。

 その点、口うるさくはあるが琴音は物凄く良心的ではある。自分はサポートに徹するからと、分け前は必要無いとの無欲振り。良心的と言うより、恐らくは好意的なのだろう。

 愛情って、度が過ぎると怖くもあるけど。


「琴音ちゃん、ようやく恭輔君とゲーム始める事が出来たんだ……よかったね、応援してるよ! 賞金はともかくとして、楽しめると良いよねぇ?」

「ありがとう、たまきちゃん……肝心の恭ちゃんが破天荒過ぎで、上手く合流出来るかがまるで予測不能だけどね」

「おい、人をトラブルメーカーみたいに言うんじゃないよ、琴音」


 人の性格批評はともかく、ささやかな幸せを祝ってくれたのは。島原環しまばらたまきと言う名前の、ややぽっちゃり体型の女性の幼馴染である。

 読書好きでおっとりとした性格で、珍しく琴音とも衝突せず付き合える良く出来た娘である。小学校の頃から頭が良いのは周囲に知られていて、素行も大人受けもとても秀逸だ。

 どこか夢見がちで、普段の行動がちょっと抜けているのは近しいモノのみぞ知る事実。


「勉強とバイトに加えて、ゲームも始めちゃったんだ……時間とか大丈夫、恭輔君?」

「ああ、倍速の世界だからむしろお得感を感じるぞ? 自由に4時間遊べるって、割とストレス解消出来ていいかもな!」

「そうそれっ、私が恭ちゃんに言いたかったの! なのに恭ちゃん、ずっと無視してんだもん」


 最後にこちらの心配をしてくれたのは、白井奈美しらいなみと言う同級生の幼馴染。ただし奈美だけは、小学校の3年生からの付き合いだったりする。

 彼女は遠方からこの街に転校してきた娘で、そこらか何と言うか交流が始まった感じだ。元々少しマセた娘で、頭の良いのを鼻にかけていた所もあったのだが。

 環によって見事に上には上がいると知らされて、態度が軟化して今に至る。


 彼女も相当な読書家で、勤勉家でもあった訳なのだが。この進学校に入ってから、更に親しくなった感じだろうか。少なくとも、5人でお弁当を食べる程度には。

 ちなみに琴音の成績だが、実はそんなには良く無かったりする。俺と一緒の学校に進学するために、受験勉強は物凄く頑張っていたのは知っているけど。

 今はその無理矢理な貯金も、底を尽きそうな感じなのかも。


 こちらも普段から勉強を見たりしてるし、ここにいるメンバーも試験の時には協力を惜しまないのだが。ゲーム程には熱中出来ない様子、困ったモノである。

 だが琴音に言わせると、それがきっかけで俺の将来の一発逆転を狙える情報の獲得に辿り着けた訳で。つまりは、『ミックスブラッドオンライン』の懸賞金騒ぎである。

 本人は鼻高々なのだが、そんなに上手く行くとはここにいる誰も思っていない。


 そんな思いはおくびにも出さず、和やかに会話は進んで行く。誰も琴音の機嫌を損ねたくないのは明らか、何しろ感情の起伏の激しい娘だから。

 話題はもっぱら、初心冒険者の俺へのアドバイスだったりして。スキルとか魔法とかの、最初に戸惑う事柄についての講釈を、ベテラン勢から結構貰った。

 それなりに為にはなったかな、ゲームをしない環と奈美には悪いけど。


 実際、2人も楽しそうに聞いていたし変に気を遣う必要も無いのかも。小説好きの人と言うのは、他の人の素っ頓狂な話題すら楽しんで聞けてしまう特性がある。

 俺だけじゃないと思いたいけど、変な性癖だと自身でも思う。


「それにしても、ゲームの筐体が凄い勢いで売れてるみたいだね。今の所一部でしかプレミアとか付いてないみたいけど、品薄になったらあり得そうで怖いよね?」

「世間は大騒ぎみたいだな……誠也は会社を乗っ取って限定イベントに賞金を懸けた、新社長の素性とか何か知らないのか?」

「う~ん、何かIT関係と株取引で、たった数年で成り上がった人らしいけど……その位しか知らないなぁ、自身も相当なゲーマーだって噂もあったけど」

「あのくらいの賞金じゃ、ちっとも資産減らないんだってねぇ……世の中には、凄いお金持ちさんもいるんだねぇ?」


 おっとりした環の感想はともかく、賞金を懸ける為にゲーム会社を乗っ取った、割と変人寄りな性格の社長らしい。意味不明だが、この世間の注目具合自体が目的なのかも?

 実際、コマーシャル性も抜群だったし、ゲーム筐体の売れ行きも跳ね上がったらしいし。4倍速と言う訳の分からない筐体性能も、社会的に容認の方向へと進んでいるとの噂だ。

 それが全て計算されたシナリオだとしたら、相当なやり手社長なのだろう。


 時間があれば、そこら辺をネットとかで調べてみても良いかも知れない。『ミクブラ』専用の掲示板とかもあるらしいし、ゲーム知識はもう少しくらいは欲しい所。

 ネタバレは勘弁だが、基本的な知識が無くて苦労するのは馬鹿げている。例えば最初の武器に、弓矢を選択してからの顛末なんてまさにそうだ。

 その事を口にすると、誠也が変な話を切り出した。


「そうそう、ネットと現代の逆転現象って聞いた事ある、恭輔君? さっき言ってた弓矢の話もそうなんだけど、バーチャ系の戦闘ゲームってリアル武術も応用出来るじゃない……ってか、運動神経なんかもそうだし、合成の手際とかも言うに及ばずなんだけど。

 それを得るために、武芸を習う人が増えてるんだって、今」

「あぁ、私もちょっと聞いた事があるよ! この学校って、剣道部とか弓道部が盛んじゃない? 割と人気があるのは、ゲームにも応用出来るからだって、入部してる友達が言ってた」

「へぇ、それは凄いな……ってか、そこまでゲームに捧げる熱意は怖いな!」


 誠也の話は環によってインターセプトされたが、大体の話の流れは伝わって来た。現実と架空世界の奇妙な逆転現象は、モノの価値観を考えるのに色々と勉強になる。

 人間は、空想が可能な動物である。ああなりたいとかこんな風に生きたいとか、現実逃避だったり妄想だったりとかスイッチは様々ではあるが。

 でも空想のエネルギーは、大抵は空焚きだったりする訳で。


 それがVRMMOの場合、現実世界にも影響を波及させちゃってるらしい。面白いなぁと思いつつも、やはりその変な意欲とか熱意はちょっと怖い気も。

 ゲーマーの心理は良く分からない、物事に打ち込む熱意は部活動に励む学生達と変わらないのだろうけど。もはや俺もその一員だと思うと、少しソワソワしてしまう。

 どんな感情だろうか、自分でも判然としないけど。


 誠也は尚も俺にレクチャー、と言うか弓矢は『ミクブラ』では廃れた武器だと主張していた。スキルが高くないと扱い難いうえ、矢弾が消耗品なので維持にお金が掛かるそうな。

 初っ端の入りに敷居が高い上、使い続けるのも大変だと言う二重苦に。お陰でゲーム内でも、高スキルの弓矢使いは滅多にお目に掛かれないそうである。

 それを聞いても、俺は我が道を行くって決めてるけどな!


 半面、やはり魔法戦士は優勢を占めているそうな。ゲーム的に、誰でも割と簡単に魔法を覚えられるシステムなので、前衛を担う戦士でも自己強化魔法程度は覚える傾向がある様で。

 その程度なら、ガチガチに重い鎧を着込んだ前衛でも、詠唱の妨げにはならないみたい。やはり魔法の使用は金属鎧だと阻害されやすいよう、大抵は革鎧が魔法戦士の主流なようだ。

 一番少ないのは、実は布装備との事。


「やっぱり防御力が低いのがネックだから、みんな敬遠しちゃうんだよね……でも、合成で一番付加価値を付けやすいのが布装備なんだよ? その分、売値はお高くなるけどね?

 その次が革装備で、一番流通してるかなぁ……金属装備は、素材も高いし職人も多くないかも? もっとも、限定サーバでは、合成職人自体がほとんどいないみたいだけどね?」

「そうそう、みんな経験値稼ぎに冒険に出ちゃってるから……だから装備なんか、割とみんな貧弱で似たり寄ったりなんだよねぇ。

 作るとしても、自分の使う奴だけとかで、バザーには出回ってない感じかな?」


 琴音の言葉を誠也が引き継いで、限定サーバの現状を報告してくれる。そんな2人は、元サーバでは革装備が定番らしく。限定サーバでも、そちらをチョイスしているのだとか。

 俺もそう……ってか、あの『始まりの森』では装備の選択の自由なんて無いもんね。このゲームはバーチャだけあって、装備の重さもスタミナの減り方に影響するそうだし。

 そうなると、自分も金属鎧は避けて革鎧一択だなぁ。


 自作合成の話は驚いた、みんな限定サーバでは手を染めて無いらしい。自分は珍しさもあって、幾つかやってみたいと思ってるんだけど……なるほど、1時間制限がネックなのね。

 まぁ、活動時間は4時間だけど。その中で他人より秀でようと思ったら、まずは己のレベルを上げる事になっちゃうのかな。PKって厄介な連中もいるらしいし、仕方ないのかも。

 ロストで1週間の出禁だし、それは誰だって嫌だもんねぇ……。




 他にも色々と冒険の豆知識を得ながらも、皆がお弁当を食べ終わった頃を見計らって。俺はゲーム未経験者の環と奈美が退屈しない様に、ゲームの中からキーワードを選んで話を振る。

 少し前に話したけど、この手のゲームへの参加者は世界各国に存在する。ネットが通じればインが可能なので、それはまぁ当然だったりするのだけれど。

 だから当然、そこら辺のサポートはどのゲーム会社も充実させている様子ではある。俺がやっているこのタイトルも、その辺のアピールの意味合いがあるのかも知れない。

 『ミックスブラッドオンライン』……混血を題材にしたゲームって事か。


 日本人は血筋とか混血とか、そこら辺に対する認識は曖昧だと思われる。国境を陸地続きの他の国々と違って、日本は人種の坩堝とは掛け離れているし。

 日本ではあまり馴染みが無いのは、そんな訳で当然なのかも。ただし、血縁関係がどうとかなんてのは、ドラマとかではよく持ち上げられている気も。

 そんな感じで、小説マニアの2人の反応を窺うと。


「どうだろう……確かに異邦人との恋愛とか交流とかを題材にした小説って、日本の文化には無いから少ないかなぁ。……奈美ちゃんは、何か思いつく?」

「ん~、昔の推理小説の設定でドロッとした血縁関係のがあったかな? ほら、映画とかにもなった良くある感じの……田舎の豪族って人達は、莫大な財産が外部に流れるのを嫌って、近縁の親戚同士で結婚するみたいな?」


 なるほど、そう言うしきたり設定はどこかで耳にした事があるような……外部の人間を嫁や婿に取ると、新たな血縁が拡がって遺産相続がややこしくなるって嫌な計算で。

 その嫌なしきたりのせいで血が濃くなり過ぎて、奇形児が産まれやすいとか、そんな感じの物語進行だったような。異なった血と血の交わりって、自然界からしたら意義深い事なんだなと、その時感じた覚えが。

 自分にはない可能性いでんしを取り入れて、将来へと希望を紡いでいくみたいな。


 自然淘汰の生存競争に負けない遺伝子を、そうやって組み立てて行く昔ながらのシステムに。血縁同士の枠内で抗うのは、とても馬鹿げた取り組みには違いなく。

 テーマとしては面白いと思う、実際にそんな田舎の豪族がいるかどうかは別として。そしてこの『ミクブラ』と言うゲームの、職業では無く血筋を選ぶアバター製作の妙。

 純血でも混血でももちろん遊べるが、その違いや癖を見極めるのも一つの楽しみ方なのかも。昔の映画で、自分の先祖がどこから来たのかルーツを辿って行くってのがあったけど。

 自分と言う血統を確信するには、得心の行く手段だと思う。


 俺がそう振ると、確かにその考え方は面白いねと環と奈美に賛同を貰えた。こんな文学的な話し合いは、俺達の間では結構頻繁に行われている。

 別に互いの知識をひけらかし合っている訳ではない、楽しいから議論しているのだ。その後も血筋とか血縁とか、どこがどんな風にファンタジーっぽいのか議論がなされ。

 勇者の血筋とかね、さすがに琴音はゲーム脳である。




 『ミクブラ』ことミックスブラッドオンラインは、スキル制を主軸にしたVRMMOである。全世界に配信されており、そのユーザーは現在4千万とも5千万とも言われている。

 それなのに、今回の賞金付き限定サーバの定員が5万人程度で収まっているのは、その限定サーバが日本サーバに限られているかららしい。

 それにしたって、この10倍は人数が増えても良い筈なのに。


 そこら辺は、どこかで規制が為されているのかも知れない。とにかく、このゲーム内のアバターを個性的に彩るスキル制と豊富な職種。

 それから、優秀で人間味溢れる人工知能を持つNPC。更には言うに及ばずな四倍速の世界は、他のゲーム会社より確実に数歩先を進んでいる。

 そんな本来は一番重要な技術部門より、新社長がこのゲームにより興味を抱いたのは。





 ステータス欄にラック値を含んでいたからだと、どこかの裏掲示板に紹介されていたとかいなかったとか――







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