第3話 初めてのクエと現在のステ
今回は、最初にガッツリとゲームの話をしようと思う。何しろ今からプレーするゲームなのだ、前知識くらいはしっかりと確認しておかないとね。
って言っても、俺も
ちなみに、琴音にはキャラって言わずにアバターと言いなさいと怒られた。
そんなに違いは無いと思うけど、まぁ一応は話の上では統一しといた方がいいのかな? この『ミックスブラッドオンライン』で活動するアバターだけど、自身で最初に決められるのは、実は“混血度”と“最初の所有武器”だけだったりする。
つまりは、アバターの種族とか職業って概念が、これっぽっちも無い訳だ。
いや、少しはあるってのが正しいのかな……一応、混血度を決めるのに4つの種族から選択するのだから。前にも話したが、『人間』族と『妖精』族、それから『獣人』族と『魔』族がこの異世界には存在するらしい。
もちろん純血の『妖精』族とかも選択は可能だが、成長はかなり遅くなるって話だ。どの程度かは知らないが、混血が多くなる程に
だから俺のアバター設定も、あながち間違いって訳でも無い……筈である。
それから職業だが、最初からは選べないってだけでクラスチェンジで幾らでも選択可能らしい。その数はとても多いって話で、中にはレア職も複数存在するのだとか。
それまでは、とにかく己の能力で頑張るしかないみたいだ。別に職無しでも好きな武器を装備出来るし、魔法だってスキル取得すれば使えるようになるのだし。
職業は、そんな冒険者をサポートする追加機能みたいなモノなんだとか?
更に武器や防具の説明を始めるときりが無いし、ましてや魔法に至っては8種類+αまであるっぽい。さらっと聞き齧った程度では、とてもじゃないけど他人に説明なんて無理!
そんな訳で、知っている事だけさらっと書いて行こうか。
武器は片手で扱うのと、両手で扱うモノが存在するらしい。もちろん両手武器の方がダメージは大きいが、攻撃速度は遅い。片手武器は、空いた手で盾を装備出来たりする。
攻撃力を取るか、はたまた防御力を取るかはプレイヤー次第。二刀流と言った手もあるらしいが、スキルが無いと違和感が半端無いらしい……これは琴音談の実話である。
俺はどっちにしようか、実はまだ迷い中である。
次いで防具だけれど、こちらは大まかに分けて3種類だろうか。布装備と革装備、それから金属装備である。もちろん戦闘に於いては、防御力の高い金属装備に利はある。
ただしそんな重装備にも弱点はあって、まぁ考えればすぐに分かるんだけどね。つまりは重いと普段の移動がとても大変なのだ。音も派手に立つので、隠密行動などとても無理。
魔法使用にも制限が掛かるので、ガチガチの前衛を目指す人向けだろう。
一方、軽装備はその逆である。このゲームは意外と魔法戦士が多いので、革装備が圧倒的に人気らしい。動物系のモンスターからの皮のドロップも多いし、素材に困る事も無いらしく。
俺も魔法には結構な憧れがあるので、目指すなら軽戦士だろうか。お金もそんなに掛からないっぽいので、懐にも優しいのが良い。
圧倒的多数が支持する理由も、そんな所にあるのかも。
ついでに魔法についても、少しだけ説明しておこうか。このゲーム、魔法の属性が光・闇・風・雷・水・炎・氷・土と8種類も存在する。更に上位魔法もあるらしいのだが、その辺は良く知らないし割愛させて貰おう。
この属性にもそれぞれ癖があって、例えば攻撃系の魔法が欲しいなら炎や氷や風が出易いそうだ。回復を覚えたければ水か土か光が手っ取り早くて、闇や雷はトリッキーらしい。
もちろんそれは比率に過ぎず、好みで選んでも全然問題無いっぽいけど。
そんなこんなで、大まかなゲームの種族や職業の説明だったけど。種族の混血もステータスの好みで割り振る程度、例えば前衛をやりたいから腕力の強い『魔』族をベースにしようとか。
後衛なら知力やMPの高い『妖精』族がお得だし、『獣人』族は敏捷性やスタミナに富んでいる。『人間』族は平凡寄りだけど、何故か運や魅力の数値は他より高い。
ここら辺は、アバター作成画面でじっくりと観賞出来た次第である。
もちろん、外見的な変化も付加されたりするんだけどね? 『人間』族はともかくとして、『妖精』族だと耳が尖って肌は色白くなる。逆に『魔』族を選択すると、肌は青黒くなって額に角が出現する。
『獣人』族は言わずと知れた獣耳と尻尾で、これが一部のプレイヤーに爆発的な人気らしい。実際、メインサーバでは『獣人』族プレイヤーは割と幅を利かせていたらしい。
まぁ、そんな長所や短所も、混血すれば平凡に寄って来る訳だけど。
それでも多くのプレイヤーは、2種程度の混血を選ぶとの話だ。何故なら純血種は成長が遅く、毒やステ異常の耐性も軒並み低いらしいのだ。
その代わり、育てて行けば強力なカリスマを発揮する可能性が高いとの事で。逆に種族を混ぜ過ぎてしまうと、それぞれの種族の良い特徴が平均へと下がってしまう。
結果、良いのはレベルの上がりだけと言う凡庸な冒険者が出来てしまうらしい。どちらにせよ、割と扱いにくいアバターになるのは間違いのない事実、琴音にも釘を差された次第である。
俺の選択、最大混血もさっき文句を言われたけどね?
とにかくそんな訳で、俺のアバターは額に小角あり頭頂にケモ耳あり、耳の尖ったおかしな肌の色の変種になってしまっている。更に左肩には、奇妙な紋様まで浮かんでるし。
それが何のフラグなのか知らないが、ステータス的には運が高くて魅力が著しく低くて、他の数値はドングリの背比べなアバターとなってしまった。ちょっと後悔しているのは、琴音にはナイショである。
知られたら、また派手に叱られてしまうので。
そんな俺の、現在のステータスを紹介しようか。
名前:ヤスケ 初心者Lv3 種族:ミックスB
筋力 10 体力 10 HP 29
器用 11 敏捷 9 MP 21
知力 9 精神 9 SP 18
幸運 13(+2) 魅力 5(-1) スタミナ**
職業(1):『新米冒険者』Lv3
武器(3):《》《》《》
補正(3):《》《》《》
武器:弓矢1P
:短剣1P
魔法:『闇』(4)《Dタッチ》
種族:『ミックスB』(幸運+2、魅力-1)
スキルP:0
***『新米冒険者』ヤスケ 装備一覧***
武器 :粗末な手製の木槍(3) 攻+3
武器2:初心者の弓(4) 攻+4
予備 :初心者用ダガー(4) 攻+3
上着 :初心者の服(5) 防+2
下肢 :初心者のズボン(5) 防+2
鞄:魔法の鞄(初心者用)
アイテム:ポーション(小)×3、毒消し×2、木の蔦×2、木の実(雑多)
んむっ、俺って今……裸足だったんだな! 全然気付かなかったのは、このアバターに慣れていないせいなのか、はたまた自己ダメージの評価が甘過ぎなせいなのか。
このゲーム、敵から攻撃を受けても本当の“痛み”と言うのは発現されない仕組みだ。もちろんそれは、少々設定を弄ってもそれ程の変化は無いらしい。
人間って、そもそも痛みに対しては消極的に出来てるしね。
そのせいなのかは知らないが、何だか分厚い冬着を着込んだような感触が、ずっと付き
何しろ、戦闘時には痛みの程度でHPの減り具合は測れないって事なのだから。HPバーの減り具合を目視して、そこら辺は確認するしかないのだろう。
操作に慣れて行けば、そんな不便さも気にならなくなるのかも?
そんな事より、色々と突っ込み所が満載な俺のアバター……何より、まずは装備が酷い。初心者装備は上着とズボンしか持たされてないし、現在使っている武器は自作品だし。
弓が使えていたら、また違っていたんだろうけどねぇ。
とにかくここら辺は、どこかで早い内に良いモノに交換したい所。どこで貰えるかは不明だけど、お店の類いが存在しないのは大きな誤算だった。
それより俺のアバターの魅力の低さ……種族補正を受けて、底辺じゃないかって程の数値になっている。逆に運は、笑えるほどに高い。
琴音にも訊ねたけど、それがゲームを進める上でどう影響するかが問題だ。
まぁ、そんな事はどうでも良い些細な問題だ。何故なら俺は、さっきまでの自分とは一線を画した存在となったからだ! つい先程まで、フィールドで敵を倒しながら徘徊した結果。
見事にレベル3に上がって、念願の魔法を取得したのだ!!
さすがに8種類もあるとどれにしようか迷ったが、熟考の末に闇魔法を取得する事に。風魔法もいいかなとか一瞬考えたけど、ダークパワー的な感じに期待して。
何しろ頑張って貯めた、貴重なスキル4Pなのである。
レベルアップで貯めたそのポイントと交換に、貰えた魔法は《
どうやらこの魔法、敵に目潰し効果を与える上に、HPまで奪えるっぽい。逆にこちらは回復するので、まさに一石三鳥である。ただし射程は凄く短いので、その点は注意が必要。
後は、MPを結構消費するのも難点かな。
今の俺の最大MPが21に対して、覚えた《Dタッチ》の闇魔法は10MPも消費する。つまりは最大2回しか使えないので、ちょくちょく休憩を挟む必要が出て来るのだ。
まぁ、射程の短い不利は、詠唱も短い魔法なのでカバー出来るとして。コストの問題は、成長してMPを増やす以外に改善方法を思いつかない。
幸い、今の所2分も休めばMPは全快しちゃうんだけどね?
そんなこんなで、初魔法に浮かれながらの近隣探索は続いている。ついでに残りの時間は、クエ消費に充てる事に決定したのは良いとして。
兎の姿は割とそこかしこで見掛けるのだが、退治依頼の戦闘蜂の姿が全く見当たらない。
取り敢えず安全地帯を中心にウロウロしながら、兎モンスターとその次に多い芋虫モンスターを倒して行く。芋虫関係の依頼は無かったが、まぁコイツはたまに蚕糸を落とすし。
粘着質を持つ糸なので、何かの罠とか合成に使えるかも。
兎の肉と皮はあっという間に溜まったので、後はマップの補完もついでにこなして行く。数十分で安全地帯周辺の地形とモンスター分布は完了、30分経過で一度戻る事に。
クエ達成の報告で、何が貰えるか楽しみだ。ついでに2つ目の木切れも採集に成功して、これで予備の武器の目処もつきそう。
これはバット形の棍棒に加工しようかな、元の形もそんな感じだし。
安全地帯に戻って、最初にクエ達成の報告をこなす事に。兎の肉と皮は、別々の着ぐるみタイプに渡すみたいだ。肉はヒツジNPCに渡すと、渡した半分の量の串焼きになって返って来た。
これは地味に嬉しい、正直な所、木の実や果実ではスタミナがちょびっとしか回復して行かないのだ。腐っても肉(いや、焼いてあるが)なのだし、腹持ちはずっと上だろう。
しかもこのクエ、繰り返しこなせるらしい!
これで食糧問題はずっと楽になったかな、幸いな事に兎の数は多いし、難敵では無いし。それより兎の皮を渡したイヌNPCの提示には、本気で喜びの声をあげそうに。
待望の装備の報酬だ、これでスカスカの装備欄が埋まってくれる!
――粗末な革の靴 耐久2、防+1
うわぁ、酷い……耐久値も防御力も無いに等しい……。ほぼ無料で貰ったモノだから、それを言ったら駄目なのか? 裸足よりはマシだけど、粗末シリーズから脱出は不可能なのか??
装備欄は取り敢えず1個埋まったし、これも繰り返し受けれるクエみたいだ。塵も積もればナントやらの精神で、地道に集めて行くしか手は無いみたい。
まぁ仕方が無い、今から作る武器に期待しよう。
材料はさっき収集した木の棒と、ついでに持ち手の部分に樹の蔦を使用。滑り止めにとの思いだったけど、残念ながら耐久値に劇的な上昇は見られなかった。
それでも手製の槍に次ぐ2つ目の武器は、何より使い勝手が良さ気でグー☆ 子供の頃に野球で慣れ親しんだ感触、これでモンスターを軒並みぶん殴って倒してやる!
いや、実はそんなに強い武器には仕上がらなかったんだけどね?
――粗末な木の棍棒 耐久4、攻+4(両手時+6)
手製の木槍よりは多少はマシ、両手でも振り回せるのがチャームポイントだ。俺が今、所持している武器の中では最高の攻撃力を誇る自慢の一品ではある。
少しずつ整ってきた自分のアバターの現状に気を良くして、俺はもう一度クエの進行状況をチェックする。もう一度ウサギ収集系をクリアするのはもちろん、残り時間で蜂を探そうか。
棍棒製作に時間を割かれて、実はあと45分くらいしか残っていない。
琴音の話だと、1日の制限時間を使い切ると酷いペナルティが襲って来るらしい。毒状態のような治療不可の継続ダメージが、ログアウトするまで続くみたいで。
まだまだ弱い、こんな序盤でそんなモノを喰らったら恐らく1分持たずにお陀仏だ。そんな破目に陥らない様に、余裕を持って安全地帯に戻らなければ。
でもやっぱり、最初に得たクエ依頼の報酬は気になる!
そんな訳で、三度エリアに出てマップとにらめっこ。順当ならば『東のマップを埋める』クエの消化なのだろうが、東は海に出るとの琴音からの情報だった気がする。
海岸の近くに蜂の巣は無いだろうと予測して、自然と足は北から西の方向へ。こちらは確か、断崖絶壁の崖地帯でこの『始まりの森』を隔離しているらしい。
勝手なイメージとしては、こっち側に蜂は巣を作ってそうな。
そんな思いでの探索は、まずは新しい武器に慣れる事からスタート。ノンアクティブな兎や芋虫を倒しつつ、たまに向こうから襲ってくる狼の襲撃に備えつつ。
狼も、不意打ちさえ気を付ければそんなに手強い敵ではない。体力や攻撃力は確かに高いが、そんなに変な動きはしないから仕留めるのは割と短い時間で済むのだ。
むしろ近付いた時の兎のジャンプや、芋虫の糸放出攻撃の方が慣れるまでは厄介?
それでもまぁ、自分のHPがレッドゾーンに突入した経験は未だに無いけど。初日から無茶をすると、流石に琴音に本気で叱られてしまう。
無茶はしない様にとの思いはあったが、標的の姿が見付からない焦りが俺を突き動かす。結果として、蜂を探して随分と西の方向へと移動を果たしてしまったようだ。
気が付いたら、高くそびえる断崖が森の樹木越しに窺えるように。
そして念願の羽音を耳がキャッチ、どうやら数匹で連帯飛行している様子。思わず腰を屈めて茂みを壁に周囲を窺い、目視でも目的の敵の姿を拝む事に成功した。
やっと見つけた戦闘蜂、しかもその数は3匹と多い。
さて困った……コイツ等がアクティブでリンクしたら、困ったじゃ済まされない事態になってしまう。3方向からボコ殴りされて、こっちが狩られる立場になるのは明らかだ。
新しい武器を作って持って来たのは、コイツに対しては運が良かったかも。槍みたいな突く武器だと、飛んでる大きくも無い的に上手に当てる自信は無い。
だからと言って、3匹まとめてはなぁ……。
新しいと言えば、闇魔法も覚えていたっけ。ただしあの魔法、射程が短くて3歩以上離れるともう届かない! 弓は論外だし、マジでどうしようか……?
諦めて他の単独で飛んでる蜂を探すかなぁ、さすがに両手攻撃でも一撃で倒されてはくれないだろうし。虫系の敵はHPは低い設定みたいだけど、芋虫でも3~4撃は必要だったし。
いやいや諦めたらダメだ、工夫次第でイケるでしょ!
このゲーム、回復系のポーションはボタン1つですぐ使用可能……って、親切設計では決してない。ドロップ品の回収は自動なのに、変な所だけ厭らしく凝っているのだ。
つまり戦闘中に使おうと思ったら、鞄から瓶を取り出して蓋を開け、それを飲むか傷口に振り掛けるしかないのだ。どっちでも可なのは、せめてもの優しさなのかも知れないけど。
それでもソロで多数を相手にするには、やはり回復を挟むしか手は無いような。
2分ほど悩みながら観察を続けたが、どうも相手はばらけて行動してくれる気配はない。仕方なく俺は、先程思い付いた作戦を講じる事に。
戦闘中に鞄からポーションを出して使うのは、どう考えても時間が掛かりすぎて自殺行為だ。それならどこかその辺に、蓋の空いたポーションを潜ませておけば良いんじゃないか?
ゲーム素人の浅はかな考えだが、策も無く突っ込むよりはマシだろう。
地形を覚えるのは、実はちょっとした自信がある。下準備は入念に、設置した場所を忘れてしまったら元も子もない。それから戦闘中は、パニックにならずに冷静に。
当然だが、最初の一手は是非ともこちらが取りたい。数の不利は、これでどうにか解消出来る……と思う。自棄っぱちなどでは無い、正解の手順は心の中で出来上がっている。
そんな訳で、蜂の群れ退治の作戦スタート。
まずは不意打ちで、こっそりと忍び寄って後ろからフルスイングをお見舞いしてやる。案の定、連中は揃ってこちらをターゲットに。嫌な滑りを帯びた針先が、一斉にこちらに向く。
怯んでなどいられない俺は、素早く真ん中の戦闘蜂に《Dタッチ》の呪文をお見舞いする。魔法は見事に掛かって、これで1匹の視界は暗闇状態になった筈。
さらにソイツが邪魔で、端っこの蜂はこちらに接敵するのに右往左往。
ただし、こっちも無傷では済まなかった。お返しの針攻撃を、手傷を負った蜂から返されてしまった。浅くないダメージは当然だ、こっちの防御は紙切れ同然なのだから。
次の攻撃は、何とかバックステップで凌ぎながら。こちらも攻撃を返して、最初の蜂はもはや瀕死の状態に。その次の瞬間には、奥の元気な蜂も勢い良くこちらに突撃して来た。
それを何とか、地面に飛び込んで
闇魔法をもう一度使いたいが、何しろMPが心許ない。盾でもあればもう少し作戦の幅が広がっているとは思うが、今更無い物ねだりをしても仕方が無いし。
今の最善の手は、瀕死の1匹を素早く倒す事だ。揃って突進して来る戦闘蜂から、もう一度転がって距離を取りつつ。ようやく片膝立ちになって、迎撃態勢は何とか完了。
敵の一刺しとのカウンターで、念願の1機撃沈!
こちらのHPも半分を割ってしまったが、幸い盲目状態の敵はまだ回復していない様子。近くの樹木を簡易盾に、華麗に近くの戦闘蜂の攻撃を避けて。
目論見通り、その樹の根元に置いてあったポーションを手にしての全回復。どうやらこの作戦は、当初思っていた以上に
余裕の笑みを浮かべた俺の、血の気が引くのはそれから2秒後だった。
何かいる、俺のアバターの視線の先に! 向こうもこっちに気づいた様子、派手な羽音を立てて宙を滑空して接近して来る。連帯飛行のその中央に居座るのは、戦闘蜂より確実に2廻り以上大きい体躯をしていた。
名前の色も違うし、名前も実際『女王蜂』と読めた。ソイツは手下を2匹ほど引き連れて、俺が巡らせた戦闘エリアに勝手に割り込んで来る。
あはははっ、これはデスゲームの始まりですか!?
後ろからの接敵は、何とか気付けて返り討ちに。そう言えば戦闘の途中でした、幸い女王チームが合流するまでほんの少しだけ時間的余裕がある。
その間に何とか、打開策を考えなければ。
要するに、1対3を2回するんだと割り切れば良いのだ。残った2匹の戦闘蜂を、すぐさま片付けられればの話だけど。……って、そんなの無理に決まってんだろっ!!
半ば自棄っパチの行動で、俺は取り出した木槍を女王蜂に投げ付ける。
これが思わぬ効果を生んだのは、半分以上まぐれだった。運が良かったとでも言おうか、投げ槍の要領で勢い良く飛んでった木槍は、女王蜂で無く隣の戦闘蜂にクリティカルヒット!
その結果、なんとその一撃で1匹仕留める事に成功したのだ。こちらもそれを目にして暫く呆けていたせいで、近くの蜂に思い切り刺されてしまったけれど。
ってか、特殊技の《毒撃刺》を喰らったみたい、毒状態のバッドステータス!?
気を抜くとこうなると言う良い例だ、気を引き締め直して今度はこちらの攻撃の番。もっとも、奥の戦闘蜂は既に盲目状態からは回復してるっぽいけれど。
それより毒消し薬は、どこに置いておいたっけ? 蜂と言えば毒なので、こうなるのも織り込み済みである。慌てる必要は無……うわっ、女王蜂は思ったより巨大だなっ!!
いやそれより毒状態を治さないと、毒消し薬どこに置いたっ!?
完全にテン張り気味な俺だが、幸い五感と第六感は良好な様子。近くの敵の気配に思い切り振りまわした棍棒がヒット、更に女王蜂に背を向けながら手負いの戦闘蜂を倒す事に成功。
体力が半減したのと交換に、敵の数は女王蜂を合わせて3匹となった。走り回りながら、何とか地面に置いてあった毒消し薬を回収に成功。
毒状態は解消出来たけど、今度はポーションを取って飲まないと……。
気付けばスタミナも半減、だけど飯を食ってる暇など無い! こちらが走り回ったお陰で、幸いにも向こうはばらけて追跡してくれていた様子。
とは言え、各個撃破の余裕までは無い感じ。戦っている最中に、高確率で囲まれてしまうだろう。贅沢は言ってられないので、ポーションの場所に向かいながら戦うしかない。
覚悟を決めつつ、最初に相手をしていた手負いの戦闘蜂に向かう。
これを倒しても、まだ無傷の戦闘蜂と女王蜂のペアが健在なのか……木の根元に置いたポーションは、あと2つだった筈。これで何とか凌げるかは、NMの女王蜂の強さ次第。
半減した自分のHPに焦りつつ、何とか手負いの相手を倒し切る。途中参加して来た2匹には、かなり痛い目にあったけど。お陰でこちらのHPは、残り2割に突入。
やはり女王様は、普通の奴よりかなり手強そう。
束の間迷いつつ、最後の《Dタッチ》はお供の戦闘蜂に使う事に。魔法はレジストとか、強い相手には効きが悪かったりとか普通にあるらしいので。
HPの吸収が少なかったら、この状況下では泣くに泣けない。安全策を取ったのは、この際仕方が無いってか良かったと思いたい。結果、盲目のお供はあらぬ方向へ攻撃を。
こちらはHPがようやく半分に、これでポーション補充まで凌げそう。
安心する間も無く、NM女王蜂の攻撃を受けて再びダメージを浴びる破目に。こちらも反撃しつつ、森の木立ちを縫っての場所移動。先ほど慌てて闇雲に走り回ったせいで、次にポーションを置いた場所を失念したかと思われたけど。
2本目も何とか発見、回収から回復には成功した。だけど攻撃を受けての回復は、結局はジリ貧なのだと今更ながら気付いてしまった。
幸い盲目の従者蜂は引き離したし、勝つには攻撃に出るしか手は無い。
そんな訳で、半ばヤケクソ気味な棍棒の振り回しでの反撃開始だ。遅まきながらも、その威力は相手をたじろがせるには充分だった様子。基本は昆虫ベースの敵なので、ただ単にそう見えただけなのかも知れないが。
“蒼空パイレーツ”の元5番打者を舐めんなとばかりに、フルスイングを見舞う。ちなみに“蒼空パイレーツ”は、小学校の頃に所属してた野球チームだ。
俺達の代はそこそこ強くて、俺は5番でサードを守っていた。
自棄っパチの気迫が通じたのかは不明だが、こちらの打撃が2連発でヒット! 長打コースの感触と、怒りの女王蜂の反撃《ニードル弾》とかのエフェクト告知。
いきなりのHPレッドゾーン突入だが、俺は意外と冷静だった。敵のHPもあと一押しで、消失する事実がそうさせたのかも知れない。
恐れ知らずの踏み込みで、インコースを
結果、これがトドメの一撃となったようだ。さすが女王は強かった、こちらの瀕死のHPを眺めながらそう思う。ってか、感慨に耽る俺の背後から不意打ちの《毒針弾》がっ!
しまった、もう1匹いるのを忘れてた!!??
最後は殴り殴られの泥試合、締まらない結果になったが何とか死亡ロストは免れた模様。毒が抜けなくて、危うく
残りHPが2とか、絶対に琴音には黙っていよう……何か色々とスキルPを貰えたとかドロップ報告があった気がしたけど、今は無事に安全地帯に帰る事優先で。
しかし初日からキツかったな、無理をし過ぎたかも?
――こんな感想で、ログイン初日を終えた俺でしたとさ。
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