第8話

 りんを叩く音が聞こえる。


 ふらふらとベッドから降り、部屋を出る。廊下を横切り、反対側の襖を開け、和室に入る。そのまま奥の仏間へと続く襖を開ける。

 仏間には祖母がいて、仏壇に仏飯と線香を供えているところだった。

 私に気付いた祖母が振り返る。


「美結ちゃん、おはよう。」

「おはよう、おばあちゃん。」


 仏間に入ると目が覚めても続いていた夢は消えており、ハァと息を吐き出しす。祖母の側まで行き、仏壇を眺める。


「この仏像はお釈迦様?」

「違うよ。これは日蓮聖人のお像だよ。」

「ふうん、凛々しい仏像だね。」

「かっこいい人だったとかもね。折角やっけん、線香ば上げたら?」

「うん。」


 電話がなり、祖母は仏間から出て行ってしまう。一人になると、夢の余韻が残ってて、心細かったが、祖母に言われた通りに、線香を供え、りんを叩く。正座し、下から見上げた仏像は正面から見た時と違い、とても優しげに見えて、大丈夫だよと言われている様に感じる。その優しげな表情に涙が溢れてくる。

 仏像は見る人で表情が違って見えると言うけれど、こんなに安心させる様な優しい表情にも見えるんだ。涙が止まらないまま、斜め後ろを見上げると、曽祖父母の遺影がある。

 そんなに古くはない遺影、曽祖父は祖父と同じようににこにこ笑顔で、曽祖母は凛とした笑顔で並んでいる。2人、雰囲気は全然違うのに、眉毛の形が同じ事に気付いて何だか可笑しくなる。

 曽祖父母は母親同士が姉妹の従兄妹だったというから、似ている所があるのも不思議では無いのかも。

 恐怖が涙と一緒に流れたのか、縮んでいた気持ちが少し解れた事に感謝して、もう一度、仏壇に手を合わせてから、立ち上がる。気分は持ち直していた。



 朝のストレッチの後、箱で貰った花火を眺めていたら、


「美結」


呼ばれて、思わず返事をしそうになり、慌てて周りをキョロキョロと見回す。でも、誰もいない。

 こんなにはっきり聞こえるのに、空耳なのかな。それも何度も同じ人の声で。


「美結」


続けて呼ばれて、


「はい!」


今度こそ返事をしてしまっていた。

 なんだか胸騒ぎがして、外へ出る。無意識に足は湧泉へと向いていた。






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