第7話
湧泉の中に宮城らしきモノを見てから、夜毎夢を見るようになっていた。
最初の夜は 手を引かれ、どこかに預けられる夢。手を引いてくれて居たのは大好きな声の人だった。顔は分からないけど、声がそうだったんだ。
2日目
水の中を覗き込む夢を見る。
水の中に宮城が見える。よく見るとそれは和風というより、街の周囲をぐるっと塀に囲まれた中国の古都の様な街並みで、所々に高層階の建物がある。
あんなに栄えていたのに…
そう思うと悲しくなる。誰も居ない街。誰も居ないだろうに、その街は荒れておらず、無人なのが不思議なぐらい、綺麗に整備が行き届いている。
街の中央には宮殿があり、水の外から見ているにも関わらず、中の様子が分かった。透けて見えると言うより、その場所を思い出すような感覚に近かった。
朱色の門や、柱や梁を彩る螺鈿細工の輝き、中庭の珊瑚のオブジェ。廊下を彩る青色の光。
全てが懐かしく、まるで故郷を恋うかのように、その場所が恋しかった。
3日目
水の中の宮城を覗き込む。
幼い人達が集まる広場。コンサートや劇が催されたステージ。美味しい物が沢山並んだ屋台に市場。整然と屋根の並んだ街並み。賑やかな喧騒が直ぐにでも聞こえてきそう。
全てが今にも動き出しそうなのに、誰も居ない。静か過ぎる街。
あんなに大勢居たのに…もう、誰も居ない。
宮殿が目に入る。広く、この街の威容を見せつけるかのように立派な宮殿。
宮殿にも大勢の人達が居たのに。今は一人。宮殿どころか、この宮城にたった一人。一人でここを護ってる。
そう思うと、心がギュと痛む。
目が覚めると、涙が出ていた。
4日目
夢の中で、私は何処かから逃げていた。私の周りには複数の人の気配がする。集団で逃げているようだった。
街に戻りたい。私は残りたかったのに。
そんな私の願いは聞き届けられる事は無く、早く早くと、周りに急かされる。周りの人達も必死な様子だった。
「ここまで来れば大丈夫なはずです。」
さぁ!と促されて陸に上がる。
押しては寄せる波を振り返りながら、前に前にと押し出されてしまう。
置いて来てしまった事に対する後悔が、胸を占めて、どうしても、そこを離れがたい。たたらを踏む私に
「待っていれば、必ず迎えに来られます。○○様はご無事なはずですから!あんな者達に遅れを取るはずがありません。」
ぐずる私に剛を煮やしたのか、強い口調で先にと促される。否応なく、先に進むより他は無かった。
5日目
水の中の宮城を見る。
そこに暮らしていた人達を思うと、胸を締め付けられる様な思いがする。胸が張り裂けそうな気持ちでいると、無表情の子供達の顔が次々と浮かんできた。知ってる子は誰もいない。
無表情の子供達は悲しそうでもあり、寂しそうでもあった。
何とも言えない苦しさで目が覚める。
初めは湧泉の中に見たモノが何なのか知りたかった。夢の中でだけでも、あの不思議な声の人と逢えたら、もっと関わる事が出来たら良いのに…と思っていた。
でも、連日夢を見続け、夢の内容が少しずつ進むにつれて、湧泉の中に見た宮城の夢を見るのが怖くなっていった。
6日目
水の中に宮城を見る。水の外から水の中を覗き込んでる。
かつては繁栄し、賑やかだった街を見て寂しさに囚われる。
昨日までの夢と同じ事をなぞりながら、子供達の顔が浮かんでは消えて行く。やっぱり、今日も子供達の顔に表情は無く、何も手助けが出来ず、見てるだけの自分に心苦しさと申し訳なさが押し寄せる。
子供達の次は大人達だった。大人達の顔も無表情だった。無表情の大人達の顔は悲しそうと言うよりも、恨み辛みに満ちているようで、ゾッとする。そんな人達の顔が次々と浮かんでくる。
あまりの怖さに目が覚める。目が覚めて、目を開けているのに、まだ、無表情な人達の顔が浮かんでくる。
どうして、起きたのに夢の続きを見ているのか。目を閉じて…まだ、見える。目を開けて、まだ、人の顔が次々と浮かんでくる。
どうしたら、消えるのか、いつになったら、この夢は終わるのか。いつ終わるとも知れない顔を見続けて、震える手で自分を抱き締める。
その時、リーン、リーン、リーンとりんを叩く音が聞こえた。
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