第5話

 目が覚めて、自分が寝ていた事に気付く。

 湧泉の中に見えたモノ。あれは何だったんだろう。いや、何となくは分かる。宮城だ。教科書の写真とかテレビとかで見た事がある。

 

 水の中の宮殿…竜宮城?

 

 いやいや、昨日見たアニメの影響で、あんなモノを見たのかも。でも、アニメの中で出てくる水の中の街は要塞みたいで、どちらかというと、西洋の街みたいだったはず。

 私が湧泉の中に見たのは、平安京とか長岡京の様な日本の古都風な宮城だった。

 

 祖父が悪戯でジオラマを置いてたとか?

そうだ!きっとそうに違いない!

 

 そう思う事にする。



 寝て、目覚めて、少し落ち着いた気がするが、あまり落ち着いていないのかも知れない。ぐだぐだと取り留めの無い事を考えていたら、祖父に昼食だよと声を掛けられた。

 居間に顔を出すと


「素麺ば食べんね。」


祖父が素麺を茹でてくれたらしい。


「うん、ありがとう。おばあちゃんは?」


時計を見ると11時半前、昼食にはまだ早い気もするが、朝の早い祖父には、もうお昼なのだろう。


「もうすぐ帰って来るやろ。田に寄って来るって言いよったけん。」

「そっか。」


 祖父名義の畑は自宅用の敷地以外に3ヶ所ある。その内の一つが水田。後の二つはビニールハウスで野菜を栽培している。小さなニュータウンの側にある畑は宅地開発があった際に曽祖父が農地法を知らない振りをして、一部を売ってしまい、警察から事情聴取を受けたのだとか。一部を売ったと言っても、そこに残ってる畑は相当な広さがある。他にも休耕地になってしまっている畑というか、山があるらしい。

 祖父の家系は何代か遡ると宮大工(神社や寺院を造る大工)の棟梁を輩出している家系だそう。この地域の藩主の菩提寺を建て替えた人もいるらしく、その時にお殿様から「小柳」の姓を賜ったと聞いた。そういう経緯があるのなら、保有している山が多いのも納得だ。

 でも、その山も高祖母の代と曽祖父の代で随分と減ったらしい。

 高祖母は婿を3人娶った人で、一人目と離婚する際に山を一座、慰謝料として分けたのだとか。昔の慰謝料…スゴイ!!

 その山は近所にあり、あちらの方が家も畑も日当たりが良い。ん?畑のある山も入れれば、一座じゃなくて、二座だね。随分と剛気な慰謝料だと思うのはマンション暮らしの所為だろうか。

 ここは山にぐるっと囲まれた谷みたいな所だから、陽の当たらない時間も多い。


 あっちの家は一日中、陽が当たってそうだけど…


と、考えて、


 ああ、ここは水が湧いているから。


と、思い至る。

 水道の無い時代、綺麗な水が近くにあるという事は、生活していく上で大きな利点だった事だろう。

 曽祖父の代では、戦後の混乱期やバブル期に気が付いたら、土地の名義が書き換えられている!なんて事が何度かあったらしい。

 裁判で取り戻せた事もあったし、駄目だった事もあったのだとか。まぁ、無知な振りして、売っちゃったりもしてたみたいだし。

 高祖母と曽祖父の時代に山は随分と減ったが、祖父が所有している山を母の兄弟達は正確には把握していない。母も伯父、叔父も高校を出たら、地元を離れている。


 自分達の家系を知らなくても、みんな工業系の学校に進んでいるのは血の為せる業だね。

 

と、最後まで実家に残り、2年前に結婚した叔母が教えてくれた。兄弟で唯一、工業系に進まなかった叔母は、長く実家に居た為に田舎の近所付き合いや親戚付き合い、家系やそれに纏わるスキャンダルにとても詳しかった。

 

 長く地元に残ると、成人するぐらい迄は聞いた事もない昔の話を聞く機会が増えるんだよ

 

とも、母達に話していたのを聞いた事がある。

 

 今の人は…って、よく言われるけど、昔の人達も大概びっくりする様な事ばっかりしてるよ。

 

とも。法事の席では昔のトンデモ話で盛り上がるのだとか。祖父もやんちゃするのが楽しかった口らしい。やんちゃで思い出した!



「おじいちゃん、水が湧いてる所にジオラマ入れたりした?」

「ジオラマって何か?」

「模型だよ。街とかお城の模型。」

「そがんモンば入れるもんか。あそこは飲める位、キレカ(綺麗)水の湧くとぞ。」

「…そうだよね」

「溜池にはスイカば冷やしとるけん。おやつに食べんね。」

「小玉?」

「そう、大玉でも良かったばってん、一人で大玉はきつかやろう。」

「大食いの人じゃないからねぇ。」


 ちゃんと断っておかないと、冗談ではなく、毎日、おやつに大玉スイカを一つづつ用意されてしまう。

 ジオラマの件は…祖父の悪戯を期待して、尋ねてみたが、あっさりと否定されてしまった。

 昼食の後にアニメをまた観て確認してみる事にする。



 アニメの中で出て来た水の中の街はやっぱり、西洋風な要塞みたいな街だった。

 なら、私が見たのは何だったのか。それにあの声、


「見つけた」


って、なんだか楽しそうに話す声。たまに聞こえる、低くて深い声とは違う声だった。楽しそうな、嬉しそうな調子だったけど、なんだかゾッとする声だった。


 

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