第2話


「美結ちゃん!」


 到着ゲートを潜ると、ロビーで祖母が手を振っている。隣にはいつもにこにこしている祖父がいる。今日も祖父はにこにこしているし、祖母も笑顔だ。祖父母と言っても、2人ともまだ60代、祖母はまだ、年金も貰う前だから、テレビや絵本に出てくるようなおじいちゃん、おばあちゃん像からは程遠い。祖父は白髪が増えて、髪が薄くなり、頭皮が見えているけれど、祖母は黒々とした量の多い髪を綺麗にセットしている。


「車ば取りに行くけん、待っとかんねね。」


 空港のビルを出た所で、祖母がそう言い、祖父が駐車場に車を取りに行く。祖母と二人、空港のロータリーで祖父の運転する車を待つ。

 外は凄く暑くて、とても眩しい。同じ日本のはずなのに、空の青さが違う気がする。別の国に迷い込んでしまったかのよう。いつも見ている空の色と違う、鮮やかな青い空と輝くような白い雲、それに周りで聞こえてくる方言でそんな気分になるのかも知れなかった。


 祖父母の家は空港から車で1時間とちょっとの所にある。国道から脇道に入り、50mほど登った場所に家はあるが、周りをぐるっと小さな山に囲まれて、山と畑以外は見えないような場所。家の周りの山は全て祖父名義の山で、その内の一座を水源として水も湧き出ている。小さな湧泉の隣には小さな溜池があり、それが国道の脇を流れる2級河川へと流れ込んでいる。溜池にはたまに川から魚も登ってくるらしい。

 敷地内には以前は棚田が5枚あったが、今は全て畑になり、さらにその上の土地が自宅、倉庫、庭になり、山に続いている。畑には時期の野菜が自家用に栽培され、敷地内のあちこちに果樹が植えてある。

 母の小さな頃の好きな果物はバナナとりんごだったらしい。それらは買わないと食べられないからと言う理由で、他の果物は大抵、家の敷地内にあったし、マスクメロンやスイカは販売用に栽培していたから、おやつに一人、ひと玉づつあり、見飽きていたと言う。苺やみかんは親戚や知り合いが栽培しており、お裾分けで頂く事も多く、珍しい物ではなかったそう。「みかんとかスイカとかメロンとか、果物って、あんまり買う気がしないわよね。貰って食べる物って感じよね。」と母は言うが、そんなのは農家の人達だけだと思う。


 祖父母宅に着き、仏壇に挨拶を済ませて、畳の居間にごろんと転がる。家だと母に「居間は寝転がる場所じゃない!」と足蹴にされるところだが、ここは祖父母宅。母もいない。

 祖母が


「遠くから、大変やったね。アイスのあるよ。食べるね。」


と、声を掛けてくれる。


「食べる!」


 寝転がったまま返事をすると、祖母がアイスを出してくれる。両親も優しいが、祖父母はひたすら甘いと思う。

 アイスバーを咥えたまま、DVDプレーヤーを操作し、テレビを点ける。点けてから


「映画観ていい?」


と、尋ねる。ダメと言われる事もなく、言われるとも思っていないが、DVDをさっさと再生する。


「好きだね、そのアニメ。もう覚えたやろう。」

「んー、覚えるほど観たけど、飽きはしないかなぁ。」

「そがんね。」

「そがんです。」


 ちょっとおかしな方言で返事を返し、祖父母とアイスを食べながら、お気に入りのアニメを再生する。

 このアニメのDVDは自宅にも、祖父母宅にもいつ来ても観れるように置いてある。父方の祖父母宅に行く時にはDVDを持って行っている。

 何度も観てるから、セリフやサントラを聞いただけで、そのシーンが浮かぶほど覚えている。

 特に好きなシーンは城上部の庭園にある池を覗き込んだ時に見える街並み。水の中に見える街に凄く惹かれる。あのシーンを観たいがために何度も観てるようなもの。

 後はヒロインの「民が一人も居ないのに、王だけ居るなんて滑稽だわ」と言うセリフ。何故だか凄く切なくなる。切なくなるようなシーンじゃないはずだけど、私はこのセリフでなんだか悲しくなってしまう。


 短い一人旅を終え、お気に入りのアニメを観ながら明日から何をしようかなと考えていた。





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