やっぱり君には、
執筆日:2018/04/07
お題:『真実』『砂漠』『正義』
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「正義がいつも正しいとは限らない」
いつもの学校の帰り道。
君はそう断言してみせた。
「正義っていうのはそんな客観的なものじゃない。ふへんでもない。それは正義かどうかって、人によって違うだろう?」
「……そうかな?
例えば、弱者を助けるのは正義じゃないのかい」
そう問うと、君はあっけらかんと言った。
「もしそれがその人を甘やかすことに繋がっていたら?それは正義とは言い難いかもね」
君は続けた。
「1人1人、違う価値観でそれぞれが"正義"を持っている。同じ価値観の人はいない。だから自分にとっての正義は相手にとっての悪かもしれないよ?
戦隊もののアニメだって、悪役たちはそれが正義だと信じて自分たちにとっての悪——正義の味方を倒そうとするんでしょ?」
……確かにそれも一理ある。
「真実が人を幸せにするとは限らない」
別のある日、君はそう断言してみせた。
そう、いつもの帰り道で。
「どうして?君は本当のことを言われて嬉しくない時があるのかい」
僕が問いかけると、君は迷うことなくうなづいた。
「真実っていうのは君も知る通り、実際に何があったのかだ。事実と似ているんだね」
「うん。なるほど」
僕はうなづく。
「なるべく真実を話す方がいいだろうけど、人はそうと分かっていながらも相手のために嘘をつくことがある。優しい、嘘をね」
「それがよくわからない。どうせ後で真実を知ることになるのに。その時に普通に真実を知るよりも落ち込むはずなのに。どうしてそんな嘘をつくんだい」
「そうとは限らないのが人間の面白いところじゃないのかな?」
君はそう言って笑い、「次に会うときまでの宿題。そうとは限らない場合を見つけてきて」と言った。
その「次」は、2度とやってこなかった。
君は事故にあって死んでしまったから。
市の中心地で絶対に行きたいイベントがあるから、と言って、その日君は出かけていった。そして、出かけ先で事故にあって、二度と帰ってこなかった。
まさか、「次に会うとき」には君が、死んでいるなんて……想像もつかなかった。
いつもの帰り道。
いつも隣にいた君は、もういない。
「ねえ、そこの貴方」
話しかけてきたのは、よく帰りに一緒にお喋りするおばあさんだった。だけど、最近は全く話しかけていない。
おばあさんは僕とよりも君と話していることが多かった気がする。おばあさんは君が気に入っていたみたいだしね。
「いつも一緒にいるあの子はどうしたの?2人で色々なお話をしているのがとても楽しそうだったのに。ここ最近見かけないわね?」
おばあさんは君が死んだことを知らないはずだ。
……ああ、いつも君には敵わない。
頑なだった僕の考えが音を立てて崩れていき、砂漠の砂のようにさらさらとこぼれ落ちていく。
「……彼女、引っ越したんです」
「あらまあ。そうだったのね。教えてくれてありがとう」
「いえ、それでは」
僕はその場を立ち去りながら、呟いた。
「そうとは限らない場合……見つけたよ」
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