WHITE
執筆日:2018/04/06
お題:『空白』『白』『戸惑い』
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ここ最近、筆が進まない。
描きたいイメージが、何も浮かばない。
頭の中に広がるのは、白い空白。
無だけが私の脳内を支配していた。
ある日、夢の中に道化師が出てきた。
「何にもできないのか。期待していたのに、いや、はなから期待などしていない」
道化師はいやらしく笑った。
「うるさい!」
私が叫ぶと、道化師は突然霧になり、私に変化した。
「私は夢でしか貴方に会えないから」
もう1人の私はそう言って微笑んだ。
思わず、問いかける。
「貴方は……誰なの?」
さっきまでは私を嘲笑う道化師。今は私にそっくりな人。
貴方は、一体誰?
もう1人の私は、その問いにこう答えた。
「私は貴方でしかない。あの道化師も貴方の中にいる。私も貴方の中にいる。夢の中だから貴方の目の前に現れることが出来るだけ。いつもは貴方の心の中に住んでいる」
「……作品が、出来上がらないの」
気付けば、語り始めていた。
「私、このまま二度と、絵が、描けなかったら……」
「……」
「空白が、埋まることが、無かったら……」
彼女は無言で聞いていた。
しかし、不意に言った。
「空白が埋まらないなら、白で埋めてしまえばいいんだよ」
「……えっ?」
「それは無ではない。有なんだよ。白がそこにあるんだよ。白は始まりの色。原点の色。なかなか気付かないけど、いつもそこにある色なんだよ」
彼女は続けた。
「自分を受け入れるんだよ。否定したい部分も含めて全て。『二度と作品が作れないかもしれない自分』も受け入れる。そうすればきっと、きっとこの悩みを乗り越えられる」
戸惑った。
その言葉たちは、あまりにも衝撃的で。
だけど彼女は当たり前のように語る。
「貴方は答えを知っていた。だけどそれを認めたくなかったから、毎日悶々と真っ白なキャンバスに向かい合っていた。目の前にあるのは、頭の中にあるのは『空白』であり『無』であると信じて。
でも、もう認めなきゃ。認めたいから私を夢の中に呼んだんでしょう?
目の前にあるのは、頭の中にあるのは『白』で『有』なんだよ。覚えていてね」
涙が流れていた。
彼女が私にあまり似ていない細く白い指でその涙を拭ってくれる。
「さあ、現実に戻る時間だよ」
目がさめる。
目の前に広がる、白いキャンバス。
それは最早もう、無ではない。
私はそこにサインを書き入れた。
「……ありがとう」
私は小さく呟いた。
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