第3話 【中立・悪】の戦士 ロンベルト

「てめえ、まさかクリスティーナが盗んだなんて言うんじゃないだろうな。あいつがそんなことするわけねえだろ!」


「別に俺はそうだと言ってないんだけどな。でもそう思うってことは、心当たりがあるんじゃないのか?例えば金遣いが荒いとか、高い買い物をねだってくるとか……」


ロンベルトはまさかという顔をして、クリスティーナを見る。

見られた方は眉をつり上げて反論した。


「ちょっと、なんでアタシを見てんのよ。そんなヤツの言うことを信じるつもり?」


「お前、借金があるって言ってたよな?」


「何よ。借金があるのはそっちだって同じじゃない。オトモダチにいい顔しようとして無駄に金をかけて、いい物を買ってみせびらかしているでしょ」


「なんだと……!」


そこから二人の罵り合いが始まった。

相手がケチで見栄っ張りであると、お互いがお互いを指摘する。

耳をふさぎたくなるほどの不快な言葉が飛び交う中、勢いで押されつつあったクリスティーナが苦し紛れに隣にいた神官を指さした。


「待ってよ。金に困ってたっていうなら、ヨブの方がずっと困ってたはずよ。だってあんた、コイツにほとんど金を払ってなかったでしょ」


急に指摘されたヨブが、「ひえっ」と悲鳴をもらす。

全員から注目され、誰の目から見ても明かなほど動揺している。


「ヨブ、どうなのよ。言いなさい!」


すぐ横から詰め寄られたヨブは、焦ってどもりながら声を絞り出した。


「は、ハトリさんに、やれと言われた……って言えって言われました・・・・・・・・・・


「言えって、言われた?」


周囲の視線がハトリに向けられるが、疑問の声によってふたたびヨブに向かう。


「えっと、あの、その……」


「へえ、俺に罪を着せようとしたのかロンベルト。ヒドイやつだな。俺とヨブの分け前を支払わないどころか、さらに金を搾り取るつもりだったのかよ。よくよく悪知恵が回るな」


「何を言ってるんだ。俺様はそんなこと……」


「していないと言うつもりか?ほら、ちょうどここには真偽判定できる人がいるから聞いてみよう。なあロンベルト、お前は俺の分け前をちゃんと支払ってないだろ」


「は、払っただろう」


ハトリに目線を向けられ、ベルベットは【真偽判定】の目でロンベルトを見る。


「【偽】。あなたは嘘をついています」


「それは……」


「もう一つ聞こう」


反論しようとする声にかぶせて、ハトリが質問を続ける。


「クリスティーナ、お前どのくらい借金してるんだ?」


「アタシ!?その、ちょっとよ。ほんの少しだけ」


「【偽】です。ちょっとじゃないようですね」


「アンタ、勝手に判定してるんじゃないわよ!」


怒鳴るクリスティーナを、ハトリが手を広げて制する。


「おいおい、今のは俺が頼んだからだぞ。俺ばっかり判定されてちゃ不公平だろ。それよりも、この状況をどうやって治めるつもりだ?今までの状況証拠からだと、お前らが俺にいわれのないイチャモンをつけてきただけにしか見えないんだけどな」


「イチャモンじゃねぇ……」


「それくらいにしとけ」


言いかけたロンベルトの横に、酒場の主人であるマルトーが立った。


「なあロンベルト。今のお前さんは営業妨害をしてるって分かってるか?もう審議判定は終わった。ハトリは盗みをしていない。犯人は別にいるんだろ。だからもうここは関係ないだろ。この店は酒を飲む場所だ。これ以上続けるなら酒を注文してからにしてくれや」


「いや、今は持ち合わせが……」


「なら今すぐ出て行け」


店主は静かに、しかし断固とした態度で宣言する。

ロンベルトはハトリの方を見るが、ジョッキをこれ見よがしに振って自分は客だと示す姿に顔をゆがませる。

しかしすぐ近くで店主に睨まれ続けるのに耐えかねて、ついには後ずさった。


「……くそっ、今日はこのくらいにしておいてやる。ハトリっ!次に会ったらどうなるかわかってるな。覚悟しとけよ!」


捨て台詞を吐いて、足音を荒く店から出て行った。


ギャラリーたちが、もう見世物が終わったのかと動き始める。

そのタイミングでハトリが口を開いた。


「そういや、闇金の返済日ってそろそろだよな?ロンベルトは色んなところから借金してたはずだし、そっちの支払いができなかったら夜逃げするんじゃないかな?知らないけど」


その言葉を聞いたギャラリーの数人と、クリスティーナが一瞬だけ動きを止める。それから先を争うように、酒場から出て行った。




神官のヨブがハトリの向かいに立った。


「今の人たち、なんで行っちゃったんですか?」


「ロンベルトに金を貸してたんだろ。せめて自分が貸した分だけは取り立てようと追いかけたのさ」


「ならクリスティーナさんは」


「払える金がなければ代わりに魔石とか値打ち物を持っていこうとするヤツがいるだろ。それより先に、自分の分を確保するためじゃないかな」


「はあ、なるほど」


あまり理解していない顔のまま、近くに来た店主に酒を注文した。

店主はそのままベルベットへと向かってきた。


「ご苦労さん。あんたのおかげでやっと静かになったよ。どうだい、一杯飲んでいくか?」


「ええと、もう終わりでいいんですよね?私その、あまり役に立てたとは思えないんですけど」


「あんたの【真偽判定】がなきゃ、平行線のままずっと続いていたさ。本当だったらウチのツケも支払わせたかったんだが、それはもう諦めて別な方に期待することにしたんだ。上手くいってよかったよ。今晩はおごるから、好きなだけ飲んでいきな」


店主はハトリへと視線をやる。


「はあ、どうもありがとうございます。……って、え?それってどういうことですか?」


ベルベットが問いかけるが、店主は酒をとりに行ってしまった。


先ほどの【真偽判定】の結果から考えて、あの忍者は何かを知っている。

そう考えたベルベットは、ハトリとヨブのいるテーブルへと向かった。


――――――


【出題編終了】


問題は、『ロンベルトの金を盗んだのは誰か』です。

ここまでの文章で、名前が出てきている中に犯人がいます。

難しいトリックは有りません。

素直に考えてください。


答えは次話にあります。

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