第15話 ライトノベル作家の消滅

 異世界ファンタジー、異世界転生、その他の瞬間的なムーブメントがネット小説を加速させ、それはそのままライトノベルの発展や進展と表裏一体で進みました。アニメ化された作品もあるし、ネット小説では、マンガ化なども頻繁にあります。

 この状態、ネット小説とライトノベルが密着したがために、ネット小説を書いているアマチュア作家は、僕からするとプロなのか、セミプロなのか、アマチュアなのか、全く自己認識が不可能になっているのでは、と思います。

 書籍化すればプロなのか、ただ一冊だけ刊行するだけでもプロなのか、ネット上で1000万PVとかになってもアマチュアなのか、そういう不自然な疑問が頭に浮かぶのではないでしょうか。

 ネット小説界隈を見ていると、「プロになりたい」とはっきりさせる人よりも「書籍化したい」、「書籍化を目指している」という表現が多いように見えます。そういう意味では、僕がライトノベルを追い始めたゼロ年代における、公募で賞を取ってそのままライトノベル作家になりたい、という願望とはちょっと違うものがあるのかな、と感じます。ゼロ年代の僕が考えていたのは、とにかく大勢に読まれたいし、評価もされたいし、イラストも欲しいし、という具合でしたが、ネット小説を書いている人は、何人が読んだか、何人が評価しているのか数字ではっきりわかるし、場合によってはイラストも誰かにファンアートという形で描いてもらえる。そうなると、プロ作家になる、もっと言えば専業作家になる、という願望はあまりないのかな、と思う。書籍化する理由が、紙の本が出来上がる、という簡単なものになってしまう。それが悪いわけではないですが、ライトノベルというもの、ライトノベル作家という存在は、無料で読めるし、無料で書ける、という環境が整備されたことで、20年前とは明らかに様相が変わっていったように見受けられます。

 ラノベ作家として食べていくということがどういう様相を帯びるかわかりませんが、現在の安定した仕事を続けて、趣味の時間で小説を書いて、それが副収入になれば万々歳、という形を示されてしまうと、なるほど隙がないな、となってしまう。無頼派という表現も全く消えてしまいましたが、時代柄か、安定が重視されるのでしょう。いや、そこはむしろ、作家になりたいなどと古典的なことを思い描いている僕が、おかしいのかもしれませんね。捨て身というか、ほとんど投身自殺をしているのに近いかもしれない。

 それはそうと、ネット小説の発展は、本をお金を出してまで買う気がない層を引き寄せ、逆に趣味で小説を書きたい人にはその場所と読者を用意し、需要と供給が噛み合うどころか、ほとんど尾を喰らう蛇となって、回り続ける状況を出現させたように見えます。そしてその無料で読めるし書ける、というのが、20年前には発生どころか、存在しなかった、ありもしなかった、新しい状況です。

 この環境が、出版社が新しい作者と読者を作る環境にもなるようですが、これは明らかにネット小説とライトノベルをぴったりと接近させる動きで、とりあえず、それは商売としては正しいと思います。僕の中では昔ながらのライトノベルに生き残って欲しいので、ネット小説にはない何かがライトノベルと呼ばれるものに残ればいい、などと思っていますが、このネット小説の波がライトノベルというジャンルを飲み込んだとき、ではライトノベルとは何なのか、という極端な疑問を、僕に限らず、似た視線や好みの人の心に表出させるように感じます。

 2020年という節目だけを見ると、ライトノベルはまだ残っている。ただし、20年後、2040年にはどうなっているかは、やっぱり、皆目、わからないのです。

 僕自身はなんとか生き延びて、それを付かず離れずで見れたらいいな、と思います。


(続く)

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