第12話 電撃文庫一強が崩れない現実
電撃文庫、というのは2002年あたりでは、はっきり言って際立ったレーベルではなかったように思います。僕はもちろん、電撃文庫で刊行されるシリーズをいくつか追いかけていましたが、どこでどういう風に流れが変わったのかは、あまりはっきりしないです。「灼眼のシャナ」、「とある魔術の禁書目録」が爆発的に売れたのを見ていたし、アニメ化されたはずの「アスラクライン」、「しにがみのバラッド。」、「キノの旅」、「アリソン」あたりも知ってはいました。はっきりと言えることは、僕は十代でしたが、文庫本に挟まれているその月に刊行された文庫が一覧になるチラシを開くと、20作近い新作があって、とても全部は追えなかった、ということです。
これがあるいは、電撃文庫が10年代からほとんど一強の時代を生み出す理由なのかな、と今は思います。電撃文庫には不思議な体力があって、それがどこから来たのかは、事情を知らない僕にはわかりませんが、とにかく電撃文庫はどんどん小説を刊行していくことができた。売れる売れないより前に、まずは本を出す、と言ってもおかしくないくらい、とにかく新刊や新人を出していました。
どこから作家を見つけてきたのか、どれくらいの人数で編集作業をしたのか、ちょっとわからないほどのエネルギーがありましたね。
これは僕が2002年の段階で公募に挑戦していたこともありますが、電撃大賞が、年を追うごとに応募作品数が跳ね上がって行って、それは僕の目には、電撃文庫が最高のレーベル、というように映りました。
どうして電撃文庫には多すぎるほどの作品を輩出して、新人を集める吸引力があったのか、というのは今になってもよくわからないとしか言えませんが、相対的に角川スニーカー文庫や富士見ファンタジア文庫は、その他のレーベル、スーパーダッシュ文庫や、新興のMF文庫J、GA文庫、ガガガ文庫などなどと同列になり、そのまま2020年を迎えていることになります。
ひとつだけはっきりしていることは、電撃文庫作品は他のレーベルに比べるとアニメ化された作品が多いのではないか、ということです。ここでもやはりライトノベルとアニメの両輪駆動が発揮されて、資本の投入と十分な回収が成立したのかもしれない、とは想像できます。
電撃文庫は元はメディア・ワークスという出版社で、角川書店から分離したはずですが、富士見書房はともかく、角川書店とは環境的には比較的近かったのではないか、と思います。それは、ライトノベルを出版しながら、同時に漫画として展開できる、という部分において近い、と言えます。このメディアミックス展開、マルチメディア展開のとっかかりとして漫画を発行できる、というのは大きいはずですが、もっともメディア・ワークスと角川書店では資本力が違う、ように見えて、実際にはその基礎体力では、ほとんど空想ですが、メディア・ワークスは上り調子で、角川書店は明らかな落ち目のようにも見えました。そして結局は、いくつもの出版社を統一してのKADOKAWAの成立が、10年代半ばあたりに起きる、という事態につながるわけです。
ゼロ年代において、電撃文庫やメディア・ワークスがなぜ、おそらくハイリスクな無茶をしてライトノベルを押し出したのかは、全く不明ですが、ゼロ年代におけるあの熱狂的な読者の獲得とまさに電撃的な電撃文庫の躍進が、10年代におけるKADOKAWAの成立にまで影響するとは、さすがに誰も予想しなかったでしょう。
(続く)
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