第11話 何故、スニーカー文庫は場所を譲ったのか
僕の中では角川スニーカー文庫は最初に出会ったライトノベルレーベルで、特別な存在です。
ただ、僕が見てきた中で、最も迷走し、最も困難に直面したのではないか、と思うレーベルです。
最初の段階として強かったのは、素人だった僕でも聞いたことのある「ロードス島戦記」を世に出したレーベルでした。異世界ファンタジーの金字塔で、僕もこの作品は何よりも偉大だと思っています。
次にやってくるのが「ラグナロク」、そして「トリニティ・ブラッド」、「ランブルフィッシュ」、「シェリフスターズ」、「でたまか」などなどという時代です。
まず「ラグナロク」は異界を舞台にしているようで、SFのようでもあり、その上で何よりもすごいのはアクション、バトルというものを文章で完璧と言ってもいいほど表現したことです。主人公最強という要素もあるし、この作品のすごい部分は長編シリーズを、たった一人の一人称でおおよそ全てが語られるという手法で成立させたことでしょう。最初に読んだのは2002年くらいですが、当時において最高峰の作品でした。
次が「トリニティ・ブラッド」があって、この作品は文章の技量もですが、キャラクター小説としても成立しながら、ストーリーもよく練られていて、僕はこの本を初めて読んだのは中学生で、しかしまるで自分の身の丈に合わない、大人が読んでいるものを読んでいる雰囲気でした。作者急逝で未完で終わりますが、最後に明かされた創作ノートを見ると、この作品は壮大なSFであることが明かされていて、もし作品が最後まで書き上げられて世に出ていれば、ゼロ年代におけるSFブームのひとつの名作にもなりえたかな、と思います。
そして「ランブルフィッシュ」はロボットが存在する現代を舞台にしたファンタジーなので、先の二作と比べると、比較的、落ち着いています。SFとしてもライトな感じで、学園ファンタジーという向きもあって、つまり僕の中では今になってみると古き良きライトノベルの最後の一つかな、という感じです。
僕の中では角川スニーカー文庫ではこの三作が代表した時代があって、それから「ムシウタ」、「薔薇のマリア」、「されど罪人は竜と踊る」、「アルティメット・ファクター」、「時載りリンネ」などと続いていく時代も僕は追いかけていました。
それから何かがずれていくわけで、それはもちろん、レーベルとしての迷走や凋落という意味ではなくて、僕の中の角川スニーカー文庫像とのズレが生じてくる、という具合です。それはあけすけに言ってしまえば、ラブコメ要素が入ってくる、ということで、僕はライトノベルにラブコメを求めていなかったので、自然と手を引く形になりました。
スニーカー文庫は2020年においては、際立って特徴的な名作もなく、他のレーベルの後塵を拝す、というように見えます。もっとも、今、「ラグナロク」のような作品が爆発的に売れるか、と問われると、それはないだろう、と思います。「ロードス島戦記」が今、売れるかと言われれば、やっぱりそれはないと言わざるをえない。
そうなると角川スニーカー文庫は時代に求められ、そしてそれを別のレーベルに譲った形のレーベルなのかな、と、そんな風に思ってしまうレーベルです。
(続く)
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