第9話 西尾維新という存在がライトノベルに持ち込んだもの

 ゼロ年代の前半に登場した作家で、西尾維新という人を外せないのは、この作家がミステリから登場し、あっという間にこの20年でキャラクター小説のトップランナーとして走り続けている存在になったことによります。

 僕は遅れて「戯言」シリーズを読みましたが、最初こそ本格的なミステリなのですが、徐々にキャラクター小説になっていく。

 その西尾維新のキャラクター小説の何がすごいかといえば、文章によってキャラクターを立てる手法がずば抜けていることです。この西尾式キャラクター小説が、ゼロ年代から10年代にかけてのお手本のようになっているのではないでしょうか。僕の中で印象深いのは、入間人間さんという作家の方が一時期、爆発的に売れていましたが、この人の文章を読んだ時、これは西尾維新では? と思ったことがある。ちょっと調べてみると、西尾維新さんを意識しているようで、つまり、それくらい西尾維新というスタイルには際立ったもの、特徴のようなものがあった。

 西尾維新さんがライトノベルと接近した理由は僕の中ではあまり整理がついていなくて、そもそもライトノベルを狙ったのか、それが最初期に関してはわからない。講談社ノベルスから「クビキリサイクル」が出た時点で、表紙はイラスト、と編集者か誰かが決めたはずで、あの時点でこの作品がライトノベルに分類される要素は、表紙がイラスト、と、作中でキャラクターが立っている、という程度しか見当たらないように見える。シリーズが続いていくと、どんどんキャラクターが立ちすぎている人物が増えていくので、そうなればライトノベルだなとは思うけれど、最初はどういう方向性だったんだろう? ミステリの要素は中盤までは絶対に外さないので、その辺りは読者層にミステリ好きの読者がイメージされていた、想定されていたのではないか。

 この「戯言」シリーズの後の「刀語」でライトノベルになり、「物語」シリーズはもうキャラクター小説です。ただし、西尾維新という人は独自の手法を極めていて、彼の言葉遊びに追随できる存在は、西尾維新さんの登場から20年近くが過ぎても現れていない。まぁ、それを言えば、日本SFで神林長平さんに迫る人がいない、というのに似ているかもしれません。



(続く)

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