第3話 古き良き時代のライトノベル

 2005年に至るまでのライトノベルは、はっきり言って非常に独立した分野だったと思います。

 この頃はまだアニメ業界はオリジナル作品が多くて、原作があるアニメとほぼ半々だったと思うのですが、だからこそライトノベルはライトノベルとしてのみあって、たぶん、創作としての追求、新しいアイディアやシステムなどを発想していく思考法が、小説的枠組みにだけ及んでいたのではないか、と考えます。これが10年代になると、明らかにアニメの影響やゲームの影響が出現するのだから、ゼロ年代前半は比較的穏やかで、いい時代だったようです。

 この時のライトノベルにあったものは、異世界ファンタジー、学園、ロボット、SF、ミステリ、ホラー、と、はっきり言ってオールジャンルをフォローしていたから、どれも面白かった。僕がライトノベルに入ったのは「トリニティ・ブラッド」だと先に書きましたが、そこから「ランブルフィッシュ」という学園とロボットとSFを組み合わせたものに進んだり、「ラグナロク」というバトルアクション、「ウィザーズ・ブレイン」という重厚なSF、「Missing」という本格的なホラーと、ライトノベルの中をうろつくだけでまったく自由にオールジャンルを読み進められる幅があった。これはまだ僕の中でのライトノベルの趣味、読書の趣味が確立されていなかったからなのか、とも思いますが、とにかくライトノベルの枠から外れないで、そのままで全てに接続が可能だった。

 面白い現象としては、ゼロ年代前半におけるオタクカルチャーのメインストリームとして、萌え、というものがまだ新鮮で、どこへ行ってもその話題があった。あったけれども、ライトノベル界隈はそれへの反応がやや遅れていたように思う。僕の中でライトノベルにおいて萌えらしい萌えを導入して成功したのは、「俺の妹がこんなに可愛いわけがない」がすぐに浮かびます。それより前から萌えを意識した作品はありましたが、不思議な話ですが、ライトノベルにはおそらく、アニメや漫画のようにイラストで即座に「萌え」を表現する術がなくて、これが可能になるのは、イラスト技法における表紙や口絵、挿絵のキャラクター造形の技術の発展、というものを第一段階として待たないといけないのではないでしょうか。その次に来た、もしくは同時に起きたのが作中や作品世界のシチュエーションの開発ではないかな、と思う。

 とにかく、ゼロ年代半ばまでは、ライトノベルは非常に閉鎖的で、揺籃期でありながら、たぶん、一番平和な時代だった。90年代ほど日が当たるか当たらないかわからないところにいるわけでもなく、しかし着実に種は芽吹いて、双葉が開いた、というような時期だったのではないでしょうか。

 この時代が終わりを告げる、眠りを覚ます鍵になるのが、いずれ触れることになる「涼宮ハルヒの憂鬱」の登場です。この作品は2004年辺りに小説が出て、2006年辺りにはアニメ化されていましたが、この作品の内包している要素のいくつかはもちろんのことながら、アニメがヒットすることでライトノベルというものに光が差したのは端で見ていて感じました。もちろん、2002年辺りから僕は徹底的にライトノベルを読んでいて、ライトノベルというジャンルをだいぶ掘り進めていましたが、読書が趣味の人間が全体からは少数派であるのに輪をかけて、ライトノベル読者はもっと少数だった。さらに言えば、オタクと呼ばれる種族が忌避された時代があったし、イラストにさえも白い目が向けられていたのが、当時の雰囲気だった。僕はライトノベルを電車などで読むとき、表紙を晒すなんてとてもできなかったです。「涼宮ハルヒの憂鬱」の登場とムーブメントは間違い無く、アニメへの世間の印象を変えて、同時にライトノベルの印象さえも変える、すごい事態に発展したことになります。

 ただ、僕はどうしても古いライトノベルが好きだな、とは今でも思います。アニメ化されなかった名作が多くあって、もう古すぎて陽の目を見ることはないのですが、大事な作品です。2021年から見てみれば、本当に古いし、今の流行とはかけ離れていますけど、小説というのは時代を超えるとも僕は思っています。ライトノベルほど激しい流れをするジャンルでも、源流を遡るのは面白いことです。

 周りからは共感されませんが、小説は自分が楽しければいい気もします。

 この、楽しさを共有する、という要素が登場するのが、2010年になる前に起こるSNSの発展が大きいのでしょうね。



(続く)

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