第1話 2000年におけるライトノベル

 時を遡って、2000年に何があったのか、となると、ライトノベルは比較的のんびりしていたと思います。作品名をあげれば、「スレイヤーズ!」がアニメにはなっていましたが、ライトノベルのアニメ化というのは、9割9部、ありえなかったように思います。他は、「魔術師オーフェン」あたりがアニメ化されていたかと思います。ただ、別の方面を見てみれば、田中芳樹さんの「銀河英雄伝説」は原作は完結し、アニメも完結していたのかな? という程度の感覚しかなく、書きながらも僕もこの頃は事情に精通していないのが、現実です。なにせ幼かったし、情報も今ほど行き交ってなかった。パソコンはあるかないかだし、インターネットもマイナーだった。

 では、なぜ、僕がライトノベルに接したかといえば、雑誌「New-type」でイラストレーターのTHORES柴本さんのイラストに惹かれて、吉田直さんの「トリニティ・ブラッド」に出会い、そこから既刊を手に入れ、さらに雑誌「ザ・スニーカー」を手にしたことで、安井健太郎さんの「ラグナロク」に向かっていく、という具合でした。

 僕が「トリニティ・ブラッド」を手に取る前に読んだライトノベルは、母が何かの折に貸してくれた「日帰りクエスト」でした。母はかなり偏った読書家で、それもあってライトノベルには不分明です。それでもこの文庫本を持っているあたりに、ライトノベルの萌芽がちゃんと読書家界隈であったことは、間違いないことです。

 当時の段階では、「スレイヤーズ!」はだいぶ巻が進んでいたし、水野良さんの「ロードス島」もだいぶ進んでいたはずで、こうなると2000年では、現代とはまるで違う形ながら、似た要素は部分的に持っている「異世界ファンタジー」が強かったと言えるかもしれません。

 2000年がどういう時代か、というのを説明しないといけませんが、僕の周りでは、アニメが大きなムーブメントになりそうな雰囲気がありましたが、一番の話題は「新世紀エヴァンゲリオン」で、しかしそれは再放送の世代なので、僕がこの時に熱弁を振るうのは、少し時代遅れだったかもしれません。すでにエヴァの社会現象は下火になっていたような気もします。アニメに関しては、他には仲間内で「シャーマンキング」や「スクライド」、少女マンガの「フルーツバスケット」辺りが印象深い、そういう時代でした。少し遅れて「ヘルシング」がきたりもしましたね。「トライガン」は少し前でした。

 この時にライトノベルでアニメ化されていた作品は、まったくと言っていいほど、浮かばないし、この時の僕の頭にあったライトノベルは「トリニティ・ブラッド」、「ランブルフィッシュ」、「ラグナロク」、という具合で、きっかけが雑誌「ザ・スニーカー」だからか、角川スニーカー文庫で占められていました。これが少しずつ開拓を始めると、ライトノベル三国志、という様相が見えてくるわけですが、ライトノベルと乱暴に一括りにしてみると、当時の僕からしても読者層がわからない分野が「ライトノベル」だったように感じます。十代である僕は楽しく読んでいましたが、表現なども難しい感じがあって、高校生くらいが読むのかなと思う一方、しかし高校生にもなってライトノベルを読むのか? という素朴な疑問がありました。雰囲気で言えば、中学生が「コロコロコミック」を喜んで読んでいいのか? みたいな偏見に満ちた発想ですが。もっと言えば、高校生が「おジャ魔女どれみ」を見るか? みたいな。

 この感覚が僕の中にはっきりあった事象として、高校生くらいの時ですが、親戚の七つほど年上の人がライトノベルを箱いっぱい、貸してくれたことがあって、だいぶ驚きながら、しかしほとんど読めなかった。趣味が合わなかった、というしかありませんが、つまり、この七つほどしか年が違わないだけで世代の隔たりがあった。2000年とそこからの数年で、どうやらライトノベルは変質していくことになるらしい。その変質は、読者層の収束にあるのではないか、と感じます。

 それにしても、「トリニティ・ブラッド」の文章は難解だった。その、小説における「文章の難解さ」の変化、もしくは喪失が、あるいは読者層の変化や収束に直結するのかな、とも思います。



(続く)

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