16歳、レプリカントです。
七森 かしわ
レプリカントとは、複製品を意味するレプリカからきた造語です。
少年ジャンプが好きだった。
友情、努力、勝利。なんと素敵なことか。
いろんな漫画を読んできたが、やはり少年ジャンプこそ男が回帰すべき場所だと考えていた。
どんな漫画でも、主人公が好きだった。
弱気を助け悪をくじき、努力を惜しまず。
そんなヒーローになりたかった。
僕は模倣した。彼らの生き方、考え方。好物、性格、キャラ付け。大量の飯をかき込んで食ったり、特訓したりした。
仲間は絶対見捨てない。敵も根っからの悪人ではなく、情状酌量の余地がある。
熱血で、クールで。何よりカッコイイ人間に。
僕もなりたかった。
僕は知った。
大人になると、感情や論理だけでは解決、介入することのできぬ問題があること。
暴力や権力による理不尽が存在すること。
そして何より、ヒーローなんていないこと。
フィクションとノンフィクションをごっちゃにしていいのは中学生までだ。高校生ともなれば、相応に現実を見なくちゃいけない。
逃げちゃダメだ。みんなやってる、お前もやれ。
現実がつらいのはお前だけじゃねぇ。
僕はヒーローになることを諦めた。
だって存在しないから。
中学生になった頃、とある先生と出会った。
女の国語教師だ。その人は言った。
出過ぎた杭は打たれないと。出ろ。変人になれ。
人を憎むこともあるし、ムカつくこともある。
しかしそれは人の部分で全体ではない。
仲間は勇気だ。絶対裏切らない。
僕は感動した。思わず授業中に感動のあまり膝から崩れ落ち涙を流し、失禁する感覚さえ覚えた。
その人は中途半端な器として苦しむティーンエイジャーの僕らにとって、光だった。希望の光。
僕も、そんな風に人を導きたいと思った。
だから僕は、また模倣した。
その先生の考え方や行動すべてを肯定した。隣の席のやつが嫌味を言おうと、僕はすべて正しいと信じて疑わなかった。
だがその光もまた、潰えた。
中学3年生。僕は幾度の挫折と絶望に見舞われた。
その挫折と絶望は僕の全てを否定した。
無論、僕が信じていた先生の言葉、思考、所作も。
僕は輝く光の眩さとたどり着くまでの暗い道の底の見えぬ混沌とした闇を恐れ、目を閉じた。
そして明日から僕は高校2年生となる。
中学3年生から約2年。様々な人を模倣した。
歴史上の人物、憧れの人。漫画、ライトノベルの主人公。友人、家族。だがそれら全てを模倣した所で僕は何も変わらなかった。
そして僕は気づいた。僕には『僕』がない。
僕には僕を僕たらしめるものが無い。
端的に還元すれば、オリジナル、オリジン。
僕は所詮、複製品だ。コピーだ。レプリカントだ。
それも完璧なものでなく、様々なものを真似て、諦めを繰り返しできたぐちゃぐちゃしたもの。
何色にもなれないキャンバス。黒くなってしまった色の混ざりあった絵の具で僕は汚れている。
また、レプリカントは人造人間という意味もあるらしい。
確かに、僕は人を模倣することによって作られている。模倣したから、ここに存在している。
それ即ち、他人がいるから僕はここにいられる。
僕は造られている。自分のことも知らぬまま。
自分が何者か、僕には分からない。
自分が何者か。本当の自分。
そんなものに価値はなく、自己満足の為に自らが勝手に生み出した幻想。存在しないもの。
僕は何もかもを否定するだけの世界を憎めばいいのか。それとも、淡い希望を見せた人やフィクションの産物か。
思春期特有の症状と言えばそれまで。
いずれ治るものだから耐えろと言えばそれまで。
だが僕は、今のこの苦しみに潰されそうだ。
僕を僕たらしめるもの。大体それは、どこにある。
あったとして、誰がそれを認識、理解する。
僕が何者か決めるのはなんだ。
誰だ、誰なんだ。僕は誰だ。
複製品はどこに行けばいい。
コピーはどこで生きればいい。
人造人間は人間になり得ないのか。
居場所はどこだ。僕は何によって僕なんだ。
僕はどこへ向かっている?
16歳、レプリカントです。 七森 かしわ @tai238
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます