第2話 生者の幽霊、亡者の人間

「 」はくらい。「 」はうすい。「 」はもろい。

「 」はくろい。「 」はかるい。


「 」はいない。あなたはいない。



だって、あなたは幽霊なのだから。





「で、お嬢ちゃんが来ちゃった世界ってのが鏡の世界ってわけ。わかる?」

「うん!わかるよ!

「まあ、時間さえ待てば帰れたりするから。気長に待ってて」

ここは鏡の世界。そのどこかしらにある本の山って(勝手に言ってる)場所だ。

ここは文字通りあたり一面に本が散らばってる。それもハードカバーの古い奴やら雑誌やらラノベやら、図書館の本棚をひっくり返したらこんな感じなのかなって思えるくらい本が重なりあっているこの場所。

それが15キロぐらい広がってるって考えてくれればいい。

そんな場所に僕とお嬢さんの二人でいた。

本の上で座ってるから、ちょっとお尻が痛いけども。

僕はそこら辺にある本を積み上げて(ここの場合は重ねての方がいいのかな)椅子を作り座った。

「椅子、作ってみたら?こんだけ本があったら本の3冊ぐらい椅子がわりにしても誰も怒ったりしないよ」

「そうだよね、よし!せっかくだから10段くらい高い椅子を作っちゃうぞー!

「…まぁ、それでいいならいいんじゃないか」

おっと、紹介を忘れてた。僕の名前はレオ。

この鏡の世界で記憶喪失中の赤髪の少年さ。

前もこんな感じに紹介最後の方になっちゃったから、直したりしないとな。よしっ。

あ、そうだ。この前の刀を持った女子高生がいたろ?

知らない?まぁ、いたんだよ。

あの子なら、ちゃんと元の世界に返しといたよ。それもあの変な包丁を持つ前の時刻に。

あの子は包丁を手に入れてからここの世界に落ちてきたからさ、この世界に落ちてくる前にわざと彼女を落として、包丁はこちらで預かってから戻したとしたら。

あの変な包丁はないまま、彼女は元の世界に帰れて、そして殺される人はいなくなるだろう?

だから、前の時間に戻してやったのさ。

まぁ、彼女自体は変わってないから。ちょっと元の世界と変わったかもしれないけど、そこはご愛嬌って事で。は

あの包丁?あぁ、どっか行っちゃったからどこにあるかもわからないね。まぁ、探せばあるんじゃないかなこの世界のゴミ山の中で。

とまぁ、僕の日記を読んでない人からしたらわからない話かもしれないけれども。

さて、一応この前のことを説明し終わったから、物語に戻るとしよう。


僕は座ったあと辺りをゆっくりと見回し。目の前の相手をじっと見つめる。

「もう、いいと思うよ。たぶん、君ほんとは男の人でしょ?」

と小声で目の前のお兄さんに話しかける。

彼は僕の言葉に驚いたようで、顔を一瞬こわばらせ、俯いてしまった。

「……一応、声はするんですよ。お嬢さんのというか女の子の声が。でも僕から見てあなたは男性の人に見えるんですよね」

「…………」

周りから女の子のはしゃぐ声が聞こえる。積んだ本を崩してしまったのだろうか、エヘヘと笑いながら本を積んでいるようだ。

「でも、ここには貴方しかいない。変ですよね」

「…………」

女の子の笑い声が聞こえる。

「何か訳があるんですか?」

「…………」

本がバタバタと倒れる音が聞こえる。

「強制って訳じゃないですけど、何かあるならこの際話してみませんか?_______

と言ってお兄さんの顔をじっと見つめる。

______おそらく、もう二度と僕と会うことはないでしょうし」

その言葉を聞いて安心したのだろうか。

お兄さんはため息をつくように息を吐き。

「…僕は姉がいたんです、双子の姉が」



あの時、僕は6歳小学校に上がったばっかりだった。

学校に帰るといつも色違いのランドセルを背負った姉と一緒に遊んでいた。ゲームや鬼ごっこ、だるまさんが転んだなど。

姉の周りにはいつも人が集まる。

姉が遊ぼう、と言うとすぐに公園にいた子達が集まってくるんです。

姉はみんなから好かれていて。嫌う人なんてきいたこともありませんでした。

姉は僕と年齢が同じなのに強い人でした。僕と反対で。

僕は弱虫でそれでいて泣き虫でした。運動も他の子よりできた試しはありません。

だから毎度クラスの子にいじめられたんです。

だけど、そんな時にいつも姉は僕のことを守ってくれたんです。

僕はそんな姉をは誇りに思っていました。

あの時までは。

……姉は、死んでしまったんです、交通事故で。

即死でした。

あの日、道路に飛び出してしまった、僕を車から庇ってくれていたんです。

その後の葬儀や納骨などは特に何も起きませんでした。

それから10年後ぐらいです。

ある時些細なきっかけでクラスの中心核の人にはむかってしまったんです。

掃除くらい真面目にやれ!って。

そこからまたいじめは始まりました。

また、いじめが始まる。また、耐える日が始まる。僕はまた幽霊みたいに無視されてしまうのかと。

そんなこと思い悩むこともありましたが、その度に生前の姉の強さを思い出して。耐えていました。

そんな時です、僕は夢で姉をを見たんです。

事故に遭う前のまだ小さな女の子の時の。

それからでした。

人から無視されるようになったのは。

僕が話しても誰も反応なんてしないし、見てもくれない。親も先生も同級生も他人も。

そして僕の代わりに姉と話すようになったんです。

僕には聞こえない姉の声を、僕のことを無視した人には聞こえていたんです。

そして全員に無視されることに耐えられなかった僕は、いっそ死んで仕舞えばいいと思い、僕の家の近くにある池に飛び込んだんです。

そしたらこの場所に来てしまったってわけです。



「突拍子もない話ですよね…すいません、こんな話をして」

「いえ、大丈夫です。こんな世界、不思議なことしか起きませんから。慣れてます」

「は、はぁ…」

「………もし、いや例えばの話ですよ。その無視が無くなったとしたらどうします?」

「はい?」

「もし無視が消せて。あなたが本来見えてた人から見えるようになったら。あなたはどうします?」

お兄さんは手を顎に当てて、下を向きしばらくすると。

「………このままにすると思います」

「というと?」

「無視を受け入れる…という感じになりますね…」

「どうしてです?無視されるのが嫌なんじゃないんですか?」

「…………………姉が生きているなら、それでいいんです。姉が僕の代わりに生きていると見られているなら、それで。

おそらくですが、僕がこれまで幽霊みたいに無視されたのも姉が助けてくれたのだと思います。僕がいじめに受けないようにって。

だから、このままで良いんです」

「…………そうですか、それも良いと思います。

じゃあ、僕はそこら辺を歩いているんで時間になったらまた来ますね」

「分かりました。本でも読んで時間を潰してますよ」

とほんのり笑いながら答えてくれた。

僕は踵を返し、もう一つの声のする方へが歩いて行った。

本でできた足場というのは、踏み慣れないからか、僕は足を本に滑らせてしまった。

「うわぁぁ!」

ばらばらと音を立てて本が滑り落ちる。

何もない頭の上から女の子と笑い声が聞こえた。

見られちゃったのか。

僕は体を持ち上げて、本の上に座り。笑い声のする方に話しかける。

「さっきのお兄ちゃんって君の弟なの?」

「わかるの!

と大きな声が広がる。

「あぁ、わかるよ……」

僕はそのまま

「ねぇ、なんでお兄ちゃんを見えなくしたの?」

と聞いてみる。

しばらく静かな空間があたりに広がった。

「守ってあげたかったの、弟を」

そのまま空中から声が続く。

「弟はね、すこしだけ頼りないの。いっつもドジばっかりしちゃうし。運動も勉強もあんまりできないのに、正義感ばっかりつよくてね。いっつもいじめられてた。…だからほっとけなかったの。この子は私が守るんだって、あの時は躍起になってたっけ…」

声が小さくなっていく。

「だけど死んじゃった、弟をかばって」

「………」

「でも後悔はしてないの、あの子を守ってあげるってのが私の本望だったからね」

「どうして、そこまでして弟さんを守ったんですか?」

「……変わりたかったの強い自分に、私って女の子でしょ。だから性別的に男の子に遊びとか運動で勝てなくなる。それが怖かったの」

息を吐いたような風の音が聞こえる。

「だから、弟を守って自分を強く見せたかったんだと思うわ…。でも!もう死んじゃったから、そんな強がりもおしまい!だと思ったんだけど…」

「何かあったんです?」

「目が覚めたのね、突然。いや、あれは呼ばれたの。だれかに」

起きて…起きてって。

で、目が覚めると成長した弟がいじめられてて。弟の声が聞こえたの。

僕はいないって。

だから何とかしたくて、ぐっと力を込めたの。そしたら。

「弟が見えなくなって、あなたが見えるようになったわけか」

「そうゆうことよ…。でも____

地面にある雑誌のページにくしゃっとしわが付く。そしてどこからか、何か落ちる音がした。まるで水滴が落ちてるような音が。

_____弟に…よけいに、つらい目に合わせ……ちゃった…」

鼻をすするような音が聞こえる。

「全部…私の身勝手だったの!だから、ここに来たの」

「この世界にですか?」

「そうよ…」

泣き声のような音が止まり、また音が聞こえる。

「私が生きていた時にね、ある噂を聞いたの。雨上がりの昼と夜水に入ると闇を晴らす光が現れるって。だからここに来たの」

音は続く。

「だから、私を消して。たぶんだけど、あなたが光でしょ?」

「………」 

「なんとなくわかるの幽霊だから。人、いや幽霊一番、そんな力強い人がわかるの」

音は消え入るように続く。

「だから、お願い。私を殺して」


それからだろうか、本だらけのこの世界に一瞬まばゆいの光が現れ、すぐさま消えていった。

帰ってきたレオさんはなぜか泣いていて。そんなレオさんを想像することすらできなかった。

レオさんは涙をそでで拭き。

「もう、あなたは帰れますよ。外の世界に。それと、あなたは生きてます。幽霊なんかじゃありません」

「そうですか…でも」

「すこしはしっかりしなさい!!って言われますよ、お姉さんに」

「そうかも、しれませんね…」

僕の視界がだんだん光に包まれていく。

「もし、他の人に無視されたらまた来てください!幸い僕はあなたのことが見えますから」

「あの!あなたは外の世界に出ないんですか?」

彼の赤い髪が見えなくなってくる。

「僕はいいんです、僕は_____

そして、僕の視界は光に包まれた。

_____出られないんです」


これが今回の日記でした。っと

ふう、我ながら不思議な出来事だったなぁ。

幽霊になった人間と、人間になった幽霊。

そして死んでも相手を思い合う、姉弟愛か…。僕にもそんな家族がいたのかなぁ。

おそらくだけど、僕の目に弟さんが見えて、お姉さんが見えなかったのは。鏡の世界にいたからだと思う。

鏡は真実を移す、ありのままのそこに在る姿をというが。たぶんそれは鏡の中も同じ。だから、見える人と見えない人が元の形に戻ったのだと思う。

まぁ、確かめられないからわからないけどね。真実は鏡の中ってか!

なんかいいセリフだな、今度だれか来たら使おうかな。

でも、知れることはあったぞ。

「雨上がりの昼と夜水に入ると闇を晴らす光が現れる」

これが絵本の中にあったらしい。何の絵本だったかは分からなかったけどこれで一歩前進だ。

だけど、僕の記憶についてじゃない。この世界のことなんだ。

僕は手の甲に刻まれた星形の痣を見る。

もし、彼女が闇では無くて。本当の闇がもういるとしたら…。

いやいや。そんなことより自分のことだ。自分が誰かを一刻も早く思い出さないと。

だって。

だって。

思い出さなければ、僕はここから出られないのだから。

僕は傍らにある雑誌に載っていた自殺した男子生徒の記事が、うっすらとなくなって別の記事に変わるのを見て。顔を上げた。

さぁ!暗い考えはもうおしまい!もし、この日記を読んでるあなたが鏡の世界に落ちたなら。赤い髪の少年を訪ねてみてはどうだろう。

日記のことを知っているかのか忘れているか。それとも人間か幽霊なのかわからないかもしれないけどね。

だってここは鏡の世界。時間も空間もねじ曲がったおかしな世界なのだから。



                               つづく






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