第七話 決着
「お前は初めから負けていた……」
「チクショウ、なんだこの切れ味は!」
「きちんとマナを込めれば、このくらい造作もない……。これはせめてもの手向けだよ。兄さん……」
イーサンはマナを
リガロは止血を行うための時間稼ぎに、それを受け取らざるを得なかった。
『私の扱う武器は東洋の島国、大和で扱われる刀。大和には侍と呼ばれる連中がいて、その者たちは如何なる鎧も身に付けず、互いに斬るか斬られるかの真剣勝負を臨むらしい』
イーサンは、ここで狂気の笑みを見せる。
『
「そいつらに戦う術を習ったのか……」
『そうだ。そして、初めから負けているというのは、我々の気構え。つまり、覚悟の度合いの話をしている。私は死ぬ気で差し違えても殺そうと、お前は無傷で生き延びようとした』
「貴様の状態を知っていれば、それはーー」
「その思い込みが……命取りになるということ……!」
リガロが止血をするように、イーサンも悦に浸っているわけではなかった。きちんと対話の最中に生き残った植物たちから、自身の貸し与えたマナを
イーサンの猛攻が再開して、リガロは為す術もなく、次第に追い詰められていく。あっという間にリガロは
しかし、「その理論で行くなら、まだ仕切り直せる」と、リガロが無粋に言い放った。
「何を……言ってーー」
「俺よりも貴様は強い。上には上がいて
「バカな……! こんな……ことが……!」
リガロは自らのエゴを捨て、相手を認めることで、異例な速度で環境に適応する。王者たる弱肉強食の考えを振り払い、適者生存こそが世の中の真理であると、この瞬間に悟ったのだ。
「礼を言うぞ、弟よ。この愚兄に気付きを与えてくれて」
リガロは日輪のような光を纏わせ、その照射を受けた草木たちは、季節外れにも華麗に開花を始める。これを見てイーサンは、過去の似たような体験を思い出す。弟のランドルと育てた。グランドマウンテンの大樹だ。
「やはり、才能の差か……!」
リガロは
実際にイーサンから真実を告げられた時、リガロは一瞬ではあるものの、ひどく気分が落ち込んでいた。だから無言のまま、空高く拳を振り上げ、心の奥底で呟く。
あっぱれ、我が誇り高き弟よ。
◇◇◇◇
国王から王都の城内に招かれ、そこで名立たる政治家たちと
「失礼」
「待てよ、クソガキ」
国王を前にしておきながら、その人よりも先に立ち上がるという度を超えた無礼を働き、リガロは周囲の者たちから
「国王さま、この不届き者を如何致しましょう?」
「好きにしておけ、大事な使命に目覚めたのだろう」
「はて、使命ですか……?」
「
「有難き幸せ」
リガロは豪勢な食堂を出て行き、それから
総勢三十名。今や私設部隊の規模まで発展しており、始まりのスカイハイから選抜されたサムとリタが指揮を執って、
「まさか、早過ぎる。リガロ様、食事会からご退出なされたのですか!?」
「そうだ。俺が望んで、王が許した。それよりも貴様らへ
「ちょっと待ってください。こっちは気が動転してーー」
「俺は先の戦いでエゴを失ってしまった」
「なんですって……!」
サムを筆頭に慌てふためく一同。その中でも一人だけ、「やっぱり、そうでしたか」と淡々に反応した者がいた。
「私はあの戦いを見ていて、リガロ様の性質が変化していくのを感じ取れました。最後の完成された型は?」
「あれは無我の境地と呼ばれる状態らしい。詳しいことは知り得ぬが、あの切迫した状況に適応できただけで、今は閉ざされてしまった」
「しかし、一度でも辿り着けたのです。リガロ様なら、いずれ会得出来ましょう。我々がお側に着くことで、それが叶わぬというのであれば喜んで
「リタよ、協力感謝する」
リガロを除く、全員が目を丸くして
「お待ち下さい。リガロ様は、御前試合の三連覇を成し遂げました。お父君もその報せを受け取れば、次期領主とお認めになられるはず」
「サム、見てくれ。刻印は消えていない」
リガロは自身の胸部を晒して、父に植え付けられた不死鳥の刻印が、未だ残っていることを示す。これは試練が続いている証拠である。
「俺の武名は轟いたが、人々の心に感動を与えたのはイーサンの方だった。此度の試合は彼を想い伝える為の逸話となり、明日には吟遊詩人の歌として、各地で語り草になるだろう」
「そんな……馬鹿げた話……」
「何も悲観的に捉える必要はない。ただ試合に勝って、勝負に負けただけのこと。過去を振り返れば、如何に自分が浅はかな人物だったのかを思い知る。俺もヤツを見習わねば」
リガロは歩み出し、去り際に言い残す。
「確かイーサンには、実の弟がいたはずだ。名前はランドルだったか。そいつを密かに見守り、もしも退屈そうな成長を始めたら、俺に代わって殺しておけ」
「他の兄弟は、如何致しますか?」
「俺に兄弟はもういない。赤の他人など、知ったことか。余計なことをする前に、いっそのこと殺してしまえ」
「承知」
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