第六話 自我と無我の狭間で
イーサンはリガロの言葉が、単なる強がりでないことを知っていた。それは幼少の頃より、彼と付き合いがあったことで、その性格を十分に理解していたからである。
「私の能力を知ったところで……」
「どうとでもなると? 自惚れるな」
リガロを震源として、微かに大地が揺れ動く。単純であるが故に、小細工の要らない。絶対強者のエゴが猛威を振るう。
「そもそも貴様にエゴなど存在しない。そのことに気づいたのは、先ほどの
リガロは意気揚々と、独自の推理を述べる。
「おそらく、その粒子の仕業だろう。貴様は大地にマナを降り注ぎ、奥底で
イーサンは笑みを零して「その通りだよ……。私はこれを……無我の境地と呼んでいる」と、素直にリガロの推理を認めた。
自我とはエゴであり、実のところ
一方でイーサンは無我と呼ばれる相対的な心構えを持っていた。これは
イーサンはそれらを考慮して、マナに思念を込めると、リガロの元へ球体型で送り出した。
それにリガロが触れると、イーサンの種明かしが始まる。
『私は無我の境地に至ることで、マナを振り撒き成長させた植物たちと
第六感。それはイーサンの欠陥する器官を補い、余りあるほどの能力を
全体の空間を植物が読み取り、
さらに自身のマナを振り撒くことで、いくら相手が感覚を研ぎ澄まそうとも、イーサンの
「俺様は最初、貴様の能力が逃げ腰で情けないものだと見下していた。だが、それは事実として違う。これは捨て身の覚悟がなければ、決して成り立つことのないものだ」
「そこまで気付いたか……」
「俺様には分かるぞ。イーサン、貴様の身体が無防備な状態にあることを。これだけ外部にマナを垂れ流し続けていれば、原則として防御は手薄になってしまうからな」
「しかし、仕組みを理解しても、それに見合った手段を確立しなければ、所詮は
「この俺様を
リガロは猛烈な闘気を上空に散りばめて、自らが編み出した戦法を見せつける。それはイーサンではなく、闘技場という環境の破壊。
リガロの闘気が豪雨の如く、大地に向かって降り注ぎ、相手を空間ごと捉えていく。
「貴様と同様のリスクを背負い、俺様も危険を顧みずに戦うことこそ、真の攻略法よ!」
イーサンは険しい顔を見せた。言うなれば、この闘技場は彼の体内であり、リガロはそこで暴れ狂うことによって、
イーサンは頭の中で受け取る情報量が多すぎて、その処理に脳内神経を働かせすぎた結果、脳から緊急信号を受け取り鼻血を出し始める。
「これで条件は整った……!」
それでも逆境のイーサンは、勝気に呟いた。自身を支えてくれている植物とは異なり、人間独自の視点から現状を想定していたからだ。
リガロの猛攻を避け切りながら、次第に降り
「抜刀……」
「貴様ーー」
イーサンが入念に解き放つ。二振り目の居合切りが、リガロの
さすがのリガロも一目散に距離を置き、イーサンの追撃を恐れたのか、防御態勢に入る。
「
イーサンに裏の裏を
まず一振り目と二振り目の違い。
イーサンが首という
イーサンの
それから二振り目は、絶好の機会を
これを踏まえて見ていくと「私の能力を知ったところで」から続く状況が、全てイーサンによって仕組まれたものであると気付ける。
あのリガロの作戦によって植物から加えられた負荷も、自身が追い詰められている様子を演出するために見せつけた演技。
リガロが謀ったなと叫んだのは、そのためである。自身の痛みよりも優先的に相手の意図を汲み取れたのは、さすがの一言に尽きるが完全に形勢はイーサンへ傾いた。
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