第2034話
リザードマン達を領主の館に預けたレイは、セトとゾゾを連れて錬金術師達が集まっている場所に向かう。
その理由としては、当然のように伐採した木を納入する為だ。
少し前にやって来たばかりなのでちょっと早いと思うし、納入する木の量もそこまで多い訳ではない。
だが、それでも建築資材として使える木は少しでも多い方がいいということもあり、ミスティリングの中にはある程度収納されているので、どうせならとやって来たのだ。
途中で先程の焼きうどんの屋台があり、セトが食べたそうにしていたが、今は取りあえず木を納入することを優先する。
そうして妙な相手が出入りしないようにしている門番役の兵士達に軽く挨拶し、レイ達は建物の中に入っていく。
門番達はレイとセトはともかく、ゾゾの姿には驚いていたが、それでもゾゾが従魔の首飾りをつけているので、問題になるようなことはなかった。
……もっとも、グリフォンのセトに続いてリザードマンのゾゾをテイムしたというレイに対し、呆れに近い視線が向けられていたが。
「レイさん!?」
建物の中から出て来た男が、レイの姿を見て驚きを露わにする。
当然だろう。
少し前にやって来たばかりで、レイがこの場所を嫌い……とまではいかないが、苦手としているのを知っているのだから。
「ちょっとギルムに戻ってくる用件があってな。その際にそれなりに伐採された木を持ってきたから、それを納めにきた。……他の連中に見つからないうちに、用事を済ませたいんだが」
レイの言葉に、男は少し躊躇した後ですぐに頷く。
建物の中に入るので、セトはその場に残す。
ゾゾはどうするかと思って視線を向けると、そこでは当然のようにレイの後ろにいるゾゾの姿があった。
ゾゾにしてみれば、レイが行く場所であるのだから当然のように自分も行くと、そう思っているのだろう。
「えっと……こちらへ、どうぞ」
ゾゾの姿に戸惑った様子を見せた男ではあるが、それでもレイを建物の中に案内する。
「建築資材の方はどうなってる? やっぱりまだ足りないのか?」
「そうですね。何ヶ所も同時に増築工事を続けているので、その影響でどうしても足りなくなっています」
「まぁ、複数の場所で同時に増築工事を続ければ、当然のようにそれだけ建築資材が必要になるしな」
そうして話している間にも建物の中を進み、やがて伐採された木を置く場所に到着する。
幸いにも、今はそこに錬金術師の姿はない。
伐採された木がまだ多少残っているのを思えば、現在は魔法的な処理を施しているということなのだろう。
「なら、騒がしくならないうちに……」
そう呟き、ミスティリングから木を取り出して規定の場所に置いていく。
当然そんなことをしていれば目立つのは当然であり……
「レイ!? また来たのか!」
喜色満面といった様子で、錬金術師の一人が叫ぶ。
そして一人が叫べば他の者達にも当然その声は聞こえ……
「何? レイだと?」
「レイがまた来たのか?」
「素材、素材、希少な素材」
そんな風に、レイの持つ素材……特に冬に倒した巨大な目玉のモンスターの素材を求めて、多くの錬金術師達が姿を現す。
だが、そんな錬金術師達の前に、立ち塞がる影が一つ。
「●●●、●●●レイ●●!」
レイの様子を見たゾゾが、錬金術師とレイを遮るように立ち塞がったのだ。
いきなりのゾゾの行動に、錬金術師達は足を止める。
そのまま真っ直ぐレイに向かって走っていれば、間違いなくゾゾの身体にぶつかっていたと、そう理解した為だろう。
「助かったよ、ゾゾ」
感謝の言葉を口にするレイに、ゾゾは問題はないと首を横に振る。
そして、レイに危害を加えようとした――ように見える――錬金術師達を、厳しい視線で見据えた。
一瞬、そんなゾゾの様子に怯む様子を見せた錬金術師達だったが、自分達の目の前にいるのが普通のリザードマンではないと……それこそ、リザードマンの希少種か上位種ではないかと気が付くと、下がった足がその瞬間に前に出る。
「おお!? このモンスターはもしかしてリザードマンの上位種か?」
「いや、希少種じゃろう。見よ、全体の姿が普通のリザードマンとは明らかに違う。それこそ、このリザードマンの鱗は普通よりも濃厚な魔力が宿っている」
「そうなると、このリザードマンの鱗を使えば、恐らくは……」
数秒前の怯んだ様子は何だったのかと言いたくなるように、錬金術師達はゾゾを前に話し始める。
そんな錬金術師達の姿に戸惑った様子を見せるのは、ゾゾだ。
ゾゾにしてみれば、自分を恐れるといった風になると思っていたのに、それが全く違うのだ。
勿論、最初の状況から考えると恐れはしているのだろうが、今はゾゾがそこにいるのも忘れてそれぞれにゾゾの素材を使えばどのようなマジックアイテムを作れるのかといったことを話し合う。
(ゾゾにしてみれば、信じられない存在なんだろうな。……まぁ、その気持ちは分かるけど)
レイにとっても、この錬金術師達は苦手な相手なのは間違いない。
嫌いではなく苦手な辺り、レイの中にある複雑な思いが滲み出ていた。
そんなレイに、案内役の男が視線を向け、目配せをする。
その合図の意味を理解したレイは、まだ戸惑った様子を見せているゾゾの背を軽く突く。
後ろを向いたゾゾは、レイが建物の出入り口の方に視線を向けると、それだけでレイが何を言いたいのか理解したのだろう。
言葉は分からなくても、その意志を理解するのは、今のゾゾにとってそう難しいことではなかった。
ゾゾにとっても、自分を前にしての錬金術師達の態度には不気味なものを感じたのか、その場に残るといった様子は見せず、すぐに建物から出て行く。
錬金術師達は議論に夢中になっており、レイとゾゾが建物から出て行くのに一切気が付く様子がなかった。
この辺りは、自分の興味があるものに夢中になってしまえば一切周囲の様子を気にすることが出来なくなってしまうような、そんな性格が顕著に表れたのだろう。
幸いミスティリングに収納してあった木は全て建物の中に置いてきているので、建物を出ても特に困ることはない。
いや、もしまだミスティリングの中に木が入っていても、今度持ってきた時に一緒にそこから出せばいいだけなのだが。
「じゃあ、戻るか。……まぁ、馬車はもうトレントの森に向かってるから、俺達はゆっくりとだけど」
「●●●●、●●?」
レイの言葉の意味が分からず、ゾゾは不思議そうな視線を向ける。
「ト・レ・ン・ト・の・も・り」
何度かそう教えることにより、ゾゾはトレントの森という言葉を理解する。
そのように、色々と単語を教えながらレイとセト、ゾゾは道を進み、ギルムから出た。
とはいえ、セトはともかくゾゾは従魔の首飾りを付けたままだったが。
セトはレイの従魔として有名だが、ゾゾはまだギルムに来たばかりで、そこまで知られていない。
だからこそ、ゾゾを知らない冒険者や商隊の護衛といった者達に攻撃されないようにする為の処置だ。
「うーん……ゾゾ、お前もセトに乗ってみるか?」
レイとセト、ゾゾは街道を歩いていたのだが、不意にレイがゾゾに尋ねる。
空を飛ぶセトの足に掴まって一緒に移動するのは無理でも、地上を走るセトの背に乗るなら出来るのでは? と思ったのだ。
セトが空を飛べば、トレントの森からギルムまで数分といったようにかなりの速度ではあるが、セトが地上を走る速度だって相当に速い。
それこそ、馬車どころか普通に馬に乗って走るよりも速度は出るのだ。
そしてセトの体長は三m程もあり、レイだけではなくゾゾが背中に乗っても全く狭くはない。
であれば、こうして歩いて移動するよりもゾゾと共にセトに乗って移動した方がいいと、そう考えるのは当然だろう。
セトの背を指さし、そこに跨がるレイ。
次にゾゾを指さし、自分の後ろを指さすという行為を何度か繰り返す。
それによって、ゾゾもレイの言いたいことが分かったのか、恐る恐るといった様子でセトの背に跨がる。
レイに従い、エレーナとイエロに対しては畏怖に近い感情を抱いているゾゾだが、当然のようにセトと自分の間にある強大な力の差というものは理解出来ていた。
人懐っこい性格をしてるのは、レイと一緒にいればレイ以外の者達にも遊んで貰っていて、すぐに分かる。
それでも自分よりも圧倒的に……それこそ比べるまでもないような強者であると分かっている為に、出来ればあまり接したくはなかった。
この辺りは、セトの愛らしさからすぐに受け入れる者達とモンスターとの違いだろう。
セトにすぐ懐くようなモンスターもいるのだが、その辺りは個人差、もしくは個体差というのがあった。
だが、そんなゾゾであってもレイに乗るようにと言われれば、それに従わない訳にはいかない。
また、セトがレイにとって最大の相棒であるというのは、見ていれば分かる。
この先もレイに仕えるのであれば、当然のようにセトとも付き合っていく必要があり……それを考えれば、ここでセトの背に乗らないという選択肢は存在しなかった。
「●●●」
短く呟き、ゾゾはレイの後ろに乗る。
若干尻尾が邪魔そうであったが、少し身体を動かして丁度よい格好になると、ゾゾはレイに向かって頷きを返した。
ゾゾが自分の後ろに乗っているという感覚に微妙に慣れないものを感じつつも、レイはセトの首を撫で、走るように頼む。
最初の数歩はゆっくりと、そして次第に速度を上げていくセト。
レイ以外の人物であれば、子供くらいの軽い相手くらいしか乗せて空を飛ぶことは出来ないが、地上を走るのであればゾゾのような巨体――レイに比べれば、大抵が巨体になるが――を乗せていても全く重さを気にせずに走ることが出来る。
地上を走るセトの速度は次第に上がっていき、やがて馬が全速力で走るよりも速くなる。
街道を走るのではなく、街道から少し逸れた場所を走るセト。
馬以上の速度で走っている関係上、当然のように街道を歩いている者達の邪魔にならないようにという、セトの配慮だ。
「グルルルルルゥ!」
レイとゾゾを背中に乗せたセトは、走りながら嬉しそうに鳴き声を上げる。
セトにしてみれば、思い切り走っている今の状況はもの凄く楽しかったのだろう。
いつもはレイを乗せて空を飛んでいるが、こうやって思いのままに地上を走るというのは、空を飛ぶのとはまた別の爽快感があった。
まさに疾風とでも呼ぶような速度で走るセトは、当然のように目立つ。
街道を進んでいた商人や冒険者、それ以外の様々な者達は、そんなセトの姿を見ては驚く。
セトが空を飛ぶという光景を見た者は多いのだろうが、こうして地上を走っているのは珍しいから当然だろう。
ギルムの街中を子供達と一緒に歩いている、という光景はそこまで珍しいものでもないのだが。
もっとも、ギルムにやって来るのはこれが初めてという者もおり、そのような者は街道から少し離れた場所を気分良く走っているセトを見て驚いていたりもしたが。
それでもセトを見て騒ぐような真似をしなかったのは、セトを見るのは初めてであっても、セトという存在は知っていたからだろう。
ギルムに向かうのだから、普通ならある程度情報を集めるのは当然であり、その情報の中にはギルムでも非常に目立っているレイやセトについての情報がある可能性は高い。
……レイと一緒にセトに乗っているゾゾについてはまだ殆ど知られていないので、そのような存在がセトの背に乗っていることに目を大きく見開く者もいたが。
ともあれ、セトにとってはある意味で気分転換になるように走り続け……やがて街道から逸れると、トレントの森のある方に進路を変える。
走っている途中で何度か嬉しそうに鳴き声を上げるセトは、当然トレントの森にいる者達もすぐに把握し、レイ達がトレントの森に到着した時は、そこで待っていた冒険者や騎士達は、若干呆れの視線を向けていたのは、ある意味で当然だったのだろう。
「派手な登場ね」
ヴィヘラのその言葉に、周囲で聞いていた者達の多くが同意するように頷く。
ここにいる者達にしてみれば、セトに乗って地上を走ってきたというのは、非常に目立っていた。
だからこそ、そんな行動を選択したレイに、そんな言葉が掛けられたのだろう。
とはいえ、これに関してはレイにも言い分がある。
ゾゾを連れて空を飛べない以上、馬車に乗ってトレントの森まで戻ってくるのは時間が掛かりすぎるし、歩いてくるのも馬車以上に時間が掛かる。
であれば、セトに乗って走って移動した方がそれらよりも速く移動出来るだろうし、実際に普通に移動するよりはかなり時間が短縮されたのだから。
そう言い返しつつ、新たに転移してきたリザードマン達は無事領主の館まで送り届けたと、そう報告するのだった。
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