「シダル」という長い物語が終わってしまって、寂しいと思う間もなく始まったこの物語。
最初に登場した少年は、突然の来訪で叔父を驚かそうとしてみたり、そこにたまたま居合わせたエルフの親子にドキドキしたりと、あの偏屈で恐ろしい気配を放っていた賢者と同一人物にはとても思えません。
ちょっと(?)潔癖で気難しい少年だった彼が、いくつもの苦難や試練を経験しながらも、出会った仲間たちに支えられ、そして彼自身も仲間たちを支え、やがて賢者の塔への道が開かれていく。
シダルは「信念の勇者」でしたが、ナーソリエルもまた強い信念を持ち、そんな彼に導かれて、たくさんの仲間たちがやがてシダルの元に辿り着いたんだなあと思うととても感慨深く、ああまた読み返さなくっちゃ……! でもきっとあちらを読んだらまたこちらを読み返したくなる……そんな無限ループに陥ること間違いなしの素晴らしい前日譚でした。
魔法の楽器や何気ない風景までも、本当に繊細で美しい描写、一人の人物にいくつもの名前など、その世界観が素晴らしいのは言うまでもなく、シダルに登場したあの人やあの子の子供時代や、プロローグとエピローグの「あの子」がもう最高に可愛いすぎるので、あちらを読んだ方は元より、未読の方にもこの「エシェン」という世界の物語に触れるきっかけとしても大変におすすめの一作です!