57話・実に頭の中はお粗末です
「貴殿に聞きたい。貴殿はオリティエさまを幽閉先に送る御者にある場所まで運ぶことを指示し、後は他の者達が後片付けをする予定だからこのまま立ち去れと言ってお金の入った袋を御者に渡し、この事は口外無用と言い捨てた。それに相違ないだろうか?」
「何を言われる? ルーグ殿。私には何が何やらちんぷんかんぷんです」
将軍は鼻で笑った。
「憶測で物を言うのは止めて頂きたいですな」
「残念ながら証言が出ている。証人は貴殿が二度と王城に戻ってくるなと追い払った御者だ」
「その御者が嘘でも言ったのでしょう? 私がそんなことをしてどうなります?」
「あなたは一番、疑わしいと思うが? オリティエさまがいなくなって得したのはあなただ。自分の娘を次の王太子妃にする事が決まった」
「それを決めたのは私ではない。陛下です」
「まことに残念だが将軍。その陛下ですがキラン殿とペーラさまの婚約を破棄することを検討されるでしょう」
ルーグの言葉に唖然とした様子を見せた彼は私をキッと睨み付けてきた。
「なぜ? まさか皇妃、あなたがいらぬ事を申されて……」
「以前から思っていましたが、トリッヒさま、あなたは腕に自信があっても頭の中はお粗末なのですね?」
「いくら皇妃さまでも言って良いことと、悪いことがありますよ」
「だって少し考えれば分かることではありませんか? 自分がなぜ捕らえられたのか? しらを切っても通せる段階はすでに超えていると言うことを」
トリッヒ将軍は私が何か両陛下に告げ口したことで娘の縁談が潰されたと思い込みたいらしい。それよりも自分の今の囚われの立場を理解しろと言いたい。
「トリッヒ殿。キラン殿は今、私の副官に付き添われて陛下の前に連れて行かれました。全てを陛下の前で告白することになっております。あなたさまが共犯だったことも全て」
「なに……?」
ここで余裕の反応を見せていた将軍に焦りの色が見えてきた。
「キラン殿下はどのように──?」
「キラン殿は恐らく地位を剥奪されるでしょうね。いいとこ地方に幽閉されるのではないでしょうか?」
「そ、そんな……。わ、わたしは関係ないんだっ」
「まだそのような事を言っている場合か。そろそろ腹を括ったらどうだ? トリッヒ将軍」
ルーグがねめつけると、将軍は今度こそ自分の罪を認めたようで項垂れた。
彼の配下の兵は知らないうちに巻き込まれて可哀相な気もするがそれなりの処罰は下るだろう。でも正直に話したことで情状酌量の余地はあると思う。
項垂れる将軍と彼の部下であった兵は牢屋へと連れて行かれた。
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