51話・人を思う気持ちは自由だと思うわ


「父は女性とは家の中にいるものだと言う考えで、男と同じく剣や乗馬を嗜むことをあまり良く思っていません。あなたさまを女だてらにと批難していましたが、私は自分の意見をハッキリ言い行動するあなたさまを眩しく思っていました」

「そんな風に言われたことなんてないから何だか恥ずかしいわ」

「あなたさまは素晴らしいです。私は思ったことの半分も言えずに飲み込んでしまうことがあります。そのせいで誤解を受けることもありますしアリーダさまが羨ましくてなりません。どうしたらそのようにハッキリ意思表示出来ますか?」

「別に無理に私の真似をしなくてもいいと思うわ。あなたはそのままでも大変好ましく私は思うし、キランの再婚相手があなたで良かったと思っているわ」


 ペーラはありがとうございますと言いながらも顔が浮かなかった。


「この再婚は政略的なものなんです」

「大抵の王族や貴族など特権階級者はそのようなものでしょう? 結婚に自由なんてないわ」

「その通りですよね。でも、私は望んでしまうのです。キランさまにもっと良く思われたいと」


 ペーラは俯いてドレスを握りしめていた。そんなに濁り締めていたらしわになると思いながらも別の言葉を口にしていた。


「あなたはキランが好きなのね?」

「……」

「どうせ結婚は一生のものだから想い合える相手と添い遂げたいわよね?」

「アリーダさまはキランさまと幼い頃に婚約されてきたと聞いていました。そこに特別な想いはなかったのですか?」

「そのことをキランには聞いたの?」

「いいえ。キランさまに聞いてもはぐらかされるのがおちなので」


 キランがどう答えたのか聞きたくて聞いてみたら、彼女はキランには聞けないと答えた。キランとはまだ密接な仲ではないらしい。キランも再婚とあって二度とオリティエのような事にならないように慎重なのかもしれない。


「私達は姉弟のように育ってきた。キランを出来の良い弟と思っていたわ。だから彼が私の許婚となって命を狙われ始めて、それらから身を守る為シュガラフ帝国に行くことになった時には寂しかった。きっと私達は共にずっといたらそれなりに異性として意識していた未来もあったかも知れないけどもう終わったことよ」

「それでももし、キランさまがずっとアリーダさまのことを思い切れずに想い続けていたとしたら?」

「関係ないわ。私はシュガラフ帝国皇妃。そしてキランはこの国の王となる」


 二人の道は違えているから交えることはないのよと言えばペーラは顔を上げた。


「私はあの御方を想い続けていても良いのでしょうか?」

「人を思う気持ちは自由では無くて? 想いまで政略化されたらとんでもないことになるわ」

「そうですね」

「しっかりして。あなたが王太子妃になってあの政務以外は疎い男をこの先、支えていくのよ。キランの元許婚である私の顔色なんて窺っている場合では無いわ」

「わたくし頑張ります」

「応援しているわ」

「はい」


 初めは自信なげな様子を見せていたペーラは笑顔を見せた。こんなにも良い子がどうしてあんな頭が硬い男から生まれたのか謎だ。


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