52話・御者が見付かった

 ルーグの方は相変わらず難航していた。私の護衛として副官と変わった日に事情を聞くと深いため息を漏らした。王城の見晴らしの良い庭に出て散策しながら話を聞くとオリティエの赤子の乳母を務めた者に会ってきたと言った。その話なら母から聞いたことがある。

 オリティエは乳母にもあたっていて嫌われていた。乳母は幼い赤子が抵抗できないのを良い事に、苛立ちをぶつけてお腹が空いているのに何度か放置したと言うことだ。

 その彼女は現在、罪を問われて修道院にいる。ルーグの話では亡くなった赤子の事を悔いていて真面目に修道女として仕事を行っていたとの話だった。


「彼女は何か言っていたの?」

「興味深いことは言っていたな」

「興味深いこと?」

「王太子殿下がオリティエの為に部屋の模様替えをしたんだがそれがお気に召さなかったのか、オリティエはそれから癇癪が酷くなり人にあたるようになったと」

「そうよねぇ。私もあの部屋はないと思うわ」

「部屋を見たのか?」

「ええ。キランったら何を思ったのか一面部屋の壁をグリーン色に塗り替えたのよ。女性としてはまだ花柄の方が好みだと思うのに。あれはオリティエの好みではなかったのね」

「グリーン?」

「そうよ。それも彼の許可なく立ち入った私も悪かったけど追いやるように出されて。何だか部屋に留まって欲しくなさそうだったわ」


 そこへ彼の補佐官のアーサーが飛び込んで来た。


「閣下っ。行方不明だった御者が見付かりました!」

「何?」

「賭場に通っていたのを見かけた者から密告があり部下に命じて捕らえてあります」

「分かった。今行く」


 ルーグと顔を見合わせ、アーサーの後を追って王城の裏側とやって来ると御者は青ざめていた。


「おまえはオリティエさまが乗っていた馬車の御者だった者だな?」

「は、はい……」


 彼は私と目が合い、頷く。彼は王城の御者のうちの一人だ。顔なじみの私がいるせいで誤魔化しが利かず彼は頷いた。


「随分とここの所、羽振りが良いみたいだが誰かから恩賞でももらったのか?」

「それは……」

「おまえは天涯孤独らしいから身内の財産が入ることもなさそうだが、賭場の金はどこから調達した?」

「それはちょ、貯金です!」


 ルーグが脅すように言えば、彼の眼光に怯んだのか声が裏返っている。

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