50話・アリーダさまのことを尊敬申し上げております

 彼女に連れられてオリティエの部屋に来て驚いた。ここの部屋は元々私がキランと夫婦になったら与えられる予定だった部屋で、私がこの王城を出るまでは白壁一面にマヌカの花が描かれている部屋だったはずなのに、それが全て塗りつぶされて一面若草のような緑色になっていた。


「これは……どうして?」

「アリーダさま?」

「元々この部屋は一面白でマヌカの花が描かれていたのよ。それがこう一面が緑色で塗りつぶされてしまっているなんて思わなかったものだから」


 私の顔が曇ったことに気がついたのだろう。ペーラが説明をした。


「この部屋はキラン様がオリティエさまの為に模様替えされたと聞いております」

「キランが?」

「アリーダさまが使用するはずだった部屋をそのまま使用することをオリティエさまが嫌がったせいだと父からは聞いております」

「そう……」

「あの。アリーダさまはキランさまのこと、どう思われていたのですか?」


 私のがっかりしたような反応を見てペーラが聞いてくる。彼女はキランの再婚相手だ。私の気持ちが未だキランにあるのかどうか気になっているように思われた。


「誤解しないでね。私ががっかりしたのはこの部屋が変わってしまったからよ。以前の部屋はお父さま達が手を尽くして用意してくれたものだったから。それが何一つ残されてなくて残念に思われただけなの」

 マヌカの花言葉は蜜月。若い夫婦が仲良く寄り添って行けるようにと両親の思いが込められていた。それが全部緑色に染められてしまいマヌカの花が描かれていた痕が一つもない。緑色の壁を前にして呆然としてしまった。


 そこへ慌ててキランが駆け込んできた。部屋のドアが開いているのに気がついて不審に思いやってきたのだろう。


「ペーラ。どうしてここに?」

「キランさま。アリーさまをご案内してきました」

「二人とも早くここから出るんだっ」


 キランは私達を急かして部屋から追い出した。


「キランあの部屋は……」

「悪いけどこの部屋には入らないでくれるかな?」

「ごめんなさい。勝手に入って悪かったわ」


 キランは怒ったように言う。私が謝るととにかくここにはもう立ち入らないでくれと不機嫌に言い残し出て行った。


「何なのあれ」


 言い方ってものがあるでしょうに。と、苛立つと関係ないのにペーラが謝ってくる。その姿勢に恥ずかしくなった。私も大人げない気がした。


「アリーさま。申し訳ありません。不快な思いをさせてすみませんでした」

「私も悪かったわ。キランに一言聞くべきだったわ。ここは私の実家だからと勝手な行動をしてしまったわ」


 お互いに頭を下げる。ペーラは言った。


「アリーダさまのことを尊敬申し上げております」

「えっ? 私のことを?」

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